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第三章 魔人救済編

257 仕込みは上々

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 ヴァレリオは俺の一連の主張を聞いて、思案気な声を発した。

「イツキ殿が言っていることが本当であれば、王に進言すべき内容だ。俺から王にこのことを話してもいいだろうか」
「ぜひお願いしたい。魔王は本気でアンタらと仲良くしたいと思ってるんだ」
「……心得た、その旨伝えよう」
「恩に着るぜ」

 クインシー達との通話を終えると、俺はソファーの背もたれに体を預けた。

「……っああー! 緊張した!!」
「お前はよくやった、イツキ」
「そうだな、なんとか話を持ちかけるところまではできたな……」

 ここで話が拗れたら、色々と遠回りになるだろうと予想していたから、すんなり話を理解してもらえて助かったぜ。

「後は向こうの出方待ちか……上手くいくといいんだが」
「イツキならやってやれるだろう。俺も手伝う」
「ありがとう、カイル」
「いや……本来なら俺が交渉するべきことだった」

 自嘲気味に笑うカイルに視線をあわせて、隣に腰かけている彼の両頬に手を添えた。

「いいんだよ、アンタは俺の不得意を補ってくれてる。俺だってアンタが苦手なことを手助けしているだけだ」
「……ああ、そうだな」

 カイルは宝物でも扱うかのように、フワリと俺を抱きしめた。

「これが終われば、イツキと二人きりの生活に戻りたい……王宮は息が詰まる」
「カイル……」

 カイルが素直に内心を吐露してくれるなんて……よっぽど弱っているのだろう。俺はポンポンと彼の背中を叩いた。

 小さい頃のカイルは、閉じこめられるようにして育ったって言ってたから、ここで暮らすのは居心地よくないんだろうな。
 改めて決意を込めて話しかける。

「国交を上手く結んで国同士の関係が安定してきたら、俺達の家に帰ろう」
「……そうだな、約束だ」
「ああ、約束する」
「二人きりの時間を過ごしたいんだ。しばらく家から出したくない」
「ははっ、アンタ本当に俺のこと大好きだな?」
「そうだ。まだ伝わっていなかったのか? だったらもっと愛してやらないとな……」
「待て待て、何する気だ」

 じゃれあうような掛けあいはほどほどで切り上げて、カイルに仕事を申しつけた。まだ朝だっての。さあ、今日も忙しくなるぞ。





 やるべきことが山のようにあって、時間は矢のように過ぎ去っていく。

 夏が終わりはじめる頃、キエルステンが報告のために執務室へ訪れた。

 厳しい顔立ちを柔和に緩ませ、彼は持参した箱の中身を披露する。

「陛下、頼まれていた作品が出来上がったと、職人から託されました」
「お、早速見せてくれ」

 箱の中には繊細なレース編みが入っている。広げるとテーブルクロス大になる大作だ。

「こちらも仕上がっております」

 続いて開けた箱には、美しい白磁の陶器が納められていた。惚れ惚れするほど美しく、滑らかな曲線は優美だ。

「うん、いいんじゃないか。これなら目の肥えたヤツらも喜びそうだ。他に頼んでおいた分はどうなっている?」
「着実に量産しておりますよ、輸出できるほどに。詳しくはこちらの報告書をご覧ください」
「助かるぜ」

 彼には獣人の王に献上する物及び、輸出予定品を頼んでおいた。

 魔人達は獣人より手先が器用で繊細な仕事が得意らしく、感嘆のため息を吐きたくなるような瓶やら布やらが、城のそこら中を彩っている。

 これは交易品として有用だろうと、量産できるように体制を整えておいた。

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