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第二章 陰謀恋愛編

168 邂逅

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三十階層から下は、道を進むだけでも時間がとられちまうな。

「あ、この道はそのままいったら落とし穴があったはずだ。あそこの細い穴を潜った先が、正解の道だな」
「え、本当に? そっか、イツキ達は個人でもダンジョンに潜ってたもんね。助かるよ」

 アドバイスをしている間も、カイルは大猿を相手どり圧倒していた。

 マーシャルで買った方の剣を使っているから時間はかかるが、敵が一匹だったらカイルの剣だけで問題なく処理できる。

 魔力保存のためという名目で、俺とレジオットは敵が一匹の時はカイルに任せていた。

 もっとも俺の魔力量なら本来、そんなことは気にする必要はないのだが。ずっと魔法を使い続けてピンピンしていたら、不自然だから加減している。

「チッ、面倒だ」

 切れ味の悪い剣に痺れを切らしたカイルが、火の玉を敵に打ちこんだ。大猿は瞬く間に燃えつきる。

 ……今晩は魔力供給が必要そうだなあ。気合いを入れて、音の漏れない二重結界を張るとするか……

 昼を過ぎた頃俺達は、人一人がすれ違うのがやっとの細い通路を進んでいた。

「こんなところで他のチームと出会ったら、嫌っスねえ」
「縁起でもないことを言わないでよ、テオ」

 おいおい、フラグを立ててんじゃねえよと思っていたら、早速フラグ回収案件が来たらしい。

 テオが足を止めて、困り顔で振りむく。

「あ、まずい。誰か向こうから来るっス」
「引き返そう」
「ごめんなさいボス、もう見られたっス……」

 通路の向こうから現れたのは、立派な体躯をした黒髪の狼獣人だった。例の鼠獣人がいるパーティだ。

 鼠獣人が弓を構えてクインシーを狙う。俺はカイルに目で合図して先手を仕掛けようとしたが、なぜか狼獣人が攻撃をやめさせた。

「待て、ナダル打つな」
「なぜだ」
「クインシーには危害を加えないと、約束したんだ」

 ん? 知りあいか? クインシーの方を確認すると、彼も狼獣人を攻撃する意思がなさそうだ。しばらく様子を見てみるか。

「まだ生き残っていたようで、なによりだ」
「ヴァレリオ、君もね」
「そこを通してくれないか。地上に戻りたいんだ」

 おお、ヴァレリオとかいう狼獣人は、すでに鍵を三つ集めたみたいだな。見るからに強そうなやつだが、運も頭もいいのか。

 クインシーはしばらく考えこんでいたが、結局道を譲ることにしたらしい。

「ありがとう」

 ヴァレリオは余裕を感じさせる微笑みを見せた。彼はカイルほどじゃないが低くいい声で礼を告げると、クインシーの肩に手を置いて通り過ぎていった。

 クインシーは複雑そうな顔をしている。アイツから鍵を奪えばよかったんじゃないか? 今からでも間にあうぞ。

「あれでよかったのか?」
「……うん。急ごう。鍵はあと五つしかない」

 いいらしい。アンタがいいなら従うが、優勝への道は遠のいた気がしてならない。さよなら、一ハンの追加報酬……

 いや、まだ可能性はあるよな。予選を無事に通過できたら、本戦で優勝すればいいんだ。

 道を抜けた頃にはもう、いい時間になっていた。土埃が酷くて居心地が悪いが、この辺りで野営できる場所を探すしかない。

 少しでも野営場所を整えようと、道端の石を退けていると、なにか光るものがあった。

「ん? これは……鍵じゃないか?」
「あった……! ありましたよボス!」
「あったね。よかったよ……」

 クインシーがあからさまにホッとした表情をしている。よかったな。


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