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2巻
2-2
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「食べないのか?」
「……胸がいっぱいなんだ」
「そうか、大変だな?」
クッと唇の端を吊り上げて笑うカイルに、心臓を撃ち抜かれる。だから! アンタはもっと、顔面のよさを自覚するべきだ、心臓に悪い!
その後はどんなに視線を感じても、決して振り向かないように気をつけて食べた。正直味わうどころじゃなかった。
しかしエイダンは俺と対照的に食事を楽しんだらしく、満足げな表情でニコニコしていた。
「はー、美味しかったあ。眠気もマシになったし、これなら今日中にダンジョンから出られそうだよ」
「そりゃよかった。まだ眠いのか?」
「うん、体が冬眠したがってる感じがするんだ。土のダンジョンは外気温と同じだから、やっぱり冬は寒いよね」
エイダンはぶるりと体を震わせた後、パンッと頬を叩き気合を入れて、野営の片づけをはじめた。俺たちもそれに倣う。
ほとんど消し炭になった香を、エイダンが足で踏んで火を消している。
「その魔物避けの香、よく効いたな」
「そうだね。焚いていても、夜中の間に二、三回モンスターが来ることがあるけど、昨日は来なかったみたい。お陰でよく眠れたよ」
そうか、よく寝られたか。つまり昨日の会話やら、危ういアレコレも知られていないってことだな? そいつはよかった。
「荷物をまとめたよ。そろそろ行こうか」
「ああ、行こう」
俺はまだカイルの顔をまともに見られないままだったが、リュックを担いだ肩を回して、ダンジョン探索に集中しようと試みた。
カイルとエイダンの活躍で、俺の土魔法はほとんど出番がなかった。
特にエイダンは、なにか恨みでもあるのかという勢いで敵を駆逐していく。平常時は穏やかでぽやんとしているのに、戦闘になると人格が変わるタイプなのか。
想定以上のペースで上へ上へと駆け上がり、夕暮れを迎える前に地上へ戻ってきた。
「わあ、久しぶりの太陽だ。眩しい……」
「おつかれさん。無事に戻れてよかったな」
「そうだね、君たちのお陰だよ」
エイダンは朗らかに微笑んだ。その後髭だらけの頬を、ポリポリと気まずげにひっかく。
「お礼がしたいんだけど、今持ち合わせがないんだ。ギルドに寄ってもいいかな?」
「ああ、もちろん。俺たちも魔石を売りにいくよ」
エイダンが歩くと、あまりの巨体に道行く人が彼の顔を見上げて眺めていた。
街の人たちは、なぜ熊獣人が冬眠の時期に歩いているんだ? と疑問符を頭に浮かべ、探索者たちはあれエイダン様じゃね? と噂している。
エイダンはそれらの反応に慣れているのか、まったく気にする様子がない。良くも悪くもマイペースなやつなんだな。
ギルドに着くと、カウンター前の犬獣人がエイダンの姿を見た瞬間、奥へ引っ込んだ。
「おーいセルジュ! エイダン様が戻ってきたよ!」
「なんですって!?」
カウンターの奥から猫獣人がすっ飛んできた。
セルジュと呼ばれた細身の猫獣人は、他のギルド職員よりもかっちりしたスーツのような服を着ている。彼はエイダンの顔を見るなり黒い猫耳をピンと立てて、クイッと眼鏡を押し上げた。
「おやおや、これはエイダン様じゃありませんか。こんな時期までダンジョン内をほっつき歩いていたんですか?」
なにやら含みのある声音を気にすることなく、眉尻を下げたエイダンは気恥ずかしそうに笑った。
「そうなんだ、うっかり時間感覚がなくなっちゃって」
「まったく、むさ苦しいし不潔だし、その上時間も守れないとは。そんなことをしていては、のたれ死ぬのも時間の問題ですよ?」
尻尾をくねくねさせているセルジュは、腕を組んで嫌味ったらしくエイダンを罵るが、エイダンはどこ吹く風といった調子だ。
エイダンはにこにこ笑いながら返答した。
「大丈夫だよ、死ぬつもりなんて全然ないから。それに、僕は運がいいみたい。今回はイツキくんたちに助けられたんだ」
セルジュはエイダンの斜め後ろに立つ俺とカイルに、ようやく気づいたようだった。パチパチとまばたきをし、尻尾の先をピクリと神経質そうに尖らせた後、俺たちに愛嬌を振りまく。
「そうでしたか。向こう見ずの馬鹿を気にかけていただいて、どうもありがとうございます」
「どういたしまして。アンタらはどういう関係なんだ?」
エイダンは仮にも伝説の冒険者と呼ばれるくらいの実力者のはずだ。そんな彼に軽口どころか嫌味を言えるなんてと、純粋に興味が湧いた。
セルジュはやれやれと肩をすくめる。
「小さい頃からの腐れ縁ですよ。一緒に住んで、面倒を見てあげているんです」
「セルジュは僕が探索者になるって聞いて、故郷から王都まで一緒についてきてくれたんだ。とっても優しいんだよ」
「な、違います! 貴方があまりにも無茶なことを言い出すから、死んだら笑ってやろうと画策しているだけです」
尻尾をピンと立てて強がっている。やたらと強い言葉でエイダンをなじっているが、俺の耳には心配の裏返しのように聞こえる。
(うーん、これは……ツンデレってやつなのでは?)
セルジュはわざとらしく溜め息をつくと、エイダンを半眼で睨んだ。
「貴方とくだらない話をしていると、イツキ様に迷惑です。とっとと魔石を出しなさい」
「わかった、ここでいい?」
「貴方は毎回迷惑極まりない量を出すから、買い取りカウンターに移動しろといつも言っているでしょう! 何度言えば覚えるんです?」
セルジュはぷんすこしながらエイダンを伴い、買い取りカウンターへ向かった。代わりに別の職員が来て、俺たちの魔石を査定してくれる。
俺たちが精算を終えても、エイダンとセルジュは魔石を数えていた。まだまだかかりそうだな。
「その大荷物、大半が魔石なんでしょう」
「あ、バレた?」
「小さいのも大きいのも一緒くたにして、整理しろとあれほど……おや、イツキ様にカイル様。どうかなさいましたか?」
俺の視線に気づいたセルジュが、エイダンとの掛け合いを中断する。
「いや、俺たちはそろそろ行くから、挨拶しておこうと思ってな」
帰ると聞いて、エイダンは慌てて俺たちを呼び止めた。
「あ、待って! この後僕はすぐに冬眠に入っちゃうから、お礼ができなくなっちゃう。セルジュ」
「わかりました。今出ている分だけ換金してくるので、そこで待っていてください」
セルジュは素早く会計を行い、ジャラリと硬貨の詰まった袋をエイダンに差し出した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。はいこれ、イツキくんとカイルくんにあげる」
袋の中を覗いてみると、赤い硬貨がギッシリ詰まっている……何百ピンあるんだ? 円で考えると百万円以上はありそうなんだが?
「待て待て、多すぎる」
「そうかな? 僕の命を助けてくれたんだし、これでも足りないくらいだよ」
エイダンは戦闘時の様子からは考えられないくらい、気の抜けた笑顔を浮かべた。
「それに、僕はあまりお金を使わないから、持っていてもしょうがないんだ。だから二人で使ってくれたほうが嬉しいな」
カイルにも意見を聞こうと振り仰ぐと、こくりと頷かれた。もらっとけってことか。
俺もそこまで言われたら、もらうのもやぶさかじゃない。
「そうか、だったら遠慮なく使わせてもらう。冬眠が終わったら、また会えるといいな」
「うん、今度会えたらまた一緒にご飯を食べよう!」
「イツキ様カイル様、この度はありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
熊と猫の獣人二人に見送られてギルドを後にした。
なかなか面白い二人組だったから、また会えるといいな。
あっという間に数日が経ち、対抗戦予選日がやってきた。ダンジョン前の街路は一般人が通れないように封鎖されており、ダンジョン前には出場者が控えている。
俺は周りの出場者の顔触れを見て、見事に大型獣人ばかりなことに嘆息した。視界が暑苦しい。
虎、狼、ピューマ、豹にチーターと、決して野生で出くわしたくはない凶暴な肉食獣が勢ぞろいしている。
やたらヒラヒラとした服を着ているから、こいつらはきっと貴族なのだろう。周りを取り囲む獣人も、屈強な大男ばかりだ。
ああでも、よく見ると大型獣人の中心に、煌びやかな衣装の中型獣人が紛れこんだチームがある。
ロバや馬、羊など。あいつらも貴族か。背もガタイも周りのやつより小さいし、弱そうに見える……やめよう、俺も同じことを思われていそうだ。
そういえば俺の他にも一人だけ、小型獣人を見かけた。黒い狼獣人のチームに、俺よりちっこい灰色髪の鼠獣人がいる。
あの小柄さで対抗戦メンバーに抜擢されてるってことは、魔法……もしくは背負っている弓に関するギフト持ちなのだろう。
目線が同じような位置にあるってだけで、親近感を覚えちまう。まあ、敵チームにいるから交流することはそうそうないだろうが。
同じマーシャル領チームの犬獣人テオが、落ち着きなく周りを見渡しながら肩を窄ませている。
「強そうな人ばっかりっスね……!」
テオの隣に立つ狐獣人レジオットも、いつも通りの無表情ながら硬い雰囲気を醸し出していた。
「うん。頑張らなきゃ」
「そうっスね、ボスのためにも優勝を目指しましょう」
クインシーの部下二人は頷き合って気合を入れている。上司想いな部下を持って幸せだな、クインシーよ。
そんな我らがチームリーダー、豹獣人のクインシーは他の貴族と話し込んでいて、こんなところでも社交に勤しんでいるようだ。
クインシーの金髪は遠目でも目立つなあ、と見つめているうちに、騎士らしき護衛を引き連れたライオンの獣人がダンジョン前に歩み寄ってきた。若く自信に満ちた赤毛の獅子獣人は、膝をつこうとした獣人たちを押しとどめる。
「そのままでよい。皆、顔を上げてくれ」
全員の注目を集めた彼は、高らかに告げる。
「勇敢な戦士たちよ、よくぞ集まった。これより領地対抗戦をはじめる。各領地の威信をかけて競うがいい。今年度の覇者の栄誉はどの領地が得るのか、私がしかと見届けよう」
いや、アンタ誰だよ。紹介されなくてもなんとなくわかるが。
ライオン獣人だし偉そうだし、きっと王子とかそういう存在なのだろう。
案の定「今年の裁定はレオンハルト殿下がなさるのか」と、どこかから声が聞こえてきた。
わざわざ王族が現れるなんて、気合の入った催しなんだな。平民探索者たちは、畏怖のこもった瞳で彼を見つめている。
王族が平民も入り乱れるこんな街外れまで現れるとは、思ってもみなかったぜ。
カイルをうかがうと、彼も意外そうに片眉を吊り上げていた。ダーシュカ獣人王国の王族は、ずいぶん民との距離が近いらしい。
「各チームの指揮官は、侯爵から魔月鏡を受け取ってくれ。これは参加証も兼ねている。破損すると失格になるので注意したまえ」
強そうな虎獣人のおっさん侯爵から、魔月鏡とやらがクインシーの胸元に飾られる。
中くらいのミカン程度のサイズで、扁平な楕円形で鏡のような見た目をしている。いかにも割れやすそうだ。
「鍵を手に入れたら鏡にかざすことで登録される。三つの鍵を登録したら、地上に向かってくれ」
たしか、赤い鍵は十一以降、青は二十一以降、黄色は三十一以降の階層に隠されているんだったな。鍵は各色六個ずつで、最大六組しか予選を通過できないと聞いている。
虎のおっさんが全参加者のリーダーに鏡を渡すと、前回の対抗戦で上位だった領地から順にダンジョン内へ入っていった。
俺たちがダンジョンに入れたのは十番目だった。ダンジョン内に突入するとクインシーが話しはじめる。
「さあ、行くよ。他のチームとの接触を避けつつ、鍵がありそうだと目星をつけた場所を、近い順から回っていこう」
クインシーは自分が歩いたところを、全て頭の中に叩き込んであるらしい。先頭を行くテオに的確に指示を出し、行くべき場所へ導いていく。モンスターが出ても、カイルの剣の一振りですぐに葬り去られる。サクサク先に進めるものの、一向に赤い鍵は見つからない。
「ここもないか……次に行こう」
三カ所、四カ所と当たりをつけていた箇所を回っても、目当てのものは見つからない。そこでクインシーは方策を変えようと提案した。
「浅い層は先に入ったチームがあらかた探索済のようだ。いっそ二十階層まで先に進んだほうが、勝率が高そうだね。一気に駆け降りよう」
俺とレジオットで遠くのモンスターに魔法を浴びせつつ、二十階層目指して駆け抜ける。
「ストップ! この先に、他のチームがいそうな匂いがするっス」
「わかった。だったら、こっちの道から迂回していこう」
テオが自慢の鼻で他チームとの接触を避けて、どんどん階層を更新した。
二十階層は、大量の小猿と一匹の大猿がセットになったボス部屋になっている。
覗いてみたら、まだボスは誰にも倒されていなかった。ボスは基本的に一日に一回出現するから、どうやら俺たちが一番乗りらしい。
「どうするんだ? 入って調べるか?」
「ボス部屋に鍵を設置するかなあ……」
俺の言葉を受けて、懐疑的な様子でクインシーも部屋を覗き込む。一緒に顔を出したレジオットが、部屋の奥のほうを指差した。
「あそこ、なにか赤く光っていませんか」
「あれは……でかしたよレジオット、赤い鍵で間違いなさそうだ」
よく目を凝らして見ると、たしかに部屋の奥、岩の隙間から赤い金属がかすかに光を反射していた。お手柄だな、レジオット。
そうとわかれば、あとはボスを始末して鍵を回収するだけだ。テオとカイルが先陣を切って飛び出し、俺とレジオットもそれに続いた。
クインシーは円形の盾を胸の前に構え、敵から距離を取っている。胸につけた鏡が割れたらおしまいだからな。他の場所につけ直すのは禁止らしいから、ああやって防御するのが安全だ。
「イツキ、小猿どもは任せた」
カイルが大猿の腕に一太刀浴びせた。彼は咆哮する大猿を引きつけながら、俺たちから離れる。
テオはアクロバティックな動きで残った小猿たちの気を引いていた。何十匹とひしめくモンスターたちは、テオを目がけて次々に飛びつこうとしている。
「うわーっ! 数の暴力がキツいっス!」
「テオ、そこから動かないで」
レジオットが広範囲の敵に電流を流すと、小猿たちが怯んで動きを止める。その隙を狙って、俺はモンスターの首や目などの急所を岩弾丸で撃ち抜いた。
カイルはその間に、大猿の首を取っていた。残党にもトドメを刺すとモンスターは全て砂と化し、辺りには魔石だけが残った。
鮮やかな殲滅ぶりを、クインシーが拍手で称える。
「素晴らしいよ君たち! さて、鍵を拾おうか」
豹獣人らしい足の速さで歩み寄り、クインシーは鍵を回収する。胸元に鍵をかざそうとした瞬間、彼はハッと入り口を振り返り、飛びのいた。
ガッ、カラン……打撃音が壁に反響する。クインシーを狙った投げナイフが壁に弾かれて、テオの足元に転がった。
「ぎゃーっ!? なんだ、誰っスか!?」
「チッ、当たらなかったか」
大型獣人を引き連れて現れたのは、眠たげな目蓋をしたロバ獣人だった。
クインシーはロバ獣人の姿を認めて、わざとらしく微笑みかける。
「おや、ロバートじゃないか。人の戦果を横取りしようだなんて、相変わらずやることがセコいね」
「うるさいな、そんな余裕こいていられるのは今のうちだよっ! いけ!」
周りの大型獣人たちが斧や大剣を振り上げて向かってくる。クインシーはヒラリと斧を避けて、俺たちを急かした。
「みんな降りて!」
「させるかぁ!」
ボス部屋から脱出した辺りで、一塊になって追ってくるロバ獣人たちへ、クインシーが冷たい視線を送る。
「レジオット、弱いのやっちゃって」
「わかりました」
レジオットは手をかざし、身動きが取れなくなる程度の電流を追手にお見舞いする。
「あでだだだだっ!?」
ロバートは痛みと痺れで立っていられなくなり、地面に尻もちをつく。ロバ獣人の胸元の鏡を目がけて、クインシーがレイピアを突き出した。
パリン、という音と共に鏡の表面が砕け散る。ロバ獣人は悲痛な叫び声を上げた。
「ああっ!? 嘘だ!」
「残念ながらここで敗退だよ、ロバート。地上に帰ってゆっくり休むんだ。じゃあね」
「く……くっそー! お前たち、なにをボサッとしてるんだ! 今からでもあいつの鏡を割ってこい!」
「すいませんボス、動けねえでさあ」
「なんだと!?」
キーキーと猿のように喚くロバートとやらを放って、クインシーは上機嫌で踵を返した。
「あはは、タルモ子爵にまた嫌味を言われそうだなあ。でも今回は合法的に反撃できたから、胸がスカッとしたよ」
ああ、王都に行く途中の馬車で愚痴ってたな。あいつがいけすかないっていう、タルモ領の子息なのか。
クインシーは今度こそ鍵を鏡に登録すると、懐にしまった。
「俺たちが二十一階に一番乗りだ。赤の鍵も手に入ったし、幸先がいい。このまま快進撃と行きたいところだけど、そろそろ休憩しようか」
もう何時間も歩きっぱなしだったので、大賛成だ。アンタらの早足に合わせるのは、小型獣人に属する俺にとってはなかなかキツい。
二十一階層の奥まった場所で、ひっそり昼食をとった。
エイダンを見習って持ってきた木の実を取り出すと、隣にいたカイルが口を開ける。欲しいのかと思い、一つ口の中に放り込んでやった。
「美味いか?」
「まあまあだ」
あ……ついいつもの癖で、カイルの「あーん」に応えてしまったが、変に思われなかっただろうか。
(いや、相棒ならこのくらい普通……だよな?)
テオから生温かい視線をひしひしと感じる。クインシーは目を見張った後、俺たちからそっと視線を逸らしていた。
カイルまで意味深に微笑んできたので、ごまかすようにレジオットにも木の実をおすそ分けすると、彼は無邪気に喜んだ。
「美味しい! ありがとうイツキ」
ほんのり笑みを浮かべ頬を紅潮させるレジオットを見て、テオは犬耳をピンと立てながら笑顔になる。
「レジーは本当に木の実が好きだなー、俺のもあげる」
「いいの? テオもありがとう」
よしよし、ツッコミを受けずに済んだぞ。
腹が満ち心が和んだところで、探索再開だ。俺は考え事をしているクインシーに問いかける。
「どうするんだ? また三十一階まで駆け降りるか?」
「いや……隠す側だって、さすがに二回も同じ手は使わないと思うんだよね。地道に探してみよう」
その日はずいぶんと歩きまわったが、残念ながら青い鍵を見つけることはできなかった。
「今日はここまでにして、明日に備えよう。野営の準備をするよ」
王都の土属性ダンジョンは下に向かえば向かうほど面積が広がり、入り組んでいく。マジで五日間歩きまわることにならないといいが。
「明日は鍵が見つかるといいな」
水筒からお茶を注ぎながら、俺はクインシーに話を振った。
「本当にね。もう他のチームも来てるだろうし、急がないと」
クインシーはモンスター避けの香を焚きながら、すでに毛布にくるまって寝ているレジオットをチラリと確認する。それから豹耳を忙しなく動かし、目を伏せた。
鍵が見つからなかったから焦ってるんだろうな。こんなに動揺を露わにするのは珍しい。
なにかフォローすべきかと考えていると、次の瞬間にはクインシーは俺に目線を向け、からかうような笑顔になった。
「ところでイツキ、カイル君から告白されたんだって?」
「うぐっ……!?」
待て、人が飲み物を口に含んだ時にそういう話を振るなよ。気管に入るところだったじゃねえか。
咳き込みそうになったものの、なんとかお茶を飲み下す。
「……っ、なんでそれを」
「テオから聞いたんだ」
おいテオ、俺とカイルの大人な関係について、黙っててくれる約束だったんじゃねえのか?
うっかり者の犬獣人を軽く睨むと、勢いよく目を逸らされた。
「わ、わざとじゃないんっスよ。ちょっとした言葉のあやというか、話してないのにバレちゃったというか」
「態度を見れば、なにかあったのがバレバレだったよ」
まあ、そうだろうな。テオに隠し事ができるとは思っちゃいない。
カイルから告白を受けた時はいっぱいいっぱいで、そんなところまで考えが及ばずにテオとレジオットに恋愛相談なんて、こっ恥ずかしいことをしてしまった。
「あー……その、まあ」
今さら秘密にすることでもないんだが……カイルと恋人になったと言えばいいだけなのに、どうにもその一言が言えなくて垂れ耳を下に引っ張っていると、カイルの声が耳に届いた。
「イツキは俺のものだ」
隣にいたカイルが、クインシーの視線から庇うように抱き寄せてくる。慌ててその手を押しのけた。
「待てって、こんなところでくっつくな」
「あはは、二人の世界は二人きりの時に構築してね」
クインシーの顔が、笑っているようで笑っていない。
ほら、ダンジョンの中ではもっと気を引き締めていこうぜ、イチャついてる場合じゃねえ。
一瞬切なそうに目を細めたクインシーは、急に俺へ右手を差し出した。
「はい、握手」
「え、なんでだ」
「二人が付き合った記念に、んー……俺からの祝福的な感じかな」
獣人は祝福をするために握手をするのか? 聞いたことがないが……
なぜかテオが祈るように見つめてくるので、なんとなく応えたほうがいい気がして、その手を取った。
クインシーは祈るように目を閉じた後、そっと俺に笑いかける。その微笑みがとても儚く綺麗で、そういやこいつもイケメンだったわと改めて思った。
「イツキ……幸せになってね」
「あ、ありがとな」
「もしカイル君が愛想を尽かすようなことをしたら、俺が懲らしめるからいつでも言って」
「おい豹野郎、誰がなにをするって?」
カイルが後ろから文句を言って、俺とクインシーの手を外させた。
まったく、心の狭いやつだな……と思いつつも、妬いてくれたみたいでちょっと嬉しい。
「じゃあ、俺もちょっと休むよ。イツキたちも休んでくれ。テオは見張りをよろしくね」
「わかりました、ボス……!」
だからなんでテオは泣きそうになってんだ。「ご立派でしたよ……!」とか小声で呟いているが、なんの話だ。
一連の反応を考えてみて、ある仮説に行きつく。クインシーの台詞、まるで恋に敗れた当て馬じゃねえかと。
いやいや、そんな馬鹿な……考えすぎに決まってる。
日本にいた時はバーに行けばそれなりに相手が見つかったものの、日常生活ではモテた覚えがない。そもそもこの世界では四方八方からかわいいと称されるが、日本では平凡な容姿の部類に入る。
俺はたまたまあいつの好きな兎獣人の見た目をしているせいでからかわれているだけであって、まさか本気で恋されていると考えるのは自惚れがすぎるだろう。
(愛してるって言われたこともあるけど、あくまで感謝が極まって出た言葉だろうしなあ……)
「イツキ、こっちだ」
カイルに手を引かれて、思考が中断された。毛布とクッションを重ねた居心地のよさそうな寝床に案内される。前回よりもゴージャスになってないか、これ。
簡易ベッド並みに居心地のいい場所に横たわるように言われ、俺は横になった。うん、見た目通り寝心地がいい。
「カイルも来いよ」
安全のためにクインシーたちを含めて結界を張ると、カイルは毛布に潜り込んできた。
チュ、と触れるだけのキスを落とされて、俺はカイルに背を向け、熱くなった頬を隠した。
「ばっか、だからダンジョン内でイチャつくのは禁止だって」
「キスもダメなのか? 魔力摂取はどうなる」
三日に一度の魔力摂取は、カイルにとって生きていくために必要なことだ。もちろん拒むつもりはないが、だからといってこんなところでキスされたら無様に反応しちまうに決まってる。
「それは……指で」
「効率が悪すぎる。指での摂取は十分以上かかるが、経口なら数分で済むだろう」
「う……じゃあ、食事の時だけな」
結局押し切られてしまった。しゃあねえ、惚れた弱みだ。
「では早速もらおうか」
「おい、昨日の夜にしたばかりだろ、こらダメだ」
「味見くらいはいいだろう」
「いいからもう寝ろって」
カイルとじゃれつきながら、対抗戦一日目の夜は更けていった。
次の日は、朝からダンジョン内の二十一階層以下をくまなく歩きまわり、青い鍵を探した。
途中何度か他チームと接触しそうになったが、テオの鼻とクインシーの采配により難を逃れた。
昼休憩を過ぎても、一向に青い鍵は見つからない。クインシーはふうと深く息を吐き出した。
「ないねえ、おっかしいなあ」
「ないっスねえ」
主従仲良くうんうんと唸っている。レジオットは狐の尻尾をふさりと振りながら首をかしげた。
「もう他の方が見つけて、持っていってしまったのでしょうか」
「可能性としてはありえるよね。赤い鍵を探すことに見切りをつけたチームが、青い鍵を先に探しにきたとか」
「俺たちが一番乗りだったのにか?」
俺が疑問をこぼすと、クインシーは眉間を指先で揉みほぐした。
「こちらが見当違いの場所を探しているうちに、先を行かれた可能性はあるよ」
「そうか……だったら他チームに奇襲をかけて奪い取るしかないのか?」
「それはできれば最終手段にしたいかな、後々遺恨が残りそうだし。とにかく、もう少し念入りに探しまわってみよう」
その日、ついぞ青い鍵は見つからなかった。クインシーは残念そうに嘆いていたが、ないものはしょうがない。
明日は見つかるといいなと告げて、カイルの準備してくれたベッドにこもった。
ダンジョンに潜りはじめて三日目の朝、クインシーはおもむろに話を切り出した。
「青い鍵はいったん諦めて、黄色い鍵を探しにいこうと思う」
「えっ、青い鍵はいいんっスか?」
クインシーは腕組みし、難しい顔をした。
「よくはないよ。でも昨日あれだけ探しても見つからなかったからね。作戦を変更する必要がある。テオは索敵に集中して」
「はいっス!」
「つまり、今から三十一階層まで降りればいいんだな」
「そうだね。モンスターは任せたよ、イツキ、カイル君。それにレジオットも」
「ああ」
「フン」
「わかりました」
三者三様に返事をして、三十一階層へ降りた。土埃がだんだんと濃くなっていき、視界を遮りはじめる。
「うう……匂いがわかりづらくなってきたっス」
「鍵があっても、見落とさないか心配」
テオとレジオットが不安そうに辺りを見まわしている。俺は彼らを励ましたくて笑いかけた。
「大丈夫だ、クインシーがなんとかしてくれるだろ。な?」
「イツキに期待されてる……!? わかったよ、俺に任せておいて」
パチンとウインクを送ってくるクインシーを見て、カイルが嫌そうな顔で俺の視界を塞いだ。
「変な念を飛ばすな、イツキが汚れる」
「汚してない、ウインクしただけだから! 失礼だなー、まったくもう」
茶化しながら、即死しそうな罠が敷きつめられた通路を乗り込えていく。罠をかいくぐるだけでも一苦労だ。三十階層から下は、道を進むだけでも時間が取られちまう。
「あ、この道の先に落とし穴があったはずだ。あそこの細い穴を潜った先が、正解の道だな」
「え、本当? そっか、イツキたちは個人でもダンジョンに潜ってたもんね。助かるよ」
三十五階の崖ゾーンの攻略も慣れたものだ。先行者がいるせいか、出現しているモンスターも普段より少ない。
俺とカイル、それからレジオットの魔法で集中攻撃し、全てのモンスターを蹴散らしてから悠々と崖っぷちの道を下りると、クインシーに絶賛された。なんでも、ここで脱落する探索者が非常に多いらしい。
「本当に君たちを雇ってよかったよ」
「はは、報酬期待してるな」
その後のダンジョン攻略でもカイルは大活躍し、大猿を相手に圧倒していた。
万が一にもカイルが魔人だと他のチームにバレないように、王都で買ったヒヒイロカネの剣は使用していない。普通の獣人は魔法金属なんて使いこなせねえからな。
こんなところで「魔人がいるぞ、殺せ!」と騒ぎになったら、対抗戦どころじゃなくなっちまう。
「……胸がいっぱいなんだ」
「そうか、大変だな?」
クッと唇の端を吊り上げて笑うカイルに、心臓を撃ち抜かれる。だから! アンタはもっと、顔面のよさを自覚するべきだ、心臓に悪い!
その後はどんなに視線を感じても、決して振り向かないように気をつけて食べた。正直味わうどころじゃなかった。
しかしエイダンは俺と対照的に食事を楽しんだらしく、満足げな表情でニコニコしていた。
「はー、美味しかったあ。眠気もマシになったし、これなら今日中にダンジョンから出られそうだよ」
「そりゃよかった。まだ眠いのか?」
「うん、体が冬眠したがってる感じがするんだ。土のダンジョンは外気温と同じだから、やっぱり冬は寒いよね」
エイダンはぶるりと体を震わせた後、パンッと頬を叩き気合を入れて、野営の片づけをはじめた。俺たちもそれに倣う。
ほとんど消し炭になった香を、エイダンが足で踏んで火を消している。
「その魔物避けの香、よく効いたな」
「そうだね。焚いていても、夜中の間に二、三回モンスターが来ることがあるけど、昨日は来なかったみたい。お陰でよく眠れたよ」
そうか、よく寝られたか。つまり昨日の会話やら、危ういアレコレも知られていないってことだな? そいつはよかった。
「荷物をまとめたよ。そろそろ行こうか」
「ああ、行こう」
俺はまだカイルの顔をまともに見られないままだったが、リュックを担いだ肩を回して、ダンジョン探索に集中しようと試みた。
カイルとエイダンの活躍で、俺の土魔法はほとんど出番がなかった。
特にエイダンは、なにか恨みでもあるのかという勢いで敵を駆逐していく。平常時は穏やかでぽやんとしているのに、戦闘になると人格が変わるタイプなのか。
想定以上のペースで上へ上へと駆け上がり、夕暮れを迎える前に地上へ戻ってきた。
「わあ、久しぶりの太陽だ。眩しい……」
「おつかれさん。無事に戻れてよかったな」
「そうだね、君たちのお陰だよ」
エイダンは朗らかに微笑んだ。その後髭だらけの頬を、ポリポリと気まずげにひっかく。
「お礼がしたいんだけど、今持ち合わせがないんだ。ギルドに寄ってもいいかな?」
「ああ、もちろん。俺たちも魔石を売りにいくよ」
エイダンが歩くと、あまりの巨体に道行く人が彼の顔を見上げて眺めていた。
街の人たちは、なぜ熊獣人が冬眠の時期に歩いているんだ? と疑問符を頭に浮かべ、探索者たちはあれエイダン様じゃね? と噂している。
エイダンはそれらの反応に慣れているのか、まったく気にする様子がない。良くも悪くもマイペースなやつなんだな。
ギルドに着くと、カウンター前の犬獣人がエイダンの姿を見た瞬間、奥へ引っ込んだ。
「おーいセルジュ! エイダン様が戻ってきたよ!」
「なんですって!?」
カウンターの奥から猫獣人がすっ飛んできた。
セルジュと呼ばれた細身の猫獣人は、他のギルド職員よりもかっちりしたスーツのような服を着ている。彼はエイダンの顔を見るなり黒い猫耳をピンと立てて、クイッと眼鏡を押し上げた。
「おやおや、これはエイダン様じゃありませんか。こんな時期までダンジョン内をほっつき歩いていたんですか?」
なにやら含みのある声音を気にすることなく、眉尻を下げたエイダンは気恥ずかしそうに笑った。
「そうなんだ、うっかり時間感覚がなくなっちゃって」
「まったく、むさ苦しいし不潔だし、その上時間も守れないとは。そんなことをしていては、のたれ死ぬのも時間の問題ですよ?」
尻尾をくねくねさせているセルジュは、腕を組んで嫌味ったらしくエイダンを罵るが、エイダンはどこ吹く風といった調子だ。
エイダンはにこにこ笑いながら返答した。
「大丈夫だよ、死ぬつもりなんて全然ないから。それに、僕は運がいいみたい。今回はイツキくんたちに助けられたんだ」
セルジュはエイダンの斜め後ろに立つ俺とカイルに、ようやく気づいたようだった。パチパチとまばたきをし、尻尾の先をピクリと神経質そうに尖らせた後、俺たちに愛嬌を振りまく。
「そうでしたか。向こう見ずの馬鹿を気にかけていただいて、どうもありがとうございます」
「どういたしまして。アンタらはどういう関係なんだ?」
エイダンは仮にも伝説の冒険者と呼ばれるくらいの実力者のはずだ。そんな彼に軽口どころか嫌味を言えるなんてと、純粋に興味が湧いた。
セルジュはやれやれと肩をすくめる。
「小さい頃からの腐れ縁ですよ。一緒に住んで、面倒を見てあげているんです」
「セルジュは僕が探索者になるって聞いて、故郷から王都まで一緒についてきてくれたんだ。とっても優しいんだよ」
「な、違います! 貴方があまりにも無茶なことを言い出すから、死んだら笑ってやろうと画策しているだけです」
尻尾をピンと立てて強がっている。やたらと強い言葉でエイダンをなじっているが、俺の耳には心配の裏返しのように聞こえる。
(うーん、これは……ツンデレってやつなのでは?)
セルジュはわざとらしく溜め息をつくと、エイダンを半眼で睨んだ。
「貴方とくだらない話をしていると、イツキ様に迷惑です。とっとと魔石を出しなさい」
「わかった、ここでいい?」
「貴方は毎回迷惑極まりない量を出すから、買い取りカウンターに移動しろといつも言っているでしょう! 何度言えば覚えるんです?」
セルジュはぷんすこしながらエイダンを伴い、買い取りカウンターへ向かった。代わりに別の職員が来て、俺たちの魔石を査定してくれる。
俺たちが精算を終えても、エイダンとセルジュは魔石を数えていた。まだまだかかりそうだな。
「その大荷物、大半が魔石なんでしょう」
「あ、バレた?」
「小さいのも大きいのも一緒くたにして、整理しろとあれほど……おや、イツキ様にカイル様。どうかなさいましたか?」
俺の視線に気づいたセルジュが、エイダンとの掛け合いを中断する。
「いや、俺たちはそろそろ行くから、挨拶しておこうと思ってな」
帰ると聞いて、エイダンは慌てて俺たちを呼び止めた。
「あ、待って! この後僕はすぐに冬眠に入っちゃうから、お礼ができなくなっちゃう。セルジュ」
「わかりました。今出ている分だけ換金してくるので、そこで待っていてください」
セルジュは素早く会計を行い、ジャラリと硬貨の詰まった袋をエイダンに差し出した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。はいこれ、イツキくんとカイルくんにあげる」
袋の中を覗いてみると、赤い硬貨がギッシリ詰まっている……何百ピンあるんだ? 円で考えると百万円以上はありそうなんだが?
「待て待て、多すぎる」
「そうかな? 僕の命を助けてくれたんだし、これでも足りないくらいだよ」
エイダンは戦闘時の様子からは考えられないくらい、気の抜けた笑顔を浮かべた。
「それに、僕はあまりお金を使わないから、持っていてもしょうがないんだ。だから二人で使ってくれたほうが嬉しいな」
カイルにも意見を聞こうと振り仰ぐと、こくりと頷かれた。もらっとけってことか。
俺もそこまで言われたら、もらうのもやぶさかじゃない。
「そうか、だったら遠慮なく使わせてもらう。冬眠が終わったら、また会えるといいな」
「うん、今度会えたらまた一緒にご飯を食べよう!」
「イツキ様カイル様、この度はありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
熊と猫の獣人二人に見送られてギルドを後にした。
なかなか面白い二人組だったから、また会えるといいな。
あっという間に数日が経ち、対抗戦予選日がやってきた。ダンジョン前の街路は一般人が通れないように封鎖されており、ダンジョン前には出場者が控えている。
俺は周りの出場者の顔触れを見て、見事に大型獣人ばかりなことに嘆息した。視界が暑苦しい。
虎、狼、ピューマ、豹にチーターと、決して野生で出くわしたくはない凶暴な肉食獣が勢ぞろいしている。
やたらヒラヒラとした服を着ているから、こいつらはきっと貴族なのだろう。周りを取り囲む獣人も、屈強な大男ばかりだ。
ああでも、よく見ると大型獣人の中心に、煌びやかな衣装の中型獣人が紛れこんだチームがある。
ロバや馬、羊など。あいつらも貴族か。背もガタイも周りのやつより小さいし、弱そうに見える……やめよう、俺も同じことを思われていそうだ。
そういえば俺の他にも一人だけ、小型獣人を見かけた。黒い狼獣人のチームに、俺よりちっこい灰色髪の鼠獣人がいる。
あの小柄さで対抗戦メンバーに抜擢されてるってことは、魔法……もしくは背負っている弓に関するギフト持ちなのだろう。
目線が同じような位置にあるってだけで、親近感を覚えちまう。まあ、敵チームにいるから交流することはそうそうないだろうが。
同じマーシャル領チームの犬獣人テオが、落ち着きなく周りを見渡しながら肩を窄ませている。
「強そうな人ばっかりっスね……!」
テオの隣に立つ狐獣人レジオットも、いつも通りの無表情ながら硬い雰囲気を醸し出していた。
「うん。頑張らなきゃ」
「そうっスね、ボスのためにも優勝を目指しましょう」
クインシーの部下二人は頷き合って気合を入れている。上司想いな部下を持って幸せだな、クインシーよ。
そんな我らがチームリーダー、豹獣人のクインシーは他の貴族と話し込んでいて、こんなところでも社交に勤しんでいるようだ。
クインシーの金髪は遠目でも目立つなあ、と見つめているうちに、騎士らしき護衛を引き連れたライオンの獣人がダンジョン前に歩み寄ってきた。若く自信に満ちた赤毛の獅子獣人は、膝をつこうとした獣人たちを押しとどめる。
「そのままでよい。皆、顔を上げてくれ」
全員の注目を集めた彼は、高らかに告げる。
「勇敢な戦士たちよ、よくぞ集まった。これより領地対抗戦をはじめる。各領地の威信をかけて競うがいい。今年度の覇者の栄誉はどの領地が得るのか、私がしかと見届けよう」
いや、アンタ誰だよ。紹介されなくてもなんとなくわかるが。
ライオン獣人だし偉そうだし、きっと王子とかそういう存在なのだろう。
案の定「今年の裁定はレオンハルト殿下がなさるのか」と、どこかから声が聞こえてきた。
わざわざ王族が現れるなんて、気合の入った催しなんだな。平民探索者たちは、畏怖のこもった瞳で彼を見つめている。
王族が平民も入り乱れるこんな街外れまで現れるとは、思ってもみなかったぜ。
カイルをうかがうと、彼も意外そうに片眉を吊り上げていた。ダーシュカ獣人王国の王族は、ずいぶん民との距離が近いらしい。
「各チームの指揮官は、侯爵から魔月鏡を受け取ってくれ。これは参加証も兼ねている。破損すると失格になるので注意したまえ」
強そうな虎獣人のおっさん侯爵から、魔月鏡とやらがクインシーの胸元に飾られる。
中くらいのミカン程度のサイズで、扁平な楕円形で鏡のような見た目をしている。いかにも割れやすそうだ。
「鍵を手に入れたら鏡にかざすことで登録される。三つの鍵を登録したら、地上に向かってくれ」
たしか、赤い鍵は十一以降、青は二十一以降、黄色は三十一以降の階層に隠されているんだったな。鍵は各色六個ずつで、最大六組しか予選を通過できないと聞いている。
虎のおっさんが全参加者のリーダーに鏡を渡すと、前回の対抗戦で上位だった領地から順にダンジョン内へ入っていった。
俺たちがダンジョンに入れたのは十番目だった。ダンジョン内に突入するとクインシーが話しはじめる。
「さあ、行くよ。他のチームとの接触を避けつつ、鍵がありそうだと目星をつけた場所を、近い順から回っていこう」
クインシーは自分が歩いたところを、全て頭の中に叩き込んであるらしい。先頭を行くテオに的確に指示を出し、行くべき場所へ導いていく。モンスターが出ても、カイルの剣の一振りですぐに葬り去られる。サクサク先に進めるものの、一向に赤い鍵は見つからない。
「ここもないか……次に行こう」
三カ所、四カ所と当たりをつけていた箇所を回っても、目当てのものは見つからない。そこでクインシーは方策を変えようと提案した。
「浅い層は先に入ったチームがあらかた探索済のようだ。いっそ二十階層まで先に進んだほうが、勝率が高そうだね。一気に駆け降りよう」
俺とレジオットで遠くのモンスターに魔法を浴びせつつ、二十階層目指して駆け抜ける。
「ストップ! この先に、他のチームがいそうな匂いがするっス」
「わかった。だったら、こっちの道から迂回していこう」
テオが自慢の鼻で他チームとの接触を避けて、どんどん階層を更新した。
二十階層は、大量の小猿と一匹の大猿がセットになったボス部屋になっている。
覗いてみたら、まだボスは誰にも倒されていなかった。ボスは基本的に一日に一回出現するから、どうやら俺たちが一番乗りらしい。
「どうするんだ? 入って調べるか?」
「ボス部屋に鍵を設置するかなあ……」
俺の言葉を受けて、懐疑的な様子でクインシーも部屋を覗き込む。一緒に顔を出したレジオットが、部屋の奥のほうを指差した。
「あそこ、なにか赤く光っていませんか」
「あれは……でかしたよレジオット、赤い鍵で間違いなさそうだ」
よく目を凝らして見ると、たしかに部屋の奥、岩の隙間から赤い金属がかすかに光を反射していた。お手柄だな、レジオット。
そうとわかれば、あとはボスを始末して鍵を回収するだけだ。テオとカイルが先陣を切って飛び出し、俺とレジオットもそれに続いた。
クインシーは円形の盾を胸の前に構え、敵から距離を取っている。胸につけた鏡が割れたらおしまいだからな。他の場所につけ直すのは禁止らしいから、ああやって防御するのが安全だ。
「イツキ、小猿どもは任せた」
カイルが大猿の腕に一太刀浴びせた。彼は咆哮する大猿を引きつけながら、俺たちから離れる。
テオはアクロバティックな動きで残った小猿たちの気を引いていた。何十匹とひしめくモンスターたちは、テオを目がけて次々に飛びつこうとしている。
「うわーっ! 数の暴力がキツいっス!」
「テオ、そこから動かないで」
レジオットが広範囲の敵に電流を流すと、小猿たちが怯んで動きを止める。その隙を狙って、俺はモンスターの首や目などの急所を岩弾丸で撃ち抜いた。
カイルはその間に、大猿の首を取っていた。残党にもトドメを刺すとモンスターは全て砂と化し、辺りには魔石だけが残った。
鮮やかな殲滅ぶりを、クインシーが拍手で称える。
「素晴らしいよ君たち! さて、鍵を拾おうか」
豹獣人らしい足の速さで歩み寄り、クインシーは鍵を回収する。胸元に鍵をかざそうとした瞬間、彼はハッと入り口を振り返り、飛びのいた。
ガッ、カラン……打撃音が壁に反響する。クインシーを狙った投げナイフが壁に弾かれて、テオの足元に転がった。
「ぎゃーっ!? なんだ、誰っスか!?」
「チッ、当たらなかったか」
大型獣人を引き連れて現れたのは、眠たげな目蓋をしたロバ獣人だった。
クインシーはロバ獣人の姿を認めて、わざとらしく微笑みかける。
「おや、ロバートじゃないか。人の戦果を横取りしようだなんて、相変わらずやることがセコいね」
「うるさいな、そんな余裕こいていられるのは今のうちだよっ! いけ!」
周りの大型獣人たちが斧や大剣を振り上げて向かってくる。クインシーはヒラリと斧を避けて、俺たちを急かした。
「みんな降りて!」
「させるかぁ!」
ボス部屋から脱出した辺りで、一塊になって追ってくるロバ獣人たちへ、クインシーが冷たい視線を送る。
「レジオット、弱いのやっちゃって」
「わかりました」
レジオットは手をかざし、身動きが取れなくなる程度の電流を追手にお見舞いする。
「あでだだだだっ!?」
ロバートは痛みと痺れで立っていられなくなり、地面に尻もちをつく。ロバ獣人の胸元の鏡を目がけて、クインシーがレイピアを突き出した。
パリン、という音と共に鏡の表面が砕け散る。ロバ獣人は悲痛な叫び声を上げた。
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「く……くっそー! お前たち、なにをボサッとしてるんだ! 今からでもあいつの鏡を割ってこい!」
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キーキーと猿のように喚くロバートとやらを放って、クインシーは上機嫌で踵を返した。
「あはは、タルモ子爵にまた嫌味を言われそうだなあ。でも今回は合法的に反撃できたから、胸がスカッとしたよ」
ああ、王都に行く途中の馬車で愚痴ってたな。あいつがいけすかないっていう、タルモ領の子息なのか。
クインシーは今度こそ鍵を鏡に登録すると、懐にしまった。
「俺たちが二十一階に一番乗りだ。赤の鍵も手に入ったし、幸先がいい。このまま快進撃と行きたいところだけど、そろそろ休憩しようか」
もう何時間も歩きっぱなしだったので、大賛成だ。アンタらの早足に合わせるのは、小型獣人に属する俺にとってはなかなかキツい。
二十一階層の奥まった場所で、ひっそり昼食をとった。
エイダンを見習って持ってきた木の実を取り出すと、隣にいたカイルが口を開ける。欲しいのかと思い、一つ口の中に放り込んでやった。
「美味いか?」
「まあまあだ」
あ……ついいつもの癖で、カイルの「あーん」に応えてしまったが、変に思われなかっただろうか。
(いや、相棒ならこのくらい普通……だよな?)
テオから生温かい視線をひしひしと感じる。クインシーは目を見張った後、俺たちからそっと視線を逸らしていた。
カイルまで意味深に微笑んできたので、ごまかすようにレジオットにも木の実をおすそ分けすると、彼は無邪気に喜んだ。
「美味しい! ありがとうイツキ」
ほんのり笑みを浮かべ頬を紅潮させるレジオットを見て、テオは犬耳をピンと立てながら笑顔になる。
「レジーは本当に木の実が好きだなー、俺のもあげる」
「いいの? テオもありがとう」
よしよし、ツッコミを受けずに済んだぞ。
腹が満ち心が和んだところで、探索再開だ。俺は考え事をしているクインシーに問いかける。
「どうするんだ? また三十一階まで駆け降りるか?」
「いや……隠す側だって、さすがに二回も同じ手は使わないと思うんだよね。地道に探してみよう」
その日はずいぶんと歩きまわったが、残念ながら青い鍵を見つけることはできなかった。
「今日はここまでにして、明日に備えよう。野営の準備をするよ」
王都の土属性ダンジョンは下に向かえば向かうほど面積が広がり、入り組んでいく。マジで五日間歩きまわることにならないといいが。
「明日は鍵が見つかるといいな」
水筒からお茶を注ぎながら、俺はクインシーに話を振った。
「本当にね。もう他のチームも来てるだろうし、急がないと」
クインシーはモンスター避けの香を焚きながら、すでに毛布にくるまって寝ているレジオットをチラリと確認する。それから豹耳を忙しなく動かし、目を伏せた。
鍵が見つからなかったから焦ってるんだろうな。こんなに動揺を露わにするのは珍しい。
なにかフォローすべきかと考えていると、次の瞬間にはクインシーは俺に目線を向け、からかうような笑顔になった。
「ところでイツキ、カイル君から告白されたんだって?」
「うぐっ……!?」
待て、人が飲み物を口に含んだ時にそういう話を振るなよ。気管に入るところだったじゃねえか。
咳き込みそうになったものの、なんとかお茶を飲み下す。
「……っ、なんでそれを」
「テオから聞いたんだ」
おいテオ、俺とカイルの大人な関係について、黙っててくれる約束だったんじゃねえのか?
うっかり者の犬獣人を軽く睨むと、勢いよく目を逸らされた。
「わ、わざとじゃないんっスよ。ちょっとした言葉のあやというか、話してないのにバレちゃったというか」
「態度を見れば、なにかあったのがバレバレだったよ」
まあ、そうだろうな。テオに隠し事ができるとは思っちゃいない。
カイルから告白を受けた時はいっぱいいっぱいで、そんなところまで考えが及ばずにテオとレジオットに恋愛相談なんて、こっ恥ずかしいことをしてしまった。
「あー……その、まあ」
今さら秘密にすることでもないんだが……カイルと恋人になったと言えばいいだけなのに、どうにもその一言が言えなくて垂れ耳を下に引っ張っていると、カイルの声が耳に届いた。
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隣にいたカイルが、クインシーの視線から庇うように抱き寄せてくる。慌ててその手を押しのけた。
「待てって、こんなところでくっつくな」
「あはは、二人の世界は二人きりの時に構築してね」
クインシーの顔が、笑っているようで笑っていない。
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一瞬切なそうに目を細めたクインシーは、急に俺へ右手を差し出した。
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なぜかテオが祈るように見つめてくるので、なんとなく応えたほうがいい気がして、その手を取った。
クインシーは祈るように目を閉じた後、そっと俺に笑いかける。その微笑みがとても儚く綺麗で、そういやこいつもイケメンだったわと改めて思った。
「イツキ……幸せになってね」
「あ、ありがとな」
「もしカイル君が愛想を尽かすようなことをしたら、俺が懲らしめるからいつでも言って」
「おい豹野郎、誰がなにをするって?」
カイルが後ろから文句を言って、俺とクインシーの手を外させた。
まったく、心の狭いやつだな……と思いつつも、妬いてくれたみたいでちょっと嬉しい。
「じゃあ、俺もちょっと休むよ。イツキたちも休んでくれ。テオは見張りをよろしくね」
「わかりました、ボス……!」
だからなんでテオは泣きそうになってんだ。「ご立派でしたよ……!」とか小声で呟いているが、なんの話だ。
一連の反応を考えてみて、ある仮説に行きつく。クインシーの台詞、まるで恋に敗れた当て馬じゃねえかと。
いやいや、そんな馬鹿な……考えすぎに決まってる。
日本にいた時はバーに行けばそれなりに相手が見つかったものの、日常生活ではモテた覚えがない。そもそもこの世界では四方八方からかわいいと称されるが、日本では平凡な容姿の部類に入る。
俺はたまたまあいつの好きな兎獣人の見た目をしているせいでからかわれているだけであって、まさか本気で恋されていると考えるのは自惚れがすぎるだろう。
(愛してるって言われたこともあるけど、あくまで感謝が極まって出た言葉だろうしなあ……)
「イツキ、こっちだ」
カイルに手を引かれて、思考が中断された。毛布とクッションを重ねた居心地のよさそうな寝床に案内される。前回よりもゴージャスになってないか、これ。
簡易ベッド並みに居心地のいい場所に横たわるように言われ、俺は横になった。うん、見た目通り寝心地がいい。
「カイルも来いよ」
安全のためにクインシーたちを含めて結界を張ると、カイルは毛布に潜り込んできた。
チュ、と触れるだけのキスを落とされて、俺はカイルに背を向け、熱くなった頬を隠した。
「ばっか、だからダンジョン内でイチャつくのは禁止だって」
「キスもダメなのか? 魔力摂取はどうなる」
三日に一度の魔力摂取は、カイルにとって生きていくために必要なことだ。もちろん拒むつもりはないが、だからといってこんなところでキスされたら無様に反応しちまうに決まってる。
「それは……指で」
「効率が悪すぎる。指での摂取は十分以上かかるが、経口なら数分で済むだろう」
「う……じゃあ、食事の時だけな」
結局押し切られてしまった。しゃあねえ、惚れた弱みだ。
「では早速もらおうか」
「おい、昨日の夜にしたばかりだろ、こらダメだ」
「味見くらいはいいだろう」
「いいからもう寝ろって」
カイルとじゃれつきながら、対抗戦一日目の夜は更けていった。
次の日は、朝からダンジョン内の二十一階層以下をくまなく歩きまわり、青い鍵を探した。
途中何度か他チームと接触しそうになったが、テオの鼻とクインシーの采配により難を逃れた。
昼休憩を過ぎても、一向に青い鍵は見つからない。クインシーはふうと深く息を吐き出した。
「ないねえ、おっかしいなあ」
「ないっスねえ」
主従仲良くうんうんと唸っている。レジオットは狐の尻尾をふさりと振りながら首をかしげた。
「もう他の方が見つけて、持っていってしまったのでしょうか」
「可能性としてはありえるよね。赤い鍵を探すことに見切りをつけたチームが、青い鍵を先に探しにきたとか」
「俺たちが一番乗りだったのにか?」
俺が疑問をこぼすと、クインシーは眉間を指先で揉みほぐした。
「こちらが見当違いの場所を探しているうちに、先を行かれた可能性はあるよ」
「そうか……だったら他チームに奇襲をかけて奪い取るしかないのか?」
「それはできれば最終手段にしたいかな、後々遺恨が残りそうだし。とにかく、もう少し念入りに探しまわってみよう」
その日、ついぞ青い鍵は見つからなかった。クインシーは残念そうに嘆いていたが、ないものはしょうがない。
明日は見つかるといいなと告げて、カイルの準備してくれたベッドにこもった。
ダンジョンに潜りはじめて三日目の朝、クインシーはおもむろに話を切り出した。
「青い鍵はいったん諦めて、黄色い鍵を探しにいこうと思う」
「えっ、青い鍵はいいんっスか?」
クインシーは腕組みし、難しい顔をした。
「よくはないよ。でも昨日あれだけ探しても見つからなかったからね。作戦を変更する必要がある。テオは索敵に集中して」
「はいっス!」
「つまり、今から三十一階層まで降りればいいんだな」
「そうだね。モンスターは任せたよ、イツキ、カイル君。それにレジオットも」
「ああ」
「フン」
「わかりました」
三者三様に返事をして、三十一階層へ降りた。土埃がだんだんと濃くなっていき、視界を遮りはじめる。
「うう……匂いがわかりづらくなってきたっス」
「鍵があっても、見落とさないか心配」
テオとレジオットが不安そうに辺りを見まわしている。俺は彼らを励ましたくて笑いかけた。
「大丈夫だ、クインシーがなんとかしてくれるだろ。な?」
「イツキに期待されてる……!? わかったよ、俺に任せておいて」
パチンとウインクを送ってくるクインシーを見て、カイルが嫌そうな顔で俺の視界を塞いだ。
「変な念を飛ばすな、イツキが汚れる」
「汚してない、ウインクしただけだから! 失礼だなー、まったくもう」
茶化しながら、即死しそうな罠が敷きつめられた通路を乗り込えていく。罠をかいくぐるだけでも一苦労だ。三十階層から下は、道を進むだけでも時間が取られちまう。
「あ、この道の先に落とし穴があったはずだ。あそこの細い穴を潜った先が、正解の道だな」
「え、本当? そっか、イツキたちは個人でもダンジョンに潜ってたもんね。助かるよ」
三十五階の崖ゾーンの攻略も慣れたものだ。先行者がいるせいか、出現しているモンスターも普段より少ない。
俺とカイル、それからレジオットの魔法で集中攻撃し、全てのモンスターを蹴散らしてから悠々と崖っぷちの道を下りると、クインシーに絶賛された。なんでも、ここで脱落する探索者が非常に多いらしい。
「本当に君たちを雇ってよかったよ」
「はは、報酬期待してるな」
その後のダンジョン攻略でもカイルは大活躍し、大猿を相手に圧倒していた。
万が一にもカイルが魔人だと他のチームにバレないように、王都で買ったヒヒイロカネの剣は使用していない。普通の獣人は魔法金属なんて使いこなせねえからな。
こんなところで「魔人がいるぞ、殺せ!」と騒ぎになったら、対抗戦どころじゃなくなっちまう。
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