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13.効果と副作用
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割れるように痛む頭を抱え、ステファンは寝台で丸くなっている。
「貴方、お加減は……?」
気遣ってくれる声すら響いて辛い。
「すみません、もう少し寝させてください……」
妻の心配顔に、ステファンは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
彼女はサイドテーブルに水差しとコップを置き、出て行った。枕元の置き時計はもう昼前を指している。休日なのは幸いだった。
ひどい頭痛に加えて、全身、気怠いを通り越し、虚脱感に包まれている。
だが自業自得だった。
彼は昨夜、調子に乗った。
夕餉のメインは、香辛料をまぶした鳥のローストだった。スープも独特の香りがして、香草が散っていた。
ディアナが説明してくれた。
「東部のお料理を教えてもらったんですの。どうでしょうか」
「珍しい味ですね。でも、美味しいです」
身体の内から温まり、食後は薄く汗までかいていた。
湯を使ったあと、ステファンは昼に調合した西域の秘薬を飲みほした。きつい後味に顔をしかめ、洗面台で口を濯いだ。
「少しお夕飯、辛かったかしら。火照るみたいですわ」
確かに、寝台の上で寄り添ってきたディアナの身体は、運動後のように熱をもっていた。
「僕もですよ。楽にしましょうか」
「ふふ……はい」
掛布を落とし、身にまとう邪魔な布を取り去って、熱い肌を重ねた。口付けのあと、ディアナが頼んできた。
「貴方、あれ、欲しいです……つけて」
「何のことですか?」
「お祝いにくださったもの」
「これ?」
彼女の脚の間に手を滑り込ませ、秘密の部分の装身具に触れた。周辺がぬめっている。
「あっ、ん」
「おや、どうしたんですか。もうこんなにして」
「……今日は、なんだか変なんですの」
ディアナは、もどかしげにステファンの手のひらに腰を押し付けてきた。
「それに、貴方だって」
仕返しとばかりに、彼女は触れた。細い指に撫であげられると、疼きが明らかな昂りに変わる。
「そうですね。じゃあ、貴女のお気に入りの首輪をかけましょうか。胸もしっかりマッサージして、気持ちいい印が出てきたら、クリップで挟んであげましょうね」
愛液を絡めた指の腹でピアスを転がしながら、耳元で言葉にしてやると、ディアナの顔がうっとりと緩んでいく。
「それから、僕のかわいい奥さんは、これも欲しいんですね?」
「……はい」
彼女の手に擦り付けるように動いてみせた。すぐに指が輪の形になって、上下を始めた。
「よしよし、今日はたくさんあげましょうね」
サイドテーブルの引き出しから、首輪とジュエリーケースを取り出した。
首輪の鍵をかけると、彼女は理性のたがを外す。年若いながらしゃんとした奥様をやめて、被虐趣味の淫らな娘になる。
それでいいと、彼が許した。
「くぅ……」
挿入したとたん、思わず呻きが漏れた。
研ぎすました手術刀のようだ。手応えというのもおかしいのだろうが、限界を遥かに越えて張り詰めた男性器は、鮮烈な使い心地だった。
ディアナの締まりの良い女性器を易々と押し広げる。
「やっ、やぁん、あぁ……!」
ディアナは声を上げながら、常より径の大きいものに食いついている。
最奥まで沈めても、まだ尺が余る。彼女の体内の突き当たり、子宮口の隆起を感じる。その少し下側に、位置をずらした。
ぐっともう一段、押した。
「きゃぁぁん!」
高く鋭い鳴き声は、ディアナが強い快感を得た証だった。折りあげた脚の先で、足指を丸めている。
引かずに捏ねるように腰を使う。奥だけでなく、膣全体を圧をかけながら揺さぶる。
「ん、アッ、アッ」
喉奥から押し出されるような喘ぎに変わってきた。
彼女の両手首をまとめて股座の方へ引いた。腕に挟まれて、豊かな胸がさらに盛り上がって強調される。色濃く大きい乳輪に、翠の輝石が震えている。
片手を伸ばして、クリップを人差し指で強く弾いた。
「あああ!」
無意識なのだろう。自分から腰を突き出して浮かせながら、ディアナは達した。
手を解放し、尻の下に手を差し入れて、しっかりと受け止めた。
「あっ、ごめ、ごめんなひゃい……イったの、もうイきましたぁ……!」
「そうみたいですね。中、とても強く締まりました」
「まって、まって」
「だめ。僕はまだですから」
ステファンは続けて、極上の女体を堪能した。絶頂に絶頂を重ねられた妻の様子は、イき狂うという表現がぴったりだ。
一度吐精したが、全く衰えなかった。妻が何人いようが、という老婆の言を思い出していた。
身体は情欲に猛り狂い、絶えぬ快楽にうかされる。一方、頭の一隅はひどく平静で、どうしてやれば彼女がさらに悦ぶか、細かに考えられる。
昼、あれこれ入れた中に、向精神作用のあるものがあったかよくわからない。何か相乗効果を起こしているのかもしれないが、今は、そんなことはどうでもよくなっていた。
ステファンは、ディアナをもてあそびながら、くすくす笑いが抑えられない。
彼が言葉を発し、触れてやると、ディアナはいよいよ乱れて誘わしい。精力は尽きる気配がなく、一晩中でもできそうだ。
これは、物凄く、愉しい。
真に狂うものは、自身の狂気を自覚しない。
ステファンは、彼らしくない失敗をしていることに気づかなかった。
「そういえば、貴女、何回イきました?」
「……よん、かい……ごかい、くらい……? ふぇ、あ、……あと、もう、わかんないぃ……!」
「そう」
身を離すと、彼女はくたりと寝台に手脚を投げ出した。
「あ……なんでぇ……」
「休ませてあげますよ」
責められているときより、さらに切なそうな顔をする。
「あなた、だって。まだ、こんな……」
屹立したままのものに、彼女は手を伸ばしてきた。情交の残滓の濃厚な香りに引きつけられたように、顔を寄せてくる。
「どうしたいですか?」
半開きになった、紅い柔らかな唇を親指で押した。
ディアナは、眉を下げて懇願してきた。
「……ご奉仕させてくださいませ」
「いいですよ」
ステファンは彼女の首に繋がるリードを引いた。
脚の間に顔を埋める彼女の頭を、ステファンは撫でている。俯こうとする面を上げさせ、前髪をかきあげて表情を見る。
「そんなに頬張って、食いしんぼうなメス犬ちゃんですね」
「ふっ、う」
最中の顔を見られるのは恥ずかしいらしく、睫毛を伏せる。
「貴女、ご奉仕なんて言ってますけど。本当は、これが好きで仕方ないんでしょう?」
「うぅ……」
「違いました? 嫌ならやめていいんですよ」
口の端に指をかける。取り上げられたものを追って、紅い舌先が覗いた。
「ひゃ……やだ……」
「ん?」
「違うの、嫌じゃないんです…あなた、あなた……」
彼のものに舌を這わせる。
「好き、そうなの、こうするの、好きなの……許してください……」
「大丈夫、僕はそんな貴女が大好きです。とてもいやらしくて、かわいい」
男性器で頬をピタピタと叩かれても、嫌悪どころか、お預けをさせられている犬のような顔をしている。
「素直な子にはご褒美です。ほら、あーんして」
大きく口を開けたところに、再び含ませた。
「上手になりましたね」
初めは催眠中にさせた。彼女自身、いつその行為を覚えたかは曖昧だろう。何度も繰り返させ、舌の使い方も、刺激の強さも、好みに仕込んだ。深く吞み込むコツも教えた。
彼女の嗜好にも合ったようで、今では自分から腰に腕を回して根元まで咥えるようになっている。喉はきゅっとはっきり先を締めてくる独特の刺激だ。
くぷくぷと音を立て、唾液を漏らしながら、ディアナは頭を揺らしている。
後頭部に手を添えた。
「無理だと思ったら、叩いてください」
ステファンの方から、腰を押し付けた。
男の快楽のためだけの動きだ。それでも、耐えてくれる。腕に力はこもっても、叩く動きはしない。
ステファンは、彼女の整った顔が、苦しげに歪むほどに興奮する。
「ディアナ、出しますからね、全部、飲んで!」
赤い首輪のかかった白い喉が動き、精を嚥下する。ゆっくりと抜いたが、少し咳き込んだ。涙の浮いた目元も、粘液まみれの口元も、薄闇の中で光っている。
構わず脚の間から抱き上げて、口付けた。
「んぅ……」
「よく頑張ってくれましたね。とてもよかったですよ」
褒めると、心底嬉しそうな顔をみせた。
「嬉しい、好き。大好きなんです」
そこまでされても、彼の下半身を探ってくる。自身でも驚くべきことに、数度射精しているのに触れられれば復活した。
「貴方……今晩は、お好きなだけなさって」
こっそりハンデをつけているのに、健気に応じてくれる。若い上に身体的に恵まれている彼女ならではだろうか。
「それでは、遠慮なく」
四つ這いにさせて、後ろから貫いた。ピアスのついた包皮をめくり、大ぶりの真珠を刺激する。
ディアナは、甘えた鳴き声を漏らしつづけ、腰を振った。
抽送するたびに、結合が白くぐちゅぐちゅ泡立つ。伝ったもので後肛まで濡れている。
桃尻を掴み、きゅっと口を噤んでいるその部分を、親指の腹で撫でた。
とたんに、ディアナがビクッと震えた。
「やっ……! そこ、だめ、汚いの……!」
「排泄口ですから、確かに衛生的とは言えませんけど。貴女はここすら、魅力的ですよ」
ディアナはイヤイヤと首を振る。
「わかってますよ。強いたりしません」
今は、という続きは飲み込んでおいた。彼女が望まないままするつもりはない。本来性交に用いる部分ではないのだから、それなりの準備もいる。洗浄して、器具で徐々に拡張し、性感を開発する。
拒否感が強いなら、まずはアクセサリーからでもいい。尾や、輝石の栓は、きっと彼女に似合う。そうなると、彼女の希望で無毛に処理している部分も、長さと部位を整えてまた生やすのもいい。
「でもね、覚えておいてください。僕は、完璧な淑女の貴女が、みっともない、情けない、弱い部分をさらけ出してくれるほどに、かわいそうで、かわいくて仕方なくなるんです」
言い聞かせ、背に指を這わせると、彼女は悩ましげなため息をついた。
少し体位を変えた。
横向きに寝かせて、彼女の片脚を大きく上げて肩にかけた。斜めに身体を交差させるために、腿に邪魔されず、より深く挿入できる。
胸の前で手を揃え、見上げてくるディアナは限界が近いらしい。半ば放心して無垢だった。唇から声が漏れる。
「あぁ……」
「善いですか?」
「はい……」
「よかった。貴女が善くなると、僕も善い」
もう、激しくする必要はなかった。こなれきった中を、優しく掻いて導いた。
「いっちゃう、いっちゃうの……」
「ええ、どうぞ。貴女はいいこ。僕の、かわいい奥さん」
「あなた、きす、して」
どこまでかわいい願いだろう。望み通り唇を重ね、舌を絡めると、ディアナは彼の腕の中で小刻みに震え、果てた。
夜は更けていた。
脱力した彼女からクリップをとり、首輪の錠を解く。布で彼女の身体から汗と粘液を拭い、夜着を羽織らせた。
「あなた……」
「おやすみなさい、ディアナ」
軽く肩のあたりを叩き、妻の長い睫毛に縁取られた瞼が、静かに降りていくのを見守った。
視界がくらりと揺らいだ。少しやりすぎたかと苦笑いして、ステファンは、彼女の横に身体をのべた。
少しどころではなかったことに気づいたのは、翌朝、凄まじい体調不良で目覚めた後だった。
夕方になって、やっと起きられた。
「すみません、せっかくの休日を潰してしまいましたね」
パンと牛乳の平和な味付けの粥を啜りながら、ステファンはディアナに謝った。
午後は彼女の通う乗馬クラブに同行する予定もあったのに、反故にしてしまっていた。
「いいですわ。貴方、ごめんなさい……」
「貴女は何も」
「いえ。私、その。やっぱり、いけないことをしましたわ」
ディアナは、赤い粉が半ばまで入った小瓶を持ってきた。
「ごめんなさい。こんなに効いてしまうなんて、思わなかったんですの」
妻の説明を聞いて、ステファンはようやく我が身に起こったことを正しく理解した。
「貴女、プディングの隠し味の笑い話を知っていますか」
「なんでしょうか」
「プディングの隠し味の塩ひとつまみ。一家のお婆さんとお母さんと娘たち誰もかれもが、入れ替わり立ち代わり台所に来て、まだ入れていないものと思って作りさしの鍋に足していくんです。最後はとっても塩からいプディングの完成。まあ、僕たちは二人暮らしなわけですが」
「貴方も、何かお入れになったんですの」
「僕だけ、ちょっとね。これだけなら、ここまでのことにはならなかったんでしょうから、別に貴女にもベルタさんにも怒りはしませんが。これは没収です」
「はい」
ディアナはしおらしく頷いた。
新たな研究対象を見つけたステファンは、今度ベルタと顔を合わせたら、調合を聞こうと考えている。
東西の秘薬を読み解けば、効果は強く副作用は少ない、精力剤を開発できるかもしれない。
しかし、ドーピングはやはり身体によくない。
ステファンは、殆ど寝台の上で過ごした一日を反省する。昨夜のようなことを繰り返せば、近いうちに腹上死するという確信があった。本望とは言い難い。
彼はディアナより相当に年上だから、順当にいけばいつか彼女を置いて逝くのだろうが、それができるだけ遠い日であることを願っている。
ディアナは、寝台の端で小さくなっている。
「ディアナ、こちらにいらっしゃい」
促すと腕の中に来はしたが、さすがにねだってはこなかった。
「そんな顔をしないでください」
「ごめんなさい」
「いえ、いいんですよ。もっと構ってほしかったのですよね?」
「はい」
「正直なところ、僕はそこそこ年なので、正攻法では貴女の魅力に敵わないんです。だから少しズルをしたんですが、天罰が下りましたね」
だが、幸いにして、彼と彼女の嗜好の道は奥深い。肉体で力押しができずとも、工夫のしようはいくらでもある。
ステファンはディアナの唇に触れ、薄く開かせて舌を摘んだ。
「んぁ……」
「今夜は休ませてもらいますけど、僕は、貴女と持続可能な関係を築いていきたいと思っていますので、明日から一層励ませてもらいます。覚悟してくださいね」
夫の宣言に、妻は舌を捕らえられたまま、みるみる頬を染めた。
「貴方、お加減は……?」
気遣ってくれる声すら響いて辛い。
「すみません、もう少し寝させてください……」
妻の心配顔に、ステファンは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
彼女はサイドテーブルに水差しとコップを置き、出て行った。枕元の置き時計はもう昼前を指している。休日なのは幸いだった。
ひどい頭痛に加えて、全身、気怠いを通り越し、虚脱感に包まれている。
だが自業自得だった。
彼は昨夜、調子に乗った。
夕餉のメインは、香辛料をまぶした鳥のローストだった。スープも独特の香りがして、香草が散っていた。
ディアナが説明してくれた。
「東部のお料理を教えてもらったんですの。どうでしょうか」
「珍しい味ですね。でも、美味しいです」
身体の内から温まり、食後は薄く汗までかいていた。
湯を使ったあと、ステファンは昼に調合した西域の秘薬を飲みほした。きつい後味に顔をしかめ、洗面台で口を濯いだ。
「少しお夕飯、辛かったかしら。火照るみたいですわ」
確かに、寝台の上で寄り添ってきたディアナの身体は、運動後のように熱をもっていた。
「僕もですよ。楽にしましょうか」
「ふふ……はい」
掛布を落とし、身にまとう邪魔な布を取り去って、熱い肌を重ねた。口付けのあと、ディアナが頼んできた。
「貴方、あれ、欲しいです……つけて」
「何のことですか?」
「お祝いにくださったもの」
「これ?」
彼女の脚の間に手を滑り込ませ、秘密の部分の装身具に触れた。周辺がぬめっている。
「あっ、ん」
「おや、どうしたんですか。もうこんなにして」
「……今日は、なんだか変なんですの」
ディアナは、もどかしげにステファンの手のひらに腰を押し付けてきた。
「それに、貴方だって」
仕返しとばかりに、彼女は触れた。細い指に撫であげられると、疼きが明らかな昂りに変わる。
「そうですね。じゃあ、貴女のお気に入りの首輪をかけましょうか。胸もしっかりマッサージして、気持ちいい印が出てきたら、クリップで挟んであげましょうね」
愛液を絡めた指の腹でピアスを転がしながら、耳元で言葉にしてやると、ディアナの顔がうっとりと緩んでいく。
「それから、僕のかわいい奥さんは、これも欲しいんですね?」
「……はい」
彼女の手に擦り付けるように動いてみせた。すぐに指が輪の形になって、上下を始めた。
「よしよし、今日はたくさんあげましょうね」
サイドテーブルの引き出しから、首輪とジュエリーケースを取り出した。
首輪の鍵をかけると、彼女は理性のたがを外す。年若いながらしゃんとした奥様をやめて、被虐趣味の淫らな娘になる。
それでいいと、彼が許した。
「くぅ……」
挿入したとたん、思わず呻きが漏れた。
研ぎすました手術刀のようだ。手応えというのもおかしいのだろうが、限界を遥かに越えて張り詰めた男性器は、鮮烈な使い心地だった。
ディアナの締まりの良い女性器を易々と押し広げる。
「やっ、やぁん、あぁ……!」
ディアナは声を上げながら、常より径の大きいものに食いついている。
最奥まで沈めても、まだ尺が余る。彼女の体内の突き当たり、子宮口の隆起を感じる。その少し下側に、位置をずらした。
ぐっともう一段、押した。
「きゃぁぁん!」
高く鋭い鳴き声は、ディアナが強い快感を得た証だった。折りあげた脚の先で、足指を丸めている。
引かずに捏ねるように腰を使う。奥だけでなく、膣全体を圧をかけながら揺さぶる。
「ん、アッ、アッ」
喉奥から押し出されるような喘ぎに変わってきた。
彼女の両手首をまとめて股座の方へ引いた。腕に挟まれて、豊かな胸がさらに盛り上がって強調される。色濃く大きい乳輪に、翠の輝石が震えている。
片手を伸ばして、クリップを人差し指で強く弾いた。
「あああ!」
無意識なのだろう。自分から腰を突き出して浮かせながら、ディアナは達した。
手を解放し、尻の下に手を差し入れて、しっかりと受け止めた。
「あっ、ごめ、ごめんなひゃい……イったの、もうイきましたぁ……!」
「そうみたいですね。中、とても強く締まりました」
「まって、まって」
「だめ。僕はまだですから」
ステファンは続けて、極上の女体を堪能した。絶頂に絶頂を重ねられた妻の様子は、イき狂うという表現がぴったりだ。
一度吐精したが、全く衰えなかった。妻が何人いようが、という老婆の言を思い出していた。
身体は情欲に猛り狂い、絶えぬ快楽にうかされる。一方、頭の一隅はひどく平静で、どうしてやれば彼女がさらに悦ぶか、細かに考えられる。
昼、あれこれ入れた中に、向精神作用のあるものがあったかよくわからない。何か相乗効果を起こしているのかもしれないが、今は、そんなことはどうでもよくなっていた。
ステファンは、ディアナをもてあそびながら、くすくす笑いが抑えられない。
彼が言葉を発し、触れてやると、ディアナはいよいよ乱れて誘わしい。精力は尽きる気配がなく、一晩中でもできそうだ。
これは、物凄く、愉しい。
真に狂うものは、自身の狂気を自覚しない。
ステファンは、彼らしくない失敗をしていることに気づかなかった。
「そういえば、貴女、何回イきました?」
「……よん、かい……ごかい、くらい……? ふぇ、あ、……あと、もう、わかんないぃ……!」
「そう」
身を離すと、彼女はくたりと寝台に手脚を投げ出した。
「あ……なんでぇ……」
「休ませてあげますよ」
責められているときより、さらに切なそうな顔をする。
「あなた、だって。まだ、こんな……」
屹立したままのものに、彼女は手を伸ばしてきた。情交の残滓の濃厚な香りに引きつけられたように、顔を寄せてくる。
「どうしたいですか?」
半開きになった、紅い柔らかな唇を親指で押した。
ディアナは、眉を下げて懇願してきた。
「……ご奉仕させてくださいませ」
「いいですよ」
ステファンは彼女の首に繋がるリードを引いた。
脚の間に顔を埋める彼女の頭を、ステファンは撫でている。俯こうとする面を上げさせ、前髪をかきあげて表情を見る。
「そんなに頬張って、食いしんぼうなメス犬ちゃんですね」
「ふっ、う」
最中の顔を見られるのは恥ずかしいらしく、睫毛を伏せる。
「貴女、ご奉仕なんて言ってますけど。本当は、これが好きで仕方ないんでしょう?」
「うぅ……」
「違いました? 嫌ならやめていいんですよ」
口の端に指をかける。取り上げられたものを追って、紅い舌先が覗いた。
「ひゃ……やだ……」
「ん?」
「違うの、嫌じゃないんです…あなた、あなた……」
彼のものに舌を這わせる。
「好き、そうなの、こうするの、好きなの……許してください……」
「大丈夫、僕はそんな貴女が大好きです。とてもいやらしくて、かわいい」
男性器で頬をピタピタと叩かれても、嫌悪どころか、お預けをさせられている犬のような顔をしている。
「素直な子にはご褒美です。ほら、あーんして」
大きく口を開けたところに、再び含ませた。
「上手になりましたね」
初めは催眠中にさせた。彼女自身、いつその行為を覚えたかは曖昧だろう。何度も繰り返させ、舌の使い方も、刺激の強さも、好みに仕込んだ。深く吞み込むコツも教えた。
彼女の嗜好にも合ったようで、今では自分から腰に腕を回して根元まで咥えるようになっている。喉はきゅっとはっきり先を締めてくる独特の刺激だ。
くぷくぷと音を立て、唾液を漏らしながら、ディアナは頭を揺らしている。
後頭部に手を添えた。
「無理だと思ったら、叩いてください」
ステファンの方から、腰を押し付けた。
男の快楽のためだけの動きだ。それでも、耐えてくれる。腕に力はこもっても、叩く動きはしない。
ステファンは、彼女の整った顔が、苦しげに歪むほどに興奮する。
「ディアナ、出しますからね、全部、飲んで!」
赤い首輪のかかった白い喉が動き、精を嚥下する。ゆっくりと抜いたが、少し咳き込んだ。涙の浮いた目元も、粘液まみれの口元も、薄闇の中で光っている。
構わず脚の間から抱き上げて、口付けた。
「んぅ……」
「よく頑張ってくれましたね。とてもよかったですよ」
褒めると、心底嬉しそうな顔をみせた。
「嬉しい、好き。大好きなんです」
そこまでされても、彼の下半身を探ってくる。自身でも驚くべきことに、数度射精しているのに触れられれば復活した。
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「それでは、遠慮なく」
四つ這いにさせて、後ろから貫いた。ピアスのついた包皮をめくり、大ぶりの真珠を刺激する。
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桃尻を掴み、きゅっと口を噤んでいるその部分を、親指の腹で撫でた。
とたんに、ディアナがビクッと震えた。
「やっ……! そこ、だめ、汚いの……!」
「排泄口ですから、確かに衛生的とは言えませんけど。貴女はここすら、魅力的ですよ」
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「わかってますよ。強いたりしません」
今は、という続きは飲み込んでおいた。彼女が望まないままするつもりはない。本来性交に用いる部分ではないのだから、それなりの準備もいる。洗浄して、器具で徐々に拡張し、性感を開発する。
拒否感が強いなら、まずはアクセサリーからでもいい。尾や、輝石の栓は、きっと彼女に似合う。そうなると、彼女の希望で無毛に処理している部分も、長さと部位を整えてまた生やすのもいい。
「でもね、覚えておいてください。僕は、完璧な淑女の貴女が、みっともない、情けない、弱い部分をさらけ出してくれるほどに、かわいそうで、かわいくて仕方なくなるんです」
言い聞かせ、背に指を這わせると、彼女は悩ましげなため息をついた。
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「あぁ……」
「善いですか?」
「はい……」
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「あなた……」
「おやすみなさい、ディアナ」
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「いいですわ。貴方、ごめんなさい……」
「貴女は何も」
「いえ。私、その。やっぱり、いけないことをしましたわ」
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「ごめんなさい。こんなに効いてしまうなんて、思わなかったんですの」
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「貴方も、何かお入れになったんですの」
「僕だけ、ちょっとね。これだけなら、ここまでのことにはならなかったんでしょうから、別に貴女にもベルタさんにも怒りはしませんが。これは没収です」
「はい」
ディアナはしおらしく頷いた。
新たな研究対象を見つけたステファンは、今度ベルタと顔を合わせたら、調合を聞こうと考えている。
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彼はディアナより相当に年上だから、順当にいけばいつか彼女を置いて逝くのだろうが、それができるだけ遠い日であることを願っている。
ディアナは、寝台の端で小さくなっている。
「ディアナ、こちらにいらっしゃい」
促すと腕の中に来はしたが、さすがにねだってはこなかった。
「そんな顔をしないでください」
「ごめんなさい」
「いえ、いいんですよ。もっと構ってほしかったのですよね?」
「はい」
「正直なところ、僕はそこそこ年なので、正攻法では貴女の魅力に敵わないんです。だから少しズルをしたんですが、天罰が下りましたね」
だが、幸いにして、彼と彼女の嗜好の道は奥深い。肉体で力押しができずとも、工夫のしようはいくらでもある。
ステファンはディアナの唇に触れ、薄く開かせて舌を摘んだ。
「んぁ……」
「今夜は休ませてもらいますけど、僕は、貴女と持続可能な関係を築いていきたいと思っていますので、明日から一層励ませてもらいます。覚悟してくださいね」
夫の宣言に、妻は舌を捕らえられたまま、みるみる頬を染めた。
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【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

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