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第四章 ダンジョン騒動編
42 威圧? そんな野蛮なことはしねえよ
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カイルはますます渋面をつくって、低い声で威嚇をする。
「俺が正気かどうか疑っているのか。いいだろう、お前の気が済むまで議論につきあってやる」
「これ以上話しあったってなにも変わりませんよ、馬鹿馬鹿しい」
若い魔人たちはカイルが間違っていて、自分たちが正しいと思い込んでいるようだ。
こりゃカイルの手に負えねえよなあ。でもここで突入すると彼の面目を潰すだろうかと、扉に手をかけたまま迷う。
せっかくカイルが一人でがんばろうとしてるんだから、それを見守ってやるのが愛ってもんじゃ……
「だいたい、殿下は本気で獣人と愛しあっているんですか? よしんばペットとして愛でることはあっても、全く対等な相手としては見られませんよ。ねえ?」
「そうですよ、私の元主人……ああ、口にするのも屈辱的ですが、酷いものでした。ダンジョンからの施しを自身の稼ぎと勘違いして、日々飲み明かす阿呆で」
「僕の元主人もとんでもなく低脳でした。僕がお腹を空かせていてもパンを恵むだけ。まったく魔力が含まれていない食べ物だと理解していないようでした」
愚痴のような文句の羅列に、カイルは腕を組んだまま苦い顔をしている。しばらくガス抜きにつきあうつもりらしい。
「そんな獣人が正体を偽って、魔王のフリをしていたなんて嘘なんでしょう? 獣人と国交を結ぶことで利益が出る一部の貴族が、自作自演したに決まっています」
「では、確かめてみるか?」
カイルの視線が正確に俺の瞳へと向く。ああ、こっそり見てたのがバレてたみてえだな。
他の魔人たちは気づいていなかったようで、扉の隙間から顔を出した兎耳姿の俺にギョッとした目を向けている。
「よお、呼んだか?」
「彼らが疑っているのは俺の正気ではなく、イツキの知性らしい」
言外にこてんぱんに論破してやれと言われて、気合いの入った笑顔をお見舞いしてやった。
「なるほどなあ。いいぜ? なんでも聞いてくれ」
さっきまで威勢のよかった魔人たちは怯んで、仲間内でこそこそと耳打ちをしはじめた。そういうのは全部聞こえちまうから、堂々と話してくれていいんだが。
「彼は『魔力の支配』持ちという噂があるが……」
「たとえそれが本当だとしても、獣人ごときに使いこなせるはずがないだろう」
「ああ、きっと魔力や魔人に対する知識だって、ほとんどないに違いない」
頷きあった魔人たちは、キッと俺を睨みつけた。同じくらいの目線にあるとはいえ、集団だと迫力があるな。お手柔らかに頼むぜ?
「では聞きますが、貴方はダンジョンからの施しについて素晴らしいとは思いませんでしたか?」
「それは魔石や宝箱について言ってるんだよな?」
「はい。魔力を得られない彼らからしたら、あんなクズみたいな魔石でも、素晴らしい恩恵となるはずでしょう?」
「獣人の魔力を集めて、一部を戦果として還元し人を呼ぶ。そこまでならアリかもなって思うけど、ダンジョン維持のために村人の命まで必要なのはどうかと思うぜ」
説明のため、手元に俺の作った魔石を出現させる。緑髪の魔人は顔を引きつらせた。
「インベントリ……!? なぜ」
「使えるから使ってるだけだ。これが通常ダンジョンで産出する極小、小魔石だな。これを作るのに必要な魔力量は……」
俺はリドアートのダンジョンで見せてもらったレポートと、モンスターから感じられた魔力と獣人から吸い取っていた魔力などを、頭の中で組み合わせる。
ダンジョン運営にかかる魔力量を、おおむね正確に割り出してみせた。
「てなわけで、ここから魔石を作るのに必要な魔力をさっ引いても、ほとんどダンジョンにとって痛手じゃないんだよな。明らかに獣人から魔力取りすぎだろ」
「な……! こ、これはどういうことですかカイル殿下! 貴方が入れ知恵したのですね!?」
「俺はなにもしていない」
獣人が馬鹿ばっかりと決めつけていた魔人は、泡をくって驚いている。ここまでの話ならロビンやクインシーでも難なく理解してくれると思うぞ。
「さらに言えば、これだけの魔力量を魔人國へ送っていたにも関わらず、餓死者が出そうなくらいになってたから……」
今度は魔王時代に見た数々の報告書と、実際に送られていたはずの魔力量の差異を指摘する。
「てなわけで、だいたい二割から三割程度が一部の貴族に溜め込まれてたわけだ。ま、だいたいは俺が魔王やってた時に、ついでに制裁しておいたんだが」
暗殺者を差し向けてきたり、議会で甘い蜜を吸ってた奴らがそうだったっぽいからな。
「ひ、卑怯だ! 俺たちの知らない知識を持ち出して!」
「その理論で言うなら、獣人の知らない魔力知識で優越感に浸っているアンタらの方が、卑怯者ってことになるが?」
魔人の少年たちは押し黙る。背後から気弱そうな少年が、そろりと手を挙げた。
「イツキ殿下、大変ためになるお話をありがとうございます。質問があるのですが」
「ああ、なんでも聞いてくれ」
「殿下のおかげで我々は魔力不足になることなく暮らしています。今後、余剰魔力をどのように活用するのがいいでしょうか」
「そうだな、まずは……」
これまでダンジョン作りにしか目を向けていなかった彼らが、新しい目標に向かういい機会だ。
魔石を量産して、獣人王国で使用されている雷魔の電灯みたいなやつを地方にまで行き渡らせたり、魔導話を普及させてもいいな、なんて話をした。
「獣人が開発した技術だが、なかなか使い勝手がいいんだ。魔石を使うからつきっきりで魔法を使わなくていいし、使用する人が魔力を持っていなくても発動する」
王都で奴隷になっていたらしい少年が頷く。
「ダーシュカ獣人王国の王都で、雷魔の明かりを見ました。あれは綺麗だし、夜も活動しやすくていいですね」
獣人を散々バカにしていた一団が俯いて、バツの悪そうな顔をしている。
少年たちの間で、だったら魔石をこう活用するのはどうかと意見交換が始まった。やれやれと肩を竦めて一歩下がる。
「俺が正気かどうか疑っているのか。いいだろう、お前の気が済むまで議論につきあってやる」
「これ以上話しあったってなにも変わりませんよ、馬鹿馬鹿しい」
若い魔人たちはカイルが間違っていて、自分たちが正しいと思い込んでいるようだ。
こりゃカイルの手に負えねえよなあ。でもここで突入すると彼の面目を潰すだろうかと、扉に手をかけたまま迷う。
せっかくカイルが一人でがんばろうとしてるんだから、それを見守ってやるのが愛ってもんじゃ……
「だいたい、殿下は本気で獣人と愛しあっているんですか? よしんばペットとして愛でることはあっても、全く対等な相手としては見られませんよ。ねえ?」
「そうですよ、私の元主人……ああ、口にするのも屈辱的ですが、酷いものでした。ダンジョンからの施しを自身の稼ぎと勘違いして、日々飲み明かす阿呆で」
「僕の元主人もとんでもなく低脳でした。僕がお腹を空かせていてもパンを恵むだけ。まったく魔力が含まれていない食べ物だと理解していないようでした」
愚痴のような文句の羅列に、カイルは腕を組んだまま苦い顔をしている。しばらくガス抜きにつきあうつもりらしい。
「そんな獣人が正体を偽って、魔王のフリをしていたなんて嘘なんでしょう? 獣人と国交を結ぶことで利益が出る一部の貴族が、自作自演したに決まっています」
「では、確かめてみるか?」
カイルの視線が正確に俺の瞳へと向く。ああ、こっそり見てたのがバレてたみてえだな。
他の魔人たちは気づいていなかったようで、扉の隙間から顔を出した兎耳姿の俺にギョッとした目を向けている。
「よお、呼んだか?」
「彼らが疑っているのは俺の正気ではなく、イツキの知性らしい」
言外にこてんぱんに論破してやれと言われて、気合いの入った笑顔をお見舞いしてやった。
「なるほどなあ。いいぜ? なんでも聞いてくれ」
さっきまで威勢のよかった魔人たちは怯んで、仲間内でこそこそと耳打ちをしはじめた。そういうのは全部聞こえちまうから、堂々と話してくれていいんだが。
「彼は『魔力の支配』持ちという噂があるが……」
「たとえそれが本当だとしても、獣人ごときに使いこなせるはずがないだろう」
「ああ、きっと魔力や魔人に対する知識だって、ほとんどないに違いない」
頷きあった魔人たちは、キッと俺を睨みつけた。同じくらいの目線にあるとはいえ、集団だと迫力があるな。お手柔らかに頼むぜ?
「では聞きますが、貴方はダンジョンからの施しについて素晴らしいとは思いませんでしたか?」
「それは魔石や宝箱について言ってるんだよな?」
「はい。魔力を得られない彼らからしたら、あんなクズみたいな魔石でも、素晴らしい恩恵となるはずでしょう?」
「獣人の魔力を集めて、一部を戦果として還元し人を呼ぶ。そこまでならアリかもなって思うけど、ダンジョン維持のために村人の命まで必要なのはどうかと思うぜ」
説明のため、手元に俺の作った魔石を出現させる。緑髪の魔人は顔を引きつらせた。
「インベントリ……!? なぜ」
「使えるから使ってるだけだ。これが通常ダンジョンで産出する極小、小魔石だな。これを作るのに必要な魔力量は……」
俺はリドアートのダンジョンで見せてもらったレポートと、モンスターから感じられた魔力と獣人から吸い取っていた魔力などを、頭の中で組み合わせる。
ダンジョン運営にかかる魔力量を、おおむね正確に割り出してみせた。
「てなわけで、ここから魔石を作るのに必要な魔力をさっ引いても、ほとんどダンジョンにとって痛手じゃないんだよな。明らかに獣人から魔力取りすぎだろ」
「な……! こ、これはどういうことですかカイル殿下! 貴方が入れ知恵したのですね!?」
「俺はなにもしていない」
獣人が馬鹿ばっかりと決めつけていた魔人は、泡をくって驚いている。ここまでの話ならロビンやクインシーでも難なく理解してくれると思うぞ。
「さらに言えば、これだけの魔力量を魔人國へ送っていたにも関わらず、餓死者が出そうなくらいになってたから……」
今度は魔王時代に見た数々の報告書と、実際に送られていたはずの魔力量の差異を指摘する。
「てなわけで、だいたい二割から三割程度が一部の貴族に溜め込まれてたわけだ。ま、だいたいは俺が魔王やってた時に、ついでに制裁しておいたんだが」
暗殺者を差し向けてきたり、議会で甘い蜜を吸ってた奴らがそうだったっぽいからな。
「ひ、卑怯だ! 俺たちの知らない知識を持ち出して!」
「その理論で言うなら、獣人の知らない魔力知識で優越感に浸っているアンタらの方が、卑怯者ってことになるが?」
魔人の少年たちは押し黙る。背後から気弱そうな少年が、そろりと手を挙げた。
「イツキ殿下、大変ためになるお話をありがとうございます。質問があるのですが」
「ああ、なんでも聞いてくれ」
「殿下のおかげで我々は魔力不足になることなく暮らしています。今後、余剰魔力をどのように活用するのがいいでしょうか」
「そうだな、まずは……」
これまでダンジョン作りにしか目を向けていなかった彼らが、新しい目標に向かういい機会だ。
魔石を量産して、獣人王国で使用されている雷魔の電灯みたいなやつを地方にまで行き渡らせたり、魔導話を普及させてもいいな、なんて話をした。
「獣人が開発した技術だが、なかなか使い勝手がいいんだ。魔石を使うからつきっきりで魔法を使わなくていいし、使用する人が魔力を持っていなくても発動する」
王都で奴隷になっていたらしい少年が頷く。
「ダーシュカ獣人王国の王都で、雷魔の明かりを見ました。あれは綺麗だし、夜も活動しやすくていいですね」
獣人を散々バカにしていた一団が俯いて、バツの悪そうな顔をしている。
少年たちの間で、だったら魔石をこう活用するのはどうかと意見交換が始まった。やれやれと肩を竦めて一歩下がる。
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