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打撃系少女との邂逅
しおりを挟む「そこの方、大丈夫でしたか?
ほんと、ごめんなさいっ!」
背中から掛けられた声に、ゆっくりと振り返る。
そこにあったのは、はたして少女の姿だった。
九十度にまで頭を下げているので顔は見えないけれど、ピンクの髪にぴょこぴょこと動く丸っこい耳が目を引く。
「あ、いや、別になんとも無かったから大丈夫です……よ?」
コレはあれか、犬耳ってやつか。
ピコピコしていてかわいい。
キャラメイクの時にあったような気もするけど、その辺りはスルーしちゃったからなぁ。
思い返してみれば、ちらほらとこういうのをつけたプレイヤーも居た気がする。
「それなら、良かったのですけど……。
……ってうわぁっ!? 凄女サマッ!?」
おずおずと顔を上げたかと思えば、素っ頓狂な声が放たれた。
心の底から驚いたのだろう。目を見開いたまま、硬直している。
うーん。その反応は、ちょっと胸に来るかなぁ!
『ビビられてて草』
『まぁ、この子の気持ちはわかるw』
『知らない相手に迷惑かけたと思ったら、それが超大物だった』
『地獄じゃんw』
『芸能人みたいなもんだもんな』
「いや、そんな大袈裟な」
「あっ! すみません、失礼なことを」
我に返り、自分の対応が猶更まずいということに思い至ったのだろう。
余計にあたふたとした様子に、思わず苦笑い。
気にしないで、と伝える。
「えーっと、私のことはご存知なんです?」
「はいっ! 以前カナさんとお会いしたことがあって、その時にユキさんのこともお伺いしました。
それから配信も観させてもらってますっ」
「わー。面と向かって観てるって言われると、ちょっと恥ずかしいものがあるね。
今も配信中なんだけど、大丈夫かな」
配信で顔や姿全体が映るかどうかは、各プレイヤーの設定に委ねられている。
拒否するか許諾するかについてはアカウント取得の時に必ず聞かれ、その後はオプションでいつでも変更可能。拒否している時はカメラに映ってもモザイクがかかる…………だったかな?
そんな訳だから、大丈夫ではあると思うんだけど……まぁ、一応ね。
「はいっ! 全然問題ありませんっ」
ぴこぴこと動く耳に、ちょっと目がいく。
ちょっと失礼な感想かもしれないけど、なんだかこの子の後ろに尻尾が見える感じがするよ。
「それにしても、カナのことは知っているんだね」
いつの間にか、敬語が抜けちゃっていることに気付いた。
うーん。この子の持つ雰囲気かな。
私より小柄な外見ってのも多少はあるけど、何より気配が柔らかい。
「あ、えーっと。知っていると言っても、昨日はじめてお会いしたって感じですけれど。
エリアボスにリベンジしようとしていたら、ちょうど移動中のカナさんに出会ったんです!」
昨日…………あ、もしかして。
「ひょっとして、ハンマー使いだったりする?」
「はいっ! 初日は色々な武器を触ってみましたが、一番うきうきしたのがこれだったのでっ」
笑顔を浮かべながら、武器を具現化して見せてくれた。
バットのように太い持ち手をしっかりと握り、二本の足で堂々と立ってみせる姿。
私よりも小さなはずのその身体からは、確かな威圧さえ感じ取れた。
「おー……! 凄いね。カッコイイ」
「そ、そんな! 筋力に沢山振ってるだけですからっ」
「私だったら、振っても使いこなせない気がするなぁ。
此処で会ったってことは……もうスライムは倒せたんだ」
確か、カナから聞いた話では、キングスライムにリベンジするところだったはず。
でもここは、S2どころかS4エリア。街の近くだ。
「そうなんです! リーチの長い触手がとてもキツかったんですけれど、なんとか……!
その次の骨の巨人さんの方が、まだ楽でしたっ」
「おおー! あのスライムさんの攻撃、強烈だよねー。
私も、ものすっごい吹き飛ばされた記憶があるよ」
「あの配信のアーカイブ見ました!
最後、カナさんの前に立ち塞がる姿ほんとうにカッコよかった!」
「あはは……あの後はカナにカッコよく助けられちゃったんだけどね」
聖都ドゥーバに向かって歩きながら、話に花を咲かせる。
内容はもちろん、これまで約1週間程度のことについて。
この少女、まず名前はトウカという。
サービス開始後、登録だけ済ませてフィールドに突進した私と違って、彼女はまず色々と訓練場で武器を触って遊んでみた。
そこで気に入ったのが、槌……いわゆるハンマーという武装だったらしい。
対モンスター用にデザインされた大きなハンマーを使って遊んでいるうちに、芽生えた感情は『もっと大きなものをブンブンしたい』というもの。
そんな矢先に出会った、生産を軸にしている人にも協力してもらった結果たどりついたもの。
それが、いま手にしている『自分の振り回せる限界の重さ大きさ』のハンマー……だそうだ。
うん。予想はしてたけど、やっぱりなかなかにぶっ飛んでるね!
「じゃあ、今も結構ギリギリの重さを感じているってこと?」
「あ、えーっと……あれから結構レベルも上がりましたし、ハンマーの扱いにも慣れてきたので。今はそんなに苦労は感じないですね。
向こうの方も結構ノリノリみたいで、無事街にたどり着いたら、また新しいハンマーを作ってもらえるそうなんです。
そしたら、また慣れるまでは色々大変かもしれません……!」
「…………既に、顔の前に持ってきたら全く見えなくなるくらいに巨大だと思うんだけど。
そこから、まだ大きくするの?」
「はいっ! なんかこう、私、自分の身体が小柄な自覚はあるんですけれど。
こういう子が見合わないほどにでっかい武器ふりまわしているのって、ロマンだと思いませんか?」
「わかる」
「でしょっ! 私はそれを体現できるようになりたいんです。
ちっちゃな体におっきなぱわー。それが私の目指す形!」
そう言ってキラキラとした笑顔を浮かべる姿には、思わずこちらの表情も緩んでしまう。
多分、話してる感じ、年齢はかなり近いはずなんだけど……それを超えるこの雰囲気。和むね。
「スタイルが確立できてると楽しいよね~。私も、とにかくライフを盛って盛ってそれで乗り越えるってのを掲げて始めたんだ。
まさか本当にライフ自体で殴るようになるとは、流石に思わなかったけど」
「あはは。ユキさんの場合は耐久力も攻撃力も全部、HPに委ねられていますもんね。
『初心者』の看板どこ行ったーって感じです」
「ん~~確かに。ずっとタイトル変えてないけど、早くもちょっとズレて来たかなぁって思ってたんだよね」
「あっすみません。否定とかそういうつもりではっ」
あたふたとし始めるトウカちゃんに、気にしなくて良いと苦笑する。
そうだなぁ。もうちょっと今のスタイルに合った配信タイトル…………お。
「『ライフで受けてライフで殴る』これぞ私の必勝法…………どう、かな?」
「えっ。私に聞くんですかっ!?
……えっと、その、すごく良いと思います。
ユキさんのプレイスタイルをバッチリあらわせていると思いますし、必勝法ってのも独特の手法で最前線を切り開いているお姿にピッタリです!」
「えへへ。ありがとう。じゃあ決まりかな」
そうと決まれば善は急げと、ウィンドウを操作。配信タイトルを変えておく。
後で告知もしておこっと。 心機一転、これからも頑張ろう!
内心で改めて気合を入れ直している私の傍ら。
『わ、私とんでもないことしちゃったんじゃ……』と慌てている姿が、なんだか可愛らしかった。
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