上 下
56 / 178
第二章 陰謀恋愛編

198 ここで引いたら漢が廃るぜ

しおりを挟む
 まだ寒い日が続いている。いつまでもカイルと二人で宿にこもっていたくなるが、色々とするべきことがある。

 それでも春が近づくにつれ、日が昇るのが早くなってきたようで、朝日に導かれて目醒めた時間はずいぶんと早かった。

「んー……朝かあ」
「イツキ、おはよう」
「おはよ、カイル……」

 彼は既に朝食のトレーを手に持っていた。俺のために調達してきてくれたらしい。

「昨日は運動したから、たくさん食べておけ」
「運動……そうだな、うん」

 足の内側の筋がギシギシいっている気がする。動くのには支障がなさそうだが……ちょっと柔軟体操とか、した方がいいかもしれねえな。

 その方が、カイルと色んなことができるし……って、朝っぱらから何を考えてるんだ俺は。

 美味しそうな朝食を食べさせあって、宿を離れた。ギルドに向かうと、ギルド脇の通りから大きな手が俺達を手招くのが見えた。

「ん? あれはエイダンか?」
「だろうな」

 俺達が路地に足を運ぶと、ホッと頬を緩めたエイダンが話をしはじめた。

「よかった、君達に会えて。ちょっと困ったことになってるんだ」
「どうしたんだ?」
「実はね……」

 エイダンはキョロキョロと辺りに気を配りながら、小さな声で説明をした。

「お城の兵士が、俺と母さんのことを調べているみたいなんだ。まだ家の場所は見破られてないみたいだけど、時間の問題かもしれなくて」
「そうか……俺達と一緒にダンジョンから出てきたところを見られたからな、ダンジョン崩落に関係あると思われてんのか?」
「わからないけど、母さんが魔人だって見破られたらまずい気がするんだ。ダンジョンから出た瞬間は、耳の擬態もできてなかったし、魔人だってバレてて疑われているのかも」

 そういやそうだったな。ダンジョン崩落は魔人のせいってことで、しょっぴかれたらたまったもんじゃねえ。

 実のところ、ダンジョン崩落は魔人のせいで間違いないんだが……このまま見過ごしてクレミア母さんが処刑でもされたら、寝覚めが悪いしな。

「いっそ俺らと一緒に来ないか? エイダン。ちょうどマーシャルに帰ろうと思ってたところなんだ」

 こいつらを助けることで、俺達が追われる身になる可能性もあるかもしれねえが。

 それでも見て見ぬフリをするよりは、よっぽどマシだ。ここで怖気づいたら漢が廃るぜ。

「おい、イツキ」
「いいだろカイル、アンタだって魔人の同胞を見捨てたくないはずだ」

 カイルは不機嫌そうにも心配そうにも見える険しい顔で、しばらく俺の顔に視線を当てていた。

 俺が引く様子がないのを見てとると、はあとわざとらしくため息を吐く。

「お前は甘い。だが……度胸がある」
「そうだろう。で? 協力してくれないのか?」
「仕方がない、イツキがそうしたいと言うなら力を貸そう」
 
 エイダンは目をまん丸にして驚いていたが、少し考えてから、うんうんと納得がいったように頷いた。

「そうだね……それがいいかもしれない。君達と一緒に王都を出るのがよさそうだ」
「即決して大丈夫か? なんか同居人がいるとか言ってただろ」
「セルジュのこと? 僕が説得したら、一緒に来てもらえると思う」

 準備に二日かかると言うので、二日後にこの場所で待ちあわせするという話で落ちついた。

 移動方法やらなにやらを軽く打ちあわせして、エイダンに手を振った。

「じゃあまたな。合流するまでに尻尾を捕まれるなよ」
「僕の尻尾は短いから大丈夫だよ」

 妙に説得力のある言葉を残して、熊獣人は巨体に見合わぬ軽やかな動きで去っていった。俺達も出立のための準備を進めよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。

柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。 頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。 誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。 さくっと読める短編です。

モフモフ異世界のモブ当主になったら側近騎士からの愛がすごい

柿家猫緒
BL
目を覚ますとRPGゲーム『トップオブビースト』の世界に、公爵家の次期当主“リュカ”として転生していた浅草琉夏。獣人だけの世界に困惑するリュカだったが、「ゲームのメインは父。顔も映らない自分に影響はない」と安穏と暮らしていた。しかし父が急逝し、リュカが当主になってしまう! そしてふたつの直属騎士団を設立し、なぜか魔王討伐に奮闘することに……。それぞれの騎士団を率いるのは、厳格な性格で圧倒的な美貌を持つオオカミ・ヴァンと、規格外な強さを誇る爆イケなハイエナ・ピート。当主の仕事に追われるリュカだったが、とある事件をきっかけに、ヴァンとピートから思いを告げられて――!? 圧倒的な独占欲とリュカへの愛は加速中! 正反対の最強獣人騎士団長たちが、モフモフ当主をめぐって愛の火花を散らしまくる! 2023年9月 続編はじめました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。