綺麗系の想い人に告白されて抱く気でいたら、なし崩しに抱かれてお尻の才能がありすぎることに気づいた

兎騎かなで

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 突然だが、俺は変態だと思う。

 今まではかもしれないレベルの変態度だったかもしれないが、今日の行いで決定的に変態への道に片足を突っ込んだ気がしてならない。

 大学から帰宅し、電気をパチリとつける。ワンルームの部屋の中はそれなりに散らかっているが、足の踏み場もないってほどじゃない。男の一人暮らしなんてそんなもんだろう。

 問題はそこじゃないんだ。俺は握りしめた手を開いた。手のひらに乗っかっているのは、ちょっと値段の張る薬用リップクリーム。

「ああ、ついにやってしまった……」

 靴を脱いで部屋に上がるなり、短い廊下にしゃがみこむ。これは俺の持ち物じゃない。大智たいちが使っていたヤツだ。

 大智は最近唇が荒れているからと、リップクリームを持ち歩いていた。

 背は俺ほどじゃないが高いから女性的って訳でもないが、繊細で綺麗系な容姿の大智は肌質も繊細にできているらしい。
 乾燥したとか言って、しょっちゅう唇にクリームを塗っていた。

 サークル活動の合間に、大智のポケットからこれが落ちたのを見た。拾い上げて渡そうとしたけれど、彼はサークル仲間との会話に夢中になっていて、渡しそびれたんだ。

 いや、それは言い訳でしかない。渡せる場面はいくらでもあった。それをせずに持ち帰ってしまったのは、俺に邪な気持ちがあったからだ。

 リップクリームの蓋を開けてみた。メンソレータムの爽やかな匂いが俺の頭を覚ますことはなく、白く変哲のないクリームの表面に酷く興奮した。

「これが、大智の唇に当たって……」

 リップクリームにキスしたい。クリームの表面を余すところを舐めて、大智の残滓を味わいたい。

 でもそれをやったら人として終わりのような気がする。耐えろ、耐えるんだ俺。これ以上変態に堕ちてはならない。

 ……そもそも持ってかえってきてしまったのなら、その時点でヤバいやつなのには変わりなくないか?
 今更ここで思いとどまっても意味なくない?

 悪魔の囁きが脳内を支配する。俺はついに唇の表面を、クリームにつけ

「!」

 ポケットの中でスマホが振動した。取りだしてみると、谷崎大智と名前が表示されている。

 嘘だろおい……心臓がバクバクしている。俺はしばらく画面を凝視していたが、呼び出し中画面になったままで振動は止まらない。

 仕方なく通話を開始する。

「なに? 大智たいち
「おつかれ知久ともひさ、俺のリップクリーム知らない?」

 思わず手の中のリップクリームを握りしめた。おっとよかった、クリーム部分は握り潰していないからセーフだ。
 いやさっき一瞬唇が当たったから、既にアウトか?

 違う、そんなことを考えている場合じゃない、どうしよう、ごまかすか?

 ごまかしてどうするんだ、引き出しにでも隠す?
 いやいや、大智だってサークル仲間と一緒にこの部屋に遊びにくることがあるんだ、そんな危険は犯せない。

 拾って、渡しそびれて持ってかえってきてしまった。事実をそのまま伝えよう、実際そうなんだし。

「ああそれ、俺が持ってる。落ちたのを拾って渡そうと思ってたのに、忘れてたよごめん」
「よかった! それ俺の妹にもらったやつだからさ、無くすとうるさいんだ。よかったら今から取りにいってもいいか?」

 え、来んの? 今から? 時間を確認すると、ただ今午後八時。

 大智が俺の部屋に、一人で来る……? これはチャンスなのでは?
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