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第三章 魔人救済編

240 解決策

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 カイルの薄い唇が言葉を紡ぐのを、呆然としながら見守る。

「イツキのことはとても大切だ、愛している。だが……」

 最後まで聞きたくなかった俺は、カイルの言葉を強引に遮った。

「俺は行くぜ」
「イツキ」
「お前と共にプルテリオンに行く」

 カイルは辛そうに眉根を寄せて、首を横に振る。

「あの國は獣人にとって危険なんだ。問題ない、俺も帰還陣を使用して、数日に一度は家に戻ってくるようにする。だからここにいてくれ」
「嫌だね。もしも王族に悪意を持つ誰かに罠に嵌められて、アンタの魔力が足りなくなったら、どうやって帰ってくるつもりだ?」

 簡単そうに言うが、俺が帰還陣を使う時って、全魔力の十分の一が一度に放出されてるんだぞ?

 もともと俺の魔力の、五分の一しか持つことのできないカイルにとっては、全魔力の半分を使わないと帰還陣を起動させられない。

 何か不測の事態が起こって帰ってこられない、なんてことは十分考えられるじゃねえか。その場合は指を咥えて待ってろって? そんなのはごめんだ。

「危険だとしたらなおのこと、アンタ一人では行かせられない」
「イツキ……聞き入れてくれないか。お前を守ると誓った、そのために必要なことなんだ」
「嫌だって言ってるだろ。一人で抱えこむんじゃねえよ。俺はアンタの力になりたいって、ずっと言ってるだろ」
「契約を一時的に解いてくれ。大丈夫だ、俺は必ずお前の元に帰ってくる」
「カイル……!」
「頼む、イツキ……愛するお前にとって、平和な世界にしたいんだ。獣人が虐げられ、不当に傷つけられることのないように」
「だからそれを、一緒に考えてるところだろうが」

 話は平行線を辿り、俺達の意見は噛みあわなかった。くっそ、こんな風にカイルと喧嘩したいわけじゃねえのに……

 カイルと俺の目指すところは一緒だ。俺はカイルの憂いを取り除いてやりたいんだから。

 愛した人が王子という責任ある立場だったんだ。その面倒事ごとを含めて共に向きあえないなら、一緒にいる意味がないじゃねえか。

 せめて魔人の食糧問題さえ解決できれば、話は違うんだが……

「……ん? 待てよ」

 カイルの膝から飛び降りて、インベントリを開く。王都に行く旅の途中で二人きりの酒盛りをした時の、日本酒を取りだした。

「うわ、変質してる」

 日差しに透かすと、生酒が煌めいて見えた。どうなってんだこれ……

 酒酵母って生き物だろうから、こいつに上手く魔力を馴染ませればいいんじゃねえか、と思いついて出してみたんだが。既に魔力に満ちている。

 なんでだ……そうか、酒を引っ被ったものを戻したから、俺の魔力が作用して、魔力を産生する酵母に進化したのか? 

 もしかしてこれがあれば、獣人の魔力を奪わなくたって、どうにかなるんじゃねえの……?

 俺は希望の光のように輝く酒瓶を手にして、決意を固めた。

「カイル」
「……なんだ」
「お前さ、前に自分は魔王の器じゃないって言ってたよな」
「……言ったな」

 ミルヒと対峙した時にそう告げていたよな。カイルの魔力量はその辺の奴隷悪魔よりは多いが、リドアートほどじゃなかった。

 きっと魔力量や器が王位を任せるには小さく、王子として認められないとか、上級魔人達に難癖をつけられながら過ごしてきたのだろう。

 だったら、ここにうってつけのヤツがいるじゃねえか。俺はアンタのためだったら、なんでもしてやりてえんだ、カイル。

 最初はただ好みの顔の、けして裏切らない味方で、相棒にしたいヤツって扱いだった。

 頼り甲斐のある姿や、頬を染めて照れる顔、そして魔力のやりとりで胸が騒ぐのを自覚して、無理やりその気持ちに蓋をしていた。

 そこにあの、突然の告白があった。天地がひっくり返るほどの衝撃の後、俺は自分の気持ちをやっと認められたんだ。

 情熱的に愛してくれて、俺のやりたいことを一緒にやってくれて、そのままの俺を受け入れてくれるカイルに、今じゃ本気で惚れている。

 もはやアンタなしの人生なんて、考えられねえんだよ。だから俺は選ぶ。アンタと生きる道をな。

 もったいつけながら窓枠に手を置いて、企むように彼に視線を注いだ。

「だったらいい方法がある。俺を信じてついてきてくれ」

 兎耳を魔力で隠蔽し、大きなとぐろを巻く羊の角を擬態した。黒々とした角と、尖った魔人の耳と尻尾を見て、カイルが目を見開く。

 驚くカイルをひとしきり堪能してから、口の端を釣り上げて言ってやった。

「俺が魔王になってやる」

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