半身転生

片山瑛二朗

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第1章 黎明編

第4話 出会い

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「ほら、隙だらけだ!」

「痛っ!」

「ほらほら、まだまだ行くぞ?」

 唐突だが今俺は剣の稽古を受けている。
 なぜそんなことになったかというと話は半日ほど前に遡る。

※※※※※※※※※※

 目を覚ました時、俺はここがどこか分からなかった。
 少なくとも自分の家ではない。
 今まで住んでいたどの場所とも違う光景にしばらく固まる。
 俺は床に毛布のようなものを敷いてその上で寝ていたようだ。
 そもそもここはどこだ?
 俺は盗賊に殴り掛かって……その後、だめだ、なぜか思い出せない。
 このまま思い出さないほうがいい気がする。
 新は木で出来た床から起き上がりなぜか痛む体を押さえながら建物の外へ出た。
 外には一面畑が広がっている。
 日本の地方みたいに見渡す限りの畑という訳ではない。
 ただ家庭菜園のレベルかと問われればそれはノー、彼は土地には詳しくなかったが少なくとも野球場よりははるかに広く整備された土地が広がっていて自分達以外のため、商業的に農作物を育てていることは分かる。
 畑にはまだ何も植えていないのかそれとも収穫済みなのかとにかく土しかない。
 俺はここがどこか聞こうと近くを通りかかった人に声をかけようとしたとき逆に後ろから声をかけられた。

「目が覚めたようですね。良かったです」

 振り返るとそこにはシスター? 神官? よくわからないような恰好をした女の人が立っていた。
 多分盗賊に囲まれていた人だと思うんだけど地毛であろう金髪に緑がかった青い目はどう見ても日本人ではない。
 でも海外の人かと言われればそれはそれで違うような……不思議だなぁ。
 どこがとは言わないが暴力的なまでの攻撃力を誇るスタイルの良さに新は目のやり場に困る。

「えっと……あまり覚えていないんですけど多分助けてくれた人、ですよね? ありがとうございます」

「いえいえ、お気になさらず。私たちがもっと早く対処していればあなたもこんな目に遭わなかったでしょうし。私、冒険者のリーゼと言います。よろしくお願いします」

「千葉新です。こちらこそよろしくお願いします」

 胸に手を当てながら自己紹介をしたリーゼにつられるように新はお辞儀をしながら名乗る。
 それを見ながらリーゼは不思議そうな顔をして聞き返した。

「チバアラタさんですか。珍しい名前ですね。アラタなんて家名は初めて聞きました」

 そういえば何も考えずに会話しているが盗賊もそうだけどこの世界って言葉は通じるんだな。
 あくまでここが異世界だとするならだけど。

「いや、苗字は千葉の方で。アラタ・チバです。改めてよろしくお願いします」

「そうなんですね! チバの方も聞いたことありませんけど」

 この世界では苗字が後に来るのか、日本とは違うけど気にするほどでもないか、こんなものは慣れだ。

「その、リーゼさん。確かもう一人女の子がいたと思うんですけど。その子は……」

「ああ、ノエルですね。多分その辺に、あっノエル! さっきの方が目を覚ましましたよ!」
 
 黒髪を後ろで束ねたポニーテールの少女、ノエルと呼ばれた子はリーゼさんに呼ばれるとこちらに走ってきた。

「目が覚めたのか! それは良かった! 私はノエル! あなたは?」

 いかにも元気いっぱいな女の子という印象を受ける自己紹介に新は多少押され気味ながら2回目の名乗りとお礼を述べる。

「ア、アラタ・チバです。よろしくお願いします。先ほどは助けていただいてありがとうございました」

「困っている人を助けるのは当然だ! それにしてもアラタか、不思議な名前だな! チバという家名ともども聞いたことがない」

 そう言うと新のことをじっと見てくる。
 新は何か粗相をしでかしたのだろうかと不安になる。
 どこか怪しいところがあったのだろうか。
 少し無言の時間が流れるとリーゼさんが部屋に戻ろうと提案してきて俺たちはさっきまで寝ていた部屋に戻った。
 部屋に戻ったところで、

「さあアラタ、話を聞かせてくれ。あなたはなぜあんな森のど真ん中にいたのだ? それになぜあそこまで消耗していたんだ? この村の人に聞いてもあなたのことを知っている人はいなかった。他にもいろいろ聞きたいことがあるがまずはそこから聞かせてほしい」

 だよな。
 そうなるよな。
 今考えてみればあの時の俺は挙動不審すぎる。
 急に森の中から現れて急に座り込んで助けてもらいに来たと言い、果てには盗賊に泣きながら殴り掛かった。俺だったら関わるのもごめんだと思うレベルの不審者だ。

「あの、その、俺は一度死にかけて、神に転生させられて、でも行く当てもなくて、森を彷徨っていたところをあなたたちに出会ったんです」

 途切れ途切れの分かりにくい説明を聞いて彼女たちの表情が曇る。

「話がよく分からないですね。でもあなたは元々この世界の住人ではないのですか?」

「そうです。自分がいたのはもともとここじゃないと思います。スライムとか見たことないし……」

 二人は何かこそこそ話している。
 どこかに連行されたりするんじゃないだろうか。急に怖くなってきた。

「アラタさん。あなたは恐らく異世界人と呼ばれる存在です。本当は保護すべきなのでしょうけどあいにく今この村にそんな余裕はありません。単刀直入に言います。アラタさん、あなたには今から戦うための訓練を受けてもらいます。異論は認めません」

「え、いや、は? 訓練って。戦うって? 何と? 誰と?」

 今までの会話の流れからなんでそうなる? 話に脈絡がなさすぎる。

「あなたも会ったでしょう。ゴブリンと盗賊です。さあ、訓練を始めましょう」

「いや、待って待って。なんで突然訓練? せめて理由くらい教えてくださいよ」

 リーゼさんはいかにも面倒くさそうな顔をする。
 そんな顔しなくても……。
 リーゼさんは説明を始めた。
 まず初めにリーゼさんとノエルさんは冒険者としてゴブリン討伐のクエストを受けてこの村に来たそうだ。
 ゴブリンは群れを形成するが大して強くないらしいので二人なら楽勝なクエストだったらしい。
 だったというのは盗賊達によってこのクエストに邪魔が入ったことによりクエストの難易度が変わったからである。
 二人と同じタイミングにクエストを受けた冒険者はこの辺りを縄張りとする盗賊とグルだった。
 村を襲い略奪を繰り返す盗賊達は当然冒険者ギルドの賞金首であったのだがこいつらは所在がつかみにくいうえにギルド内の仲間を利用して討伐に来た冒険者を狩っていたそうだ。
 盗賊達の情報は事前に入っており裏切った冒険者と盗賊を討伐しようとしている所で俺と出会ったということだった。
 俺が気を失った後、その場にいた盗賊達を討伐し一度ゴブリンを討伐してきたそうなのだが……

「それからですね」

「え、ちょっとタイム。ゴブリンは倒したし盗賊達も倒したのになんで俺が訓練しなくちゃいけないの?」

 リーゼさんの話からしてすでにクエストは完了している。後の手続きとかがどうなっているのかは知らないが少なくとも俺が訓練を受ける理由はないだろう。

「話を最後まで聞いてください。クエストはまだ完了していません。ゴブリン討伐は途中で盗賊の残党に邪魔されたのです。」

「なんで? 盗賊もゴブリンを討伐したかったとか?」

「なぜそうなるんですか。盗賊とゴブリンが手を組んだのです。少なくとも私にはそう見えました。本来そんなことはあり得ないのですけど」

「へー」

 この世界のゴブリンがどんなものなのか全く知らない俺はそう言うほかない。だけど話を適当に聞いていると思ったのかリーゼさんの視線に厳しさが増す。

「盗賊とゴブリンが手を組んでいるとなると私たちの手に余ります。クエストの前提条件が変わっている以上私たちだけでは対処できないのです。かと言って今更逃げることもできません。このあたりの森は盗賊達の庭ですから」
 
 ここまで言われたら想像力皆無の俺でも分かる。

「あのー、それってもしかして」

「想像のとおりかと思います。このレイテ村の住民はすでに私たちと戦う覚悟です。当然あなたにも戦ってもらいます」

「いやいや、そんないきなり言われても。それに俺の意思は無視? それはひどくない!?」

「ひどくありません。むしろあの場で助けたことを感謝してもらいたいです。それに、あなただってしっかりとした剣を持っているじゃないですか。すでに手配は済んでいます。では私たちはやることがあるのでこれで」
 
 そう言い残すとリーゼさんとその後を追うようにノエルは出ていった。
 なんなんだあいつ。
 戦えって、俺の意思は関係なしかよ。
 あり得ない。めちゃくちゃ面倒そうなことに巻き込まれてしまった。
 リーゼさんの横暴とも取れる態度に苛立つ中二人と入れ替わりで同年代位の男が部屋に入ってきた。

「俺はこの村のエイダン。お二人からお前に剣の稽古をつけるように言われた。とにかくよろしくな!えっと」

「アラタ・チバだ。よろしく」

 俺はすでに疲れ切っていた。
 よくわからない状況、よくわからない人たちに全く見通せない自分の未来。
 一言で言うと不安だ。もしあの自称女神がこれを仕組んだのならバランス調整ミスっているぞ。クソゲーにもほどがある。
 しかもあの女。
 こちとら異世界に転生してまだ右も左もわからない状況だってのにどんだけ自己中心的で理不尽な奴なんだ。
 思い出しただけで腹が立つ。

「ふー。これで何とかなりましたね。ノエル、私って最高に嫌な女でしたか?」

「ああ、そうだな。でもなんであんな態度を取ったんだ?」

「はあ、ノエルはこれを機に少しは異世界人について勉強してください。異世界人ですよ異世界人。彼には絶対に我が国にいてもらわなければなりません。だからこんなところで死なないように鍛えるのです」

「でもあんな言い方しなくてもよくないか? 彼にとって私たちは命の恩人なんだし。優しく頼んだらきっと言うことを聞いてくれただろう?」

「はじめから不自然に優しい人間と状況に応じて普通の人間として接してくれる人、異世界人がどういう存在か知った後の彼にとって信用できるのはどちらですか?」

「うーん、どっちでもいいような」

「とにかく! 異世界人について詳しく説明するのは私たち以外の人間にすべきです。それに今の状況が窮地であることに変わりはありません。彼にも最低限自分の身を守れるくらいには強くなってもらわないと」

「そういうものなのか。じゃあ私が説明してこようか?」

「ノエル! それじゃ意味ないでしょう! 余計なことはしないでください。すでにエイダンさんに頼んであります」

「さすがリーゼだな! すでに根回しは完璧だ!」

「ノエル……お願いですからこれ以上負担をかける行動は慎んでくださいね?」

 事態はアラタの知らない所でアラタの想像よりも複雑に動いていたのだった。

「まあこうなったもんはしょうがないじゃん? それよりも稽古始めようぜ」

「うーん、もう既に面倒ごとに巻き込まれた感が凄いな。仕方ない。泣き言ばかり言っても始まらないな。頼む、稽古を始めよう」

 あのリーゼさんとかいう女が何を考えているのかはいまいちよく分からない。
 でも多分この村から逃げられないというのは本当なのだろう。
 あの人は何か隠しているようだったけどこの村が窮地なのは事実のはずだ。
 ならやることは決まっている。
 やるしかない、やるしかないんだ。
 俺は木剣を手に取り構える。

「どうしてこうなったんだろう」

 そう呟くとエイダンとの稽古が始まり時間は冒頭に戻る。
 俺はまだよく理解できていない状況は一度忘れて稽古に集中することにした。
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