超好みな奴隷を買ったがこんな過保護とは聞いてない

兎騎かなで

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第四章 ダンジョン騒動編

26 死守

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 俺は素早く立ち上がり、毛布をまとめてカイルに返した。獣人たちを地上に帰したいが、話して聞くようなタマじゃねえだろう。

 魔法で送り返すこともできなくはないが、どれだけの獣人がダンジョンに下りてきているかわからない。

 魔力量の問題で、人数が多すぎたら送り返せないかもしれねえ。となると道は一つだ。

「さっさと親玉を探して、企みを止めねえとな」

 それしか活路はないと、再びダンジョンの底を目指して走りはじめる。カイルとフェナンもそれに続いた。

 下りるにつれて通路の明滅は激しくなり、足元が危うくなってくる。転けないように気をつけていたが、水が滴っている場所で滑ってしまった。

「うおっ⁉︎」
「気をつけろ」
「ああ、助かったぜカイル」

 まずいな、だんだん体が怠くなってきた。魔力量が少ないせいか、単純に疲れているせいか。両方かもしれない。

 首根っこを引っ捕まえられ、事なきを得た。隣でフェナンが尻餅をついている。

「何をしている」
「あ、ありがとうございます、カイル殿下」

 カイルはため息をつきながら、フェナンに手を貸す。お互い締まらねえなあとフェナンに目配せすると、苦笑いを返された。

「お手間をとらせてすみません、下りましょう」

 背後から迫る獣人たちの音は、大きくなったり小さくなったりしていて、距離が掴みにくい。これも闇属性ダンジョンの効果だろうか。

 まだ追いつかないでくれ、頼むと内心祈りながら、視界も足場も悪い道をひたすら駆け抜けた。

「なにかいる」

 前方を進むカイルが注意を促す。なにかってなんだ? 前方を注視するが、黒い霧のようで形が判別できない。

 黒い霧が漂う場所は、大きな部屋になっている。扉が開きっぱなしになっているが、どうやらここはボス部屋らしい。

「このまま突っ込むぞ!」

 もうあまり時間の猶予もなさそうだ。ボスだろうがなんだろうが蹴散らして、先に進むしかない。

 カイルは俺の言葉に頷いて、真っ先に部屋へ飛び込んだ。

 部屋の中に入ると、判別が難しかった輪郭が徐々に浮かび上がってくる。そこにいたのは巨大な蜘蛛のモンスターだった。

「ひい、蜘蛛……!」

 フェナンは蜘蛛が苦手らしく、ガタガタと震えながら足を踏ん張っている。しゃあねえな、ここは俺が魔法を使うしかない。

「くらえ!」

 空中に向かって光の玉を投げた。玉は明るく瞬いて、黒くひしめく闇を照らしだす。蜘蛛は表面を焦がしながら大きくのけ反ると、真っ黒な糸を俺目がけて吐き出した。

「させない」

 カイルが前に躍り出て、ヒヒイロカネの剣で黒い糸を弾こうとする。剣に触れた闇はぞわりと大きく膨らみ、カイルの手を飲み込もうとした。

「チッ」

 大きく剣を振って糸を切り離したカイルは、俺を守るように眼前に立ちはだかる。一筋縄じゃいかなそうだな。

 どこだ、どこがこいつの弱点なんだ? 魔力の流れを目で追っていると、ある一点に収束し、そこから魔力が身体中にめぐっていると気づく。

「カイル! 蜘蛛の右から二番目の目を……」
「うおおおお! モンスターを見つけたぞ!」
「俺が倒す! どけえええ!」
「獲物を寄越せ!」

 カイルに弱点を伝えている途中で、突然背後の声が大きくなる。急いで振り向くと、すぐそこまで血気盛んな獣人たちが下りてきていた。

「うわ、まずい」

 こいつら、危ねえってのに下りてくんなよ!

 俺の内心の叫びなど知らずに、熊も猪も狼もハイエナも一様に、蜘蛛のモンスターを目掛けて駆け寄ってくる。

 やべえ、ここにフェムの父さんや弟が現れたら……思考する前に、獣人たちはもみくちゃになりながら迫ってくる。

「イツキ!」

 カイルが俺を抱き上げて、壁際へと避難した。獣人たちは俺たちに目もくれずに、我先にとモンスターの周りに群がる。

「俺の手柄にするんだ!」
「いーや俺だ!」

 口々に言いあいながら武器を振り回すが、蜘蛛の足は何度斬られても空を切ってしまう。

「あれ、こいつ当たらねえぞ」
「もっと力強く振るんだ、胴体を狙え!」

 獣人たちは困惑しながらも、懸命に斧を振り下ろし、両手剣で蜘蛛を薙ぎ倒そうとする。だが、やはり当たらない。

 蜘蛛が黒い糸を吐き出し、数人の冒険者たちを捕らえてしまった。

「こいつ、くそっ!」
「こんなはずじゃ……!」

 ああもう、なにやってんだよ。手助けしてやろうと足を踏み出した時に、異変に気づいた。

 蜘蛛の後ろから巨大な魔力を感じとり、ざわっと全身に悪寒が走る。

 チラッと赤い髪の二人組が見えた。きっとフェナンの親父さんと弟だろう。闇属性の大魔法を使おうとしている。

「おい、カイル……!」
「まずいな」

 言葉と同時にカイルは駆け出した。獣人たちの上を飛び越そうとするが、突如現れた透明な壁に弾かれてしまう。

「く、この程度!」

 結界を叩き斬ろうとするカイルだが、ヒヒイロカネの剣はバチバチと見えない壁に弾かれた。

 待て待て、すげえ音が鳴ってるぞ。剣が折れかねない。

「無茶するなカイル、俺がなんとかする!」

 声をかけながらも目まぐるしく頭を動かす。集まっている魔力の大きさ、発動規模から考えうる被害規模を読み解くと……

 理解した瞬間、俺は大量の魔力を練って獣人たちを包みこんだ。

「アンタらは、お呼びじゃねえんだよ……!」

 蜘蛛の奥でこそこそ魔力を練っているヤツは、獣人たちを全員いっぺんに倒すつもりだ!

 させてたまるかと、包み込んだ魔力ごと、獣人たちを地上へと転送する。

「ぐぅ……!」

 くっそ、魔力が抜ける……っ! まだ残っているが、残量はほとんどない。

「イツキ!」

 うめきながら胸元を押さえる俺の前方には、おびただしい数の黒いもや玉が出現していた。
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