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第三章 魔人救済編

261 外交交渉

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 赤いビロードが張られた王座に腰かける。右隣にはカイル、左隣にはリドアート。完璧な布陣だな。後は客人を迎えるだけだ。

「はあ……今更だけど、トントン拍子にいきすぎて、若干怖い気がするな」
「なーにを言っておるのだ、今から大事な交渉だというのに。胸を張って堂々としていればよい!」
「イツキ、大丈夫だ。俺がついている」

 カイルやリッドがいてくれるのは、本当に頼もしい。だが俺が本当に懸念してるのは、そっちじゃなくて。

 交渉に当たって不都合な事実を、全ていい話風にして捻じ曲げているので、良心の呵責が今になって湧いてきたというか……

 滅ぼされた村のことや、ダンジョンの犠牲者について一瞬頭に過ぎったが、俺は意識して思考を切り替えた。

 この条約が締結できれば、魔人にとっても獣人にとっても幸せな世界になるはずなんだ。カイルにとってもな。そのためなら俺は……やってやるぜ。

 玉座の間の扉が開いた。キエルの訪れと共に現れた獅子獣人は、赤毛を颯爽と揺らして堂々と挨拶をした。

「お初にお目にかかる、魔人の王よ。我が名はレオンハルト・ド・ダーシュカ。此度は父王の代理として、全権を持って会談に臨んでいる。よろしく頼む」

 おお、さすが王子、勇壮でかっこいいじゃねえか。獅子は友好的な微笑みを浮かべてはいるものの、瞳は油断なく光っている。

 王子に付き従うようにして現れたクインシーとヴァレリオが、魔王として王座に腰かける俺の姿を目にして、息を飲み絶句している。

 ははは、驚いただろ? アンタらを驚かせたくはなかったんだが、不本意にも魔王として交渉するハメになっちまったからな。

 顔を強ばらせる二人を華麗にスルーし、俺は威厳ある魔王様の態度を心掛けながら、レオンハルトに話しかけた。

「魔人國プルテリオンへようこそ。俺はイツキ・カブラギ。魔の国を統べる魔王だ。どうだ、我が国の居心地は」
「なかなかよいぞ、正直期待以上だ。魔人がこのように優美な物に囲まれて、平和に暮らしているとは想像していなかった」
「我が国の調度品を気に入ったようだな。いいだろう、手土産として持ち帰るがいい」

 キエルステンに目配せすると、彼はインベントリからとっておきの品々を取りだした。王子はついてきていた騎士の一人に受け取らせる。

「お気遣い痛み入る」
「遠路遥々いらした大切な客人だからな。さて、ここではなんだ。場所を変えよう」

 パフォーマンスを兼ねてパチンと指を鳴らすと、俺達は円卓の会議室に移動する。

 カイルとリドアート、キエルステンは平然とした顔をしているが、レオンハルト、クインシー、ヴァレリオは辺りを見回して目を見開く。

「瞬間移動したのか!?」
「魔法か」
「魔法とはこのようなことができるのか……末恐ろしいな」

 続けて、俺は各自の席に飲み物を用意する。ワイングラスの置かれたテーブルに歩み寄り、悠々と席に腰掛けて足を組んだ。

「どうぞ座ってくれ。もちろんアンタらに危害を加えるつもりはない。腹を割って話そうじゃないか」

 クインシーとヴァレリオの、何か言いたげな視線が痛いほどに突き刺さるが、にっこり笑って流しておく。

 後で訳を話してやるから、そんなに見るなって。俺の体に穴が空いちまうだろ?

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