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第三章 魔人救済編
255 魔王様の交渉術
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魔通話をタップして、クインシーと繋がるのを待つ。アイツも忙しいやつだから、すんなり出てくれるといいんだが。
魔石が数回明滅した後、クインシーとの通話が繋がった。
「あれ? イツキだよね、そっちからかけてくるなんて珍しい。何かあった?」
「よ、クインシー。変わりはないか? 今はどこにいるんだ」
「俺は王都の自室にいるよ。そっちは?」
「聞いて驚け、魔人國プルテリオンの首都シャルワールにいるぞ」
「へっ?」
いつも人を食ったような反応をよこす彼にしては珍しく、素っ頓狂な声が魔道話越しに響いてくる。
「しかも魔王城にいる」
「待って待って、それは一体全体、なんでそんな状況になってるわけ? もしかしてカイル君繋がりでなんかあった?」
「話せば長くなるが、実は最近カイルが魔人國に呼び出されてな」
「そうなんだ?」
いまいちピンと来ていなさそうなクインシーに、もう少し詳しく状況説明をする。
もっとも今からコイツに説明するのは、カイルと練りに練った交渉向けの話だ。
「カイルはやんごとなき血筋を引いているらしくてな。国の危機に駆けつける必要があった。俺もそれに着いていく形で協力してるんだ」
「やんごとなき血筋って、それ……」
「王子なんだってさ」
しばし、沈黙が場を支配する。痺れをきらしたカイルが声をかけた。
「おい、豹野郎。聞こえているか」
「ええっと、うん。聞こえてはいるんだけどね? ちょっと状況を整理していたというか。あーっと、君は王子様なのか?」
「そうだ」
「へえ……そうなんだ……」
様々な感情をのみこんだような、平坦な声が魔道話越しに響く。ため息を吐く音がして、呆れたようなクインシーの声が届いた。
「それで悪魔の國の王子様とその協力者が、俺に一体なんの用事があるっていうんだ?」
「そう刺々しい言い方をするなよ、俺はいい話を持ってきたんだぜ?」
「参考までに聞いてあげてもいいけど」
クインシーはイマイチ乗り気ではないようだ。まあ、悪魔といえば獣人の国じゃ、制御の難しい危険な奴隷か、凶悪犯罪者の代名詞のようなものだからな。
元仲間がそんな国の王子だったなんて、悪の親玉の息子を身近に置いていたような、微妙な気分になっているのだろう。
「俺も魔人の國なんて、一歩足を踏み入れれば獣人なんて頭から食われちまうような、野蛮な国だと思っていたんだ」
「うん、俺もそういうイメージだよ」
「ところが、意外とそうでもなくてな。ほとんどの魔人は獣人がいても、ジロジロ見て珍しがる程度で積極的に襲ってはこないんだ」
「え、そうなの?」
「ああ。この前街で見かけた獣人の奴隷なんて、主人からご褒美にってケーキを買ってもらっていたしな。なあカイル」
「そうだな。一般的な悪魔奴隷より、よほどいい待遇を受けていそうだった」
事実この前の城下街デートの時に、そういう場面を見かけたんだよな。クインシーは懐疑的な声音で相槌を打つ。
「ふーん……実際見ないことには信じられないけど、イツキが魔王の城にいても平気ってことは、獣人だからってすぐ襲われるわけじゃないんだね?」
「そうなんだよ。結構快適に過ごしてるぜ。それに魔王は今、獣人王国との和解に向けて動いているみたいなんだ」
みたいじゃなくて、まさに動いている最中だけどな。さも魔王が他にいるかのような口振りで話をしているが、これもわざとだ。
「和解だって?」
意外だと言いたげな声音が耳に飛びこんでくる。ここからが肝要だ。
魔石が数回明滅した後、クインシーとの通話が繋がった。
「あれ? イツキだよね、そっちからかけてくるなんて珍しい。何かあった?」
「よ、クインシー。変わりはないか? 今はどこにいるんだ」
「俺は王都の自室にいるよ。そっちは?」
「聞いて驚け、魔人國プルテリオンの首都シャルワールにいるぞ」
「へっ?」
いつも人を食ったような反応をよこす彼にしては珍しく、素っ頓狂な声が魔道話越しに響いてくる。
「しかも魔王城にいる」
「待って待って、それは一体全体、なんでそんな状況になってるわけ? もしかしてカイル君繋がりでなんかあった?」
「話せば長くなるが、実は最近カイルが魔人國に呼び出されてな」
「そうなんだ?」
いまいちピンと来ていなさそうなクインシーに、もう少し詳しく状況説明をする。
もっとも今からコイツに説明するのは、カイルと練りに練った交渉向けの話だ。
「カイルはやんごとなき血筋を引いているらしくてな。国の危機に駆けつける必要があった。俺もそれに着いていく形で協力してるんだ」
「やんごとなき血筋って、それ……」
「王子なんだってさ」
しばし、沈黙が場を支配する。痺れをきらしたカイルが声をかけた。
「おい、豹野郎。聞こえているか」
「ええっと、うん。聞こえてはいるんだけどね? ちょっと状況を整理していたというか。あーっと、君は王子様なのか?」
「そうだ」
「へえ……そうなんだ……」
様々な感情をのみこんだような、平坦な声が魔道話越しに響く。ため息を吐く音がして、呆れたようなクインシーの声が届いた。
「それで悪魔の國の王子様とその協力者が、俺に一体なんの用事があるっていうんだ?」
「そう刺々しい言い方をするなよ、俺はいい話を持ってきたんだぜ?」
「参考までに聞いてあげてもいいけど」
クインシーはイマイチ乗り気ではないようだ。まあ、悪魔といえば獣人の国じゃ、制御の難しい危険な奴隷か、凶悪犯罪者の代名詞のようなものだからな。
元仲間がそんな国の王子だったなんて、悪の親玉の息子を身近に置いていたような、微妙な気分になっているのだろう。
「俺も魔人の國なんて、一歩足を踏み入れれば獣人なんて頭から食われちまうような、野蛮な国だと思っていたんだ」
「うん、俺もそういうイメージだよ」
「ところが、意外とそうでもなくてな。ほとんどの魔人は獣人がいても、ジロジロ見て珍しがる程度で積極的に襲ってはこないんだ」
「え、そうなの?」
「ああ。この前街で見かけた獣人の奴隷なんて、主人からご褒美にってケーキを買ってもらっていたしな。なあカイル」
「そうだな。一般的な悪魔奴隷より、よほどいい待遇を受けていそうだった」
事実この前の城下街デートの時に、そういう場面を見かけたんだよな。クインシーは懐疑的な声音で相槌を打つ。
「ふーん……実際見ないことには信じられないけど、イツキが魔王の城にいても平気ってことは、獣人だからってすぐ襲われるわけじゃないんだね?」
「そうなんだよ。結構快適に過ごしてるぜ。それに魔王は今、獣人王国との和解に向けて動いているみたいなんだ」
みたいじゃなくて、まさに動いている最中だけどな。さも魔王が他にいるかのような口振りで話をしているが、これもわざとだ。
「和解だって?」
意外だと言いたげな声音が耳に飛びこんでくる。ここからが肝要だ。
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