超好みな奴隷を買ったがこんな過保護とは聞いてない

兎騎かなで

文字の大きさ
69 / 91
第四章 ダンジョン騒動編

26 死守

しおりを挟む
 俺は素早く立ち上がり、毛布をまとめてカイルに返した。獣人たちを地上に帰したいが、話して聞くようなタマじゃねえだろう。

 魔法で送り返すこともできなくはないが、どれだけの獣人がダンジョンに下りてきているかわからない。

 魔力量の問題で、人数が多すぎたら送り返せないかもしれねえ。となると道は一つだ。

「さっさと親玉を探して、企みを止めねえとな」

 それしか活路はないと、再びダンジョンの底を目指して走りはじめる。カイルとフェナンもそれに続いた。

 下りるにつれて通路の明滅は激しくなり、足元が危うくなってくる。転けないように気をつけていたが、水が滴っている場所で滑ってしまった。

「うおっ⁉︎」
「気をつけろ」
「ああ、助かったぜカイル」

 まずいな、だんだん体が怠くなってきた。魔力量が少ないせいか、単純に疲れているせいか。両方かもしれない。

 首根っこを引っ捕まえられ、事なきを得た。隣でフェナンが尻餅をついている。

「何をしている」
「あ、ありがとうございます、カイル殿下」

 カイルはため息をつきながら、フェナンに手を貸す。お互い締まらねえなあとフェナンに目配せすると、苦笑いを返された。

「お手間をとらせてすみません、下りましょう」

 背後から迫る獣人たちの音は、大きくなったり小さくなったりしていて、距離が掴みにくい。これも闇属性ダンジョンの効果だろうか。

 まだ追いつかないでくれ、頼むと内心祈りながら、視界も足場も悪い道をひたすら駆け抜けた。

「なにかいる」

 前方を進むカイルが注意を促す。なにかってなんだ? 前方を注視するが、黒い霧のようで形が判別できない。

 黒い霧が漂う場所は、大きな部屋になっている。扉が開きっぱなしになっているが、どうやらここはボス部屋らしい。

「このまま突っ込むぞ!」

 もうあまり時間の猶予もなさそうだ。ボスだろうがなんだろうが蹴散らして、先に進むしかない。

 カイルは俺の言葉に頷いて、真っ先に部屋へ飛び込んだ。

 部屋の中に入ると、判別が難しかった輪郭が徐々に浮かび上がってくる。そこにいたのは巨大な蜘蛛のモンスターだった。

「ひい、蜘蛛……!」

 フェナンは蜘蛛が苦手らしく、ガタガタと震えながら足を踏ん張っている。しゃあねえな、ここは俺が魔法を使うしかない。

「くらえ!」

 空中に向かって光の玉を投げた。玉は明るく瞬いて、黒くひしめく闇を照らしだす。蜘蛛は表面を焦がしながら大きくのけ反ると、真っ黒な糸を俺目がけて吐き出した。

「させない」

 カイルが前に躍り出て、ヒヒイロカネの剣で黒い糸を弾こうとする。剣に触れた闇はぞわりと大きく膨らみ、カイルの手を飲み込もうとした。

「チッ」

 大きく剣を振って糸を切り離したカイルは、俺を守るように眼前に立ちはだかる。一筋縄じゃいかなそうだな。

 どこだ、どこがこいつの弱点なんだ? 魔力の流れを目で追っていると、ある一点に収束し、そこから魔力が身体中にめぐっていると気づく。

「カイル! 蜘蛛の右から二番目の目を……」
「うおおおお! モンスターを見つけたぞ!」
「俺が倒す! どけえええ!」
「獲物を寄越せ!」

 カイルに弱点を伝えている途中で、突然背後の声が大きくなる。急いで振り向くと、すぐそこまで血気盛んな獣人たちが下りてきていた。

「うわ、まずい」

 こいつら、危ねえってのに下りてくんなよ!

 俺の内心の叫びなど知らずに、熊も猪も狼もハイエナも一様に、蜘蛛のモンスターを目掛けて駆け寄ってくる。

 やべえ、ここにフェムの父さんや弟が現れたら……思考する前に、獣人たちはもみくちゃになりながら迫ってくる。

「イツキ!」

 カイルが俺を抱き上げて、壁際へと避難した。獣人たちは俺たちに目もくれずに、我先にとモンスターの周りに群がる。

「俺の手柄にするんだ!」
「いーや俺だ!」

 口々に言いあいながら武器を振り回すが、蜘蛛の足は何度斬られても空を切ってしまう。

「あれ、こいつ当たらねえぞ」
「もっと力強く振るんだ、胴体を狙え!」

 獣人たちは困惑しながらも、懸命に斧を振り下ろし、両手剣で蜘蛛を薙ぎ倒そうとする。だが、やはり当たらない。

 蜘蛛が黒い糸を吐き出し、数人の冒険者たちを捕らえてしまった。

「こいつ、くそっ!」
「こんなはずじゃ……!」

 ああもう、なにやってんだよ。手助けしてやろうと足を踏み出した時に、異変に気づいた。

 蜘蛛の後ろから巨大な魔力を感じとり、ざわっと全身に悪寒が走る。

 チラッと赤い髪の二人組が見えた。きっとフェナンの親父さんと弟だろう。闇属性の大魔法を使おうとしている。

「おい、カイル……!」
「まずいな」

 言葉と同時にカイルは駆け出した。獣人たちの上を飛び越そうとするが、突如現れた透明な壁に弾かれてしまう。

「く、この程度!」

 結界を叩き斬ろうとするカイルだが、ヒヒイロカネの剣はバチバチと見えない壁に弾かれた。

 待て待て、すげえ音が鳴ってるぞ。剣が折れかねない。

「無茶するなカイル、俺がなんとかする!」

 声をかけながらも目まぐるしく頭を動かす。集まっている魔力の大きさ、発動規模から考えうる被害規模を読み解くと……

 理解した瞬間、俺は大量の魔力を練って獣人たちを包みこんだ。

「アンタらは、お呼びじゃねえんだよ……!」

 蜘蛛の奥でこそこそ魔力を練っているヤツは、獣人たちを全員いっぺんに倒すつもりだ!

 させてたまるかと、包み込んだ魔力ごと、獣人たちを地上へと転送する。

「ぐぅ……!」

 くっそ、魔力が抜ける……っ! まだ残っているが、残量はほとんどない。

「イツキ!」

 うめきながら胸元を押さえる俺の前方には、おびただしい数の黒いもや玉が出現していた。
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。