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第5章 第十五次帝国戦役編
第356話 私はそれを知りたいから
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ラッパの音は、特に関心の無い人間からすればトランペットと大差がない。
こんな事を言うと多方面から怒られそうな気がするが、事実である。
金管楽器の中の分類に明るくないのが普通の人間であり、彼らに最低限の音楽的教養を授けるのが日本の学校教育だ。
そして、アラタのように授業中まともに先生の話を聞いていた試しがない生徒は、この辺りの情報をまるで知らなかった。
知ろうとしなかった。
「……頭痛え」
「大丈夫か?」
「嫌なこと思い出した」
「ふん、どうでもいいから行くぞ」
「おう」
突撃ラッパの音の中、アラタは刀を振りかざした。
「突っ込めぇ!」
「「「おおおぉぉぉおおお!」」」
金管楽器の勇ましい音色は、彼にある場所ある時間の情景をありありと思い出させる。
阪神甲子園球場。
それが場所の名前。
2017年8月25日。
それが時間情報。
燃えるような熱い日だった。
あの日、限界を疾うに超えていた肉体と、人生最高のコンディションだったメンタルという、相反する肉体と精神の均衡を携えて、少年はマウンドに立った。
彼は試合中、敵味方を問わず応援の声は耳に入らないタイプの選手だった。
だから、味方の攻撃が終わり、相手の応援団と吹奏楽部による演奏の音が、今でも耳にこびりついている。
いつもはまるで聞こえなくて、記憶にすら残っていない外野の音。
それが、マウンドを降りて救護室に運び込まれ、すぐに救急車に乗せられるまでの間、イヤホンで聞いているのではないかというくらい煩かったのを、今でも覚えている。
あれは、悪夢だった。
ラッパの音は、彼の中のげに忌まわしき記憶を呼び覚ますトリガーとなった。
テレビ中継で見る分には大丈夫なのだ、生でなければ。
実際に球場に足を運ばなければ、この心的外傷後ストレス障害(PTSD)は起こりえない。
戦場という極限状態、トラウマを呼び覚ますラッパの音。
これから作戦の最終段階に移行するという緊張感と高揚感。
それらすべてが複合的に組み合わさり、青年は壊れ始めた。
「アラタ?」
味方は既に敵に攻撃を開始したというのに、1人動こうとしないアラタを見たリャンが不思議に感じて声を掛ける。
面倒見の良い彼は、きっとアラタの些細な変化に気づいたのだろう。
だが、気づいたところで、彼ではアラタを止められない。
——【狂化】、発動。
「アラ——」
金属製ワイヤーのように強靭な筋肉が、一気に緊張状態となって力を溜め込んだ。
それが限界に達すると、はじけ飛ぶように周囲に撒き散らされる。
「ガァア!」
唐竹割。
竹を割るように勢いよく一息に縦方向に破壊するという意味。
普通人体に対して適用する言葉ではない。
もし仮に使うとしても、それは例えや比喩の類であって、本当に唐竹割に至ることはまずない。
だってあり得ないだろう。
人間の頭をカチ割り、背骨に沿って体を真っ二つにして足の付け根で両断するなんて。
それをやられた相手が一体どれほどの激痛を味わうのか、想像を絶する。
もしかしたら痛みを感じる間もなく絶命したという線もある、そうであってほしい。
血と臓物と汚物と肉塊を振りまきながら、アラタの刀は地面すれすれで止まっていた。
敵兵を一人、文字通り真っ二つにした後で。
異世界、魔術やスキル、クラスが持ち出される戦争で、人の所業とは思えない遺体というのはしばしば散見される。
魔道具の先を傷口に無理矢理ねじ込み、内部から風刃を使用したケースや、土属性の魔術で生き埋めにしてしまうもの、他にも残虐な殺し方というのはいくらでもある。
しかし、頭から股まで一切の抵抗なく防具ごと一刀両断は、中々お目にかかれるものではなかった。
この戦場でそれを出来るとすれば、アラタの他に剣聖オーウェン・ブラックくらいだろう。
「ヒッ……」
「ヴゥゥ!」
恐れを飼い慣らす事が出来なければ、ただ死にゆくだけ。
また1人、死者が出た。
アラタは右手一本で振りかぶるように刀を振り、敵兵の顔にクリーンヒットした。
刃筋が綺麗に通ってない分、先ほどのような切れ味は体現できない。
斬ったのか潰したのかよく分からない傷痕は、顔面に負えばまず助からない。
スキル【狂化】により脳内に興奮物質と快楽物質が過剰分泌される。
それによって使用者は一時的に夢と現実の狭間を知覚しているような状態に陥り、理性的思考能力が著しく低下する。
その代わりに、五感を司る感覚細胞が受信する情報の取捨選択に新たなシナプス回路が生成され、平常時では到底不可能な情報処理速度を実現する。
異次元の反射は思考プロセスを省略することで一切の無駄なく行動に反映される。
その結果生み出されるのは、外界の情報に対して非常にセンシティブかつ無差別的に反応し、スキルを停止するか体力が枯渇するまで戦い続ける狂戦士だ。
アラタの刀が、反撃開始から3つ目になる命を奪った。
「アーキム……おい!」
エルモは立ち尽くしている同僚の肩をゆする。
それでようやく我に返った男は、為すべきことを考えた。
「あ……俺たちも戦うぞ! アラタとは少し距離を取るんだ!」
応、と周囲から反応が返ってくる。
第1192小隊でも、第301中隊でも、アラタの副官はリャン・グエルとアーキム・ラトレイアである。
隊長がまともな判断能力を有していない以上、隊員たちが指示を仰ぐのはリャンかアーキム、そしてリャンは既に体力の限界から戦線を離脱している。
部隊を取りまとめるのは、今だけは俺の仕事だ。
「エルモ、バートン、少し力を貸してくれ」
「よっし」
「あぁ」
「俺たちで小隊をまとめるぞ。大仕事だ」
そう意気込む彼の掌に、一つの包み紙がある。
アーキムはその中に保存されていた金平糖のようなものを、まるっとそのまま飲み込んだ。
見た目上、特に変化はない。
ただし、彼自身はそれの効果を体感したようだ。
「それなに?」
「魔石だ」
「何の?」
「……知らない方が良い」
ポーションよりもさらに効果が強く、体に悪い魔石。
それを体内に取り込んだという事実が、彼の覚悟のほどを表している。
アラタが暴走したせいで、アーキムが小隊を指揮する。
しかし彼自身が戦わなくていいかと問われるとそんなことは無く、むしろ負荷は増えるばかり。
ポーションを中心とした通常の体力管理では、追いつかないという判断。
彼の体内で、魔石が熱く脈動していた。
「1192小隊! セミタイトで戦うぞ! 2のAの2!」
退却を続けていた公国軍の反撃が開始された。
※※※※※※※※※※※※※※※
1kmか。
遠すぎる。
包囲している敵の練度にもよるが……まあ無理だろう。
あのクソボケバカ元帥、帰ったら殺してやる。
「少佐殿! ご指示を!」
「待て」
攻めるのはいいが、中々にまずいな。
お行儀よく戦っていては事前準備の差が大きすぎるか。
——乱戦だな。
「レイモンド少佐!」
「総員、近接格闘の準備を。細かい陣形などは必要なし、分隊行動、最大でも小隊規模の行動を基礎とせよ。乱戦は当方の望むところである」
「抜剣!」
「大型の弓は役に立たん、取り回しのことを考えろ! そこ! 弦を張り直す時間は無い!」
公国軍を倒すためにわざわざ川を渡って来た帝国軍は、窮地に陥っていた。
前、右、左、斜め両後ろ。
およそ270°を敵が包囲している。
地の利は完全に敵の手に落ちていて、アドバンテージは掻き消えた。
もはや残されているアドバンテージは、兵士1人1人の戦闘力と追撃途中であるという状態のみ。
戦場の至る所で、帝国軍士官は同じ決断を下していた。
この出撃自体緊急的なものがあるので、指揮系統のトップは一つではない。
最大でも連隊規模の指揮官が個々に戦況を分析し、司令部からの指示を遂行する。
それでは時に、軍がバラバラの行動をとることもあるだろう、そういう意味では非常に危険で非合理的な運用方法だ。
とても軍を管理するためのメソッドとは思えない。
しかし、
「諸君、仕事をしよう」
各指揮官たちの判断は同じものだった。
退却することによって生じる被害は、帝国軍の敗北に直結する。
下がりながら戦うには相応の犠牲を覚悟せねばならないから。
彼らが覚悟する犠牲は、帝国軍の実に5割を超えていたから。
それでは勝てない、公国の地を簒奪することが出来ない。
彼らは自身らを侵略者だとはっきり認識している。
綺麗ごとを言える立場ではないと、明確に理解している。
俺たちは悪い人間だぜ、それが何か?
そう顔についた尻の穴から吹く輩がこの世で一番質が悪い。
しかし、悪人の力は侮れない。
攻めて、公国軍を彼らが綿密に立てたであろう作戦ごと粉砕する。
なぜなら敵も退却戦を強いられてきて甚大な被害と疲労感を背負いながら戦っているはずだから。
やろうとして出来ないことなど何もない。
帝国軍の将官たちは、そのように叩き込まれている。
まったく、悪しき教育だ。
歪んだ正義よりも、純粋な悪意の方が強いのは想像に難くない。
「進撃だ! 帝国兵!」
地響きが鳴る。
もっと良い暮らしをしたい、楽をしたい、貧乏から抜け出したい、空腹を満たしたい。
我欲は積み重なり、やがて国家の意志になる。
それは対外戦略を凶暴な物へと作り替え、侵略をも厭わないならず者国家として成長させる。
そんな国家がこの世界において最大の勢力を誇るというのだから、異世界もアラタが元居た世界に比肩するほどの醜悪さを持っている。
帝国軍1万8千改め1万7千。
公国軍1万6千5百。
地の利、計略は公国軍に軍配が上がった。
兵士の強さ、数は帝国軍が勝利した。
ここまでくれば、どっちに転ぶかなんて分からない。
それこそ、『神のみぞ知る』なんて言う連中も出てくるはずだ。
彼らの言う神が、一体なんのことを指しているのか、正直分からない。
ただ唯一の存在を信奉するか、数多の神に頼み込むか、それとも自身に願うのか。
もしこの異世界を作り出した存在を神だと仮定するのなら、彼の存在に代わってその問いに対する答えを贈ろう。
——それを知りたいから、私はこの世界を創造した。
こんな事を言うと多方面から怒られそうな気がするが、事実である。
金管楽器の中の分類に明るくないのが普通の人間であり、彼らに最低限の音楽的教養を授けるのが日本の学校教育だ。
そして、アラタのように授業中まともに先生の話を聞いていた試しがない生徒は、この辺りの情報をまるで知らなかった。
知ろうとしなかった。
「……頭痛え」
「大丈夫か?」
「嫌なこと思い出した」
「ふん、どうでもいいから行くぞ」
「おう」
突撃ラッパの音の中、アラタは刀を振りかざした。
「突っ込めぇ!」
「「「おおおぉぉぉおおお!」」」
金管楽器の勇ましい音色は、彼にある場所ある時間の情景をありありと思い出させる。
阪神甲子園球場。
それが場所の名前。
2017年8月25日。
それが時間情報。
燃えるような熱い日だった。
あの日、限界を疾うに超えていた肉体と、人生最高のコンディションだったメンタルという、相反する肉体と精神の均衡を携えて、少年はマウンドに立った。
彼は試合中、敵味方を問わず応援の声は耳に入らないタイプの選手だった。
だから、味方の攻撃が終わり、相手の応援団と吹奏楽部による演奏の音が、今でも耳にこびりついている。
いつもはまるで聞こえなくて、記憶にすら残っていない外野の音。
それが、マウンドを降りて救護室に運び込まれ、すぐに救急車に乗せられるまでの間、イヤホンで聞いているのではないかというくらい煩かったのを、今でも覚えている。
あれは、悪夢だった。
ラッパの音は、彼の中のげに忌まわしき記憶を呼び覚ますトリガーとなった。
テレビ中継で見る分には大丈夫なのだ、生でなければ。
実際に球場に足を運ばなければ、この心的外傷後ストレス障害(PTSD)は起こりえない。
戦場という極限状態、トラウマを呼び覚ますラッパの音。
これから作戦の最終段階に移行するという緊張感と高揚感。
それらすべてが複合的に組み合わさり、青年は壊れ始めた。
「アラタ?」
味方は既に敵に攻撃を開始したというのに、1人動こうとしないアラタを見たリャンが不思議に感じて声を掛ける。
面倒見の良い彼は、きっとアラタの些細な変化に気づいたのだろう。
だが、気づいたところで、彼ではアラタを止められない。
——【狂化】、発動。
「アラ——」
金属製ワイヤーのように強靭な筋肉が、一気に緊張状態となって力を溜め込んだ。
それが限界に達すると、はじけ飛ぶように周囲に撒き散らされる。
「ガァア!」
唐竹割。
竹を割るように勢いよく一息に縦方向に破壊するという意味。
普通人体に対して適用する言葉ではない。
もし仮に使うとしても、それは例えや比喩の類であって、本当に唐竹割に至ることはまずない。
だってあり得ないだろう。
人間の頭をカチ割り、背骨に沿って体を真っ二つにして足の付け根で両断するなんて。
それをやられた相手が一体どれほどの激痛を味わうのか、想像を絶する。
もしかしたら痛みを感じる間もなく絶命したという線もある、そうであってほしい。
血と臓物と汚物と肉塊を振りまきながら、アラタの刀は地面すれすれで止まっていた。
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この戦場でそれを出来るとすれば、アラタの他に剣聖オーウェン・ブラックくらいだろう。
「ヒッ……」
「ヴゥゥ!」
恐れを飼い慣らす事が出来なければ、ただ死にゆくだけ。
また1人、死者が出た。
アラタは右手一本で振りかぶるように刀を振り、敵兵の顔にクリーンヒットした。
刃筋が綺麗に通ってない分、先ほどのような切れ味は体現できない。
斬ったのか潰したのかよく分からない傷痕は、顔面に負えばまず助からない。
スキル【狂化】により脳内に興奮物質と快楽物質が過剰分泌される。
それによって使用者は一時的に夢と現実の狭間を知覚しているような状態に陥り、理性的思考能力が著しく低下する。
その代わりに、五感を司る感覚細胞が受信する情報の取捨選択に新たなシナプス回路が生成され、平常時では到底不可能な情報処理速度を実現する。
異次元の反射は思考プロセスを省略することで一切の無駄なく行動に反映される。
その結果生み出されるのは、外界の情報に対して非常にセンシティブかつ無差別的に反応し、スキルを停止するか体力が枯渇するまで戦い続ける狂戦士だ。
アラタの刀が、反撃開始から3つ目になる命を奪った。
「アーキム……おい!」
エルモは立ち尽くしている同僚の肩をゆする。
それでようやく我に返った男は、為すべきことを考えた。
「あ……俺たちも戦うぞ! アラタとは少し距離を取るんだ!」
応、と周囲から反応が返ってくる。
第1192小隊でも、第301中隊でも、アラタの副官はリャン・グエルとアーキム・ラトレイアである。
隊長がまともな判断能力を有していない以上、隊員たちが指示を仰ぐのはリャンかアーキム、そしてリャンは既に体力の限界から戦線を離脱している。
部隊を取りまとめるのは、今だけは俺の仕事だ。
「エルモ、バートン、少し力を貸してくれ」
「よっし」
「あぁ」
「俺たちで小隊をまとめるぞ。大仕事だ」
そう意気込む彼の掌に、一つの包み紙がある。
アーキムはその中に保存されていた金平糖のようなものを、まるっとそのまま飲み込んだ。
見た目上、特に変化はない。
ただし、彼自身はそれの効果を体感したようだ。
「それなに?」
「魔石だ」
「何の?」
「……知らない方が良い」
ポーションよりもさらに効果が強く、体に悪い魔石。
それを体内に取り込んだという事実が、彼の覚悟のほどを表している。
アラタが暴走したせいで、アーキムが小隊を指揮する。
しかし彼自身が戦わなくていいかと問われるとそんなことは無く、むしろ負荷は増えるばかり。
ポーションを中心とした通常の体力管理では、追いつかないという判断。
彼の体内で、魔石が熱く脈動していた。
「1192小隊! セミタイトで戦うぞ! 2のAの2!」
退却を続けていた公国軍の反撃が開始された。
※※※※※※※※※※※※※※※
1kmか。
遠すぎる。
包囲している敵の練度にもよるが……まあ無理だろう。
あのクソボケバカ元帥、帰ったら殺してやる。
「少佐殿! ご指示を!」
「待て」
攻めるのはいいが、中々にまずいな。
お行儀よく戦っていては事前準備の差が大きすぎるか。
——乱戦だな。
「レイモンド少佐!」
「総員、近接格闘の準備を。細かい陣形などは必要なし、分隊行動、最大でも小隊規模の行動を基礎とせよ。乱戦は当方の望むところである」
「抜剣!」
「大型の弓は役に立たん、取り回しのことを考えろ! そこ! 弦を張り直す時間は無い!」
公国軍を倒すためにわざわざ川を渡って来た帝国軍は、窮地に陥っていた。
前、右、左、斜め両後ろ。
およそ270°を敵が包囲している。
地の利は完全に敵の手に落ちていて、アドバンテージは掻き消えた。
もはや残されているアドバンテージは、兵士1人1人の戦闘力と追撃途中であるという状態のみ。
戦場の至る所で、帝国軍士官は同じ決断を下していた。
この出撃自体緊急的なものがあるので、指揮系統のトップは一つではない。
最大でも連隊規模の指揮官が個々に戦況を分析し、司令部からの指示を遂行する。
それでは時に、軍がバラバラの行動をとることもあるだろう、そういう意味では非常に危険で非合理的な運用方法だ。
とても軍を管理するためのメソッドとは思えない。
しかし、
「諸君、仕事をしよう」
各指揮官たちの判断は同じものだった。
退却することによって生じる被害は、帝国軍の敗北に直結する。
下がりながら戦うには相応の犠牲を覚悟せねばならないから。
彼らが覚悟する犠牲は、帝国軍の実に5割を超えていたから。
それでは勝てない、公国の地を簒奪することが出来ない。
彼らは自身らを侵略者だとはっきり認識している。
綺麗ごとを言える立場ではないと、明確に理解している。
俺たちは悪い人間だぜ、それが何か?
そう顔についた尻の穴から吹く輩がこの世で一番質が悪い。
しかし、悪人の力は侮れない。
攻めて、公国軍を彼らが綿密に立てたであろう作戦ごと粉砕する。
なぜなら敵も退却戦を強いられてきて甚大な被害と疲労感を背負いながら戦っているはずだから。
やろうとして出来ないことなど何もない。
帝国軍の将官たちは、そのように叩き込まれている。
まったく、悪しき教育だ。
歪んだ正義よりも、純粋な悪意の方が強いのは想像に難くない。
「進撃だ! 帝国兵!」
地響きが鳴る。
もっと良い暮らしをしたい、楽をしたい、貧乏から抜け出したい、空腹を満たしたい。
我欲は積み重なり、やがて国家の意志になる。
それは対外戦略を凶暴な物へと作り替え、侵略をも厭わないならず者国家として成長させる。
そんな国家がこの世界において最大の勢力を誇るというのだから、異世界もアラタが元居た世界に比肩するほどの醜悪さを持っている。
帝国軍1万8千改め1万7千。
公国軍1万6千5百。
地の利、計略は公国軍に軍配が上がった。
兵士の強さ、数は帝国軍が勝利した。
ここまでくれば、どっちに転ぶかなんて分からない。
それこそ、『神のみぞ知る』なんて言う連中も出てくるはずだ。
彼らの言う神が、一体なんのことを指しているのか、正直分からない。
ただ唯一の存在を信奉するか、数多の神に頼み込むか、それとも自身に願うのか。
もしこの異世界を作り出した存在を神だと仮定するのなら、彼の存在に代わってその問いに対する答えを贈ろう。
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