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19 すごい口説き文句を言われた気がします

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 ライシスとは小屋の前で別れた。前回は緊急事態だったから家に上がってもらったけれど、とてもじゃないけど寄っていく? なんて気軽に誘えない。

 三日後に薬を納品する予定だと伝えると、ライシスが迎えにきてくれるという話になった。

「そんな、わざわざ悪いよ。私は一人でも大丈夫」
「心配なんだ。俺がいない間に、ディミーちゃんに何かあったら嫌だから」

 そんなこと、村の男の子にも言われたことがない。くすぐったい気持ちではにかんだ。

「大丈夫だよ、守護の魔石もあるし、実は魔法だって使えるんだよ?」

 軽い目くまらしの魔法しか使えないけれど、いざという時の足止めくらいはできる。

 ライシスはどうしても迎えに来たいようで、食い下がった。

「だけど守護の魔石じゃ、ディミーちゃんの心まで守れないだろう?」

 心まで守りたいだなんて、すごい口説き文句を告げられた気がする。

(私が人目を気にしているのを知って、気遣ってくれてるのかな)

 ドキッとして声を詰まらせると、ライシスもキザなことを言ったと思ったのか、頬を赤く染めていた。

「……そう、かもしれないね?」

 なんとか返事をすると、ライシスはニッと笑ってディミエルの手を取った。

「だから、迎えに来るよ。また三日後にな」
「ひゃ!?」
「じゃあ、また!」

 去り際に手の甲にキスを受けた。びっくりして手を引っ込めると、ライシスは風のような速さで走り去ってしまう。

 ディミエルはずるずると柱に体を預けて、玄関に座り込んだ。

「もう、なんなの……」

 火照った頬を冷ましたくて、手のひらでペチペチと叩くけれど、熱さはなかなかおさまらない。

 思えば最初に会った時から、彼は真剣だった。本気でディミエルのことが好きなんだと、今回のことでハッキリと思い知った。

(私……私はライシスのことを、どう思ってるの? 見た目は文句なしに好みだし、条件的にもこれ以上の人はいないってくらい、理想的だけど……)

 好意を受け入れるのは、まだ怖かった。母親への複雑な思いと、そこからくる男性不信が、どうしても一歩踏み出そうとする気持ちを邪魔してしまう。

(お母さんのように、騙されているとしたら……そうじゃなくても、付き合った途端に心変わりされるかもしれないし)

 ライシスはそんな人じゃないと思う気持ちと、信じたら痛い目にあうという恐れが、せめぎ合っている。

 まだ答えを出せそうになかった。ディミエルはパンと頬を叩き、気合を入れて立ち上がる。

「腑抜けている場合じゃないわ。薬の在庫整理をしないと」

 魔物の分布に異変が起きているなら、冒険者が怪我をする機会も増えるかもしれない。

 薬を作りためておけば、いざという時に助かる人が増える。

(それに、儲かったらベルのお店で、新しい服を買えるかも)

 ライシスに、もっとかわいいと言ってもらえたらいいな、なんて……

(ああっ、だからもう、彼のことを考えるのはお終い! さあ、仕事しよ)

 ディミエルは人助けと儲け話のために、猛然と働きはじめた。


*****


 三日後、ライシスは約束通り、ディミエルを迎えに来てくれた。

「ディミー、すごい荷物だね。俺が持つよ」
「……魔物が出るかもしれないでしょう? いざという時、貴方が戦えなかったら困るよ」
「その時はちゃんと、荷物を安全な場所に置いて戦うよ」

 正直なところ、持ってもらえると助かる。気合を入れて大量に薬を作ったので、薬瓶で鞄の中が溢れそうになっている。

「疲れたら言ってね、代わるから」
「大丈夫だって……あ、意外と重いね。ディミーは力持ちだな」
「……女の子らしくないでしょう?」
「いや、俺はいいと思うよ。フォークより重い物は持てないとか言うような子より、よっぽど素敵だと思う」
「そんなことを言う人がいるの⁉︎ まるで貴族令嬢みたいね」

 ライシスは気まずげに頬を掻いて、話題を逸らした。

「うん、まあね。そろそろ行こうか」

(ライシスは貴族のお嬢様とも、お付き合いをしたことがあるのかな……)

 彼の女性関係が気になってきた。全員とつきあいを切ったとは聞いたけど、貴族令嬢が相手なら、断りきれない場面もあるかもしれない。

 騎士のような格好をしたライシスが、美しいドレスを着た女性に迫られている様子を思い描くと、胸がモヤモヤした。

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