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同僚達はサムズアップして、エイダンにこころよく答えた。
「今日は暇なんで、全然連れてってもらって大丈夫です!」
「セルジュ、小言を言いすぎてエイダン様を煩わせるんじゃないわよー?」
「ま、待ちなさい貴方達、私は仕事中なんです。職務を放棄するなんて、あ、こら!」
エイダンは軽い荷物でも持つかのように私の脇に手を入れ、ヒョイと腕の中に抱えた。なんと、お姫様抱っこだ……!
嫌だ、私のクールで知的なイメージが崩れてしまうだろう、やめてくれ!
せめて真っ赤になった顔を両手で隠すと、エイダンがすぐそばで笑みをこぼす気配を感じた。
「ありがとう二人とも、このお礼は必ずするから」
「何言ってるんですか伝説の探索者様! 俺は貴方のファンなんで、また冒険譚を聞かせてもらえたら、それだけでいいですよ!」
「私も聞きたい! でも今は久しぶりの二人の時間を、ゆっくり過ごしてね」
「うん、また来るよ」
哀れ同僚に見捨てられた私は、エイダンに拉致されて、着の身着のまま帰路につくことになった。
*
私達の暮らす家に着くと、エイダンはやっと私を解放し床に降ろした。
恥ずかしすぎる……こんな恥辱を与えられて、明日から一体どんな顔をして往来を歩けというのか。
玄関先でぷるぷると震えていると、エイダンがいきなり敏感な猫耳の、尖った先端に触れた。
「うみゃあ!? 何をするんです!」
「震えているから、どうしたのかなって気になって」
「だからっていきなり、耳を触るやつがありますか!」
フーッと息を荒げて威嚇する私の背を、エイダンは宥めるように撫でた。
「ごめんね。セルジュの耳がかわいいなって思ったら、つい触りたくなっちゃった」
「やめてくださいよ……我慢、できなくなるじゃないですか。こんな、みっともない」
「みっともなくなんてないよ。顔を見せて」
恥ずかしい気持ちを堪えてエイダンを見上げると、困ったように微笑まれた。
「いつも心配させてごめん」
「わかっているなら、探索者なんて辞めたらどうなんです」
「それだけはできないんだ。セルジュの頼みはなんでも叶えてあげたいけれど、それだけは」
「わかってますよ……」
彼はダンジョン探索の中でも、命を落とす危険性が最も高い、最奥を探索している。最前線で道を切り拓く探索者だ。
人が進める領域ではない魔境を、傷だらけになりながらも挑み続ける彼は、ダンジョンに魅せられている。
絶対に死んでほしくないのに、危ないことをやめてくれない。
本当に嫌なのに……彼を好きでいることを、信じて待ち続けることを、やめられた試しがない。
エイダンの夢を、希望を、無理矢理諦めさせることだってできやしない。だって私は、彼を愛してしまっているから。
「今日は暇なんで、全然連れてってもらって大丈夫です!」
「セルジュ、小言を言いすぎてエイダン様を煩わせるんじゃないわよー?」
「ま、待ちなさい貴方達、私は仕事中なんです。職務を放棄するなんて、あ、こら!」
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嫌だ、私のクールで知的なイメージが崩れてしまうだろう、やめてくれ!
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「ありがとう二人とも、このお礼は必ずするから」
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「うみゃあ!? 何をするんです!」
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「ごめんね。セルジュの耳がかわいいなって思ったら、つい触りたくなっちゃった」
「やめてくださいよ……我慢、できなくなるじゃないですか。こんな、みっともない」
「みっともなくなんてないよ。顔を見せて」
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「いつも心配させてごめん」
「わかっているなら、探索者なんて辞めたらどうなんです」
「それだけはできないんだ。セルジュの頼みはなんでも叶えてあげたいけれど、それだけは」
「わかってますよ……」
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絶対に死んでほしくないのに、危ないことをやめてくれない。
本当に嫌なのに……彼を好きでいることを、信じて待ち続けることを、やめられた試しがない。
エイダンの夢を、希望を、無理矢理諦めさせることだってできやしない。だって私は、彼を愛してしまっているから。
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