のんびり屋の熊獣人は、ツンデレ猫獣人を可愛がりたくてしょうがない

兎騎かなで

文字の大きさ
上 下
3 / 10

3

しおりを挟む
 同僚達はサムズアップして、エイダンにこころよく答えた。

「今日は暇なんで、全然連れてってもらって大丈夫です!」
「セルジュ、小言を言いすぎてエイダン様を煩わせるんじゃないわよー?」
「ま、待ちなさい貴方達、私は仕事中なんです。職務を放棄するなんて、あ、こら!」

 エイダンは軽い荷物でも持つかのように私の脇に手を入れ、ヒョイと腕の中に抱えた。なんと、お姫様抱っこだ……!

 嫌だ、私のクールで知的なイメージが崩れてしまうだろう、やめてくれ!

 せめて真っ赤になった顔を両手で隠すと、エイダンがすぐそばで笑みをこぼす気配を感じた。

「ありがとう二人とも、このお礼は必ずするから」
「何言ってるんですか伝説の探索者様! 俺は貴方のファンなんで、また冒険譚を聞かせてもらえたら、それだけでいいですよ!」
「私も聞きたい! でも今は久しぶりの二人の時間を、ゆっくり過ごしてね」
「うん、また来るよ」

 哀れ同僚に見捨てられた私は、エイダンに拉致されて、着の身着のまま帰路につくことになった。





 私達の暮らす家に着くと、エイダンはやっと私を解放し床に降ろした。

 恥ずかしすぎる……こんな恥辱を与えられて、明日から一体どんな顔をして往来を歩けというのか。

 玄関先でぷるぷると震えていると、エイダンがいきなり敏感な猫耳の、尖った先端に触れた。

「うみゃあ!? 何をするんです!」
「震えているから、どうしたのかなって気になって」
「だからっていきなり、耳を触るやつがありますか!」

 フーッと息を荒げて威嚇する私の背を、エイダンは宥めるように撫でた。

「ごめんね。セルジュの耳がかわいいなって思ったら、つい触りたくなっちゃった」
「やめてくださいよ……我慢、できなくなるじゃないですか。こんな、みっともない」
「みっともなくなんてないよ。顔を見せて」

 恥ずかしい気持ちを堪えてエイダンを見上げると、困ったように微笑まれた。

「いつも心配させてごめん」
「わかっているなら、探索者なんて辞めたらどうなんです」
「それだけはできないんだ。セルジュの頼みはなんでも叶えてあげたいけれど、それだけは」
「わかってますよ……」

 彼はダンジョン探索の中でも、命を落とす危険性が最も高い、最奥を探索している。最前線で道を切り拓く探索者だ。

 人が進める領域ではない魔境を、傷だらけになりながらも挑み続ける彼は、ダンジョンに魅せられている。

 絶対に死んでほしくないのに、危ないことをやめてくれない。

 本当に嫌なのに……彼を好きでいることを、信じて待ち続けることを、やめられた試しがない。

 エイダンの夢を、希望を、無理矢理諦めさせることだってできやしない。だって私は、彼を愛してしまっているから。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。

柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。 そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。 すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。 「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」 そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。 魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。 甘々ハピエン。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

独占欲強い系の同居人

狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。 その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。 同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。

騎士団長を咥えたドラゴンを団長の息子は追いかける!!

ミクリ21
BL
騎士団長がドラゴンに咥えられて、連れ拐われた! そして、団長の息子がそれを追いかけたーーー!! 「父上返せーーー!!」

処理中です...