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第二章 陰謀恋愛編
192 本戦終了
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兵士達が何人か近づき、巨石を退けようとしたり、魔法を打つものもいたが、びくともしないようだった。
……ダンジョンの入り口を物理的に閉じると、こうなるんだな。先にどんな風にやるか聞いとけばよかったぜ、ちょっとビビったじゃねえか。
クインシーはもはや驚く気力もないようだった。彼は肩を竦めて提案する。
「……任せて、帰っちゃおう。もうダンジョンはこりごりだよ」
「同感だ」
テオとレジオットとも無事を喜びあって、その日はクインシーの邸にみんなで戻った。
*
次の日、目が覚めた頃には太陽が空高く昇っていた。それでもまだ眠い。昨日は体を酷使したし、頭もたくさん使ったからだろうか。
温かなカイルの体温に包まれていると、いつまでもまどろんでいたくなる。眠っている顔を、息をひそめて眺めた。
野生味のある顔立ちは、眠っていると鋭さが削ぎ落とされて、ただただ美しさばかりが際立つ。
それにしても、昨日はとんでもない話を聞いちまったな……魔人の秘密か。確かに、獣人の世に出したら一大スキャンダルだ。
そんな大層な秘密を話したカイルは、俺のことを契約で縛らなかった。信頼されてるってことだよな……むずむずと心の奥が嬉しさで満ちる。
カイルの信頼に、応えてやりたいと思う。彼は獣人を犠牲にして魔人が生きていることに対して、苦しんでいた。
どうにかして力になってやりてえな……頬に手を添えると、紫色を帯びた柘榴の瞳が、ゆっくりと目蓋を持ち上げた。
「お、起きたか。おはようカイル」
「イツキ……」
カイルはギュッと俺の体を腕に抱きしめた。んん? どうしたんだ? 朝から愛情表現が激しいじゃねえか……嬉しいけど。
早まる鼓動を自覚しながら、ゆっくりとカイルの背に腕を回した。
「どうしたんだ?」
「……あの話を聞いても、側にいてくれるんだな」
「ああ、それか。言っただろ? 俺はアンタを見捨てないって。ずっと一緒にいると誓ったからな」
「……そうだったな」
カイルは俺のふわふわな耳に頬擦りをしながら、囁くように呟いた。
「イツキ、愛している」
「あ……俺も、愛してるぜ」
前触れも何もなく、カイルが愛の言葉を耳に吹きこんだものだから、一瞬虚を突かれた。意味を理解して、じわじわと頬に熱が昇る。
「好きだ」
「うん」
カイルは耳の縁にキスを落とした。ピクンと耳が反応する。それ、やばいから。かなりイイから、待ってくれまだ真昼間だろう……!
「ふっ……や、やめろって」
「お前のことを可愛がりたい」
「後にしろよ、俺は腹が減った!」
カイルはピタリと静止した。名残惜しそうに耳の背を撫でて、イタズラな指先が離れていく。
「じゃあ、後でな」
「う……い、いいぜ、やることやってからだったらな」
本戦の結果がどうなったのか、あれからエイダン達は無事家に帰れたのかとか、気になることは山ほどある。
俺とカイルは身支度を終えると、部屋を出て食堂に向かった。
……ダンジョンの入り口を物理的に閉じると、こうなるんだな。先にどんな風にやるか聞いとけばよかったぜ、ちょっとビビったじゃねえか。
クインシーはもはや驚く気力もないようだった。彼は肩を竦めて提案する。
「……任せて、帰っちゃおう。もうダンジョンはこりごりだよ」
「同感だ」
テオとレジオットとも無事を喜びあって、その日はクインシーの邸にみんなで戻った。
*
次の日、目が覚めた頃には太陽が空高く昇っていた。それでもまだ眠い。昨日は体を酷使したし、頭もたくさん使ったからだろうか。
温かなカイルの体温に包まれていると、いつまでもまどろんでいたくなる。眠っている顔を、息をひそめて眺めた。
野生味のある顔立ちは、眠っていると鋭さが削ぎ落とされて、ただただ美しさばかりが際立つ。
それにしても、昨日はとんでもない話を聞いちまったな……魔人の秘密か。確かに、獣人の世に出したら一大スキャンダルだ。
そんな大層な秘密を話したカイルは、俺のことを契約で縛らなかった。信頼されてるってことだよな……むずむずと心の奥が嬉しさで満ちる。
カイルの信頼に、応えてやりたいと思う。彼は獣人を犠牲にして魔人が生きていることに対して、苦しんでいた。
どうにかして力になってやりてえな……頬に手を添えると、紫色を帯びた柘榴の瞳が、ゆっくりと目蓋を持ち上げた。
「お、起きたか。おはようカイル」
「イツキ……」
カイルはギュッと俺の体を腕に抱きしめた。んん? どうしたんだ? 朝から愛情表現が激しいじゃねえか……嬉しいけど。
早まる鼓動を自覚しながら、ゆっくりとカイルの背に腕を回した。
「どうしたんだ?」
「……あの話を聞いても、側にいてくれるんだな」
「ああ、それか。言っただろ? 俺はアンタを見捨てないって。ずっと一緒にいると誓ったからな」
「……そうだったな」
カイルは俺のふわふわな耳に頬擦りをしながら、囁くように呟いた。
「イツキ、愛している」
「あ……俺も、愛してるぜ」
前触れも何もなく、カイルが愛の言葉を耳に吹きこんだものだから、一瞬虚を突かれた。意味を理解して、じわじわと頬に熱が昇る。
「好きだ」
「うん」
カイルは耳の縁にキスを落とした。ピクンと耳が反応する。それ、やばいから。かなりイイから、待ってくれまだ真昼間だろう……!
「ふっ……や、やめろって」
「お前のことを可愛がりたい」
「後にしろよ、俺は腹が減った!」
カイルはピタリと静止した。名残惜しそうに耳の背を撫でて、イタズラな指先が離れていく。
「じゃあ、後でな」
「う……い、いいぜ、やることやってからだったらな」
本戦の結果がどうなったのか、あれからエイダン達は無事家に帰れたのかとか、気になることは山ほどある。
俺とカイルは身支度を終えると、部屋を出て食堂に向かった。
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