ロレンツ夫妻の夜の秘密

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18.お仕置き(本気)

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 例えば、朝、薬罐を火にかけたまま出かけてしまったのではないか。
 部外秘のカルテのキャビネットの鍵を、かけ忘れていないか。
 強迫神経症の患者とまではいかないが、ステファンはそういったことが気になりだすと、落ち着かない性質だった。
 すぐに確かめられるならいいのだが、そうでなければ、うじうじと心の隅で悩み続ける。
 薄闇が街並みを覆い始める中、家路を急ぐ。
 門扉を開けて、玄関のドアノブに手をかける。鍵を差し込まずとも軽く回った。

「おかえりなさいませ」

 エプロン姿で出迎えてくれたディアナの微笑みに、つかえがとれて安堵する。同時に、苦いものが胸中に広がっていた。

「ただいま。……貴女、また鍵を忘れていましたよ」

 家政婦が帰ったあと、一人、夫の帰りを待つ彼女は、玄関の施錠を時折怠る。
 気付いて注意したのだが、直らない。

「あら、そうでした? ごめんなさい」

 彼女は一応謝るが、笑みが顔から消えていない。たいして気にしていないのだ。昼夜絶えず護衛を含む多くの使用人がいる家で育った彼女は、元々、戸締りの意識が薄いようだった。
 いそいそと彼女はキッチンに戻って、夕餉を温めている。

「このごろお帰りが早くて嬉しいですわ。ねえ、お夕飯の後はチェスをしてくださいね。昨日の最後の手、切り返し方を思いつきましたのよ」

 ステファンの帰りが早いのは、不用心な留守番の彼女が気になって仕方ないからだ。
 食後にチェス盤を持ち出して相手をねだってきた彼女はかわいかった。つい甘やかしてしまいそうになるが、少しきつめに躾直すことに決めた。翌日はちょうどよく休日だった。

 彼女が昼食の片付けをしている間に、必要な道具を揃え、真昼に居間で捕まえた。
 後ろから抱きしめられて、耳やうなじに口付けを受けている間は、戯れかとクスクス笑っていた彼女だが、後ろ手に手錠をかけられて表情が固まった。

「え……?」
「貴女はこのごろ、油断が過ぎます」

 ステファンは暗色の布で目隠しもした。肩を押さえて長椅子に座らせる。

「何、貴方、何をなさるの……?」
「鍵をかけないって、こういうことですよ。王都は確かに比較的治安がいいですが、そういう犯罪は残念ながら少なくないんです」

 ブラウスのボウタイを解き、ボタンを外す。足首も縛った。スカートの中に手を入れ、下着を戒めた部分まで降ろした。

「やっ……だめ、わかりましたわ……ごめんなさい、気をつけますから……! もう、おやめになって……外から、見られたら」
「カーテンを引きましたからご心配なく」

 膝を開かせ、脚が菱形を描く不恰好な状態で、弄った。

「いや……!」
「そう? 濡れてきましたよ。貴女はやっぱり、虐められるのが好きな、ふしだらなところがありますね」

 剃毛し、陰核の包皮にピアスまでつけた、よく手入れされた部分を探る。拒む言葉と裏腹に、蜜を溢れさせはじめている。指を差し入れると、彼女は嬌声を漏らした。

「僕は心配です。他の男が貴女のこんな姿を知ってしまったらと思うと……」
「貴方だけですわ……貴方じゃなきゃ、嫌……あっ……」
「どうでしょうね?」

 シュミーズの胸元をずりおろして、膨らみの先を摘んで転がしていると、すぐに芽吹いてきた。

「お仕置きしてくださるの?」

 ディアナの声音は期待に満ちている。このままではご褒美だ。躾にならない。

「そうですよ」

 ステファンは彼女の頭を撫で、その口元に、新しい玩具をもっていく。

「舌を出して、舐めて……確かめて」
 
 目隠しをされた彼女は、柳眉を悩まし気に寄せて、彼の言葉に従った。

「わかりますか? さすがに、貴女のコレクションにはなかったですけど……ご本には載っていたでしょう?」

 ゴム製の、男性器を模した張り型だ。大きさは標準にしたが、中を刺激する凹凸が施されている。

「試してみたい?」
「だめ……怖いです……」
「よしよし、でも、お仕置きですからね。補助のクリームを使ってあげましょう。僕はどうも甘いなあ」

 張り型に白いクリームを塗りつけて、秘所に当てた。膝を閉じないように押さえ込む。

「あぁ、嫌、許してっ……!」
「どうして? ほら、すんなり咥えていく。吸い込むみたい」
「んぁあ……!」
「怖くないですよ、できるだけ柔らかな素材にしました。そうそう、このクリームもね。血行をよくして性感を高める効果があるんです。初めてのもので身体を傷つけたら、可哀想ですから」
「やめてください……お願い……! こんなの嫌! 道具じゃ嫌! 貴方じゃなきゃ、嫌……!」
「そう。かわいいひと……」

 ステファンは手を止めた。しかし、抜き取らなかった。下着を上げて、張り型を固定するのに使った。

「嫌なの……抜いて……ひうっ!」

 感じてグチャグチャに濡らしているのにわがままを言うので、指先で張り型をぐりぐり押した。
 充血した胸先を、クリップで挟んでおいた。

「ディアナ、あのね。僕は用事を思い出したので、出かけます。貴女、お留守番してください」
「えっ、え、嘘……!」
「うん、鍵をかけ忘れてしまうかもしれませんけど、大丈夫ですよね?」
「嫌、ごめんなさい、もう絶対に鍵、忘れませんから……解いて……!」
「暴漢がそんなお願いを聞くと思います? あんまり騒ぐと、ご近所の方が様子を見に来られるかもしれませんよ。皆さんお優しいですからね」




 散歩はせいぜい四半刻ほどだ。
 ああ言ったが、もちろん鍵もかけた。
 戻ると、ディアナは大人しく待っていた。目隠しの布が濡れて色濃く変わっている。

「貴方? 貴方ですわよね?」

 人の気配に怯える彼女に、答えてやらない。胸のクリップをつま弾く。

「きゃん!」

 犬の鳴き声が出始めたところで、長椅子から床に転がして伏せさせた。
 濡れた下着を降ろし、ピアスを上転させて蕾を露出させる。ぷっくら主張してくるのを潰す。
 張り型を、凹凸が彼女の好きな部分に当たるように、丁寧に動かした。

「いや、あああ……!助けて、貴方、ごめんなさいぃ……!」

 かわいそうで、かわいくて、最高だ。
 綺麗な若奥様が、拘束されて半裸に剥かれ、秘所を卑猥な道具で嬲られ、悶えている。
 もし妻に迎えられなかったら、いずれこうして犯していたかもしれない。
 誰かの妻になってしまえば諦められると考えていたが、そう簡単に済む思いだっただろうか。

「やだぁ……あああ……っ、ア、ア、ア……!」

 張り型に中を蹂躙されて、夫でなければ嫌だと泣きながら、彼女は快楽に屈した。




「ディアナ」

 声を聞かせてやった。顔に手を添えると、頬を擦り寄せてくる。目隠しをとった。

「貴方」

 泣き腫らした目を眩しげに細める、弱々しい表情が愛おしい。ステファンは、責める口調にならないよう、気をつけて問いかけた。

「ねえ、貴女、わざと鍵をしなかったでしょう?」

 賢い彼女が数度注意されて、忘れるはずもないのだ。

「……だって」

 ディアナは言い訳を始めた。

「ちょっと、心配してもらえるかもって……早く、帰ってきてくださるかもって……」
「僕がどれだけ気にしたと思いますか。もうしませんね?」
「……はい。ね、お願い、貴方、解いて……キスして、だっこも……」

 白状して終わったと思ったのか、甘えてくる。しかし、ここで許しては繰り返しそうだ。

「だめ」

 床に突き放し、もう一度、彼女に埋まった楔に手をかけた。

「ふぅ、うぁあ……うぅう……!」

 数度抜き差ししただけで、正体をなくしはじめた。

「躾ってね、すぐに甘い顔をすると逆効果になるそうですよ。悪さをしても許してもらえるし、むしろ構ってもらえると学習するそうです」
「うぅ、ゆるして……ごめんなさい、もう、ぜったい、しませんからぁ……」

 苦しい息の下で訴え、首を横に振っている。そんな表情を見てしまっては、冷静を装うのも限界だった。




 彼女の身体を持ち上げて運び、ダイニングテーブルに上半身を伏せさせた。

「ここ……いけませんわ、お食事の場所……」

 清潔な白のクロスに押し付けられて、身体の脇から豊かな胸がつぶれて覗いている。
 張り型を抜くと、彼女は悩ましげに吐息した。
 広がったままの蜜口に、次の道具、透明なジェルが満ちた容器の細い口を差し込む。とたんに、彼女はびくっと反応した。
 後ろ手にかかった手錠の鎖が、カチャカチャと鳴る。
 ステファンは容器を絞る。

「ふ……! あ、なに!」

 とろみのあるものを膣内に注がれて、身をよじろうとする彼女を抑えつけた。

「ただの潤滑剤ですよ」

 一本全て、流し込んだ。

「お仕置きなんですから、キスもだっこも、なしです。今度は貴女自身が、玩具になるんですよ」

 蜜口からはジェルが漏れてきている。虐め尽くされた部分は充血し、開いていた。
 男根を沈める。ジェルがぬっぷりと隙間に満ちて、軽く押すだけで入っていく。
 荒く道具で責めたせいで、中はいくぶん緩んでいた。悪くはないが、少々物足りない。
 押し込んだ体積の分、粘度の高い液体が漏れ出て音を立てる。

「ディアナ、お腹に力を入れて。お口でするときみたいに、ここでも吸い付く感覚、掴んでください」
「はい……」
「ん……そう……」
「あ……」

 白い尻が揺れる。穿ちながら撫でる。

「ああ……あっ!」

 パンッ!
 馬を駆けさせる合図のように、叩いた。中の具合が良くなる。立て続けに張った。

「よしよし、いいですよ。感じがわかってきたんじゃないですか」
「やっ、やめ、ごめんなさい……!痛いの、やめて……きゃう!」
「痛いの好きでしょう?」
「……怖いですっ……」
「叩かれるのが嫌なら、もう少し頑張ってくださいね? だらしない身体のメス犬ちゃん」

 そう詰ってみせたが、処女だった彼女の清らかな硬い身体に夜な夜な快楽を教え込み、ここまで堕としたのは外ならぬ自分だ。桃尻を震わせてクロスを乱しながら身を捩り、再び泣き出した彼女が愛しくてたまらない。

「ふっ、ふええん……」

 幼子のように無力な声にゾクゾクする。しかし、まだほだされてはいけない。

「……泣いてもだめですよ」

 ディアナは身体を突き上げられるたびに、苦悶と悦楽が入り混じった呻きを漏らす。

「ねえ、ディアナ。僕が留守の間は、ちゃんと鍵をかけるんですよ。できないんだったら……首輪で繋いで、外鍵をかけて……僕だけのものに、してしまいますからね」

 その脅しは、彼女には甘美に響いたらしい。涙に濡れた頬の横顔が、とろりと緩んだ。まったく罪なひとだと思う。本当に、そうしてしまいたくなる。
 ステファンは覆いかぶさって、執拗に奥を捏ね上げ、欲望を吐き出した。




 抜き取ると、女体の内側からは、透明なジェルと白濁が混じったものがとめどなく落ちた。テーブルから下ろし、床に座り込む彼女の半ば開いた口に、芯を失いつつある男根を持っていく。

「綺麗にしてください。これでおしまいにしてあげます」

 散々自分をいたぶったものを舐めしゃぶる妻の頭を、ステファンはゆっくりと撫で続けた。




 ディアナに湯浴みと着替えをさせるうちに、居間とダイニングは片付けた。済めば態度に引きずらないつもりだった。
 キッチンに立っていると、身を清めたディアナがやってきた。

「……貴方、まだ怒っていらっしゃいますか?」

 恐る恐るといった風に聞いてくる。さすがにいつもの調子は戻らないらしい。

「いいえ。また同じことをしたら怒りますけどね」
「はい……ごめんなさい」

 彼女は俯いてしまう。声が掠れていた。
 ステファンは果物籠から大粒の葡萄の実を一つむしって、皮を剥いた。

「ディアナ、どうぞ」
「ん……」

 立ったまま、行儀が悪いと嫌がるかと思ったが、彼女は言われるままに含んで口をもぐもぐさせた。

「水分補給です。随分、泣かせましたから。あとこれも飲んで」

 水のグラスに檸檬を絞って蜂蜜を落としたものも渡した。彼女は、今度はダイニングテーブルについてグラスに口をつけた。

 優しくされて、もう大丈夫だと思ったのだろう。

「……キスと、だっこ……」

 グラスを流しに返して、彼女はきっちりねだってきた。言う通りにすると、腕の中で、ふふ、と軽やかに笑った。
 敵わない。泣き顔と同じくらい、笑った顔も好きなのだ。彼女の表情、細かな仕草の一つ一つまで、目が離せない。

「貴方、大好き」
「うん……僕もですよ」

 ステファンはつい答えてしまう。額をコツンと合わせて、今日のこれすら、全て彼女の願いのままだったのではないかと、ふと思った。
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