438 / 544
第5章 第十五次帝国戦役編
第434話 勝てば途中の敗北は全部過程に置き換わる
しおりを挟む
仰向けになりながら背中に感じる振動は、彼に2年前の夏のことを思い出させる。
彼は甲子園準決勝、投球練習を終えた時点でマウンドにうずくまり、そのまま降板した。
今も似たようなものである。
彼は撤退する公国軍の一員、第1192小隊の面々に荷馬車で搬送されている。
彼以外はみな騎馬もしくは徒歩で、アラタの隣には衣服やテントなどが積み込まれている。
その両脇の圧迫感が、狭い救急車の中と少しだけ被る。
あの時、俺に【痛覚軽減】があれば、まだ投げられたのに。
さっきからそんなことばかりを考えている。
確かに、腕が飛んでものたうち回ることなく戦える感覚遮断系スキルをもってすれば、内側側副靭帯損傷くらいどうってことなかった。
もちろんスキルをオフにすれば地獄のような痛みが待っている点は同じだが、試合の後の痛みならどんなに大きくても耐えられる自信があった。
彼はまた、故障をした。
何度繰り返してもちっとも学習しない。
今度はより重傷で、このままいけば近い将来命に関わることになる。
彼はまた、同じ問いの間口に立っていた。
——このまま何もしなければ、これ以上悪化することは無い。
ここで前に進めば、恐らく全てを失う。
前に進んだとして得られるものはほとんど何もなく、そんな答えの分かり切っている2択でアラタはいつも迷っている。
きっとこれは病気なのだろう。
分の悪い賭けをしなければ生きていけないような、ギャンブル中毒なのだろう。
「刀…………あるな」
左手を少し動かすと、触り慣れた金属の感触が指を冷やす。
壊れないという神の御墨付きをいただいたこの刀は、その影響なのか分解することも出来ない。
普通刀というのは複数のパーツから構成されていて、目釘を抜くことで柄や刀身、鍔などが分離する仕組みになっている。
それがどういうことか、アラタの刀は分解できない。
だから茎に刀匠の銘が刻まれているか、それすらも分からない。
見た目は特にこれといった特徴が無く、業物には見えない。
それでもそこそこ付き合いの長くなってきていたこの刀を、アラタは少しだけ気に入っていた。
「怒るだろうなぁ」
彼はよく、やってはいけないことをする。
誰かを悲しませるようなことだとか、怒らせるようなことを。
他人の金で博打を打つし、少し前は誰彼構わず試食気分で遊びまわったりしていた。
その度に、彼が荒れる度に、傍らには嘆き悲しむ人の影がある。
今度は誰が怒るのか、アラタの脳裏に浮かんだのは誰の悲しそうな顔だったのか。
アラタの手が側に置いていたポーチに伸びる。
黒鎧は念のため装着している状況。
刀も近くにある。
「アーキム、おいアーキム」
そしてアラタは部下の名前を小声で呼んだ。
※※※※※※※※※※※※※※※
いくら逃げる最中と言っても、不眠不休は現実的ではない。
半日に1回か2回くらいは小休止を取るし、殿を務める味方の情報収集も行っていた。
それら雑務を行うのはまだ動ける部隊、つまり第1192小隊である。
「アラタ、どこに行くんですか」
偵察から帰って来たリャン・グエルは、人気のないところを歩くアラタに声を掛けた。
彼は現在体調不良につき、馬車で寝ながら運ばれている最中のはず。
それがフル装備で大地を歩いているというのだから、リャンが声を掛けたのは正解である。
アラタはバツの悪そうな顔をした。
「戻る」
短く言い切ったところで、珍しくリャンの眉間に皺が寄った。
困った時の八の字眉ではなく、怒りの表情。
「また同じことを繰り返すつもりですか。大公選の時、それをやって失敗したのを忘れたんですか」
「忘れてはいない。でも、行かなきゃ」
つい半年前の出来事だ。
忘れようとしても忘れるものではないし、時間もほとんど経っていない。
あんな出来事、どんな人間でも忘れるはずが無かった。
困ったような顔をしながら、アラタはリャンに背を向けようとした。
それを黙って見送るほど、リャンも不感症ではない。
「待ちなさい! 自惚れるな!」
「自惚れ?」
後ろめたい気持ちが無いわけではない。
しかし、どこから自惚れなんて感情が出てきたのか、アラタは理解できなかった。
理解できなかったから、後ろを振り向いた。
「そうでしょうが! 自分なら戦局を変えられると思っているから! だからあなたは今も昔もたった1人で突っ走るんでしょうが!」
リャンの言う今も昔もとは、大公選の時と今現在。
アラタの受け取った今も昔もとは、日本にいた時と異世界に来てからの時間。
両者に認識の齟齬があれど、アラタはすぐに認識を切り替えた。
リャンには自分が異世界人であることを明かしていないと思い出したから。
これは大公選の時の話をしているのだと気づいた。
「前はお前らがいた。今回は206中隊がいる」
「だからって、私たちに黙っていく理由はないでしょう!」
「アーキムには言ってある。ちゃんと分かってくれた」
「でしょうね! 彼はアラタのことが嫌いなんですよ! だから何も心配しないで送り出したんですよ!」
「かもな」
「アラタだって、引き留められないと分かっていてアーキムに話したんでしょうが! えぇ!? 違うなら違うと言ってください!」
「いや、その通りだよ。あいつなら素直に送り出してくれると思って頼んだ」
「どうしてそんなことを……」
出会ってから約1年。
リャンは未だにアラタのことをよく理解できていない。
彼は訳が分からなすぎるのだ。
やる事なす事考える事全てがメチャクチャで、自分勝手で、人のいう事を聞かず、自分の命を軽く見ている。
アラタは、リャンからすれば宇宙人そのもの。
「どうして! どうして自分1人で抱え込もうとするんですか!」
「1人じゃない。だから安心しろ」
「そういうことではない!」
今までに聞いた事の無いほど大きなリャンの声。
騒ぎになっても人が集まらないのは、アーキムがコントロールしているからなのだろう。
アーキムのアラタに対する感情はさておき、命令に忠実なのは褒められるべき点だ。
「アラタ、全員で行くべきです。それならまだ引き下がれる」
「いや、無理。俺だけでいい」
「なぜ?」
「お前らには帰ってから頼みたいことがある」
「じゃあ、なぜ自分でやらないんですか」
「俺はこっち、お前らはあっち。適材適所で行こうってこと」
「意味が分かりません」
「アーキムが知っている。聞き分けろ。でないと」
休んでいたおかげか、いくらか顔色が回復したアラタは、左手で鞘を掴んだ。
右手で柄を握ってしまえば、もう後戻りはできそうにない。
今はまだその余地を残しているが、リャンが意にそぐわない行動を取れば即座に刀を抜くことだろう。
「卑怯ですよ」
「何とでも言え。とにかく俺は行く」
柄から手を離すと、アラタはフードを被った。
初期ロットの黒鎧ではない。
むしろ古い、アラタが特配課の頃から着用していたケープだ。
エヴァラトルコヴィッチを討ち取った戦いで、アラタの黒鎧は一部修復不可能なレベルで損壊した。
それを補うために、一部スペア状態になっている。
性能的に劣化は免れないが、それでも問題ないのは彼の技量のおかげ。
ただ見送る事しかできないリャンは、【魔術効果減衰】しか能がない自分を恨んだ。
もう少し戦えるのなら、消耗しているアラタくらい止めることが出来たかもしれない。
それならそれでアーキム辺りが近くに控えていて、こちらの邪魔をするくらいはしそうなものだが。
どちらにせよ、アラタの意志は通ってリャンの意志は拒絶された。
たとえ仲間内だろうと、強権を振るえるのは常に強者だけである。
「アラタ」
「あ?」
「アラタは一体、いつからそんな感じなんですかね」
「さぁ……分からない」
それだけ言うと、アラタは隊列から離れて反対方向へと歩き出したのだった。
何で1人で突っ走るのか。
そんなの俺だって知らねえよ。
仲間を頼ればいい?
確かにそうかもしれない。
でも、それが間違っているかもしれない。
俺のことは俺が責任を持つけれど、他の誰かの人生の責任まで面倒を見れないんだよ。
だから置いていく、さよならする、そういうもんだろ。
アラタは小走りになった。
進む方向から歓声が聞こえてきたから。
くすねてきたポーションを摂取して、また魔力を底上げする。
後悔しない選択なんて、今までの人生で一度も経験したことがない。
どんなに些細な選択でも、大なり小なり絶対に反省することはあったし、それはきっと今後も変わらないんだろう。
今更どうにかしようなんて無理だし、虫が良すぎるし、人生そんなに都合よく進まないことはもうわかってる。
俺が何かをするときは、大抵後ろ向きな理由だ。
失いたくない、負けたくない、苦しみたくない、逃げたくない。
得たい、勝ちたい、喜びたい、向かいたい、じゃないんだよ。
今回も、見捨てられないだけだ。
助けたいじゃなくて、見捨てられないだけ。
ハルツさんに頼まれた……気がした。
あの人血で溺れてたから何も聞こえなかったし、喋れたとしてもそんなこと言わない。
多分あの人は、幸せに暮らせくらいのことしか言わない。
だから、これは俺のダメな性格のせいだ。
損切りすることが出来ないから、俺はこうしてダラダラと。
アラタの眼が、公国兵の姿を捉えた。
そのもう少し先には帝国兵の姿もある。
今はひたすら逃げているのか、公国軍の後ろは散々に食い破られている。
アラタが刀を抜いた。
鈍く光る銀色の刃は、戦争中に吐き出しそうになるくらい血を吸った。
本来なら刀身は暗く陰り、人斬りの相が出ることだろう。
しかし壊れない刀は、そんな使い手の色までも変更不可なのである。
いつだって太陽のように光り輝く刀身。
それは美術館に飾られているかの如く、美しいの一言に尽きる。
逃げたら後悔する。
進んでも後悔する。
でもここで進まなかったら、今までの自分の選択が間違いだったと認めることになるような気がして、怖くて逃げることが出来ない。
俺は俺が間違っていたと、そう認めることが出来ない。
まだ勝負の途中だから。
最終的に勝てば途中の敗北は全部過程に置き換わる。
「角度を付けて、燃やし尽くせ」
火属性魔術、豪炎。
魔力を燃料に広範囲に火炎をまき散らすそれは、周囲から酸素を奪い去り無力化する効果もついてくる凄惨な魔術。
そんな魔術を放てるのは、公国軍の中でも1桁しかいない。
「アラタ…………ッ!」
タリアは見知った黒髪長身の男を見て唇を噛んだ。
ビンタなんかで済ますものかと心に決めて、タリアはひとまず帝国兵を蹴散らすべく前に出たのだった。
彼は甲子園準決勝、投球練習を終えた時点でマウンドにうずくまり、そのまま降板した。
今も似たようなものである。
彼は撤退する公国軍の一員、第1192小隊の面々に荷馬車で搬送されている。
彼以外はみな騎馬もしくは徒歩で、アラタの隣には衣服やテントなどが積み込まれている。
その両脇の圧迫感が、狭い救急車の中と少しだけ被る。
あの時、俺に【痛覚軽減】があれば、まだ投げられたのに。
さっきからそんなことばかりを考えている。
確かに、腕が飛んでものたうち回ることなく戦える感覚遮断系スキルをもってすれば、内側側副靭帯損傷くらいどうってことなかった。
もちろんスキルをオフにすれば地獄のような痛みが待っている点は同じだが、試合の後の痛みならどんなに大きくても耐えられる自信があった。
彼はまた、故障をした。
何度繰り返してもちっとも学習しない。
今度はより重傷で、このままいけば近い将来命に関わることになる。
彼はまた、同じ問いの間口に立っていた。
——このまま何もしなければ、これ以上悪化することは無い。
ここで前に進めば、恐らく全てを失う。
前に進んだとして得られるものはほとんど何もなく、そんな答えの分かり切っている2択でアラタはいつも迷っている。
きっとこれは病気なのだろう。
分の悪い賭けをしなければ生きていけないような、ギャンブル中毒なのだろう。
「刀…………あるな」
左手を少し動かすと、触り慣れた金属の感触が指を冷やす。
壊れないという神の御墨付きをいただいたこの刀は、その影響なのか分解することも出来ない。
普通刀というのは複数のパーツから構成されていて、目釘を抜くことで柄や刀身、鍔などが分離する仕組みになっている。
それがどういうことか、アラタの刀は分解できない。
だから茎に刀匠の銘が刻まれているか、それすらも分からない。
見た目は特にこれといった特徴が無く、業物には見えない。
それでもそこそこ付き合いの長くなってきていたこの刀を、アラタは少しだけ気に入っていた。
「怒るだろうなぁ」
彼はよく、やってはいけないことをする。
誰かを悲しませるようなことだとか、怒らせるようなことを。
他人の金で博打を打つし、少し前は誰彼構わず試食気分で遊びまわったりしていた。
その度に、彼が荒れる度に、傍らには嘆き悲しむ人の影がある。
今度は誰が怒るのか、アラタの脳裏に浮かんだのは誰の悲しそうな顔だったのか。
アラタの手が側に置いていたポーチに伸びる。
黒鎧は念のため装着している状況。
刀も近くにある。
「アーキム、おいアーキム」
そしてアラタは部下の名前を小声で呼んだ。
※※※※※※※※※※※※※※※
いくら逃げる最中と言っても、不眠不休は現実的ではない。
半日に1回か2回くらいは小休止を取るし、殿を務める味方の情報収集も行っていた。
それら雑務を行うのはまだ動ける部隊、つまり第1192小隊である。
「アラタ、どこに行くんですか」
偵察から帰って来たリャン・グエルは、人気のないところを歩くアラタに声を掛けた。
彼は現在体調不良につき、馬車で寝ながら運ばれている最中のはず。
それがフル装備で大地を歩いているというのだから、リャンが声を掛けたのは正解である。
アラタはバツの悪そうな顔をした。
「戻る」
短く言い切ったところで、珍しくリャンの眉間に皺が寄った。
困った時の八の字眉ではなく、怒りの表情。
「また同じことを繰り返すつもりですか。大公選の時、それをやって失敗したのを忘れたんですか」
「忘れてはいない。でも、行かなきゃ」
つい半年前の出来事だ。
忘れようとしても忘れるものではないし、時間もほとんど経っていない。
あんな出来事、どんな人間でも忘れるはずが無かった。
困ったような顔をしながら、アラタはリャンに背を向けようとした。
それを黙って見送るほど、リャンも不感症ではない。
「待ちなさい! 自惚れるな!」
「自惚れ?」
後ろめたい気持ちが無いわけではない。
しかし、どこから自惚れなんて感情が出てきたのか、アラタは理解できなかった。
理解できなかったから、後ろを振り向いた。
「そうでしょうが! 自分なら戦局を変えられると思っているから! だからあなたは今も昔もたった1人で突っ走るんでしょうが!」
リャンの言う今も昔もとは、大公選の時と今現在。
アラタの受け取った今も昔もとは、日本にいた時と異世界に来てからの時間。
両者に認識の齟齬があれど、アラタはすぐに認識を切り替えた。
リャンには自分が異世界人であることを明かしていないと思い出したから。
これは大公選の時の話をしているのだと気づいた。
「前はお前らがいた。今回は206中隊がいる」
「だからって、私たちに黙っていく理由はないでしょう!」
「アーキムには言ってある。ちゃんと分かってくれた」
「でしょうね! 彼はアラタのことが嫌いなんですよ! だから何も心配しないで送り出したんですよ!」
「かもな」
「アラタだって、引き留められないと分かっていてアーキムに話したんでしょうが! えぇ!? 違うなら違うと言ってください!」
「いや、その通りだよ。あいつなら素直に送り出してくれると思って頼んだ」
「どうしてそんなことを……」
出会ってから約1年。
リャンは未だにアラタのことをよく理解できていない。
彼は訳が分からなすぎるのだ。
やる事なす事考える事全てがメチャクチャで、自分勝手で、人のいう事を聞かず、自分の命を軽く見ている。
アラタは、リャンからすれば宇宙人そのもの。
「どうして! どうして自分1人で抱え込もうとするんですか!」
「1人じゃない。だから安心しろ」
「そういうことではない!」
今までに聞いた事の無いほど大きなリャンの声。
騒ぎになっても人が集まらないのは、アーキムがコントロールしているからなのだろう。
アーキムのアラタに対する感情はさておき、命令に忠実なのは褒められるべき点だ。
「アラタ、全員で行くべきです。それならまだ引き下がれる」
「いや、無理。俺だけでいい」
「なぜ?」
「お前らには帰ってから頼みたいことがある」
「じゃあ、なぜ自分でやらないんですか」
「俺はこっち、お前らはあっち。適材適所で行こうってこと」
「意味が分かりません」
「アーキムが知っている。聞き分けろ。でないと」
休んでいたおかげか、いくらか顔色が回復したアラタは、左手で鞘を掴んだ。
右手で柄を握ってしまえば、もう後戻りはできそうにない。
今はまだその余地を残しているが、リャンが意にそぐわない行動を取れば即座に刀を抜くことだろう。
「卑怯ですよ」
「何とでも言え。とにかく俺は行く」
柄から手を離すと、アラタはフードを被った。
初期ロットの黒鎧ではない。
むしろ古い、アラタが特配課の頃から着用していたケープだ。
エヴァラトルコヴィッチを討ち取った戦いで、アラタの黒鎧は一部修復不可能なレベルで損壊した。
それを補うために、一部スペア状態になっている。
性能的に劣化は免れないが、それでも問題ないのは彼の技量のおかげ。
ただ見送る事しかできないリャンは、【魔術効果減衰】しか能がない自分を恨んだ。
もう少し戦えるのなら、消耗しているアラタくらい止めることが出来たかもしれない。
それならそれでアーキム辺りが近くに控えていて、こちらの邪魔をするくらいはしそうなものだが。
どちらにせよ、アラタの意志は通ってリャンの意志は拒絶された。
たとえ仲間内だろうと、強権を振るえるのは常に強者だけである。
「アラタ」
「あ?」
「アラタは一体、いつからそんな感じなんですかね」
「さぁ……分からない」
それだけ言うと、アラタは隊列から離れて反対方向へと歩き出したのだった。
何で1人で突っ走るのか。
そんなの俺だって知らねえよ。
仲間を頼ればいい?
確かにそうかもしれない。
でも、それが間違っているかもしれない。
俺のことは俺が責任を持つけれど、他の誰かの人生の責任まで面倒を見れないんだよ。
だから置いていく、さよならする、そういうもんだろ。
アラタは小走りになった。
進む方向から歓声が聞こえてきたから。
くすねてきたポーションを摂取して、また魔力を底上げする。
後悔しない選択なんて、今までの人生で一度も経験したことがない。
どんなに些細な選択でも、大なり小なり絶対に反省することはあったし、それはきっと今後も変わらないんだろう。
今更どうにかしようなんて無理だし、虫が良すぎるし、人生そんなに都合よく進まないことはもうわかってる。
俺が何かをするときは、大抵後ろ向きな理由だ。
失いたくない、負けたくない、苦しみたくない、逃げたくない。
得たい、勝ちたい、喜びたい、向かいたい、じゃないんだよ。
今回も、見捨てられないだけだ。
助けたいじゃなくて、見捨てられないだけ。
ハルツさんに頼まれた……気がした。
あの人血で溺れてたから何も聞こえなかったし、喋れたとしてもそんなこと言わない。
多分あの人は、幸せに暮らせくらいのことしか言わない。
だから、これは俺のダメな性格のせいだ。
損切りすることが出来ないから、俺はこうしてダラダラと。
アラタの眼が、公国兵の姿を捉えた。
そのもう少し先には帝国兵の姿もある。
今はひたすら逃げているのか、公国軍の後ろは散々に食い破られている。
アラタが刀を抜いた。
鈍く光る銀色の刃は、戦争中に吐き出しそうになるくらい血を吸った。
本来なら刀身は暗く陰り、人斬りの相が出ることだろう。
しかし壊れない刀は、そんな使い手の色までも変更不可なのである。
いつだって太陽のように光り輝く刀身。
それは美術館に飾られているかの如く、美しいの一言に尽きる。
逃げたら後悔する。
進んでも後悔する。
でもここで進まなかったら、今までの自分の選択が間違いだったと認めることになるような気がして、怖くて逃げることが出来ない。
俺は俺が間違っていたと、そう認めることが出来ない。
まだ勝負の途中だから。
最終的に勝てば途中の敗北は全部過程に置き換わる。
「角度を付けて、燃やし尽くせ」
火属性魔術、豪炎。
魔力を燃料に広範囲に火炎をまき散らすそれは、周囲から酸素を奪い去り無力化する効果もついてくる凄惨な魔術。
そんな魔術を放てるのは、公国軍の中でも1桁しかいない。
「アラタ…………ッ!」
タリアは見知った黒髪長身の男を見て唇を噛んだ。
ビンタなんかで済ますものかと心に決めて、タリアはひとまず帝国兵を蹴散らすべく前に出たのだった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
転生したらスケルトンに何が?
宗太
ファンタジー
佐藤隼人(40歳)は、アニメーターとして過労をしながら死にました。病院に送られた後、死亡したことが確認されました。彼は目を覚ましました。彼はスケルトンとしてに転生が!いま、隼人はこの新しい世界で幸せな生活を送ることができますか?
S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる