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第二章 陰謀恋愛編

184 激昂

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 ミルヒは怒りと失望がないまぜになった声音で、カイルに訴えかける。カイルは苦い表情をしていた。

「そうは言っていない。だが今のダンジョンの在り方は、俺の信念に反すると気づいたんだ。だからダンジョン主にはならないし、王座にも興味はない」
「貴方様が魔王にならないのなら、他の誰になれるというのですか……!」
「俺は王にはならない。自分一人を生かすだけで手一杯な俺を、王の器だと見込むのはやめてくれ……俺は王族に生まれるべきではなかった」
「そんな、そんな……」

 ミルヒは膝から崩れ落ち、地面を拳で叩いた。なんかえらく失意でいっぱいになってるけど、俺が声をかけてやるのも違うよなあ。

 カイルはカイルで、物憂げな表情をしている。いろいろと聞きたいことはあれど、ここに長居したくはねえな。どうしたもんか……

 カイルはミルヒを慮ることはせず、俺に視線を向けた。

「用は済んだ、もう帰ろう。こいつの顔を見たくない」
「いや、待ってくれよ。クレミア母さんの願い事もまだ叶えてないし、そもそもこのミルヒってやつも、このまま放置するのは危険じゃないか?」
「こいつの名を呼ぶな、イツキ。虫唾が走る」

 カイルが本気で嫌そうにしている。そういえば魔人的には、生涯の友か家族しか名前を呼びすてにしないと、言っていたことを思いだした。

「あ、すまん。言いなおすな、この赤目野郎を……」
「殿下? あれほど願っても私の名を、略称ですら呼んでくださった試しがないのに……こんな兎畜生の名前は呼ぶのですか……!?」

 俺の言葉を、奇妙に震える声が遮った。ミルヒは悲痛な叫び声を部屋中に響かせる。

「馬鹿な、あり得ないっ! カイル殿下、私のいない間に洗脳を受けて……!? そうか、この兎も魔力持ちだからですね? お前がカイル殿下を誑しこんだのでしょう、なんて卑劣な!!」
「え? いや誑しこんだって言われるとまあ……そうなのか? カイル」

 魔力の味に夢中にさせて契約に持ちこみ、更に身も心も結ばれている。

 誑しこんだって言及されると、一見それが真実のような気もしてくるな。

 カイルはフッと笑って、カバーに包まれた俺の垂れ耳をそっと指先で持ち上げて、キスを落とした。

 内心ひえっと身構えたが、カバー越しだから感じた顔を見せずにすんだ。

「俺はお前に夢中だからな、そうとも言えるんじゃないか?」
「そ……いや、違うだろ? 多分赤目が言ってるのはそういうことじゃなくて、洗脳魔法なんて使ってないからな?」

 緊張感のない会話を聞いたエイダンは、止血したものの意識のないクレミアを腕の中に抱えながら、ちょっと驚いた顔をしていた。

 俺達の茶番を見せつけられたミルヒは、髪を逆立てるほどに激昂した。

「黙れ兎小僧! お前が!! カイル殿下を唆したのだろう!」
「俺は小僧って歳でもないんだが」

 ミルヒが針のような氷の刃を、数えきれないくらい出現させる。そして俺のもと目がけて飛ばした。


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