寂しい竜の懐かせ方

兎騎かなで

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☆突然の反応

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 ギャアギャアとうるさい怪鳥の鳴き声が、突然耳に飛びこんでくる。ジルはハッと目を離して身構えた。怪鳥はジルの首くらいまでの背丈がある大きな鳥で、人を襲うこともある。

 ここに弓があれば牽制できるのにと歯痒く思っていると、スピネルは鼻頭に皺を寄せて、走りながら竜の姿となって洞窟の外へと向かった。

「巣の周りで騒がしくされては敵わん、追い返してくる」

 スピネルが竜の姿でひと吠えすると、怪鳥達は追い立てられて空へと飛び立っていく。

 怪鳥や魔獣などの脅威が現れると、小屋の中でじっと彼らが去るのを待ったものだが、スピネルにかかれば追い払うのは簡単なようだ。

 今や漆黒の巨体は恐怖を抱く存在ではなく、頼りになる友達のように感じている。

 自由自在に空を飛ぶ様を見つめていると、なんだか気分が高揚してくる。果実を食したせいか、ぽかぽかと体が温まってきた。

 やがて鳥達が去っていくと、スピネルは再び巣の中に戻ってきた。のしのしと近づいてくる彼に歩み寄り、鱗に包まれた足に抱きつく。

「スピネル、お前はすごいな! あんなに強そうな魔獣を簡単に追い払ってしまうなんて」

 赤い瞳は怪訝そうに、二度ほど瞬きを繰り返す。

「あれくらい造作もない。お前ももっと魔法が使えるようになれば、怪鳥程度は敵ではないだろう」
「そうなのか? 魔法ってそんなに威力が出るのか」
「今のお前にはまだ無理だから、立ち向かおうとするなよ」
「わかった」

 ジルは素直に頷いて、洞窟の壁に寄りかかるスピネルにくっつくようにしてついていく。

「お前は今までどういう魔獣を倒したことがあるんだ? 一番強かった敵はどんなのだった?」
「なんだ、もう近づくなとは言わないのか?」

 話をするためか、スピネルは人の姿をとった。鼻先が触れあうほどの距離で覗きこまれて、からかうような色をした瞳と視線がかちあう。その赤色に目を奪われながらも首肯した。

「俺とお前はもう友達だ。そうだろ?」
「フン、友達な。まあ、なってやってもいいが」

 竜はジルの言葉を鼻で笑った。馬鹿にするような口調の中に、親愛の気持ちが紛れているのに気づいて、ジルの口角は持ち上がっていく。

「よろしく、スピネル」
「ああ」

 スピネルは控えめながらもハッキリと微笑んだ。ジルは頬を染めながら人外の美形に身惚れつつ、話の続きをねだった。


*****


 紅葉が最盛期を過ぎ木々が落葉しはじめて、幹を晒して裸になっていく季節が来た。ジルはスピネルに用意してもらった服を重ね着して寒さに備えているが、洞窟の夜はよく冷える。

 寒さに耐えかねて再びスピネルの首の付け根あたりに身を寄せると、彼は血のように赤い目を見開き、のそりと起き上がって人の姿に変わった。

「悪い、起こしたか?」
「元々起きていた。寒いのか、体が冷えている」
「そうなんだ……お前にくっついていてもいいか?」

 震えながらお願いすると、スピネルはジルの手を引いて藁のベッドへと歩み寄り横になった。ジルは引き寄せられるままにスピネルの腕の中に収まる。

「これでよいか? 上に乗られると肩が凝って仕方がない」
「あ、ああ……」

 黒く肩下まで伸びた髪が鼻先をくすぐった。スピネル自身のなんとも言えない香ばしい匂いがしたが、不思議なことに嫌ではなかった。

 肩の上まで毛布をかけられ胸元に擦り寄ると、温かな腕に背中を包み込まれた。ホッと一息つくと、ゆっくりと背中を撫でられる。

「温かい……」
「ふむ、悪くないな」

 スピネルと触れ合っているところが気持ちいい。近年稀に見る安らぎを感じて、癖になりそうだった。開いた胸元に顔を突っこんでみると、芳しい香りと仄かな汗の匂いを感じた。

「何をしている」
「ん……スピネルっていい匂いだな」
「お前にもそう感じるのか」
「ああ、ということはスピネルにとっても、俺はいい匂いなのか?」
「私達は魔力の相性がいいのかもしれない」

 魔力の相性ってなんなんだ……そう問いかけようとしたところで、異変に気づいた。勃起している。

 なぜこんなタイミングで? いい匂いを嗅いで人肌に触れて、心地よいと感じただけなのに。

 ジルは慌ててスピネルから離れようとした。しかし力強い腕に阻止されてしまう。

「どうした、なぜ離れる」
「いや、その」

 こういうのは隠しておくべき、恥ずかしいもののはずだ。そう認識しているジルは、必死に身を捩って絡みつく腕から逃れようとした。そうすると、ますます腕の力が強くなる。

「あっ」
「ん? これはなんだ」

 身を捻った拍子にスピネルの腿に硬くなったモノを押しつける形になり、カッと頬に熱が昇る。彼は無骨な手でジルの雄を探り当てて、布越しにぎゅっと握った。

「いっ」
「ああ、陰茎か。硬くなっているな」
「は、離せ」
「出さないと体に悪いだろう。手伝ってやる」
「うっ、あぐっ!?」

 なぜそういう話になるんだ! 文句を言おうとしたが、その前に急所を絞るように扱かれて痛みで声を上げた。

「ああ、痛かったか? この程度の力がよいか」
「っふ、ぅん!」

 触られたところからピリリと気持ちのいい感覚が走り抜け、腰の奥がじわっと熱くなる。今度の刺激は明確な快感だった。

 自分でするのより遥かに気持ちがよくて、体中に力を入れて背筋を昇っていく快感に耐えた。

「どうだ? ふむ、良さそうだな」
「ぁ、なん、でっ」
「なぜ手伝うのかだと? 体調管理の一環だ。それと」

 月明かりの下、赤くギラリと光る瞳がジルを射抜く。

「悦楽に塗れたお前の瞳を見てみたくなった」

 竜の眼は暗がりでもよくみえているらしい。彼はジルの下半身に視線を移す。

「や……っぁあ!」

 服の隙間から手を差しこまれて、直接握られた。聞いたことのない甲高い声が自分の喉から上がり、驚いて口を覆った。

 先走りがぬるりと溢れ出てきて、スピネルの手を濡らす。ぬちゅ、と水音が立ち、耳も塞ぎたくなったが手が足りない。身を震わせて羞恥に耐えた。

「ん、んんんっ」
「やりにくいな、脱いでしまえ」

 下肢を覆う衣服を一枚一枚脱がされて、毛布の中で下半身だけ露出させられる。寒さを感じる暇もなく局部をくちゅくちゅと擦られ、手のひら全体でぬるつく液を塗りこめるように摩られた。

 最近抜いていなかった雄はみるみるうちに硬く張り詰めていき、すでに決壊寸前だ。手の甲を噛んで気を紛らわせ、逐情を堪えようとする。

「んー! んっぐ」
「やめろ、血が出るだろう。噛むなら私の指でも噛んでおけ」

 簡単に手を退けられて、彼の指先を口に含ませられる。大切な友達であるスピネルのことを、噛めと言われても噛みたくなかった。口からは唾液と喘ぎが溢れ出すが、もはや止められない。

「んに、っふうぅ! ひぁ、でぇる、ふぇちゃう!」
「出していいぞ。手のひらで受け止めてやる」

 しゅ、しゅとスピネルは律動のリズムを早めた。限界まで膨らんだ欲望はあっけなく弾けて、スピネルの褐色の手のひらをしとどに濡らす。

「ひ……あ、ひゃ……」
「いっぱい出たな。満足したか?」

 スピネルは口から指を引き抜くと、ジルの顔をじっくりと見下ろす。快楽にとろけて気をやったばかりの潤んだ瞳を見て、含み笑いをしたのがわかった。

「ククッ、可愛らしい」
「……っ!」

 ば、馬鹿にされた……! 散々触って乱した挙句に笑われた……っ!

 身悶えるジルを他所に、スピネルは手のひらに散った精子を、ベッド脇に置いていた手ぬぐい用の布で拭いた。

 スピネルは手を拭うと放心しているジルに下履きを穿かせてくれて、再び腕の中に抱いてこようとする。ジルは胸板を押して拒否を示した。

「な……何を、してくれたんだ」
「さっき説明してやっただろう。もう忘れたのか?」
「そうじゃなくて! こういうのは夫婦か恋人がすることなんだろう!? なんで俺にするんだ!」

 スピネルは考えるような素振りで少し黙りこんで、やがて顔を上げた。
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