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第5章 第十五次帝国戦役編
第448話 眠れない夜
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「……ルークさん、あれです」
「オッケー、タイミング図って行こう」
ルーク、レイン、アラタの3人組は草むらに身を隠している。
タリアは後方で治癒魔術師として活動、ジーンは第206中隊の指揮官として活躍中だ。
慣れない指揮官をさせるより、一兵卒の方がパフォーマンスを発揮できるとアラタは判断された。
司令部がそんな単純なことを見定めるのに少なくない時間をかけたのは減点対象である。
だがまあ、それも仕方が無いだろう。
彼らからしてみれば、アラタが思ったより人の上に立つ能力が無かったのが誤算だったのだ。
とにかくこちらの方が戦力を遊ばせずに済んでいる、それがすべてである。
「距離50m」
「30mで仕掛ける。カウントはアラタがやれ」
「了解」
アラタたちの視線の先には、帝国兵が隊列を組んで歩いている。
俯瞰して見れば、まあ分かりやすい待ち伏せだ。
夜になっても一向に戦いをやめる気のなさそうな帝国軍に対して、公国軍の冒険者大隊が取った対処は逃げの一手だった。
もうそれしかない。
敵の数は2万をゆうに超える。
一部しか相手をしていないとはいえ、大隊の数は300を下回る。
撤退の為の攪乱作戦が行動の本質で、数を失えば一気に行動不能になりかねない。
だからこうしてアラタたちは下がりつつ時たま反転して攻撃を仕掛けるのだ。
場所はミラ丘陵地帯の西の端、草木生い茂る鬱蒼とした森だ。
たまに開けた土地があって、そこは軍の野営地として重宝される。
しかし冒険者たちはそんな分かりやすい場所を使わない。
むしろ監視しやすい場所を取って効果的な一撃を与えるために思索を張り巡らせる。
アラタ、ルーク、レインの3人組が動き始めた。
「敵襲! 固まって全方位防御!」
気づかれた。
……が、もう遅い。
「やっぱり動きが違うな」
「ですね」
「でも兵士としては二流だ」
レインがこき下ろしたのは、敵集団の中心に守られている一兵卒。
そう、一兵卒が守られているのだ。
おかしな光景だが、分からない話でもない。
要するに、理由があれば納得できるのだ。
そしてアラタたちはその理由に思い当たる節がある。
「ルークさんは右を、俺が左を。レインは突っ込め」
返事はなくとも、動きで命令を理解していることは分かる。
アラタが見えにくい風刃と水弾を行使しつつ左の盤面を抑え、ルークは仕込んだ暗器と鉈のような剣で斬りかかる。
両翼からの圧が強すぎて、10名前後の敵兵たちは真っ二つに割れてしまう。
まるで指を入れたみかんのように、真っ直ぐ縦に割れた。
残されたのは身に付いた僅かな白い部分だけ。
「おっ、俺はっ!」
「【暗視】持ちだろ? 【罠感知】系統もかな?」
レインの槍は、穂先の刀身が長く敵を薙ぐことも出来る。
まず右側から一撃、これは護衛の兵士に防がれた。
槍を引き戻しながら敵の攻撃を躱し、二撃目を振りかぶる。
しかし如何せんモーションが大きい。
相手がアラタなら4回は斬られているであろう大振り。
今度も相手が防げる範囲と速度。
兵士は少々早く側面への防御を固め、反撃の為の攻撃態勢に移行する。
「はい確定」
レインの持つ槍の柄には、いくつかのスイッチが付いている。
どれも難しい機構ではない。
そして今回押したそれは、複数の仕掛けの中でも一番単純な仕掛けだった。
槍が槍でなくなった。
穂先も含めた棒の部分が3つに分裂し、三節棍となって敵を打ち据えたのだ。
昼間だったとしても、側面からの変則軌道に対処するのは非常に難しい。
レインと【暗視】持ちの敵の間に立つ護衛の兵士は何が起こったのか理解できない。
ただ左側に構えた槍に三節混の鎖の部分がぶつかった感触と、自分の後ろから聞こえてきたグシャリとひしゃげた音だけが彼の中に響いている。
自分の槍を支点として、仲間の頭がレインによって破壊されたのだと気づいた時、男の命は終わった。
味方の様子を確認するために後ろを振り返るようでは、兵士として二流であり、レインを前にして生き残ることは出来ない。
「…………っあ」
「アラタ、レイン、報告」
「全員死亡しています」
「こっちも。アラタ、所持品確認した?」
「時間無いでしょ。ねえルークさん?」
「そうだな。金品持ってても何にもならん。飯も毒入ってたら無理だしな。いくぞ」
「はーい」
レインは1人分だけ敵の所持品を漁ると、中にあった銀貨1枚だけを持って2人の後を追った。
彼ら3人がこの戦闘で得たのは、日本円にして5千円程度にしかならない銀貨1枚だけ。
勝って得る物はほとんどなにもなく、負ければ命を含めた全てを失う。
彼らにその意識があるのかは定かではないが、彼らは究極の理不尽の中で日々を生きている。
そして、理不尽にさらされた結果死ぬのが帝国兵だけなんてことは有り得ない。
死は平等に訪れるから。
「マジですか」
アラタはあまりの現実に言葉を失った。
冒険者大隊が集合した時のことである。
まず、数が足りない。
アラタ、ルーク、レインのように、部隊から少し離れて敵と交戦している人間はまだいる。
ここにいる人間だけが冒険者大隊だというわけではない。
しかしそれにしても少ない。
数にして100名をギリギリ上回っているかというライン。
「流石に全部合わせたら200弱にはなるだろ」
「ルークさん、それでも1/3が死んでますよ」
「そういうこともある」
淡々と言葉を返すルークとは対照的に、アラタはかなり焦っていた。
仲間が死んだとか、そういう話ではない。
この規模で、この士気で、これから先戦えるとは思えない、そういう危惧をしている。
ルークは達観しているというより、もはや半分諦めているのだろう。
もうどうにもならないから、自分の仕事だけでも果たそうと、そういうドライさが垣間見える。
アラタ同様言葉を失っていたレインの視線がある女性を捉えた。
「タリア!」
「でけー声出すな」
「ごめんなさい」
レインがルークに注意されて、ついでにアラタからもお叱りの言葉を受けている間に、タリアと呼ばれた女性がどんどんと近づいてくる。
彼女はルークやレインのパーティーメンバーだが、治癒魔術師ということもあって部隊後方で支援任務だ。
服の上に被っているエプロンには血がべったりとついていて、そちらはそちらで大変な修羅場だったことが伺える。
「タリアさん、お疲れ様です。結構人が——」
アラタがそこまで言いかけたところで、タリアが右手を前に突き出して制止する。
「タリアさん?」
「…………ついてきて」
重く、服の周りに纏わりつくような空気。
タリアがそれを意図的に纏っているのか、それとも無意識にそれを放っているのかは些細な事だ。
大事なのは、そんな状況が何によって作り出されたかという事。
そしてそれは、大隊の人数が少ないことと無関係では無いはずだ。
タリアの導くままに3人は歩いていく。
仮の陣地は防御も陣形もあったものではなく、到着した人間たちの周りに遅れてきた人間が寄り集まることで形成されている。
彼らが早歩きで3分程度かかったその場所は、合流順としてはかなり後発組と思しき兵士たちがたむろしていた。
「タリア」
今度はルークが話しかけるが答えない。
「タリアさん」
再びアラタが声を掛ける。
レインは飛ばして、またアラタが声を掛けた。
「タリアさん、俺たち一体どこに——」
「……ここよ」
【暗視】を起動しているアラタは、ただ一言、『あー』と思った。
そういう感じね、と地面にかぶせられた薄汚れた布地を見て理解する。
早い話、誰かが死んだのだ。
それもここの人たちにとって近しい人が。
布の膨らみ具合から、おおよその身長や体格などが割り出せる。
カバーを剥がしてしまうのが一番手っ取り早くても、それをするのは自分ではないと一線を引くのがアラタである。
「……はぁー…………」
中身を見たルークは長い溜息をついた。
レインも、立っているが立ち尽くしている。
アラタはいたたまれなさ半分、気を利かせたのが半分でその場を後にした。
第206中隊長、2人目の戦死。
元ハルツパーティー所属、ジーンが死亡した。
遺体の右腕は肘から下が無く、顔には大きな切り傷があった。
アラタの見る限り致命傷だったのは首元に刻まれた裂傷と、右腕からの失血。
止血する間も無かったのだろう、それに加えて首元にダメ押し、アラタにはジーンが最後に立っていた戦場がありありと目に浮かぶ。
「……チッ」
無意識のうちに、やめたはずの煙草を探している自分に気づいた。
ノエルに散々泣かれて、もうやめようと決めた物。
実際スパッとやめることが出来て、紫煙溢れる戦場の作戦指揮所でも1本も吸わなかった。
それが今になってニコチンを求めている。
それだけストレスが大きいという事だ。
そんな彼に、煙草の代わりとして握り締められているのは、軍用ポーションである。
アラタはそれを何のためらいもなく、まるで一口サイズの乳酸菌飲料を飲み干すように瓶を空けた。
体に悪そうな味と共にこみ上げてくるのは、強力な滋養強壮作用と魔力増強作用。
——知ってる人が死ぬのは結構キツイな。
山ほど人が死んだこの戦争で、アラタも数えきれないくらい多くの仲間の死を見てきた。
それでも、何度見ても慣れるものではないとアラタは断言できた。
それくらい、人が死ぬことによる負のエネルギーというものは周囲に大きな影響を与えるのだ。
「まあ、俺らも殺してるしな。お互い様か」
自らを嘲るようにそう呟くと、部隊の奥の方から声が聞こえてきた。
「敵襲! 敵襲! 戦えるやつは下がりながら応戦しろ! 絶対に囲まれてはならない!」
ルークたちを放置して、アラタは前線へと向かう。
1日2日眠れないくらいなら、まだ何とかなるだろう。
ただ、眠らないのと物理的なスケジュール的に眠れないのではまるで意味が違う。
寝ればすなわち死。
既に全身ボロボロのアラタ、それでも休むこと眠ることは許されない。
傷つく体をポーションで無理矢理動かしながら、彼は今日も戦い続ける。
アラタはその日以降3日間、眠れない夜を過ごした。
「オッケー、タイミング図って行こう」
ルーク、レイン、アラタの3人組は草むらに身を隠している。
タリアは後方で治癒魔術師として活動、ジーンは第206中隊の指揮官として活躍中だ。
慣れない指揮官をさせるより、一兵卒の方がパフォーマンスを発揮できるとアラタは判断された。
司令部がそんな単純なことを見定めるのに少なくない時間をかけたのは減点対象である。
だがまあ、それも仕方が無いだろう。
彼らからしてみれば、アラタが思ったより人の上に立つ能力が無かったのが誤算だったのだ。
とにかくこちらの方が戦力を遊ばせずに済んでいる、それがすべてである。
「距離50m」
「30mで仕掛ける。カウントはアラタがやれ」
「了解」
アラタたちの視線の先には、帝国兵が隊列を組んで歩いている。
俯瞰して見れば、まあ分かりやすい待ち伏せだ。
夜になっても一向に戦いをやめる気のなさそうな帝国軍に対して、公国軍の冒険者大隊が取った対処は逃げの一手だった。
もうそれしかない。
敵の数は2万をゆうに超える。
一部しか相手をしていないとはいえ、大隊の数は300を下回る。
撤退の為の攪乱作戦が行動の本質で、数を失えば一気に行動不能になりかねない。
だからこうしてアラタたちは下がりつつ時たま反転して攻撃を仕掛けるのだ。
場所はミラ丘陵地帯の西の端、草木生い茂る鬱蒼とした森だ。
たまに開けた土地があって、そこは軍の野営地として重宝される。
しかし冒険者たちはそんな分かりやすい場所を使わない。
むしろ監視しやすい場所を取って効果的な一撃を与えるために思索を張り巡らせる。
アラタ、ルーク、レインの3人組が動き始めた。
「敵襲! 固まって全方位防御!」
気づかれた。
……が、もう遅い。
「やっぱり動きが違うな」
「ですね」
「でも兵士としては二流だ」
レインがこき下ろしたのは、敵集団の中心に守られている一兵卒。
そう、一兵卒が守られているのだ。
おかしな光景だが、分からない話でもない。
要するに、理由があれば納得できるのだ。
そしてアラタたちはその理由に思い当たる節がある。
「ルークさんは右を、俺が左を。レインは突っ込め」
返事はなくとも、動きで命令を理解していることは分かる。
アラタが見えにくい風刃と水弾を行使しつつ左の盤面を抑え、ルークは仕込んだ暗器と鉈のような剣で斬りかかる。
両翼からの圧が強すぎて、10名前後の敵兵たちは真っ二つに割れてしまう。
まるで指を入れたみかんのように、真っ直ぐ縦に割れた。
残されたのは身に付いた僅かな白い部分だけ。
「おっ、俺はっ!」
「【暗視】持ちだろ? 【罠感知】系統もかな?」
レインの槍は、穂先の刀身が長く敵を薙ぐことも出来る。
まず右側から一撃、これは護衛の兵士に防がれた。
槍を引き戻しながら敵の攻撃を躱し、二撃目を振りかぶる。
しかし如何せんモーションが大きい。
相手がアラタなら4回は斬られているであろう大振り。
今度も相手が防げる範囲と速度。
兵士は少々早く側面への防御を固め、反撃の為の攻撃態勢に移行する。
「はい確定」
レインの持つ槍の柄には、いくつかのスイッチが付いている。
どれも難しい機構ではない。
そして今回押したそれは、複数の仕掛けの中でも一番単純な仕掛けだった。
槍が槍でなくなった。
穂先も含めた棒の部分が3つに分裂し、三節棍となって敵を打ち据えたのだ。
昼間だったとしても、側面からの変則軌道に対処するのは非常に難しい。
レインと【暗視】持ちの敵の間に立つ護衛の兵士は何が起こったのか理解できない。
ただ左側に構えた槍に三節混の鎖の部分がぶつかった感触と、自分の後ろから聞こえてきたグシャリとひしゃげた音だけが彼の中に響いている。
自分の槍を支点として、仲間の頭がレインによって破壊されたのだと気づいた時、男の命は終わった。
味方の様子を確認するために後ろを振り返るようでは、兵士として二流であり、レインを前にして生き残ることは出来ない。
「…………っあ」
「アラタ、レイン、報告」
「全員死亡しています」
「こっちも。アラタ、所持品確認した?」
「時間無いでしょ。ねえルークさん?」
「そうだな。金品持ってても何にもならん。飯も毒入ってたら無理だしな。いくぞ」
「はーい」
レインは1人分だけ敵の所持品を漁ると、中にあった銀貨1枚だけを持って2人の後を追った。
彼ら3人がこの戦闘で得たのは、日本円にして5千円程度にしかならない銀貨1枚だけ。
勝って得る物はほとんどなにもなく、負ければ命を含めた全てを失う。
彼らにその意識があるのかは定かではないが、彼らは究極の理不尽の中で日々を生きている。
そして、理不尽にさらされた結果死ぬのが帝国兵だけなんてことは有り得ない。
死は平等に訪れるから。
「マジですか」
アラタはあまりの現実に言葉を失った。
冒険者大隊が集合した時のことである。
まず、数が足りない。
アラタ、ルーク、レインのように、部隊から少し離れて敵と交戦している人間はまだいる。
ここにいる人間だけが冒険者大隊だというわけではない。
しかしそれにしても少ない。
数にして100名をギリギリ上回っているかというライン。
「流石に全部合わせたら200弱にはなるだろ」
「ルークさん、それでも1/3が死んでますよ」
「そういうこともある」
淡々と言葉を返すルークとは対照的に、アラタはかなり焦っていた。
仲間が死んだとか、そういう話ではない。
この規模で、この士気で、これから先戦えるとは思えない、そういう危惧をしている。
ルークは達観しているというより、もはや半分諦めているのだろう。
もうどうにもならないから、自分の仕事だけでも果たそうと、そういうドライさが垣間見える。
アラタ同様言葉を失っていたレインの視線がある女性を捉えた。
「タリア!」
「でけー声出すな」
「ごめんなさい」
レインがルークに注意されて、ついでにアラタからもお叱りの言葉を受けている間に、タリアと呼ばれた女性がどんどんと近づいてくる。
彼女はルークやレインのパーティーメンバーだが、治癒魔術師ということもあって部隊後方で支援任務だ。
服の上に被っているエプロンには血がべったりとついていて、そちらはそちらで大変な修羅場だったことが伺える。
「タリアさん、お疲れ様です。結構人が——」
アラタがそこまで言いかけたところで、タリアが右手を前に突き出して制止する。
「タリアさん?」
「…………ついてきて」
重く、服の周りに纏わりつくような空気。
タリアがそれを意図的に纏っているのか、それとも無意識にそれを放っているのかは些細な事だ。
大事なのは、そんな状況が何によって作り出されたかという事。
そしてそれは、大隊の人数が少ないことと無関係では無いはずだ。
タリアの導くままに3人は歩いていく。
仮の陣地は防御も陣形もあったものではなく、到着した人間たちの周りに遅れてきた人間が寄り集まることで形成されている。
彼らが早歩きで3分程度かかったその場所は、合流順としてはかなり後発組と思しき兵士たちがたむろしていた。
「タリア」
今度はルークが話しかけるが答えない。
「タリアさん」
再びアラタが声を掛ける。
レインは飛ばして、またアラタが声を掛けた。
「タリアさん、俺たち一体どこに——」
「……ここよ」
【暗視】を起動しているアラタは、ただ一言、『あー』と思った。
そういう感じね、と地面にかぶせられた薄汚れた布地を見て理解する。
早い話、誰かが死んだのだ。
それもここの人たちにとって近しい人が。
布の膨らみ具合から、おおよその身長や体格などが割り出せる。
カバーを剥がしてしまうのが一番手っ取り早くても、それをするのは自分ではないと一線を引くのがアラタである。
「……はぁー…………」
中身を見たルークは長い溜息をついた。
レインも、立っているが立ち尽くしている。
アラタはいたたまれなさ半分、気を利かせたのが半分でその場を後にした。
第206中隊長、2人目の戦死。
元ハルツパーティー所属、ジーンが死亡した。
遺体の右腕は肘から下が無く、顔には大きな切り傷があった。
アラタの見る限り致命傷だったのは首元に刻まれた裂傷と、右腕からの失血。
止血する間も無かったのだろう、それに加えて首元にダメ押し、アラタにはジーンが最後に立っていた戦場がありありと目に浮かぶ。
「……チッ」
無意識のうちに、やめたはずの煙草を探している自分に気づいた。
ノエルに散々泣かれて、もうやめようと決めた物。
実際スパッとやめることが出来て、紫煙溢れる戦場の作戦指揮所でも1本も吸わなかった。
それが今になってニコチンを求めている。
それだけストレスが大きいという事だ。
そんな彼に、煙草の代わりとして握り締められているのは、軍用ポーションである。
アラタはそれを何のためらいもなく、まるで一口サイズの乳酸菌飲料を飲み干すように瓶を空けた。
体に悪そうな味と共にこみ上げてくるのは、強力な滋養強壮作用と魔力増強作用。
——知ってる人が死ぬのは結構キツイな。
山ほど人が死んだこの戦争で、アラタも数えきれないくらい多くの仲間の死を見てきた。
それでも、何度見ても慣れるものではないとアラタは断言できた。
それくらい、人が死ぬことによる負のエネルギーというものは周囲に大きな影響を与えるのだ。
「まあ、俺らも殺してるしな。お互い様か」
自らを嘲るようにそう呟くと、部隊の奥の方から声が聞こえてきた。
「敵襲! 敵襲! 戦えるやつは下がりながら応戦しろ! 絶対に囲まれてはならない!」
ルークたちを放置して、アラタは前線へと向かう。
1日2日眠れないくらいなら、まだ何とかなるだろう。
ただ、眠らないのと物理的なスケジュール的に眠れないのではまるで意味が違う。
寝ればすなわち死。
既に全身ボロボロのアラタ、それでも休むこと眠ることは許されない。
傷つく体をポーションで無理矢理動かしながら、彼は今日も戦い続ける。
アラタはその日以降3日間、眠れない夜を過ごした。
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