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第四章 ダンジョン騒動編

44 結婚式

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 俺とカイルの結婚式は、秋立月の初めの日に行われることになった。

 その日は朝から雲一つない快晴で、まるで空までもが俺たちの門出を祝福してくれてるみたいだった。

 ああ、ついにこの日が来ちまったなあと、光沢が美しい薄いグレーの礼装を見下ろす。

 胸元には赤紫色の花が飾られていて、控えめなデザインだが体のラインが綺麗に見える、スーツのような服装だった。

 まあでも、我ながらまあまあ似合ってるんじゃねえかな。バルコニー前の控え室では、特別関係者的な扱いでクレミア、エイダン、それにセルジュも来てくれていた。

「よくお似合いですわ、イツキ殿下……いえ、もう貴方とは義理の家族になりますので、イツキと呼んだ方がいいですね」
「そうか、そうだな」
「いいね、カッコいいよ! セルジュにもそういう格好似合いそうだなあ、今度着てみてほしいな」
「ちょっとエイダン、今日はイツキ様の晴れの日なんですよ。私の話はしなくて結構ですから」

 相変わらずの二人に、クレミアと顔を見合わせて苦笑する。言いあう二人に隠れるようにして、クレミアは俺の耳元に顔を寄せた。

「どうかカイル殿下……カイルと、いつまでも仲良くね。迫られすぎて困ることがあったら、私が匿いますので、いつでもおっしゃってください」
「え、別に困ってなんて……」

 なんで急にそんな心配されてんだと首を捻って、ああそういやクレミアには酔った時のカイルに迫られている場面を見られたんだと思い出した。

 ぼんと音を立てる勢いで赤くなりながらも、なんとか言葉を返す。

「……そんな心配しなくても、本当に大丈夫だから……気にすんな」
「そうですか? すみません、余計なお節介でしたね。ああ、恥ずかしがる必要なんてありませんから、本当になんでも、夜のことでも気にせず相談してください」

 いや、たしかに恥ずかしがらずに気持ちを伝えようって決めたんだが、そこまでは開き直れないって! 苦笑いしつつ、慈愛の微笑みで俺を見つめるクレミアの親切を辞退した。

「もう時間ですよエイダン。いつまでもここにいるとイツキ様の迷惑になりますから、行きましょう」
「そうだね、僕らも席に移動しなきゃ。行こう母さん、セルジュ」
「はい。では、新作魔法を楽しみにしています」
「一回クレミアたちの式でも披露したけどな」
「ええ、また見れると思うと、今から胸が弾みますわ」

 実は威圧の代わりになるような、美しい魔法を開発したんだが。うちの魔王様がそれを見て気に入ってくれたから、先にリッド叔父さんとクレミアの式で新作魔法を披露したんだ。

 ミスリル温泉と魔石を組み合わせたあの魔法を、クレミアも気に入ってくれたんだな。

 前回は俺とカイルが発動させたけど、今回はフェムに任せておいた。上手く発動させてくれるって信じてるからな。

 騒がしい声が聞こえなくなると、途端に控え室は静かになる。時間が来ると、バルコニーへと続く扉の前に立つ兵士たちが、ゆっくりと扉を押し開けていく。

 扉の向こうから鮮やかに光が差し込んだ。白いバルコニーの反対側に、黒服のシルエットが見える。

 ああ、カイルだ。アイツがいれば大丈夫。導かれるようにして一歩踏み出した。カイルも同じように歩きだす。

 俺たちがバルコニーに姿を見せると、手前の貴族席からも、遥か向こう側に見える平民たちが集う広場からも、わあっと歓声が上がった。

 どくどくと指先まで血がめぐるが、涼しい顔でカイルだけを見つめて、バルコニーの中央へと足を運んでいく。

 間近で目撃したカイルは、銀の刺繍を施された黒の燕尾服を着て、胸元には青い宝石を飾っていた。はあ、相変わらず俺好みすぎて、ため息が出そうな美形っぷりだ。

 差し出された手をとって、手のひらを重ねる。そのまま繋いだ手を真正面に掲げると、城の背後からいく筋もの光の線が放射された。

 光の筋は空高くまで打ち上げられると、花が咲くように破裂した。歓声がますます大きくなる。

 俺たちと魔法の花火を見上げる人々は笑顔で、俺は誇らしげな気分で彼らの顔を順に見下ろした。

 クレミアは満面の笑顔で空を見上げていて、リドアートは……おいおい、男泣きしてるじゃねえか。キエルステンはそんなリッド叔父さんの肩に手を置きながら、彼も涙ぐんでいるようだった。

 エイダンは無邪気にはしゃぎ、セルジュはそんな彼をいさめながらも笑顔を見せている。

 あ、あっちにはクインシーとヴァレリオもいるな。二人とも空中を覆いながら展開する魔法の規模に驚いていたようだったが、俺と視線があうと笑顔で手を降ってくれた。

 テオとレジオットもいるかな……さすがに貴族席にはいなかったが、平民がいる広場に犬と狐の耳が埋もれていたので、遠くから祝いに駆けつけてくれたようだ。

「イツキ」

 カイルに声をかけられて、ふと空を見上げた。光が曲線を描きながら一点に収束をしはじめている。そろそろかとカイルと向き合った。

 世にも美しいアレキサンドライトの瞳が、俺を見つめながら近づいてくる。ドクドクとうるさく騒ぐ心臓はそのままで、そっと瞳を閉じて受け入れた。

 空には特別大きな光の花が咲き、俺たちは永遠の愛を誓うキスをした。
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