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5 村を出たのには理由があるんです
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ギルドで無事に薬を売りさばき、魔石を購入し、ネーナと会った後。
ディミエルは王都からの帰り道を急ぎながら、内に騒めく怒りを表現するかのように、ザクザクと森の細道を歩いた。
(ネーナったら酷いよ、そんなに口説かれてるならつきあっちゃえばいいのにって、そればっかり!)
ギルドに着くまでのライシスのことをネーナに愚痴っても、ネーナはディミエルのことを潔癖すぎるとたしなめるばかりで、ディミエルの気分は晴れなかった。
ネーナの他には、愚痴をこぼせるほど仲のいい友人はいない。ディミエルには、頭の中で文句を言うくらいしか、発散方法がなかった。
(それとも私は、ネーナの言う通り潔癖すぎるのかな……だけどお母さんみたいには、どうしてもなりたくない)
ディミエルが森から出て一人で暮らし始めたのは、母親に複雑な思いを抱いているからだ。
ある程度の魔女としての腕があり、村を出ることを希望している者ということで、ディミエルは選ばれたのだ。
(お母さんは、女の人にだらしない父親に捨てられた。そのせいで大変な思いをしたんだし、同じようには絶対にならないんだから)
ディミエルが顔も知らない父親は、森の外からやってきた。
母と結ばれ子どもが生まれたものの、その後現れた森の外の女の人と恋に落ちて、一緒に森を出ていったらしい。
そのせいもあって、基本的にディミエルは、よそ者の男を信用していない。
村の男性には、妻と仲睦まじく暮らしている人が多い。
ディミエルも村で相手を見つけてもよかったのだが、窮屈な村の中で複雑な思いを募らせたまま、母親の側で暮らし続けるのは嫌だった。
(いいの、私は別にどうしても結婚したいわけじゃない。カーフェレン家の方は私に身内をあてがって、薬草の知識を手にしたいのかもしれないけど……私は森にすら自由に一人で行けない生活は、したくないもの。今の生活が気楽だわ)
村から出てきて、二年程が経った。
最初の一年は、カーフェレン家の関係者らしき護衛やら付き人、果ては親戚の貴族の子どもまで、ディミエルに接触してきた。
しかし、彼らはみな町で暮らしたがった。
薬草の知識だけを目当てに、ディミエルに媚びを売ったり、田舎者と侮って偉そうに命令してきたりして、結婚してもいいと思える人は一人もいなかった。
そしてこの一年は、セレストにしつこく粉をかけられている。
いくらかっこよくて玉の輿に乗れそうでも、ずっと胸にばかり話しかける人も論外だ。
もうディミエルも十九歳だ。村の適齢期は十七歳だから、村で暮らしていれば今頃結婚して子どももいたかもしれない。
(……そんなもしものことを考えても、しょうがないよね。とにかく今は、暗くなる前に家に帰ろう)
あまり音を立てて歩いていると、魔物が寄ってくるかもしれない。
ディミエルは頭を冷やして、なるべく足音を立てないように歩きはじめた。
*****
次の週、先週と同じようにギルドへ歩いていたディミエルだったが、ギルド前で声をかけられた。
「ディミーちゃん!」
聞き覚えのある声にギクリと肩を竦めた。
ローブで顔を隠したライナスが、ディミエルの方に全速力で走りよってきた。
あっという間に目の前まで接近される。
こんないい陽気の日に、しかも肩で息をしていて暑そうなのに、何故ローブを着たままなのか疑問に思って顔を覗きこんだ。
「……どうしたんですか、その顔」
無視して通りすぎようとしたのに、彼の頬に走るミミズ腫れが目について、つい反応してしまった。
ライシスは腫れて傷を負った頬を癖で掻いた後、一瞬痛そうに顔をしかめて苦笑する。
「はは、はあ……これには、深ーい事情が、あって……」
ライシスは息を整えながら、ディミエルに笑いかけた。
「ディミーちゃんは、ギルドに用事があるんだよな? 詳しいことは用事が終わってから話すよ。ここで待ってるから」
ディミエルは王都からの帰り道を急ぎながら、内に騒めく怒りを表現するかのように、ザクザクと森の細道を歩いた。
(ネーナったら酷いよ、そんなに口説かれてるならつきあっちゃえばいいのにって、そればっかり!)
ギルドに着くまでのライシスのことをネーナに愚痴っても、ネーナはディミエルのことを潔癖すぎるとたしなめるばかりで、ディミエルの気分は晴れなかった。
ネーナの他には、愚痴をこぼせるほど仲のいい友人はいない。ディミエルには、頭の中で文句を言うくらいしか、発散方法がなかった。
(それとも私は、ネーナの言う通り潔癖すぎるのかな……だけどお母さんみたいには、どうしてもなりたくない)
ディミエルが森から出て一人で暮らし始めたのは、母親に複雑な思いを抱いているからだ。
ある程度の魔女としての腕があり、村を出ることを希望している者ということで、ディミエルは選ばれたのだ。
(お母さんは、女の人にだらしない父親に捨てられた。そのせいで大変な思いをしたんだし、同じようには絶対にならないんだから)
ディミエルが顔も知らない父親は、森の外からやってきた。
母と結ばれ子どもが生まれたものの、その後現れた森の外の女の人と恋に落ちて、一緒に森を出ていったらしい。
そのせいもあって、基本的にディミエルは、よそ者の男を信用していない。
村の男性には、妻と仲睦まじく暮らしている人が多い。
ディミエルも村で相手を見つけてもよかったのだが、窮屈な村の中で複雑な思いを募らせたまま、母親の側で暮らし続けるのは嫌だった。
(いいの、私は別にどうしても結婚したいわけじゃない。カーフェレン家の方は私に身内をあてがって、薬草の知識を手にしたいのかもしれないけど……私は森にすら自由に一人で行けない生活は、したくないもの。今の生活が気楽だわ)
村から出てきて、二年程が経った。
最初の一年は、カーフェレン家の関係者らしき護衛やら付き人、果ては親戚の貴族の子どもまで、ディミエルに接触してきた。
しかし、彼らはみな町で暮らしたがった。
薬草の知識だけを目当てに、ディミエルに媚びを売ったり、田舎者と侮って偉そうに命令してきたりして、結婚してもいいと思える人は一人もいなかった。
そしてこの一年は、セレストにしつこく粉をかけられている。
いくらかっこよくて玉の輿に乗れそうでも、ずっと胸にばかり話しかける人も論外だ。
もうディミエルも十九歳だ。村の適齢期は十七歳だから、村で暮らしていれば今頃結婚して子どももいたかもしれない。
(……そんなもしものことを考えても、しょうがないよね。とにかく今は、暗くなる前に家に帰ろう)
あまり音を立てて歩いていると、魔物が寄ってくるかもしれない。
ディミエルは頭を冷やして、なるべく足音を立てないように歩きはじめた。
*****
次の週、先週と同じようにギルドへ歩いていたディミエルだったが、ギルド前で声をかけられた。
「ディミーちゃん!」
聞き覚えのある声にギクリと肩を竦めた。
ローブで顔を隠したライナスが、ディミエルの方に全速力で走りよってきた。
あっという間に目の前まで接近される。
こんないい陽気の日に、しかも肩で息をしていて暑そうなのに、何故ローブを着たままなのか疑問に思って顔を覗きこんだ。
「……どうしたんですか、その顔」
無視して通りすぎようとしたのに、彼の頬に走るミミズ腫れが目について、つい反応してしまった。
ライシスは腫れて傷を負った頬を癖で掻いた後、一瞬痛そうに顔をしかめて苦笑する。
「はは、はあ……これには、深ーい事情が、あって……」
ライシスは息を整えながら、ディミエルに笑いかけた。
「ディミーちゃんは、ギルドに用事があるんだよな? 詳しいことは用事が終わってから話すよ。ここで待ってるから」
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