超好みな奴隷を買ったがこんな過保護とは聞いてない

兎騎かなで

文字の大きさ
上 下
78 / 91
第四章 ダンジョン騒動編

35 思ってたよりも大丈夫らしい

しおりを挟む
 クインシーはマーシャルのタウンハウスではなく、現在はヴァレリオと二人で、彼の用意した屋敷に住んでいるようだ。

 魔導話で手短にダンジョンを片づけたことを報告し、犯人を捕まえた後の処遇などの詳細については、彼らの家で報告することになった。

 二人とも夜遅くまで働いてた関係で、昼間は休息に当てるらしい。夕食時に落ちあって話をしようってことになった。

 念の為に、魔鳥を真似して作って、リドアートの元に飛ばして情報の裏どりを試みた。

 何もかも解決したと伝えたのに、後から俺たちの報告が実は間違っていました、なんてことになったらややこしいからな。

 てことで、返信が帰ってくるまでなんもできないし、時間が空いた。

 久しぶりに王都のギルドをのぞいてみるかと、かつての古巣に顔を出してみる。

 ギルド内は閑散としていた。やっぱ仕事が少ないせいかと、眉をしかめながら掲示板を見にいく。

「あれ、思ったより仕事があるな」

 意外にも護衛任務やら煙突の掃除、道路工事や下水道の掃除なんかの、細々とした仕事がいくつか貼られていた。

「冒険者の方ですか? よかったら下水道掃除の仕事、受けていかれませんか!」

 カウンターから、ギルド職員の垂れ耳犬兄さんに声をかけられた。

 この時間まで残ってる依頼なんてあんまり受ける気しねえけど、と思いながら報酬を確かめてみる。

「……意外と稼げるな、これ」
「そうなんですよ! 悪臭が町にまで漏れ出して、近隣住民がとても困ってるんです。どうかお願いします」

 いやでも、臭いんだよなあ……獣人の体になってから匂いに敏感になっているし、どうも気が進まねえ。

 魔石を作って売っているから金もあるし、断ろうか迷っていると、後ろから来た牛獣人がぬっと俺の前に手を伸ばした。

「……この依頼、私が受けてもいいか」
「ん? ああ」

 牛獣人はのっそのっそと歩いて、カウンターに依頼書を持っていく。犬兄さんは尻尾を振って大歓迎していた。

「ありがとうございますー! 冒険者の方って華々しい活躍がしたい方が多くて、こういう地味な困り事にはなかなか手を貸してくれないんです」
「……私は人助けをするほうが、やりがいがある」
「本当ですか、助かります!」

 なるほどなと苦笑いをした。なんだ、ダンジョンがなくなった今でも、冒険者の仕事はそれなりに需要があるんじゃねえか。

 あんなに必死になってダンジョンの奥にまで駆けつけてくるもんだから、本気で生活に困ってるのかと心配しちまった。

 今思えば、押し寄せてきた冒険者たちは、痩せたりみすぼらしい服を着たりしていなかったし、本当にまた冒険がしたかっただけなのだろう。

 気持ちはわかるけどな。俺だって、カイルと一緒にダンジョンの奥に潜ってた頃は、わくわくしてたから。

「出るか」
「ああ」

 適当に土産屋なんかを探して暇を潰していると、カイルはぽつりと呟いた。

「イツキは、ダンジョンが好きだったのか?」
「うーん……命の危険があるし、今でも潜りてえとは思わないけど。当時はそうだな、好きだった」

 だってボス部屋があれば宝箱だって出るんだぞ。ゲームっぽいし、この奥には何があるんだろうって探究心でいっぱいだった。

「王都に向かう途中で滅びた村を見てからは、そんな浮ついたこと考えたりしてなかったけどな。金を稼ぐ手段だったよ」
「そうか」
「代わりに今は、リッドおじさんが面白え依頼をくれるし、ロビンと一緒にポーションや魔石の研究を進めるのも楽しいし。それで満足してるかな」

 カイルは腕を組みながら、なにか考え事をしているようだ。足が遅くなったので、俺も歩調をあわせて隣を歩く。

「どうした?」
「いや……お前はマーシャルでゆっくり過ごすのが夢だと言っていただろう」
「ああ、マーシャルの町の雰囲気は好きだからな。あそこには知り合いもいるし。でも研究はどこでもできるし、いろんなとこ行くのも楽しいぞ」

 結局俺は、カイルと一緒にいられるならどこだっていいんだ。男らしくも美しい横顔をうっとりと見上げる。

 俺の視線に気づいたカイルが、宝石のような瞳を俺に向けた。

 はあ、相変わらずなんて俺好みの顔をしてやがる……陽光に煌めいて銀に光る髪のせいで、よけいに煌めいて見える。

 おっと、見惚れてる場合じゃねえ。話の途中だったと我に返る。伝えようか一緒迷ってから、結局言葉にした。

「俺は、カイルと一緒にいられれば、本当はどこにいたっていいんだ」
「イツキ……俺も同じ気持ちだ」

 硬質な美貌が艶やかに綻んだ。はあ、顔がいい……こんなに喜んでくれるなら、ちゃんと伝えてよかったぜ。

 二人でゆっくり王都を散策している間に、リドアートから返信が返ってくる。

 懸念したようなフェナンの裏切りは起こらず、彼はダンジョン外に控えていた魔人に父親と弟を引き渡し、魔王城に向けて帰還中らしい。

 ふう、肩の荷がおりたぜ。一件落着だ。

 夕日が沈みはじめた頃に、ヴァレリオの家へと向かった。

 ヴァレリオは公爵家の出身だとか、クインシーから聞いた気がする。

 大貴族が住む屋敷にしちゃこじんまりとしているが、庭が広くて居心地がよさそうな家だ。

「おーい、来たぞ」

 ドアベルを掴んでコンコンコンと扉を叩く。返事はすぐに返ってきた。扉越しにくぐもった声がする。

「はーい、この声はイツキだね。時間ぴったりだ。ヴァレリオ、出てきてよ」
「ああ……くれぐれも気をつけてくれ」
「わかってるってば、ほら行った行った」

 は? 家主が出迎えるとか……ひょっとして、使用人が誰もいないのだろうか、通いで来てるとか……?

 驚きながらも、扉を開けてくれた黒髪の狼獣人に礼を告げる。

「お招きありがとう、取り込み中か?」

 奥から煮込んだ玉ねぎの匂いが、ふわりと漂ってくる。クインシーは姿を見せずに、声だけで応えた。

「取り込み中だよ、ちょっと時間配分を間違えてしまってさ。ごめんね」
「イツキ殿もカイル殿も、よく来てくれた。気にせず中に入ってくれ」
「なら、邪魔するぜ」

 なんだなんだ、俺の想像通りなら、今頃クインシーは予想外なことをしているはずだが……?

 廊下からチラリとクインシーの声が聞こえてきた部屋をのぞくと、エプロンをつけたクインシーが、上機嫌で鍋をかき回していた……
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。