ロレンツ夫妻の夜の秘密

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9.催眠術

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 香油を練り込んだ淡い紫の蝋燭は、火をつけると甘い匂いを漂わせはじめる。
 ステファンが、気持ちのよい夢が見られると買ってきてくれたものだ。
 寝台で彼に背中を預けながら、就寝前のひととき、ディアナは一点の炎を見つめている。

 ステファンが頼んできた。

「子供の頃の話を、聞かせてもらえませんか」
「子供の頃……?」
「そう、なんでも……覚えていることを」

 彼に問われるまま、ディアナは記憶を遡る。彼の相槌は控えめながら心地よく、炎は闇の中で揺らめいて、手足は端からじんわりと温かくなり、ディアナはひどく眠くなってくる。

「楽にしてくださいね」

 彼の言葉に従って、睡魔に身を任せた。





 ディアナは、『ロレンツ先生』の前にいる。
 カーテンがひかれた、暗い部屋には、花のような香りがたちこめている。燭台に蝋燭が一本、炎を揺らめかせている。

「お嬢様、それでは始めましょうか」

 促されて、ディアナは『診察台』に座り、服のボタンを外しはじめる。
 ディアナは年頃になって胸は膨らんだが、先端部分が奥に引っ込んでしまった。こんな身体では嫁げないのではと悩んだ。でも、先生は大丈夫だと言ってくれた。
 彼はディアナの胸を包む。
 痛くないように、全体を軽い力でマッサージした次は、胸先に口をつけて吸ってくれる。そして、頭を出した部分を摘んで引きだす。
 普段隠れている、ひどく敏感な部分に、温かい舌がぬるぬると唾液を塗り込んでいく。

「あぅ……やぁん……」
「声、我慢しなくていいですからね」

 先生は、丁寧にしてくれる。
 ディアナの乳房を下から支えて、周りの色が違う部分丸ごと食べるように口の中に入れて吸ったり、ぷくぷくと出てきた芽を舌を出して潰すようにしたり、軽く噛んだりもする。
 背を上ってくる快感に、つい、彼の頭に触れてしまう。

「あん……あ、ふぅ……だめぇ……」
「痛いですか?」

 胸の近くで喋られると、唾液で濡れた部分に息が当たって、ゾワゾワする。脚の間が、じわりと熱い。

「痛くないです……でも……また、汚しちゃう」
「そうですね、そういう汚れ物をメイドに渡すのは恥ずかしいし、自分で洗って干すのも見咎められそうで怖いとおっしゃっていましたね」

 そんなことまで話してしまっただろうかと、ディアナは頬を赤らめる。彼は診察台にタオルを広げる。

「下を外して、こちらに座ってください」

 自分で下着を脱ぎ、少し、トロトロしたものがついてしまっているのを隠すように小さくたたんで、診察台の端に置く。スカートをよけて、タオルの上に座りなおす。
 先生は『施術』を続ける。

「先生……」

 ディアナは身体の内側がどんどん熱くなっていくのを感じる。脚の間から、また何かが溢れてくる。

「ほら、ちゃんとできましたよ」

 彼が完全に露出した両芽を摘んでみせるころには、ディアナはすっかり息が荒くしていた。

「ごめんなさい、また、身体、変になってしまいましたの……」

 彼はディアナの唇に、恋人のようにキスをくれた。

「謝らなくていいですよ。正常な反応ですから」

 ぽんぽんと背を軽く叩いてもらって、安心する。彼の首に腕を回して甘える。

「……先生、お返しさせてください」

 今度は彼に診察台に腰かけてもらい、ディアナは彼の前に跪く。前をくつろげて、彼の性器を取り出す。
 彼がしてくれたように、はじめは手のひらで、軽い力でマッサージする。そこは皮膚が薄くて、赤黒く、熱い。触れているとだんだん、芯を持って立ち上がってくる。
 ディアナは唇を寄せる。何度も軽く吸うようにする。彼が反応してくれるのが嬉しい。
 下から上に舐め上げて、先端を口内に含んだ。
 ディアナは、それが閨事の一つなのは知っている。でも、先生となら構わない。父は、母を救ってくれたお礼に、ディアナを先生と結婚させると言っているのだから。これは、ほんの少し、予習をしているだけなのだ。
 一生懸命にしていると、彼の指がディアナの頬をつついた。大きくなったもので、わざと頬の内側を膨らませるように擦られた。

「んぁ……ひぇんひぇ……」

 きっと変な顔になっている。恥ずかしくなって口を離した。

「つい……リスみたいで」

 彼はディアナを見下ろし、細い目をさらに細くして笑っていた。

「いじわる……」

 十六も年上の彼は余裕で、こんなことをしながらも、ディアナを子供扱いする。
 ディアナは彼の茎の根元にある、ふたつの水袋のような部分を包む。少しひやりとする。
 この中には男性の精が入っていて、触れ合って性的に昂ぶると、茎から出てくるのだと教えられた。
 ディアナが上手にできると、先生は気持ちよくなる。そして、特別に彼女が好きだという証拠に、精を飲ませてくれる。

「すみません、やめないでください」

 彼はディアナに謝り、手を伸ばしてきた。豊かな膨らみを掬い上げる。
 ディアナは膝立ちになって、顔を横に背けながらも、彼のものに胸を押し当てた。
 拗ねているのに、胸の両芽は立ち上がったままで、じんじんしている。
 彼は自身のもので、彼女の片方の芽を押し込むようにしてきた。

「あっ……!」

 白い胸が、硬いものに犯される。さっきまで彼が優しくキスしてくれた敏感な部分が擦れる。彼の切っ先から滲んでくる、ヌルヌルしたものが塗りつけられる。逃げる芽を、彼はディアナの胸に手を添えて、何度も潰した。

「先生、そんなことしちゃだめ」
 ディアナは自分で胸を寄せて、彼のものを谷間に挟み込んだ。

「嫌でしたか?」
「今は、私がしてあげるんですもの……」

 熱く脈打っているものを、ぎゅっと包んだ。俯いて先端の雫を吸った。生臭くて苦いのに、なぜか癖になってしまう味だった。
 大きなきのこのように傘が張り出したそれを、今度はできるだけみっともない顔にならないように、舌を使ってふちをなぞるように舐めたり、軽く咥えて吸ったりを繰り返した。胸を揺すって茎も刺激する。彼から滲んでくるものと、ディアナの口から溢れたものが混ざって、滑らかに動くようになってきた。
 先生がまた、芽を摘み、両方同時に引っ張った。下腹がぎゅっと締まる。
 だめって言ったのにと、上目遣いで訴えた。彼の顔から笑みは消えていて、眉間に皺を寄せて苦しげだ。

「お嬢様……」
「先生、気持ちいい?」

 下腹の疼きを我慢して、ちゅっと音をたてて強く吸った。しかし、彼はディアナの肩を押し、それを取り上げてしまった。

「あん……なんで……?」

 彼は不服そうなディアナを診察台に引き上げた。

 彼はディアナを横にすると、スカートをめくりあげて脚を割り、濡れてぐちゅぐちゅになっている部分に触れた。陰部の蕾をめくり、ささやかな突起を押しつぶした。

「あっ、きゃあん!」
「がんばってくださいましたけど、ずっともじもじして、可哀想ですからね。今日は一緒に気持ちよくなりましょう」

 彼は指を二本揃えて、浅瀬を擦り始める。

「あっ、あっ、だめ、ひどい、私がしてあげたかったの、もうちょっとだったのに……!」

 簡単に主導権を取り上げられて、ディアナは悔しがりながら、彼の指遣いに抗えない。敷いてもらったタオルに、どんどん染みができていく。

「してもらいますよ。今度は、こっちで」

 彼はディアナの膝裏を持ち上げ、腿を揃えさせた。彼女に昂められたものを、すっかり濡れて張り付いた茂みの中央のあわいに沿わせるようにあてがう。むっちりとした腿に挟ませ、指ではなく彼自身で秘密の花弁と蕾を刺激しはじめた。
 ディアナは快楽に巻き取られそうになりながら、もがく。熱くて、にゅるにゅると滑らかで、ほんの少し角度が変わっただけで、最後の一線を越えてしまいそうだ。

「先生、だめぇ……!」

 まだ、結婚していないから、それだけはだめなのだ。なのに、気持ちよすぎて逃げられない。信じられないくらい、いやらしい声で喘いでしまう。
 彼は体重をかけながら押さえ込んでくる。強く抱きしめられて、ディアナは、もっと彼を近くに感じたい衝動に囚われながら、口だけでだめと訴え続けた。
 彼は、必死に快楽に抗うディアナの表情を至近で見つめ、耳に息を吹きかける。

「大丈夫ですよ、『ディアナ』。だって、もう、貴女は――

 ステファンは彼女の顔の前で指を鳴らした。

 ――僕の奥さんに……ディアナ・ロレンツに、なってくれたでしょう?」

「えっ、あ、え……」

 ディアナの翠玉に、光が戻る。
 ステファンは先ほどまで彼に奉仕してくれていた唇に触れ、催眠を解いたばかりでまだぼんやりとしている彼女の外陰を、再び擦り上げた。

「あっ、あうぅ……貴方ぁ……」
「ええ、結婚してから、そう呼んでくれるようになりましたね。ディアナ、だから、いいでしょう? 僕を受け入れてくれますね?」

 ステファンは彼女の脚を開かせ、蜜口にそれを当てなおす。彼女はまだ混乱した様子で彼を見上げていたが、何度か顔にキスを降らされると、安心したように口元を緩めた。

「……はい、貴方。くださいませ」
 ゆっくりと貫かれて、彼女は背を反らせ、長い嬌声を上げた。

 果てたのち、ディアナは呼吸が落ち着いたころに訊いた。
「変なの……ねえ、貴方、結婚前、私にいけないこと、しませんでしたわよね?」

 ステファンは迷いなく答える。

「もちろん」
「そうですわよね……」
「でも、僕は初めて会った日から、ずっと貴女を想っていましたよ」

 彼女は少し、眉をひそめる。

「……泣き顔がお気に召したんでしょう?」
「そのときはね。でも、僕は欲深なんです。今は、貴女の涙も微笑みも、心も身体も、過去も未来も、全部欲しい」

 ディアナは彼の胸にぴたりと耳をつけ、心臓の音に耳をすませるようだった。
 彼が黙って髪をすいていると、ぽつりと言った。

「……私も、貴方をもっと知りたいです」

 ステファンは、やがてくったりと深く眠った妻の様子を見ている。
 これまで数回、逆行の催眠をかけていた。
 初めてその状態で触れたときは、男手に弄ばれて「お父様、お母様、ごめんなさい……」と泣くのがいじらしく、そのまま全て奪いたくなるほどだった。
 しかしショックが大きかったのか、解いた後も丸一日心ここにあらずといった具合だったので、次にかけるときは、両親は許可済と刷り込んだ。
 今の、意地を張って背伸びしようとするお嬢様の状態くらいが、お互いほどよく愉しめる。
 それでも、最中に挿入はしない。婚姻前に純潔を散らすのは、貴族として教育された彼女には禁忌だ。
 どうせ、それを頂くのは未来の夫たるステファンなのだから、むやみに彼女の記憶を傷つけるつもりもなかった。

 ステファンは戯れているばかりではない。催眠状態に導きながら、彼女の思春期を洗いざらい知った。
 何を見、何を感じたか。
 どういうふうに扱われたかったのか。
 そこにいたのは、しっかりしているようで、寂しがりのお嬢様だった。
 周りに甘やかされる可憐な妹を密かに羨んでいる彼女は、「美しい」より「かわいい」と言われる方が喜ぶ。目上と認めたものにされるのであれば、頭を撫でられるのも好きだ。

 彼女の寝顔は、起きている時より、緩んで幼く見える。そのはずだ、彼女はまだ二十なのだ。彼の研究室に出入りする若手よりまだ下だ。
 彼は、今は本当に夢の中の『お嬢様』に語りかけた。
「僕の奥さんになってくれたお礼です。叶えてあげますよ、ひとつひとつ、全部」
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