上 下
172 / 178
第四章 ダンジョン騒動編

42 威圧? そんな野蛮なことはしねえよ

しおりを挟む
 カイルはますます渋面をつくって、低い声で威嚇をする。

「俺が正気かどうか疑っているのか。いいだろう、お前の気が済むまで議論につきあってやる」
「これ以上話しあったってなにも変わりませんよ、馬鹿馬鹿しい」

 若い魔人たちはカイルが間違っていて、自分たちが正しいと思い込んでいるようだ。

 こりゃカイルの手に負えねえよなあ。でもここで突入すると彼の面目を潰すだろうかと、扉に手をかけたまま迷う。

 せっかくカイルが一人でがんばろうとしてるんだから、それを見守ってやるのが愛ってもんじゃ……

「だいたい、殿下は本気で獣人と愛しあっているんですか? よしんばペットとして愛でることはあっても、全く対等な相手としては見られませんよ。ねえ?」
「そうですよ、私の元主人……ああ、口にするのも屈辱的ですが、酷いものでした。ダンジョンからの施しを自身の稼ぎと勘違いして、日々飲み明かす阿呆で」
「僕の元主人もとんでもなく低脳でした。僕がお腹を空かせていてもパンを恵むだけ。まったく魔力が含まれていない食べ物だと理解していないようでした」

 愚痴のような文句の羅列に、カイルは腕を組んだまま苦い顔をしている。しばらくガス抜きにつきあうつもりらしい。

「そんな獣人が正体を偽って、魔王のフリをしていたなんて嘘なんでしょう? 獣人と国交を結ぶことで利益が出る一部の貴族が、自作自演したに決まっています」
「では、確かめてみるか?」

 カイルの視線が正確に俺の瞳へと向く。ああ、こっそり見てたのがバレてたみてえだな。

 他の魔人たちは気づいていなかったようで、扉の隙間から顔を出した兎耳姿の俺にギョッとした目を向けている。

「よお、呼んだか?」
「彼らが疑っているのは俺の正気ではなく、イツキの知性らしい」

 言外にこてんぱんに論破してやれと言われて、気合いの入った笑顔をお見舞いしてやった。

「なるほどなあ。いいぜ? なんでも聞いてくれ」

 さっきまで威勢のよかった魔人たちは怯んで、仲間内でこそこそと耳打ちをしはじめた。そういうのは全部聞こえちまうから、堂々と話してくれていいんだが。

「彼は『魔力の支配』持ちという噂があるが……」
「たとえそれが本当だとしても、獣人ごときに使いこなせるはずがないだろう」
「ああ、きっと魔力や魔人に対する知識だって、ほとんどないに違いない」

 頷きあった魔人たちは、キッと俺を睨みつけた。同じくらいの目線にあるとはいえ、集団だと迫力があるな。お手柔らかに頼むぜ?

「では聞きますが、貴方はダンジョンからの施しについて素晴らしいとは思いませんでしたか?」
「それは魔石や宝箱について言ってるんだよな?」
「はい。魔力を得られない彼らからしたら、あんなクズみたいな魔石でも、素晴らしい恩恵となるはずでしょう?」
「獣人の魔力を集めて、一部を戦果として還元し人を呼ぶ。そこまでならアリかもなって思うけど、ダンジョン維持のために村人の命まで必要なのはどうかと思うぜ」

 説明のため、手元に俺の作った魔石を出現させる。緑髪の魔人は顔を引きつらせた。

「インベントリ……!? なぜ」
「使えるから使ってるだけだ。これが通常ダンジョンで産出する極小、小魔石だな。これを作るのに必要な魔力量は……」

 俺はリドアートのダンジョンで見せてもらったレポートと、モンスターから感じられた魔力と獣人から吸い取っていた魔力などを、頭の中で組み合わせる。

 ダンジョン運営にかかる魔力量を、おおむね正確に割り出してみせた。

「てなわけで、ここから魔石を作るのに必要な魔力をさっ引いても、ほとんどダンジョンにとって痛手じゃないんだよな。明らかに獣人から魔力取りすぎだろ」
「な……! こ、これはどういうことですかカイル殿下! 貴方が入れ知恵したのですね!?」
「俺はなにもしていない」

 獣人が馬鹿ばっかりと決めつけていた魔人は、泡をくって驚いている。ここまでの話ならロビンやクインシーでも難なく理解してくれると思うぞ。

「さらに言えば、これだけの魔力量を魔人國へ送っていたにも関わらず、餓死者が出そうなくらいになってたから……」

 今度は魔王時代に見た数々の報告書と、実際に送られていたはずの魔力量の差異を指摘する。

「てなわけで、だいたい二割から三割程度が一部の貴族に溜め込まれてたわけだ。ま、だいたいは俺が魔王やってた時に、ついでに制裁しておいたんだが」

 暗殺者を差し向けてきたり、議会で甘い蜜を吸ってた奴らがそうだったっぽいからな。

「ひ、卑怯だ! 俺たちの知らない知識を持ち出して!」
「その理論で言うなら、獣人の知らない魔力知識で優越感に浸っているアンタらの方が、卑怯者ってことになるが?」

 魔人の少年たちは押し黙る。背後から気弱そうな少年が、そろりと手を挙げた。

「イツキ殿下、大変ためになるお話をありがとうございます。質問があるのですが」
「ああ、なんでも聞いてくれ」
「殿下のおかげで我々は魔力不足になることなく暮らしています。今後、余剰魔力をどのように活用するのがいいでしょうか」
「そうだな、まずは……」

 これまでダンジョン作りにしか目を向けていなかった彼らが、新しい目標に向かういい機会だ。

 魔石を量産して、獣人王国で使用されている雷魔の電灯みたいなやつを地方にまで行き渡らせたり、魔導話を普及させてもいいな、なんて話をした。

「獣人が開発した技術だが、なかなか使い勝手がいいんだ。魔石を使うからつきっきりで魔法を使わなくていいし、使用する人が魔力を持っていなくても発動する」

 王都で奴隷になっていたらしい少年が頷く。

「ダーシュカ獣人王国の王都で、雷魔の明かりを見ました。あれは綺麗だし、夜も活動しやすくていいですね」

 獣人を散々バカにしていた一団が俯いて、バツの悪そうな顔をしている。

 少年たちの間で、だったら魔石をこう活用するのはどうかと意見交換が始まった。やれやれと肩を竦めて一歩下がる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

虎獣人から番になってと迫られて、怖がりの僕は今にも失神しそうです(した)

兎騎かなで
BL
文学部の大学生、紺野静樹は突然異世界に飛ばされ、虎顔の獣人と出会った。怖がりの静樹は内心大パニック。 「と、虎⁉︎ 牙が怖すぎるっ、食べられる……! あ、意識が……」 「わーい! やっと起きたね人間さん! ……あれ、また寝ちゃったの?」 どうやら見た目は恐ろしいが親切な白虎の獣人、タオに保護されたらしい。 幼い頃に猫に噛まれたせいで獣の牙が大の苦手である静樹は、彼の一挙一動にびくびくと怯えてしまう。 そんな中、タオは静樹を番にしたいと迫ってきて……? 「シズキってかわいくっていい匂いだね、大好きだよ! 番になってほしいなあ」 「嫌です無理です、死んじゃいます……っ!」 無邪気な虎獣人と、臆病な異世界人のドタバタラブストーリー。 流血表現あります。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
ご感想をいただけたらめちゃくちゃ喜びます! ※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。