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優しくするって、なにをされるんだろう☆

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 琉麒は虚を突かれたように口を半開きにした。

「君はもしかして、本気でなにも知らないのかな」
「ごめんなさい、なんの話?」

 首を傾げて尋ねると、琉麒は白露を安心させるように完璧な笑みを浮かべた。

「謝ることはない。全て私に任せておけば大丈夫だ。今までに発情状態になったことはあるか?」
「ないよ」
「そうか……今も甘い花の匂いが微かにするけれど、発情香ではないな」

 首元で息を吸われて肩を竦める。汗臭くないか気になってしまい、体を捩って琉麒から離れると彼は苦笑した。頬に熱が昇るのを自覚しながら、チラリと目を見て問いかける。

「いい匂いだと思う?」
「ああ。茉莉花の匂いだ」
「茉莉花って……」
「白く小さな花を咲かせる蔓状の植物だ。香ならすぐに用意できるから、今度焚いてあげよう」
「わあ、ありがとう」

 話の区切りがついたところで膝から降ろされる。低く凛々しい声で促された。

「寝室に向かおう」
「うん……」

 琉麒と少し離れただけで恋しくなってしまい、無意識に彼の腕に手をかけた。白露の人恋しそうな様子を見て、琉麒は白露を両腕に抱え上げる。急に目線が高くなり驚いた白露は、琉麒の首にしがみついた。

「わ、ひゃ!」
「しっかり捕まっていて」

 琉麒は白露を抱えたまま、滑るような足取りで廊下を渡っていく。意外と早足な琉麒にびっくりしながら、白露はされるがままに寝室へと逆戻りした。

 猪獣人と狐獣人が守る部屋の扉を通りすぎて、琉麒の寝台の端に降ろされる。丁寧に靴を脱がされて、自身も靴紐を解いた琉麒が白露の隣に腰かけた。

(優しくするって、なにをされるんだろう)

 燭台の灯りだけが部屋の中を照らす様がなんとも心細く感じて、知らない場所にいると強く意識してしまう。白露は上擦った声で問いかけた。

「ねえ、さっきはよく寝られた?」
「とてもね。驚いたよ、君は術を使えるのか」
「術?」

 自分は子守唄が格段に上手いものだとばかり思っていたが、実は不思議な力で寝かしつけていたというのだろうか。琉麒は頷いた。

「アルファには術を使える者が多いんだ。例えば千里先の音を聞いたり、死者と交信できたりする者もいる」
「へえ、すごいね。琉麒もできるの?」
「ああ。私も術が使える」

 皇帝様をやっているだけでもすごいのに、術まで使えるなんて向かうところ敵なしだなあと白露は感激した。

「どんな術なの? 知りたい!」
「あまり愉快な能力ではないから、君相手には使いたくない。また機会があれば見せよう」

 愉快じゃない能力ってどんなものだろう、しかめっつらになって表情が動かなくなってしまう能力だろうかと、白露は想像をめぐらせた。

 琉麒は顎に手を添えて考えこんでいる。

「通常オメガやベータは術を使えないはずなんだが……白露にはまだ発情期も来ていないというし、特別なオメガなのかもしれない」
「そうなんだ……」

 里にいる時からたった一人のオメガということで異質だったけれど、何人もオメガを知っていそうな琉麒にとっても、白露は普通のオメガと違って見えるらしい。

(運命の番って、普通じゃないオメガでも成立するものなのかな? 琉麒のことをがっかりさせたくないなあ)

 垂れ眉をさらに垂れさせてしょんぼりしていると、眉尻を指でなぞられる。

「案じることはない。私と抱き合えば発情期も来るかもしれないぞ」

 琉麒は白露の髪を指先で掻き上げると、顔を寄せてきた。麗しい青玻璃の瞳が近づいてくるのを夢心地で見つめていると、そっと唇を啄まれる。柔らかな感触にきょとんと目を瞬かせると、続いてもう一度、ついて離れてを繰り返す。

 ちゅ、ちゅと音が立つのが不思議で、白露も真似して琉麒の形のいい唇に口をつけてみた。小さな口を尖らせて音を立てようとすると、口から空気が抜けていく。

「ん、あれ?」
「っふ、何をしている」
「上手にできない……」
「こうするんだ」

 リップ音を立てられているうちにくすぐったくなってきて口元の力が抜けると、口内に熱い舌が潜りこんできた。予想外の出来事に肩をビクつかせた白露は、グッと手を握って琉麒の深衣の胸元に皺を作る。

 歯列をなぞられ唇を裏から舐められて、尻尾の毛が総毛立った。ガチガチに緊張して歯を食いしばっていると、一度口を離されて甘い声音でささやかれる。熱い吐息が唇にかかった。

「口を開けて」

 震えながら遠慮がちに口を開くと、長い舌が白露の小さな舌に絡みついてきた。ぬるりとした感触を感じると、腰にぞわぞわとした感覚が走る。未知の体験に慄いて後ずさろうとすると敷布の上に押し倒された。

「ん、ふっ」

 クチュ、ぬちゅと水音が立つのが恥ずかしく感じて、頬にどんどん熱が昇る。寝台の上方に逃げようとしても琉麒はどこまでも追いかけてきて、ついに白露の両手を敷布の上に縫いつけてしまった。

「ん、うぅう」
「……ふ、白露……」

 皇帝のまとう伽羅の香りが濃くなる。クラクラするような魅力的な匂いを肺の中に吸い込むと、腰がずくんと重くなった。

「あ……」

 はあ、と息を吐いている間に琉麒は白露の帯をほどき、襟元から手を差し入れていた。
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