446 / 544
第5章 第十五次帝国戦役編
第442話 美味い飯
しおりを挟む
「結局誰も抜けなかったな」
「ですね。自分は半分くらい消えると思ってました」
「だよなぁ」
第1192小隊という寄る辺を失くしたアラタには、かつて自分が指揮を執っていた第206中隊がある。
しかし諸々の事情から、彼はいま一兵卒として戦列に加わっていた。
彼の代わりに中隊長として指揮を執るのは、旧ハルツ隊のジーンだ。
てっきりルークがその責に収まると思っていた人間は多いが、本人曰く適任ではないらしい。
「俺は偵察と潜入が専門だからな」
なんて口にしながら、彼は今日も現場で働いていた。
ルークと似たような雰囲気を持つ1192のエルモと彼が異なる点は、仕事に対する情熱だろう。
逆に他の箇所は驚くほどよく似ている。
文句が多いし、斥候役をすることが多く、隠密行動系のスキルを多数所持していて、アラタと親交がある。
これだけでは2人から1人に絞り切れない。
とにかく、一兵卒のアラタはルークの分隊にジーンと入れ替わりで入って来たという事だ。
ルーク、レイン、タリア、そしてアラタ。
これがルーク分隊の構成要員である。
「つか、結構堂々と移動するんですね」
ミラ丘陵地帯の旧一番砦北側を迂回しているアラタたちは、あまりに普通過ぎた。
殿軍を率いた3つの主要戦力の内、第32冒険者大隊はこうして別働隊として動いている。
それを敵に認知されてしまえばたちまち手を打ってくるだろうし、彼らの目的である帝国軍の中央から後方を叩くことも出来なくなる。
アラタの考えは、悟られることなく移動して一撃離脱、話はそれからである。
だからこうして列になって道を歩くのは疑問があった。
「ルークさん」
「分かってるよ。詳しいことは分かんねーけど、あれじゃね? レイヒムは戦うつもりなんじゃね?」
「どこと?」
「俺たちに対応しに来た敵の部隊と」
「それじゃ任務にならないですよね」
割と普通な指摘に、ルークは最近剃っていない無精髭を撫でる。
アラタや他の面々は綺麗にしている辺り、物資に余裕が無いわけでもないのに、ルークは面倒だからと剃っていない。
そんなところまでエルモに似ているのだが、意外なことに彼らの間に面識はほとんどない。
「移動するならばらけて夜中に静かに。俺ならそうします」
「そうしないってことは他に理由があるわけだ」
「だからそれはなんなのかなって聞いたんですけど」
「だから俺も詳しいことは知らねーって。さっき言ったろ」
「はぁ、不毛な会話ですね」
「まったくだ。なんでこんな分かり切ったことをよぉ」
また愚痴を溢しながら、ルークはポケットから煙草を取り出して一服しようとした。
それを咎めるような目で見るアラタ。
「んだよ」
「臭いが移るのでよそでやってください」
「硬いことを言うな」
「気づかないんですか? 俺たちろくに風呂も入ってないせいで臭いんですよ。煙草の臭いまで付いたらいよいよ戦闘に支障をきたします」
「それかもな」
「は?」
「俺たちの鼻はとっくにバカになってるし、全員もれなく悪臭を放っている。索敵系のスキルはまだしも、動物操作系のスキルには引っかかるんじゃねーか?」
「可能性はあります」
「だからまだるっこしいことは無しにして、機動力と戦闘力で解決しようって考えなんじゃねーの? 知らんけど」
そう言いながらルークは煙草に火を点けた。
「あぁっ!」
マッチなんて使わずに、魔術を使って一瞬で着火したからアラタは止め時を失った。
火を灯しながら息を吸い込むと、煙草の先端が赤く光り燃えていく。
完全に着火した、これですり潰すか水に沈めない限り消えない。
「ルークさん!」
「悪いな。お前がポーションがぶ飲みするみたいに俺にもこれが欠かせんのよ」
「ポーションは臭わないでしょうが!」
こうして日がな一日冒険者たちの移動は続く。
今日は11月22日、アラタの誕生日だ。
しかしそれを知る人間は彼以外に誰もおらず、彼も自身が生まれた日のことを完全に失念していた。
彼が異世界に転生してからの2回目の誕生日。
2回とも、彼は誰にも誕生日を祝ってもらっていない。
※※※※※※※※※※※※※※※
レイヒム率いる第32大隊の行軍は非常にゆっくりとしたものだった。
出発地点はミラ丘陵地帯の主要戦域の西端、カナン公国軍旧一番砦跡地付近。
殿を引き受ける他の2個大隊とはここで分かれ、彼らはミラを北上した。
それから一番砦の周囲を時計回りに、1日かけて180度位置を変えた。
現在彼らは一番砦と二番砦の中間付近にいる。
道中何度も休息を取ったせいで、午後4時半になるというのに全く進んでいない。
「天幕は張るな。緊急行動がとれる状態で食事を取れ」
レイヒムの言う緊急行動とは、敵の襲撃などに際して3分以内に出発することを指す。
一番砦と二番砦の跡地にはそれぞれ監視役の冒険者が常駐して警戒をする。
その役割に当たらなかったアラタたちはこうして食事をしている訳だが……
「どうした? 食わねーの?」
「いや……食べるんですけど……」
——味がしない。
アラタが食べているのは、小隊規模で炊事をした極めて一般的なシチューだ。
ルーなんてものは入れていなくても、保存食の塩味で味は常識の範囲内に収まっている。
美味いか不味いかで訊くのは野暮でも、これに文句を言うやつは相当なグルメに思える。
それの味がしない、正確には弱い。
昨日まで、今日の昼食までは何ともなかったのにと、アラタは首を捻った。
「ルークさん、ちょっとそっち貰っていいですか」
「まあいいけどよ、一緒だぞ」
「ですよね」
一口食べて同じ味、無味に近い結果が得られた。
おかしいのは自分なのは明白でも、少し混乱する。
タリアはそんなアラタの食器を奪うように取り上げて、代わりに白い紙を渡してきた。
「何ですか?」
「薬。飲んで」
「どうも」
紙に包まれたそれは、粉末状の薬品だった。
それの色は薄暗い冬の夕方5時では判別できそうにない。
【暗視】を起動してようやく茶色だと分かって少し安心したアラタ。
これがもし青とか紫だったりしたら飲みたくなかったな、とアラタはそれを口に流し込む。
すぐに水を使って嚥下すると、食事同様無味だった薬が胃に入った感触がした。
「15分したら食べていいわよ。結構早く効くから」
「これ何の薬ですか」
「ポーションの副作用を抑える薬。普通ポーションに入れられているはずなのだけど……ここの物もアラタが持ってきた物にもまるで入ってなかったわ」
「はぁ……」
「とにかく、これ以上無茶したら一生食べ物の味がしなくなるかもね!」
タリアは吐き捨てる様にそう言うと、さっさと食べ終えてどこかに行ってしまった。
戦闘の無い1日だったから治癒魔術師としての仕事は無い筈だが、アラタと同じ空間にいるのが耐えられなかったのだろうとルークは推測した。
「アラタ、無理にとは言わねーけど、あいつの気持ちも汲んでやれよ」
「付き合えってことですか?」
「ちがうちがう。あんまり無茶して困らせてやるなってこと。心配してんだから」
「はぁ……気を付けます」
レインも食べ終わって警備の交代に向かい、アラタだけが残された。
冒険者大隊と言っても、彼らは現在300名を切っている。
全員が何らかの仕事を請け負っていても、まったく数が足りていない状態なのだ。
そろそろ15分経ったかなと、アラタはスープを飲んでみた。
なるほど、味は確かに感じられると彼は感心する。
服薬したものがどんな成分でどんな効果を持つなんてまるで知らない彼でも、薬物の力は偉大なのだと肌で感じることは出来る。
料理の味を感じたアラタが次に覚えたものは、冷たい、だった。
そもそも味うんぬんの話をし始めたときに食事はそこそこ進んでいたのだ。
寒空の下では15分で十分冷え切るし、それを温め直すほど彼は食事に執着しなくなっていた。
「ズズ…………」
冷たいし、相変わらず味は美味いとは言えない。
それでも確かに味覚を刺激される感覚。
先ほどアラタが一時的に失ったはずの物だ。
食の有難さ、味を感じるという当たり前のことがどれだけ人間にとって大切な事なのか、それを改めて学んだ。
「美味いなぁ」
「でしょ? 分かったらポーションなんてやめなさい」
「タリアさんいたんですか」
「患者の状態を把握するのは治癒魔術師の役目だから」
「職権乱用しないでくださいね?」
「さぁ? どうしましょ」
どうせ好かれるのならもう少し普通の人が良かったなぁ。
そんな高望みをする彼は、完全に自分のことを棚に上げて忘れてしまっている。
顔や性格がどうとか以前に、彼の経歴と現在の仕事は完全にイロモノ枠だ。
冒険者、裏稼業、ニート、冒険者、兵士。
不安定な職ばかり、それに応じて収入も安定しない。
Bランク冒険者なら引く手あまただろうが、それを帳消ししてなおマイナスに振り切るほどの問題行動の多さ。
そこそこ背が高く、体型もアラタ好み、性格は少々きつめ、髪色は黒が良かったがこげ茶なら範囲内。
何目線で点数を付けているのか聞かれれば、告白された者としての目線である。
エリザベスのことが無ければ付き合っていたんだろうなと思いつつ、『無ければ』なんて仮定が何の意味もなさない程の想いの深さ。
「タリアさん、俺は——」
「全員緊急行動! ただちに移動する! 向きは北! 敵を避けてから東に前進だ!」
「またあとになりそうね」
「そっすね。行きますか」
5時半を回った時点で外は十分暗い。
それこそアラタやルークが【暗視】を起動するほどに。
こんな時間に接近してきた敵も敵だし、今からまた移動すると言っているレイヒムも大概だ。
重要な情報が下りてこない状況で、一兵卒とはこんな感触なのかと驚かされる。
指揮官としてではなく、一振りの刀としての戦闘任務。
彼が自分のいるべき立場について自覚するのはもう少しだけ先の話。
「準備できたな! 出発するぞ!」
レイヒムの号令で一斉に移動を開始する冒険者大隊。
彼らの向かう先に待ち受ける地獄の釜の蓋が開こうとしていた。
「ですね。自分は半分くらい消えると思ってました」
「だよなぁ」
第1192小隊という寄る辺を失くしたアラタには、かつて自分が指揮を執っていた第206中隊がある。
しかし諸々の事情から、彼はいま一兵卒として戦列に加わっていた。
彼の代わりに中隊長として指揮を執るのは、旧ハルツ隊のジーンだ。
てっきりルークがその責に収まると思っていた人間は多いが、本人曰く適任ではないらしい。
「俺は偵察と潜入が専門だからな」
なんて口にしながら、彼は今日も現場で働いていた。
ルークと似たような雰囲気を持つ1192のエルモと彼が異なる点は、仕事に対する情熱だろう。
逆に他の箇所は驚くほどよく似ている。
文句が多いし、斥候役をすることが多く、隠密行動系のスキルを多数所持していて、アラタと親交がある。
これだけでは2人から1人に絞り切れない。
とにかく、一兵卒のアラタはルークの分隊にジーンと入れ替わりで入って来たという事だ。
ルーク、レイン、タリア、そしてアラタ。
これがルーク分隊の構成要員である。
「つか、結構堂々と移動するんですね」
ミラ丘陵地帯の旧一番砦北側を迂回しているアラタたちは、あまりに普通過ぎた。
殿軍を率いた3つの主要戦力の内、第32冒険者大隊はこうして別働隊として動いている。
それを敵に認知されてしまえばたちまち手を打ってくるだろうし、彼らの目的である帝国軍の中央から後方を叩くことも出来なくなる。
アラタの考えは、悟られることなく移動して一撃離脱、話はそれからである。
だからこうして列になって道を歩くのは疑問があった。
「ルークさん」
「分かってるよ。詳しいことは分かんねーけど、あれじゃね? レイヒムは戦うつもりなんじゃね?」
「どこと?」
「俺たちに対応しに来た敵の部隊と」
「それじゃ任務にならないですよね」
割と普通な指摘に、ルークは最近剃っていない無精髭を撫でる。
アラタや他の面々は綺麗にしている辺り、物資に余裕が無いわけでもないのに、ルークは面倒だからと剃っていない。
そんなところまでエルモに似ているのだが、意外なことに彼らの間に面識はほとんどない。
「移動するならばらけて夜中に静かに。俺ならそうします」
「そうしないってことは他に理由があるわけだ」
「だからそれはなんなのかなって聞いたんですけど」
「だから俺も詳しいことは知らねーって。さっき言ったろ」
「はぁ、不毛な会話ですね」
「まったくだ。なんでこんな分かり切ったことをよぉ」
また愚痴を溢しながら、ルークはポケットから煙草を取り出して一服しようとした。
それを咎めるような目で見るアラタ。
「んだよ」
「臭いが移るのでよそでやってください」
「硬いことを言うな」
「気づかないんですか? 俺たちろくに風呂も入ってないせいで臭いんですよ。煙草の臭いまで付いたらいよいよ戦闘に支障をきたします」
「それかもな」
「は?」
「俺たちの鼻はとっくにバカになってるし、全員もれなく悪臭を放っている。索敵系のスキルはまだしも、動物操作系のスキルには引っかかるんじゃねーか?」
「可能性はあります」
「だからまだるっこしいことは無しにして、機動力と戦闘力で解決しようって考えなんじゃねーの? 知らんけど」
そう言いながらルークは煙草に火を点けた。
「あぁっ!」
マッチなんて使わずに、魔術を使って一瞬で着火したからアラタは止め時を失った。
火を灯しながら息を吸い込むと、煙草の先端が赤く光り燃えていく。
完全に着火した、これですり潰すか水に沈めない限り消えない。
「ルークさん!」
「悪いな。お前がポーションがぶ飲みするみたいに俺にもこれが欠かせんのよ」
「ポーションは臭わないでしょうが!」
こうして日がな一日冒険者たちの移動は続く。
今日は11月22日、アラタの誕生日だ。
しかしそれを知る人間は彼以外に誰もおらず、彼も自身が生まれた日のことを完全に失念していた。
彼が異世界に転生してからの2回目の誕生日。
2回とも、彼は誰にも誕生日を祝ってもらっていない。
※※※※※※※※※※※※※※※
レイヒム率いる第32大隊の行軍は非常にゆっくりとしたものだった。
出発地点はミラ丘陵地帯の主要戦域の西端、カナン公国軍旧一番砦跡地付近。
殿を引き受ける他の2個大隊とはここで分かれ、彼らはミラを北上した。
それから一番砦の周囲を時計回りに、1日かけて180度位置を変えた。
現在彼らは一番砦と二番砦の中間付近にいる。
道中何度も休息を取ったせいで、午後4時半になるというのに全く進んでいない。
「天幕は張るな。緊急行動がとれる状態で食事を取れ」
レイヒムの言う緊急行動とは、敵の襲撃などに際して3分以内に出発することを指す。
一番砦と二番砦の跡地にはそれぞれ監視役の冒険者が常駐して警戒をする。
その役割に当たらなかったアラタたちはこうして食事をしている訳だが……
「どうした? 食わねーの?」
「いや……食べるんですけど……」
——味がしない。
アラタが食べているのは、小隊規模で炊事をした極めて一般的なシチューだ。
ルーなんてものは入れていなくても、保存食の塩味で味は常識の範囲内に収まっている。
美味いか不味いかで訊くのは野暮でも、これに文句を言うやつは相当なグルメに思える。
それの味がしない、正確には弱い。
昨日まで、今日の昼食までは何ともなかったのにと、アラタは首を捻った。
「ルークさん、ちょっとそっち貰っていいですか」
「まあいいけどよ、一緒だぞ」
「ですよね」
一口食べて同じ味、無味に近い結果が得られた。
おかしいのは自分なのは明白でも、少し混乱する。
タリアはそんなアラタの食器を奪うように取り上げて、代わりに白い紙を渡してきた。
「何ですか?」
「薬。飲んで」
「どうも」
紙に包まれたそれは、粉末状の薬品だった。
それの色は薄暗い冬の夕方5時では判別できそうにない。
【暗視】を起動してようやく茶色だと分かって少し安心したアラタ。
これがもし青とか紫だったりしたら飲みたくなかったな、とアラタはそれを口に流し込む。
すぐに水を使って嚥下すると、食事同様無味だった薬が胃に入った感触がした。
「15分したら食べていいわよ。結構早く効くから」
「これ何の薬ですか」
「ポーションの副作用を抑える薬。普通ポーションに入れられているはずなのだけど……ここの物もアラタが持ってきた物にもまるで入ってなかったわ」
「はぁ……」
「とにかく、これ以上無茶したら一生食べ物の味がしなくなるかもね!」
タリアは吐き捨てる様にそう言うと、さっさと食べ終えてどこかに行ってしまった。
戦闘の無い1日だったから治癒魔術師としての仕事は無い筈だが、アラタと同じ空間にいるのが耐えられなかったのだろうとルークは推測した。
「アラタ、無理にとは言わねーけど、あいつの気持ちも汲んでやれよ」
「付き合えってことですか?」
「ちがうちがう。あんまり無茶して困らせてやるなってこと。心配してんだから」
「はぁ……気を付けます」
レインも食べ終わって警備の交代に向かい、アラタだけが残された。
冒険者大隊と言っても、彼らは現在300名を切っている。
全員が何らかの仕事を請け負っていても、まったく数が足りていない状態なのだ。
そろそろ15分経ったかなと、アラタはスープを飲んでみた。
なるほど、味は確かに感じられると彼は感心する。
服薬したものがどんな成分でどんな効果を持つなんてまるで知らない彼でも、薬物の力は偉大なのだと肌で感じることは出来る。
料理の味を感じたアラタが次に覚えたものは、冷たい、だった。
そもそも味うんぬんの話をし始めたときに食事はそこそこ進んでいたのだ。
寒空の下では15分で十分冷え切るし、それを温め直すほど彼は食事に執着しなくなっていた。
「ズズ…………」
冷たいし、相変わらず味は美味いとは言えない。
それでも確かに味覚を刺激される感覚。
先ほどアラタが一時的に失ったはずの物だ。
食の有難さ、味を感じるという当たり前のことがどれだけ人間にとって大切な事なのか、それを改めて学んだ。
「美味いなぁ」
「でしょ? 分かったらポーションなんてやめなさい」
「タリアさんいたんですか」
「患者の状態を把握するのは治癒魔術師の役目だから」
「職権乱用しないでくださいね?」
「さぁ? どうしましょ」
どうせ好かれるのならもう少し普通の人が良かったなぁ。
そんな高望みをする彼は、完全に自分のことを棚に上げて忘れてしまっている。
顔や性格がどうとか以前に、彼の経歴と現在の仕事は完全にイロモノ枠だ。
冒険者、裏稼業、ニート、冒険者、兵士。
不安定な職ばかり、それに応じて収入も安定しない。
Bランク冒険者なら引く手あまただろうが、それを帳消ししてなおマイナスに振り切るほどの問題行動の多さ。
そこそこ背が高く、体型もアラタ好み、性格は少々きつめ、髪色は黒が良かったがこげ茶なら範囲内。
何目線で点数を付けているのか聞かれれば、告白された者としての目線である。
エリザベスのことが無ければ付き合っていたんだろうなと思いつつ、『無ければ』なんて仮定が何の意味もなさない程の想いの深さ。
「タリアさん、俺は——」
「全員緊急行動! ただちに移動する! 向きは北! 敵を避けてから東に前進だ!」
「またあとになりそうね」
「そっすね。行きますか」
5時半を回った時点で外は十分暗い。
それこそアラタやルークが【暗視】を起動するほどに。
こんな時間に接近してきた敵も敵だし、今からまた移動すると言っているレイヒムも大概だ。
重要な情報が下りてこない状況で、一兵卒とはこんな感触なのかと驚かされる。
指揮官としてではなく、一振りの刀としての戦闘任務。
彼が自分のいるべき立場について自覚するのはもう少しだけ先の話。
「準備できたな! 出発するぞ!」
レイヒムの号令で一斉に移動を開始する冒険者大隊。
彼らの向かう先に待ち受ける地獄の釜の蓋が開こうとしていた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
【R-18】敗北した勇者、メス堕ち調教後の一日
巫羅
ファンタジー
魔王軍に敗北した勇者がメス堕ち調教され、奉仕奴隷となった後の一日の話
本編全4話
終了後不定期にパーティーメンバーの話とかも書きたいところです。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる