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第二章 陰謀恋愛編
198 ここで引いたら漢が廃るぜ
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まだ寒い日が続いている。いつまでもカイルと二人で宿にこもっていたくなるが、色々とするべきことがある。
それでも春が近づくにつれ、日が昇るのが早くなってきたようで、朝日に導かれて目醒めた時間はずいぶんと早かった。
「んー……朝かあ」
「イツキ、おはよう」
「おはよ、カイル……」
彼は既に朝食のトレーを手に持っていた。俺のために調達してきてくれたらしい。
「昨日は運動したから、たくさん食べておけ」
「運動……そうだな、うん」
足の内側の筋がギシギシいっている気がする。動くのには支障がなさそうだが……ちょっと柔軟体操とか、した方がいいかもしれねえな。
その方が、カイルと色んなことができるし……って、朝っぱらから何を考えてるんだ俺は。
美味しそうな朝食を食べさせあって、宿を離れた。ギルドに向かうと、ギルド脇の通りから大きな手が俺達を手招くのが見えた。
「ん? あれはエイダンか?」
「だろうな」
俺達が路地に足を運ぶと、ホッと頬を緩めたエイダンが話をしはじめた。
「よかった、君達に会えて。ちょっと困ったことになってるんだ」
「どうしたんだ?」
「実はね……」
エイダンはキョロキョロと辺りに気を配りながら、小さな声で説明をした。
「お城の兵士が、俺と母さんのことを調べているみたいなんだ。まだ家の場所は見破られてないみたいだけど、時間の問題かもしれなくて」
「そうか……俺達と一緒にダンジョンから出てきたところを見られたからな、ダンジョン崩落に関係あると思われてんのか?」
「わからないけど、母さんが魔人だって見破られたらまずい気がするんだ。ダンジョンから出た瞬間は、耳の擬態もできてなかったし、魔人だってバレてて疑われているのかも」
そういやそうだったな。ダンジョン崩落は魔人のせいってことで、しょっぴかれたらたまったもんじゃねえ。
実のところ、ダンジョン崩落は魔人のせいで間違いないんだが……このまま見過ごしてクレミア母さんが処刑でもされたら、寝覚めが悪いしな。
「いっそ俺らと一緒に来ないか? エイダン。ちょうどマーシャルに帰ろうと思ってたところなんだ」
こいつらを助けることで、俺達が追われる身になる可能性もあるかもしれねえが。
それでも見て見ぬフリをするよりは、よっぽどマシだ。ここで怖気づいたら漢が廃るぜ。
「おい、イツキ」
「いいだろカイル、アンタだって魔人の同胞を見捨てたくないはずだ」
カイルは不機嫌そうにも心配そうにも見える険しい顔で、しばらく俺の顔に視線を当てていた。
俺が引く様子がないのを見てとると、はあとわざとらしくため息を吐く。
「お前は甘い。だが……度胸がある」
「そうだろう。で? 協力してくれないのか?」
「仕方がない、イツキがそうしたいと言うなら力を貸そう」
エイダンは目をまん丸にして驚いていたが、少し考えてから、うんうんと納得がいったように頷いた。
「そうだね……それがいいかもしれない。君達と一緒に王都を出るのがよさそうだ」
「即決して大丈夫か? なんか同居人がいるとか言ってただろ」
「セルジュのこと? 僕が説得したら、一緒に来てもらえると思う」
準備に二日かかると言うので、二日後にこの場所で待ちあわせするという話で落ちついた。
移動方法やらなにやらを軽く打ちあわせして、エイダンに手を振った。
「じゃあまたな。合流するまでに尻尾を捕まれるなよ」
「僕の尻尾は短いから大丈夫だよ」
妙に説得力のある言葉を残して、熊獣人は巨体に見合わぬ軽やかな動きで去っていった。俺達も出立のための準備を進めよう。
それでも春が近づくにつれ、日が昇るのが早くなってきたようで、朝日に導かれて目醒めた時間はずいぶんと早かった。
「んー……朝かあ」
「イツキ、おはよう」
「おはよ、カイル……」
彼は既に朝食のトレーを手に持っていた。俺のために調達してきてくれたらしい。
「昨日は運動したから、たくさん食べておけ」
「運動……そうだな、うん」
足の内側の筋がギシギシいっている気がする。動くのには支障がなさそうだが……ちょっと柔軟体操とか、した方がいいかもしれねえな。
その方が、カイルと色んなことができるし……って、朝っぱらから何を考えてるんだ俺は。
美味しそうな朝食を食べさせあって、宿を離れた。ギルドに向かうと、ギルド脇の通りから大きな手が俺達を手招くのが見えた。
「ん? あれはエイダンか?」
「だろうな」
俺達が路地に足を運ぶと、ホッと頬を緩めたエイダンが話をしはじめた。
「よかった、君達に会えて。ちょっと困ったことになってるんだ」
「どうしたんだ?」
「実はね……」
エイダンはキョロキョロと辺りに気を配りながら、小さな声で説明をした。
「お城の兵士が、俺と母さんのことを調べているみたいなんだ。まだ家の場所は見破られてないみたいだけど、時間の問題かもしれなくて」
「そうか……俺達と一緒にダンジョンから出てきたところを見られたからな、ダンジョン崩落に関係あると思われてんのか?」
「わからないけど、母さんが魔人だって見破られたらまずい気がするんだ。ダンジョンから出た瞬間は、耳の擬態もできてなかったし、魔人だってバレてて疑われているのかも」
そういやそうだったな。ダンジョン崩落は魔人のせいってことで、しょっぴかれたらたまったもんじゃねえ。
実のところ、ダンジョン崩落は魔人のせいで間違いないんだが……このまま見過ごしてクレミア母さんが処刑でもされたら、寝覚めが悪いしな。
「いっそ俺らと一緒に来ないか? エイダン。ちょうどマーシャルに帰ろうと思ってたところなんだ」
こいつらを助けることで、俺達が追われる身になる可能性もあるかもしれねえが。
それでも見て見ぬフリをするよりは、よっぽどマシだ。ここで怖気づいたら漢が廃るぜ。
「おい、イツキ」
「いいだろカイル、アンタだって魔人の同胞を見捨てたくないはずだ」
カイルは不機嫌そうにも心配そうにも見える険しい顔で、しばらく俺の顔に視線を当てていた。
俺が引く様子がないのを見てとると、はあとわざとらしくため息を吐く。
「お前は甘い。だが……度胸がある」
「そうだろう。で? 協力してくれないのか?」
「仕方がない、イツキがそうしたいと言うなら力を貸そう」
エイダンは目をまん丸にして驚いていたが、少し考えてから、うんうんと納得がいったように頷いた。
「そうだね……それがいいかもしれない。君達と一緒に王都を出るのがよさそうだ」
「即決して大丈夫か? なんか同居人がいるとか言ってただろ」
「セルジュのこと? 僕が説得したら、一緒に来てもらえると思う」
準備に二日かかると言うので、二日後にこの場所で待ちあわせするという話で落ちついた。
移動方法やらなにやらを軽く打ちあわせして、エイダンに手を振った。
「じゃあまたな。合流するまでに尻尾を捕まれるなよ」
「僕の尻尾は短いから大丈夫だよ」
妙に説得力のある言葉を残して、熊獣人は巨体に見合わぬ軽やかな動きで去っていった。俺達も出立のための準備を進めよう。
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