上 下
47 / 178
第二章 陰謀恋愛編

189 契約

しおりを挟む
 薄明かりの下で葡萄色に見えるカイルの瞳は、光の加減なのか揺らめいているように感じる。

「……そうだな。お前にも話をしておくべきか」

 カイルはもたれていた壁から離れて、しっかりと地面に両足をつけた。

 迷いながらも、魔人の王子は言葉を選んで話しはじめた。

「どこから話すか……ダンジョンは……魔力を集めるための巨大装置だ」
「装置?」
「施設と言い換えてもいいだろう。侵入した獣人の魔力を吸いとり、死骸を吸収する。そうして集めた魔力を、ダンジョンの主が魔人國プルテリオンに送っている」

 驚きの事実に内心舌を巻きつつ、今までの不可解な出来事がパズルのように、パチリとハマったように感じた。

 ダンジョンに入った時に感じた、魔力を吸いとられる感覚。まるでゲームのような人為的な仕組み。

 それに初めてボスを倒した時、カイルは聞き取れないくらいの声で、虚空に向かって何かを呟いていた。あの時は独り言かと思っていたが……

 クレミア母さんは、ダンジョン内のことを全て把握できると言っていた。

 奴隷でもないのにダンジョン内に侵入した魔人の同胞に、興味を持ったダンジョン主が、カイルにちょっかいをかけたり、したのかもしれない。

「魔人は獣人の魔力を喰らって生きている。この秘密が獣人国に漏れるとまずいんだ、わかるな?」
「そうか……だがダンジョンからは獣人側も、魔石や宝箱で恩恵を受けているんだから、意外とバレても問題ないんじゃないか?」
「問題はある、確実に。だが、これ以上はそいつが契約を結んでからでないと、話す気になれない」

 エイダンを確認すると、彼はしっかりと頷いた。

「いいよ。今すぐ契約する」

 彼の決意は固かった。是が非でも母親をここから連れだしたいようだ。

 俺はサラサラと契約陣を紙に書きこむと、文言を唱える。カイルのフルネームは、前回交わした契約文から引用した。

「カイル・ウィルプス・ルド・プルテリオンは、エイダンに魔人の秘密を共有する。エイダンは魔人の秘密を、他の獣人に話さないことを誓う」

 もし破った場合、彼は土魔法を使えなくなる。カイルがその条件を出した。かなり重い罰則だが、エイダンは文句一つ言わずに受けいれた。

 滞りなく契約を終えると、カイルは俺の方を一瞬チラ見した後、目を伏せたまま口を開いた。

「……ダンジョンを作成するためには、大量の魔力が必要となる。それこそ、村四つ分の命だ。これを、魔人は魔物を操ることで蓄える」

 先日見た、スタンピードに滅ぼされた村のことを思いだす。やはりあれは、魔人が引き起こしたもので間違いなかったんだな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

主人公に「消えろ」と言われたので

えの
BL
10歳になったある日、前世の記憶というものを思い出した。そして俺が悪役令息である事もだ。この世界は前世でいう小説の中。断罪されるなんてゴメンだ。「消えろ」というなら望み通り消えてやる。そして出会った獣人は…。※地雷あります気をつけて!!タグには入れておりません!何でも大丈夫!!バッチコーイ!!の方のみ閲覧お願いします。 他のサイトで掲載していました。

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。