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第2章 冒険者アラタ編
第18話 自主練習と実戦練習
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アラタがミノタウロスの素材を全てダメにしたあのクエストから数日、毎日Dランクのクエストを受けていた一行だったが今日のアラタは2人とは別行動だ。
今日リーゼ、ノエル両名は迷宮、ダンジョンに魔物討伐に赴いている。
アラタのような駆け出しFランク冒険者はともかく、2人のような一人前の冒険者になると指名でのクエストが入ることもよくある。
今回のクエストはまさにその指名クエストであり2人もそれを了承、受注と相成ったのだ。
先日もそうだったがダンジョンとは何ぞや、その質問を出発前の2人に投げかけたところリーゼから分かりやすくありがたいお話と題してダンジョンについて説明があった。
「いいですか、ダンジョンとは閉鎖空間内に魔物が定期的に発生する特定危険区域のことを指します。魔物がどんな原理で発生しているのかは不明、というか研究中ですがとにかくダンジョンはその性質上無限の富を得る宝箱のような存在です」
「はい、じゃあリーゼたちはこれから宝探しに行くのか?」
「ブッブー違います。今回のクエストはダンジョン内に生息する魔物の密度をコントロールするための管理業務です。戦利品はギルドを介して市場に出回ります。私たちの取り分は金銭のみです」
つまりこのクエストはダンジョンと言う大きな宝箱の掃除でありその最中に出たゴミは一切合切国のものになるという話なのだ。
「この前のミノタウロスは肉をもらえるという話だったのに誰かが全滅させたからな」
「ノエル、いい加減許してあげてくださいよ。アラタだってまだ慣れていないんですから」
「そうだよ。初心者の俺をもっと甘やかしてよ」
「次やったら本当に解体するからな」
リーゼ先生の講義にノエルが乱入した辺りで授業はお開きになり2人はダンジョンへ向けて出発していった。
この街にあるダンジョン、アトラダンジョンとはあまりにも安直すぎる名前だが文字が読めないアラタにとって余計な単語は増えない方がうれしいので2人に倣ってダンジョンと呼ぶことにした。
さて、そんな彼が今何をしているのかと言えば、刀を振っている。
有り体に言えば、自主練習である。
アトラの街に来て数日、ようやく落ち着いてきて1日のサイクルと言うものが定まりつつあったがそのサイクルではアラタの自主練習は夜に行われることがほとんどだった。
それは日中クエストを受けているからでありその昼間の間暇になればじゃあ遊びに行くか、寝るか、となるのが常人の発想だが彼にそんな余裕はなかった。
2人は今ダンジョン内部で実戦の真っ最中、それについていけない自分が休んでいていいはずがない、試合に連れて行ってもらえずに学校のグラウンドで練習を言い渡された選手のような感情が彼の内から芽生えていたのだ。
強くならなければ生きていけない、それはどこでもそうだが冒険者と言う仕事はよりそれが顕著な職業だった。
少し可能性の話をすると、アラタがもう少し不真面目で自分の立場を最大限利用する人間だった場合、恐らく彼は自身の特殊性から2人に便宜を引き出し働くことなく生活することを選んだに違いない。
実際それは立ち回り次第で可能になる範囲のことだった。
リーゼもノエルも冒険者をせずとも生きていけるほどの名家の出身で男一人囲うだけの金額など簡単に用意できる。
だがこの妙なところでくそまじめで律儀な異世界人はそうしない。
そうするだけの頭がないせいでもあるがそこまで悪役になれない点が彼の良いところであり悪いところであった。
「俺にもクラスがあればなあ」
野菜収穫クエストでリーゼが見せた魔術という超常現象、2人に教えてほしいと言ったけどどうにも感触が悪い。
それでも魔術を教えてくれる人を探してくれると言うので俺に魔術を習得させる気はあるのだができれば早く魔術に関して練習を開始したい。
この世界に来てから元の世界にあった娯楽から強制的に切り離されたというのもあるがこの世界には面白いものがたくさん転がっている。
それに加えて命がかかる職業、手を抜くことはできないしやろうとも思わない。
そんなことを考えながらアラタは刀を振り続けた。
途中食事休憩や小休止を挟みながらぶっ通し刀を振り続けたアラタの手は水ぶくれや血マメが破裂し皮膚がめくれている。
アラタにとってはそれも慣れっこなのでどうと言うことはないが痛々しいその掌はアラタのブランクを意味していた。
大学生になってからも惰性で、習慣で、呪われたようにトレーニングを続けていた彼だが流石にバットはもう振っていなかった。
手のひらや指先の硬化した皮膚は徐々に薄くなり元の綺麗な手に戻る。
それが野球をやめた元野球選手の辿る道でありアラタがバットの代わりに刀を手にした時、彼の手はすべすべだった。
連日筋肉痛のアラタは思う。
目的のある練習を続けていてそれなりに体力が戻ってきたと感じる反面、それでもリーゼやノエルと比べればはるかに劣る自分の力の無さ、クラスというやつは不公平にできていると思う。
クラス間で有利不利や優劣が存在することは仕方ないことだと思うが、そもそもクラス自体がない人間なんてその土俵にすら上がれないのだ。
流石にこれは不公平じゃないか?
せめて身体能力を向上させるようなスキルだったり魔術があるなら話は変わるのだけど。
とにかくアラタは早く一人前になりたかった。
冒険者にこだわりはないがそれでも異世界人であるという点を除いたら何ものでもない自分から脱却したかった。
ヒモのアラタなんて言う不名誉極まりない呼び名を早々に改めさせてその上で自分が何者になるのか自分の手で決めたかった。
そして青年は刀を振るう。
日も落ちスキル【暗視】を練習がてら起動していた視界に怪しい影が映る。
「今のは……なんだろう」
アラタの眼には顔を隠した人間の小脇に抱えられるように連れていかれる子供の姿が見えた気がした。
こんな夜中に、見間違えでなければ、いや、これって普通に、
「誘拐、だよな?」
アラタはすぐに後を追う。
なぜそうしたのかは分からない。
誘拐なんてニュースの中の出来事で、自分に関係ある話だなんて思っていなかった。
レイテ村での一件と言い、日本ではなかなか遭遇しない出来事が簡単に目の前に現れる。
日本でこんな場面に遭遇してもせいぜい警察に通報するのが関の山だっただろうな。
そう考えると俺も変わったのかもしれない。
冒険者として、刀を扱うものとして少し強くなったと思うからそんな万能感に酔っているのか、それとも本当にこの世界に来て性格が変わり始めているのか。
「別に悪いことじゃないし。まあ理由が無きゃ動いちゃいけないわけじゃないし」
言い訳をするように、意外な自分の行動と心を擦り合わせるように独り言を呟いた。
俺でもついていける速さ、いつまで走るのか分からないけどいったいどこまで行くのだろう、そんなことをアラタが考えている時対象が足を止めた。
「何者かは知らんが……命が惜しかったらさっさと帰ることだな」
尾行していたことにばれた、まあ尾行技術なんて持っていないしな、と観念して答える。
「それ、人だよな。せめて理由位は知りたいなーなんて」
「だったらなんだというのだ。別に人攫いくらい珍しい話でもないだろう」
悪びれることなくそう言い放つ男から推し量れる倫理観はアラタと相いれない、それだけで普通の社会性を身に着けていない薄暗い人間であることはアラタでも分かった。
「……まあいい。目撃者は消す」
男は武器を取り出し子供を降ろす。
口を塞がれ縛られているのか逃げることも声を上げることもしない。
アラタも刀を抜きつつ敵の武器を考察する。
この時点でアラタの脳内に逃げるという選択肢はなかった。
ナイフのようなものか?
それにしては大きい、あの本に書いてあった小刀とか短剣に分類されるものかな。
「珍しい剣だな」
その一言は何の考えもなく放った一言だったのだろう。
だが暗視を持つアラタからすれば向こうもこの夜の路地裏の中自分の武器が見えているということを自白しているようなものだった。
アラタは答えない、言葉を発することで自分も同じように敵に何かを教えてしまうかもしれないから。
「沈黙か、いい心がけだ。答えは身ぐるみを剥いで確かめるとしよう!」
男は一気に距離を詰めアラタに迫る。
速ぇえ!
けど見えなくはない。
アラタは一歩下がり間合いを確保すると有利な位置取りをしようと足を動かす。
……くっそ、こいつ、影みたいに張り付きやがる。
アラタの武器の方がリーチは有利だがその内側で張り付かれては意味がない。
ナイフも攻撃を受けようとしてもなかなか捉えなれない、避けるほうがアタリか?
「やべえかも」
「意外と大したことないな。多少頑丈そうだがすぐにバラバラにしてやる」
男はさらに半歩程間合いを内側に詰める。
敵の攻撃を受けきれずナイフが服の上からアラタの皮膚を撫でる。
痛覚軽減を起動すればまだ動きに支障はない、けど確実にもらい過ぎだ。
アラタは渾身の力で横なぎに刀を振りぬく。
これは躱されたが敵は後ろ向きに飛びのき両者に距離が出来た。
はーつえー。
当たり前みたいに斬り合っているけど超怖いしなんなら今からでいいから超逃げたい。
息を整えていると余計な思考まで復活してしまう。
盗賊を殺したとき、自分で刀を振る選択をしておきながら迷った。
人をこんなに簡単に殺してもいいのか、傷つけてもいいのか、それが弱さとして出て俺の体を傷つけた。
迷えば死ぬ、ここは日本じゃない、異世界なんだ。
考えろ、勝つ方法を、生き残る方法を、あの子を助ける方法を。
大丈夫、戦える。
今自分に出来ることを精一杯、そう決め余裕が戻り顔に生気を取り戻したアラタを嘲笑うかのように男は声をかける。
「もう懐には潜り込ませない、だろう?」
「だったら?」
「果たして考えた通りに事は運ぶかな?」
…………男の姿が揺らいだ。
今日リーゼ、ノエル両名は迷宮、ダンジョンに魔物討伐に赴いている。
アラタのような駆け出しFランク冒険者はともかく、2人のような一人前の冒険者になると指名でのクエストが入ることもよくある。
今回のクエストはまさにその指名クエストであり2人もそれを了承、受注と相成ったのだ。
先日もそうだったがダンジョンとは何ぞや、その質問を出発前の2人に投げかけたところリーゼから分かりやすくありがたいお話と題してダンジョンについて説明があった。
「いいですか、ダンジョンとは閉鎖空間内に魔物が定期的に発生する特定危険区域のことを指します。魔物がどんな原理で発生しているのかは不明、というか研究中ですがとにかくダンジョンはその性質上無限の富を得る宝箱のような存在です」
「はい、じゃあリーゼたちはこれから宝探しに行くのか?」
「ブッブー違います。今回のクエストはダンジョン内に生息する魔物の密度をコントロールするための管理業務です。戦利品はギルドを介して市場に出回ります。私たちの取り分は金銭のみです」
つまりこのクエストはダンジョンと言う大きな宝箱の掃除でありその最中に出たゴミは一切合切国のものになるという話なのだ。
「この前のミノタウロスは肉をもらえるという話だったのに誰かが全滅させたからな」
「ノエル、いい加減許してあげてくださいよ。アラタだってまだ慣れていないんですから」
「そうだよ。初心者の俺をもっと甘やかしてよ」
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この街にあるダンジョン、アトラダンジョンとはあまりにも安直すぎる名前だが文字が読めないアラタにとって余計な単語は増えない方がうれしいので2人に倣ってダンジョンと呼ぶことにした。
さて、そんな彼が今何をしているのかと言えば、刀を振っている。
有り体に言えば、自主練習である。
アトラの街に来て数日、ようやく落ち着いてきて1日のサイクルと言うものが定まりつつあったがそのサイクルではアラタの自主練習は夜に行われることがほとんどだった。
それは日中クエストを受けているからでありその昼間の間暇になればじゃあ遊びに行くか、寝るか、となるのが常人の発想だが彼にそんな余裕はなかった。
2人は今ダンジョン内部で実戦の真っ最中、それについていけない自分が休んでいていいはずがない、試合に連れて行ってもらえずに学校のグラウンドで練習を言い渡された選手のような感情が彼の内から芽生えていたのだ。
強くならなければ生きていけない、それはどこでもそうだが冒険者と言う仕事はよりそれが顕著な職業だった。
少し可能性の話をすると、アラタがもう少し不真面目で自分の立場を最大限利用する人間だった場合、恐らく彼は自身の特殊性から2人に便宜を引き出し働くことなく生活することを選んだに違いない。
実際それは立ち回り次第で可能になる範囲のことだった。
リーゼもノエルも冒険者をせずとも生きていけるほどの名家の出身で男一人囲うだけの金額など簡単に用意できる。
だがこの妙なところでくそまじめで律儀な異世界人はそうしない。
そうするだけの頭がないせいでもあるがそこまで悪役になれない点が彼の良いところであり悪いところであった。
「俺にもクラスがあればなあ」
野菜収穫クエストでリーゼが見せた魔術という超常現象、2人に教えてほしいと言ったけどどうにも感触が悪い。
それでも魔術を教えてくれる人を探してくれると言うので俺に魔術を習得させる気はあるのだができれば早く魔術に関して練習を開始したい。
この世界に来てから元の世界にあった娯楽から強制的に切り離されたというのもあるがこの世界には面白いものがたくさん転がっている。
それに加えて命がかかる職業、手を抜くことはできないしやろうとも思わない。
そんなことを考えながらアラタは刀を振り続けた。
途中食事休憩や小休止を挟みながらぶっ通し刀を振り続けたアラタの手は水ぶくれや血マメが破裂し皮膚がめくれている。
アラタにとってはそれも慣れっこなのでどうと言うことはないが痛々しいその掌はアラタのブランクを意味していた。
大学生になってからも惰性で、習慣で、呪われたようにトレーニングを続けていた彼だが流石にバットはもう振っていなかった。
手のひらや指先の硬化した皮膚は徐々に薄くなり元の綺麗な手に戻る。
それが野球をやめた元野球選手の辿る道でありアラタがバットの代わりに刀を手にした時、彼の手はすべすべだった。
連日筋肉痛のアラタは思う。
目的のある練習を続けていてそれなりに体力が戻ってきたと感じる反面、それでもリーゼやノエルと比べればはるかに劣る自分の力の無さ、クラスというやつは不公平にできていると思う。
クラス間で有利不利や優劣が存在することは仕方ないことだと思うが、そもそもクラス自体がない人間なんてその土俵にすら上がれないのだ。
流石にこれは不公平じゃないか?
せめて身体能力を向上させるようなスキルだったり魔術があるなら話は変わるのだけど。
とにかくアラタは早く一人前になりたかった。
冒険者にこだわりはないがそれでも異世界人であるという点を除いたら何ものでもない自分から脱却したかった。
ヒモのアラタなんて言う不名誉極まりない呼び名を早々に改めさせてその上で自分が何者になるのか自分の手で決めたかった。
そして青年は刀を振るう。
日も落ちスキル【暗視】を練習がてら起動していた視界に怪しい影が映る。
「今のは……なんだろう」
アラタの眼には顔を隠した人間の小脇に抱えられるように連れていかれる子供の姿が見えた気がした。
こんな夜中に、見間違えでなければ、いや、これって普通に、
「誘拐、だよな?」
アラタはすぐに後を追う。
なぜそうしたのかは分からない。
誘拐なんてニュースの中の出来事で、自分に関係ある話だなんて思っていなかった。
レイテ村での一件と言い、日本ではなかなか遭遇しない出来事が簡単に目の前に現れる。
日本でこんな場面に遭遇してもせいぜい警察に通報するのが関の山だっただろうな。
そう考えると俺も変わったのかもしれない。
冒険者として、刀を扱うものとして少し強くなったと思うからそんな万能感に酔っているのか、それとも本当にこの世界に来て性格が変わり始めているのか。
「別に悪いことじゃないし。まあ理由が無きゃ動いちゃいけないわけじゃないし」
言い訳をするように、意外な自分の行動と心を擦り合わせるように独り言を呟いた。
俺でもついていける速さ、いつまで走るのか分からないけどいったいどこまで行くのだろう、そんなことをアラタが考えている時対象が足を止めた。
「何者かは知らんが……命が惜しかったらさっさと帰ることだな」
尾行していたことにばれた、まあ尾行技術なんて持っていないしな、と観念して答える。
「それ、人だよな。せめて理由位は知りたいなーなんて」
「だったらなんだというのだ。別に人攫いくらい珍しい話でもないだろう」
悪びれることなくそう言い放つ男から推し量れる倫理観はアラタと相いれない、それだけで普通の社会性を身に着けていない薄暗い人間であることはアラタでも分かった。
「……まあいい。目撃者は消す」
男は武器を取り出し子供を降ろす。
口を塞がれ縛られているのか逃げることも声を上げることもしない。
アラタも刀を抜きつつ敵の武器を考察する。
この時点でアラタの脳内に逃げるという選択肢はなかった。
ナイフのようなものか?
それにしては大きい、あの本に書いてあった小刀とか短剣に分類されるものかな。
「珍しい剣だな」
その一言は何の考えもなく放った一言だったのだろう。
だが暗視を持つアラタからすれば向こうもこの夜の路地裏の中自分の武器が見えているということを自白しているようなものだった。
アラタは答えない、言葉を発することで自分も同じように敵に何かを教えてしまうかもしれないから。
「沈黙か、いい心がけだ。答えは身ぐるみを剥いで確かめるとしよう!」
男は一気に距離を詰めアラタに迫る。
速ぇえ!
けど見えなくはない。
アラタは一歩下がり間合いを確保すると有利な位置取りをしようと足を動かす。
……くっそ、こいつ、影みたいに張り付きやがる。
アラタの武器の方がリーチは有利だがその内側で張り付かれては意味がない。
ナイフも攻撃を受けようとしてもなかなか捉えなれない、避けるほうがアタリか?
「やべえかも」
「意外と大したことないな。多少頑丈そうだがすぐにバラバラにしてやる」
男はさらに半歩程間合いを内側に詰める。
敵の攻撃を受けきれずナイフが服の上からアラタの皮膚を撫でる。
痛覚軽減を起動すればまだ動きに支障はない、けど確実にもらい過ぎだ。
アラタは渾身の力で横なぎに刀を振りぬく。
これは躱されたが敵は後ろ向きに飛びのき両者に距離が出来た。
はーつえー。
当たり前みたいに斬り合っているけど超怖いしなんなら今からでいいから超逃げたい。
息を整えていると余計な思考まで復活してしまう。
盗賊を殺したとき、自分で刀を振る選択をしておきながら迷った。
人をこんなに簡単に殺してもいいのか、傷つけてもいいのか、それが弱さとして出て俺の体を傷つけた。
迷えば死ぬ、ここは日本じゃない、異世界なんだ。
考えろ、勝つ方法を、生き残る方法を、あの子を助ける方法を。
大丈夫、戦える。
今自分に出来ることを精一杯、そう決め余裕が戻り顔に生気を取り戻したアラタを嘲笑うかのように男は声をかける。
「もう懐には潜り込ませない、だろう?」
「だったら?」
「果たして考えた通りに事は運ぶかな?」
…………男の姿が揺らいだ。
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