紙杯の騎士

信野木常

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第6話 不可触領域

7. 家族の肖像

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 シェルター間を繋ぐ地下連絡通路を、四人乗りの電気車両エレカーが走る。その後部座席で、御幡シグネは隣の父を見遣った。御幡コウ、四五歳。髪に白いものが混じりつつあるものの、いたって健康で冴えない独身の中年男だ。一般の同年代と異なるところと言えば、妻を亡くし、二人の子を育て、更に実子でない二人の子どもの未成年後見人になっていることくらいか。
 そんな父は今、ひどく深刻な顔で頭を抱えている。
「なあシグネ、俺の育て方が悪かったのかな……」
 幾度となく同じ問いを繰り返すので、うんざりしたシグネは言葉を返すのをやめていた。
 シェルターに避難した際に、ケータイにかかってきた電話。それは海浜警備隊からのもので、ケイとメイハとアヤハがネリマ保安部に保護されていることを告げるものだった。三人とも連絡がつかずその身を案じていた時だったので、シグネは父と二人で安堵の溜息をついた。その後、三人の重大な違法行為の可能性を示唆されるまでは。
 それから今に至るまで、父はあれこれくよくよと悩んでいる。最初こそシグネも「あの子たちが事情もなしに、違法行為に手を染めるはずないでしょ」と言ってはきた。しかし言うにつれてシグネも自信がなくなってきた。あの子たち、事情があればやりかねない。6年前にやらかしたケイは元より、メイハとアヤハもケイが関わると見境がなくなるところが確かにある。
 それでも、とシグネは思う。あの子たちが大それたことをやらかすのは、相応の事情があってのことだと確信している。単に罪を犯しただけならば、わざわざ緊急事態宣言が出ているこの状況下で、こうして面会と引き渡しの連絡が入るはずもない。と思いたい。
 推測も交えてそんなことを言ってきたものの、父の反応は相変わらずだ。
「あの子らが非行に走ったら、母さんに顔向けできんよ。誰に似たのか……」
 メイハとアヤハはともかく、ケイは間違いなく母さん似ね。決めたことはどんな障害があってもやる。放たれた矢のように。シグネは思い出す。治療後の病み上がりの状態で、メイハとアヤハを引き取ることを決めた母は、児相の霧島女史と鬼神のように働いた。
 そして父にも似ているのだ。鈍感で頑固なところなどそっくりだ。
「そろそろネリマ保安部に着きます」
 前席で運転する海浜警備隊員が、振り返らずに告げてくる。
 薄暗い地下通路の先に、ライトに照らされた入り口が見えてきた。
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