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22 町娘に絡まれました
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ネーナと喫茶店に入って、しばらく話をしてから別れた。彼女はライシスの話の続きをしたがったけれど、恥ずかしがったディミエルは頑なにそれを拒んだ。
(今は、恋にうつつを抜かしている場合じゃないんだから。お仕事しないと)
情報通のネーナから話を聞く限り、ディミエルが思っている以上に、薬品不足は深刻なようだった。
服を買うのはまた今度にして、森に戻って薬草採取をしようと足を進めていると、数人の町娘が声をかけてきた。
「ちょっとアンタ。話があるんだけど」
釣り目の金髪美女が、代表で声をかけてきた。周りの取り巻きも一様に、ディミエルを睨んでいる。
話をするまで、解放してくれる気がなさそうだ。ディミエルは仕方なく足を止めた。
「話ってなに?」
「アンタ、最近ライシス様につきまとってるそうじゃない。アンタみたいに地味で陰気な人は、ライシス様には釣り合わないわ」
(わあ、面倒なのが来た。まともに話す必要はなさそうだね)
「話はそれだけ? 悪いけど、急いでいるの」
「待ちなさいよ。例え私達が彼に選ばれないとしても、アンタが選ばれることだって絶対にないんだから。この前私達は、貴族のお嬢様をエスコートしているライシス様を見たのよ」
「え?」
彼女は自分のことでもないのに、得意げにそのお嬢様について教えてくれる。
「金の髪に青い瞳の、まるで妖精のように美しい方だったわ」
「あんなに素敵な方が相手だったら、私達が選ばれないのもしょうがないわよね」
「ねえ。こんな田舎娘がライシス様に選ばれようだなんて、おこがましいのよ。身の程を知るといいわ」
取り巻き達のさえずりを満足そうに見渡した釣り目美女は、偉そうに腕組みをした。
「そういうことだから、早めに諦めなさいね。アンタ、目障りなのよ」
「ライシス様にはお相手がいるんだから」
「もう町に来ないで、邪魔者の魔女さん」
立ち尽くすディミエルを置いて、彼女達は言いたいことだけ言って去ってしまった。
(ライシスが、貴族のお嬢様をエスコートしていたですって? 嘘だよね、だってあんなに一生懸命会いにきてくれてたじゃない)
今朝だって、時間がなさそうなのに約束通り駆けつけてくれた。ディミエルが好きだと言ってくれたあの告白に、嘘はないように感じた。
(彼から直接話を聞きたいな……次回の約束をする時間がなかったけれど、毎週同じ曜日に町に出てきているから、彼もそれを知っているはず……また会いにきてくれるといいな)
しかしディミエルの願いとは裏腹に、彼は次の週の町に通う日になっても、姿を見せなかった。
諦めて家の戸締りをはじめ、出かける準備をする。
(……きっと忙しいのよね。仕方ないわ、そもそも約束もしていなかったもの。私も薬作りで忙しかったし、彼にも仕事があるんだから)
もらった魔石をそっと撫でる。青色の魔石はまるでライシスの瞳の色のようで、見ていると切なくなってきてしまう。
忘れずにローブのポケットへと、特別製の守護の魔石を忍ばせた。これがあれば、セレストに無理矢理迫られる心配もないだろう。
いつも以上に重い肩掛け鞄によろめきながらも、森の小径を歩いていく。
道中ヤギ型の魔物と出会いそうになったが、目くらましの魔法で注意を逸らして難を逃れる。
よろよろしながらカーフェレン家の前まで、なんとか辿りついた。
門番に薬を預ける時に、思いがけない伝言を受ける。
「ご当主様から、魔女が訪れたら案内するようにと、仰せつかっております。どうぞお入りください」
「えっ……そんな、何も聞いていないわ。こんな格好だし、失礼じゃないかしら」
「……とにかく、一度顔を見せる様にとのことですので、こちらへどうぞ」
有無を言わさずに、門の中へと通された。なんだろう、嫌な予感がする。
(薬の量をもっと増やしてほしいというお願いかな。それとも、セレスト様が何か企んでいるの?)
心臓をバクバクさせながら、案内人の後ろを遅れないように、小走りでついていく。
お仕着せのメイド服を着た使用人はみな上品で、裾を泥で汚したローブを着ているのが恥ずかしい。
こんなことになるなら、綺麗な服装をしてくればよかったと悔やんだ。
(今は、恋にうつつを抜かしている場合じゃないんだから。お仕事しないと)
情報通のネーナから話を聞く限り、ディミエルが思っている以上に、薬品不足は深刻なようだった。
服を買うのはまた今度にして、森に戻って薬草採取をしようと足を進めていると、数人の町娘が声をかけてきた。
「ちょっとアンタ。話があるんだけど」
釣り目の金髪美女が、代表で声をかけてきた。周りの取り巻きも一様に、ディミエルを睨んでいる。
話をするまで、解放してくれる気がなさそうだ。ディミエルは仕方なく足を止めた。
「話ってなに?」
「アンタ、最近ライシス様につきまとってるそうじゃない。アンタみたいに地味で陰気な人は、ライシス様には釣り合わないわ」
(わあ、面倒なのが来た。まともに話す必要はなさそうだね)
「話はそれだけ? 悪いけど、急いでいるの」
「待ちなさいよ。例え私達が彼に選ばれないとしても、アンタが選ばれることだって絶対にないんだから。この前私達は、貴族のお嬢様をエスコートしているライシス様を見たのよ」
「え?」
彼女は自分のことでもないのに、得意げにそのお嬢様について教えてくれる。
「金の髪に青い瞳の、まるで妖精のように美しい方だったわ」
「あんなに素敵な方が相手だったら、私達が選ばれないのもしょうがないわよね」
「ねえ。こんな田舎娘がライシス様に選ばれようだなんて、おこがましいのよ。身の程を知るといいわ」
取り巻き達のさえずりを満足そうに見渡した釣り目美女は、偉そうに腕組みをした。
「そういうことだから、早めに諦めなさいね。アンタ、目障りなのよ」
「ライシス様にはお相手がいるんだから」
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立ち尽くすディミエルを置いて、彼女達は言いたいことだけ言って去ってしまった。
(ライシスが、貴族のお嬢様をエスコートしていたですって? 嘘だよね、だってあんなに一生懸命会いにきてくれてたじゃない)
今朝だって、時間がなさそうなのに約束通り駆けつけてくれた。ディミエルが好きだと言ってくれたあの告白に、嘘はないように感じた。
(彼から直接話を聞きたいな……次回の約束をする時間がなかったけれど、毎週同じ曜日に町に出てきているから、彼もそれを知っているはず……また会いにきてくれるといいな)
しかしディミエルの願いとは裏腹に、彼は次の週の町に通う日になっても、姿を見せなかった。
諦めて家の戸締りをはじめ、出かける準備をする。
(……きっと忙しいのよね。仕方ないわ、そもそも約束もしていなかったもの。私も薬作りで忙しかったし、彼にも仕事があるんだから)
もらった魔石をそっと撫でる。青色の魔石はまるでライシスの瞳の色のようで、見ていると切なくなってきてしまう。
忘れずにローブのポケットへと、特別製の守護の魔石を忍ばせた。これがあれば、セレストに無理矢理迫られる心配もないだろう。
いつも以上に重い肩掛け鞄によろめきながらも、森の小径を歩いていく。
道中ヤギ型の魔物と出会いそうになったが、目くらましの魔法で注意を逸らして難を逃れる。
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「ご当主様から、魔女が訪れたら案内するようにと、仰せつかっております。どうぞお入りください」
「えっ……そんな、何も聞いていないわ。こんな格好だし、失礼じゃないかしら」
「……とにかく、一度顔を見せる様にとのことですので、こちらへどうぞ」
有無を言わさずに、門の中へと通された。なんだろう、嫌な予感がする。
(薬の量をもっと増やしてほしいというお願いかな。それとも、セレスト様が何か企んでいるの?)
心臓をバクバクさせながら、案内人の後ろを遅れないように、小走りでついていく。
お仕着せのメイド服を着た使用人はみな上品で、裾を泥で汚したローブを着ているのが恥ずかしい。
こんなことになるなら、綺麗な服装をしてくればよかったと悔やんだ。
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