超好みな奴隷を買ったがこんな過保護とは聞いてない

兎騎かなで

文字の大きさ
87 / 91
第四章 ダンジョン騒動編

44 結婚式

しおりを挟む
 俺とカイルの結婚式は、秋立月の初めの日に行われることになった。

 その日は朝から雲一つない快晴で、まるで空までもが俺たちの門出を祝福してくれてるみたいだった。

 ああ、ついにこの日が来ちまったなあと、光沢が美しい薄いグレーの礼装を見下ろす。

 胸元には赤紫色の花が飾られていて、控えめなデザインだが体のラインが綺麗に見える、スーツのような服装だった。

 まあでも、我ながらまあまあ似合ってるんじゃねえかな。バルコニー前の控え室では、特別関係者的な扱いでクレミア、エイダン、それにセルジュも来てくれていた。

「よくお似合いですわ、イツキ殿下……いえ、もう貴方とは義理の家族になりますので、イツキと呼んだ方がいいですね」
「そうか、そうだな」
「いいね、カッコいいよ! セルジュにもそういう格好似合いそうだなあ、今度着てみてほしいな」
「ちょっとエイダン、今日はイツキ様の晴れの日なんですよ。私の話はしなくて結構ですから」

 相変わらずの二人に、クレミアと顔を見合わせて苦笑する。言いあう二人に隠れるようにして、クレミアは俺の耳元に顔を寄せた。

「どうかカイル殿下……カイルと、いつまでも仲良くね。迫られすぎて困ることがあったら、私が匿いますので、いつでもおっしゃってください」
「え、別に困ってなんて……」

 なんで急にそんな心配されてんだと首を捻って、ああそういやクレミアには酔った時のカイルに迫られている場面を見られたんだと思い出した。

 ぼんと音を立てる勢いで赤くなりながらも、なんとか言葉を返す。

「……そんな心配しなくても、本当に大丈夫だから……気にすんな」
「そうですか? すみません、余計なお節介でしたね。ああ、恥ずかしがる必要なんてありませんから、本当になんでも、夜のことでも気にせず相談してください」

 いや、たしかに恥ずかしがらずに気持ちを伝えようって決めたんだが、そこまでは開き直れないって! 苦笑いしつつ、慈愛の微笑みで俺を見つめるクレミアの親切を辞退した。

「もう時間ですよエイダン。いつまでもここにいるとイツキ様の迷惑になりますから、行きましょう」
「そうだね、僕らも席に移動しなきゃ。行こう母さん、セルジュ」
「はい。では、新作魔法を楽しみにしています」
「一回クレミアたちの式でも披露したけどな」
「ええ、また見れると思うと、今から胸が弾みますわ」

 実は威圧の代わりになるような、美しい魔法を開発したんだが。うちの魔王様がそれを見て気に入ってくれたから、先にリッド叔父さんとクレミアの式で新作魔法を披露したんだ。

 ミスリル温泉と魔石を組み合わせたあの魔法を、クレミアも気に入ってくれたんだな。

 前回は俺とカイルが発動させたけど、今回はフェムに任せておいた。上手く発動させてくれるって信じてるからな。

 騒がしい声が聞こえなくなると、途端に控え室は静かになる。時間が来ると、バルコニーへと続く扉の前に立つ兵士たちが、ゆっくりと扉を押し開けていく。

 扉の向こうから鮮やかに光が差し込んだ。白いバルコニーの反対側に、黒服のシルエットが見える。

 ああ、カイルだ。アイツがいれば大丈夫。導かれるようにして一歩踏み出した。カイルも同じように歩きだす。

 俺たちがバルコニーに姿を見せると、手前の貴族席からも、遥か向こう側に見える平民たちが集う広場からも、わあっと歓声が上がった。

 どくどくと指先まで血がめぐるが、涼しい顔でカイルだけを見つめて、バルコニーの中央へと足を運んでいく。

 間近で目撃したカイルは、銀の刺繍を施された黒の燕尾服を着て、胸元には青い宝石を飾っていた。はあ、相変わらず俺好みすぎて、ため息が出そうな美形っぷりだ。

 差し出された手をとって、手のひらを重ねる。そのまま繋いだ手を真正面に掲げると、城の背後からいく筋もの光の線が放射された。

 光の筋は空高くまで打ち上げられると、花が咲くように破裂した。歓声がますます大きくなる。

 俺たちと魔法の花火を見上げる人々は笑顔で、俺は誇らしげな気分で彼らの顔を順に見下ろした。

 クレミアは満面の笑顔で空を見上げていて、リドアートは……おいおい、男泣きしてるじゃねえか。キエルステンはそんなリッド叔父さんの肩に手を置きながら、彼も涙ぐんでいるようだった。

 エイダンは無邪気にはしゃぎ、セルジュはそんな彼をいさめながらも笑顔を見せている。

 あ、あっちにはクインシーとヴァレリオもいるな。二人とも空中を覆いながら展開する魔法の規模に驚いていたようだったが、俺と視線があうと笑顔で手を降ってくれた。

 テオとレジオットもいるかな……さすがに貴族席にはいなかったが、平民がいる広場に犬と狐の耳が埋もれていたので、遠くから祝いに駆けつけてくれたようだ。

「イツキ」

 カイルに声をかけられて、ふと空を見上げた。光が曲線を描きながら一点に収束をしはじめている。そろそろかとカイルと向き合った。

 世にも美しいアレキサンドライトの瞳が、俺を見つめながら近づいてくる。ドクドクとうるさく騒ぐ心臓はそのままで、そっと瞳を閉じて受け入れた。

 空には特別大きな光の花が咲き、俺たちは永遠の愛を誓うキスをした。
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。