超好みな奴隷を買ったがこんな過保護とは聞いてない

第二章 陰謀恋愛編

163 対抗戦予選開始

　クインシーが他の貴族と会話するのを横目で見ていると、騎士らしき護衛をひき連れたライオンの獣人が、ダンジョン前に歩み寄ってきた。

　若く自信に満ちた赤毛の獅子獣人は、膝をつこうとしたチーター獣人達をおしとどめる。

「そのままでよい。みな顔を上げてくれ」

　全員の注目を集めた彼は、高らかに告げる。

「勇敢な戦士達よ、よくぞ集まった。新たな年の幕開けとなる、領地対抗戦をはじめよう。お前達の活躍に期待している。私がしかと勝負を見届けよう」

　いや、アンタ誰だよ。紹介されなくてもなんとなくわかるが。ライオン獣人だし偉そうだし、きっと王子とかそういう存在なのだろう。

　案の定、今年の裁定はレオンハルト殿下がなさるのか、とどこかから声が聞こえてきた。

　わざわざ王族が現れるなんて、気合の入った催しなんだな。平民探索者達は、畏怖のこもった瞳で彼を見つめている。

　王族が気軽に、平民も入り乱れるこんな街外れまで現れるとは、思ってもみなかったぜ。

　カイルをうかがうと、彼も意外そうに片眉を釣り上げていた。ダーシュカの王族は、ずいぶん民との距離が近いらしいな。

「各チームの指揮官は、リベルタ侯爵から魔月鏡を受け取ってくれ。これは参加証も兼ねており、破損すると失格になるので注意したまえ」

　虎獣人の一際強そうな貴族のオッサンから、魔月鏡とやらがクインシーの胸元にも飾られる。

　ミカンくらいのサイズで、扁平な楕円形で鏡のような見た目をしている。いかにも割れやすそうだ。

「鍵を手に入れたら鏡にかざすことで、入手できたと登録される。三つの鍵を登録したら、地上に向かってくれ」

　虎のオッサンが全参加者のリーダーに鏡を渡すと、前回の対抗戦で上位だった者から順に、ダンジョン内へ入っていった。

　俺達がダンジョンに入れたのは、十番目だった。ダンジョン内に入ると、クインシーが早速話しはじめた。

「さあ、行くよ。他のチームとの接敵を避けつつ、鍵がありそうだと目星をつけた場所を、近い順から回っていこう」

　クインシーは自分が歩いたところを、全て頭の中に叩きこんであるらしい。先導するテオに的確に指示を出し、行くべき場所へと導いた。