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突入 S3エリア
しおりを挟むかすかな浮遊感と共に、infinite creationの世界に降り立った。
これが四度目かな?
場所は、前回ログアウトした地点であるS2エリアボスのゲート前。
そうそう、言い忘れていたけど、このゲームにおいてログアウトできる場所は決まっている。
復活地点を設定できる各街と、ダンジョン前などにおいてあることがある簡易拠点地。最後に、ワープゲートの半径5m圏内だ。
どこも魔物は絶対にポップしないようになっている他、内部での戦闘行為はできないことから、セーフティエリアと呼ばれている。
まぁ、両者同意での決闘は行えるけど。これについてはいつか触れるね。
それ以外の場所ではログアウト自体はできるものの、アバターはそのままの状態で残されてしまう。
回線不良や急用など、不測の事態で落ちた場合は自己責任というわけだ。
ま、前置きはこれくらいにして、配信はじめようか。
ポチポチとウィンドウを操作し、カメラドローンを呼び出す。
無事に撮影が始まった。
「はろはろー。夜の部配信やってくよーー」
『わこつ』
『待ちわびた』
『結構遅かったね』
『今日はもう無いのかと』
「ごめんねー。買い物行ってご飯食べてたら遅くなっちゃった」
『なるほど』
『おつ』
『把握』
『カナと仲睦まじく……』
『妄想がすぎるw』
「えっ! 良く分かったねぇ」
『あってて草』
『エスパーか?』
『カナが呟いてたよ』
『↑わろた』
「なるほどね!カナ経由かぁ」
カナ経由なら、さもありなんって感じだ。
SNSに関してはそんなに見ていたわけじゃないけど、最近一気に私に関する呟きが増えた気がするんだよね。
きっかけは多分、私が配信するようになったことだろう。
「さてさて。じゃあ呟いた通り、S3エリアの探索に行くよ」
『8888』
『最前線を平然とソロで行く』
『しれっと言ってるけどw』
『本日も初心者詐欺はじまります』
『いまのHPってどのくらいなん?』
『たしかに気になる』
「あ、しばらくステータス表示してなかったっけ。今出すねー」
ちらほらステータスを見たいという声があったので、ウィンドウを操作する。
そういえば、前に配信で見せたのはレベル8くらいの時だっけ?
◆◆◆◆◆◆◆◆
名前:ユキ
職業:重戦士
レベル:15
HP:3135/3135
MP:0
右手 なし
左手 なし
頭 バンダナ
胴 革のよろい
脚 布のズボン
靴 革のくつ
物理攻撃:0
物理防御:8
魔法攻撃:3
魔法防御:3
VIT:180
STR:0
DEF:0
INT:0
DEX:0
AGI:0
MIN:0
所持技能:最大HP上昇 自動HP回復 GAMAN ジャストカウンター 致命の一撃 聖属性の心得 カバーリング 第六感
称号:創造神の興味
◆◆◆◆◆◆◆◆
『えぇ……』
『すご』
『さんぜんww』
『独走すぎる』
「えへへーとりあえず3000は超えたよ!」
ようやく? 三千。目標が5桁なことを考えると、まだまだ遠い。
けど、確実に成長はしているんだ。
しっかし、長い長いステータス欄だけど、半分くらいが無意味と化しているのがちょっとむなしい。
次からは要らないところは目を通す必要もないかな?
『これの恐ろしいのは、ただ耐えるだけじゃないところなんだよなぁ』
『それw』
『3000以上与えないと倒せない上に、3000のカウンターが飛んでくる』
『いやもうこれ誰が倒せんの』
『キングボア呼んできて』
『笑う』
『エリアボスじゃ周回されちゃうもんなぁ(』
『HP特化の弱点がHPで負ける相手と聞いて』
「んー……まぁ元々はカナと遊べるようにってつもりだったから、弱みがあっても別に良いんだけどねぇ。
完璧なんて最初から目指していないわけだし。
ただ、自分より体力が多い相手にあたると確実に勝てないってのはちょっと気になってきたかも」
『贅沢が過ぎる』
『わからなくはないけどw』
『寧ろこれ以上強化されたら何も手を出せないんやが』
『あきらめようw』
『とりあえず、ユキが負けず嫌いなことは伝わった』
『しっかりとインクリを楽しめているようでなにより』
『↑どこ目線なんだよww』
「むーー…………いいや。今から見つければ良いのさ」
これからどんどん未探索地域を開拓していくんだ。
きっと一つや二つ、便利な技能でも見つかることだろう。
現状可能性があるとすれば、GAMANを放った後にポーションで回復するくらいかな?
さてさて。現状私には三つの選択肢がある。東西どちらかに流れてみるのが二つ、南にもっと突き進むのが一つ。
私としては、未知の発見の可能性がいちばん高いものを選びたい…………となると、自ずと一択になったわけだ。
「よし!れっつごー!」
告知通りのS3エリアに向かって、南進。
と言っても、元々ボスのゲートは境界線にあったので、すぐにエリアは切り替わる。
S3に変わったからと言って急激に背景が変化するということはなく、まだじめじめとした湿地帯。
月が出ているとはいえ、昼間と比べるとかなり薄暗く、正直気味が悪い。
「……なんか出そうなレベルなんだけど?」
『わかる』
『雰囲気ありすぎでしょ』
『ホラー映画かな?』
『後ろを振り返ると…………』
『ウシロダ』
「っ! …………ちょ、ちょっと止めてよ!」
思わず振り返ってしまった。
後ろにはただ暗い湿地が広がっているのみで、ポツンと赤い縁のワープゲートが佇んでいる。
『かわいい』
『振り向くんだww』
『さてはホラー苦手だな』
「ん~得意ではないって程度だけど……皆も来ればわかるよ。
無駄にリアルなせいですっごい雰囲気あるんだから…………きゃぁぁっ!?」
待って待って待ってちょっとまって。
前に向き直った瞬間。
手を伸ばせば届くほどの距離に、骨が、いた。
『うわ』
『ひぃ!?』
『やば』
『ガチ悲鳴じゃん』
「誰でもびっくりするでしょうが!? 骨! 骨がいきなり目の前にいたんだよ!?」
とっさに飛び退いて、距離を取る。
バクバクと鳴り響く心臓を抑え込んで、なんとかそいつを観た。
◆◆◆◆◆◆◆◆
名前:スケルトン
LV:13
状態:平常
◆◆◆◆◆◆◆◆
レベル13。一気に強くなったね。
けどまぁ、一体くらいなら。剣を持ってるのが、ちょっとだけ怖いけど。
「すーーはーー……よし。【GAMAN】──ッ!?」
使った瞬間、膨大な数の敵意に襲われた。
全身の身の毛がよだつような寒気を感じ、周囲を見渡す。
先程まで何も居なかったはずの地面。そこからズズズっとなにかが浮かび上がってくる。
何か…………いや、逃避はよそう。
見渡す限りの、骨、骨、骨。
大量のスケルトンが、剣を片手にカタカタと身を鳴らしていた。
「ひっ……!」
じわじわとにじり寄ってくる骨の軍団。
さ、さすがにこれは心臓に悪いとかいう次元じゃないんじゃないかな。
『やばすぎ』
『トラウマ不可避』
『逃げて!超逃げて!』
『骨は拾いに行ってやるよ』
『骨だらけで分からなくなりそう』
『そもそもS3行けないだろ』
『草』
くっ……他人事だからって好き勝手言って……!
でも、少なからず気持ちが楽になった面もあるのは否定出来ない。
「……こ、こいやぁ! 一体でも多く道連れにしてやるからなぁ!」
奮い立たせるように叫んで、骨の軍団を見据える。
一番近くにいたスケルトンが、私の右腕を切り裂いた。
私が動かないのを良いことに、次々と殺到する骨、骨、骨。
袈裟懸けに斬られ、肩を貫かれると、今度は腹部を横なぎに切り裂かれた。
そこまで痛みもないしそもそもゲームとはいえ、こうも剣で斬られるのはなかなか心にくるものがある。せめて防御できればまた話は違うんだけど。
みるみるうちに減っていくHP。だけど、まだ足りない。もっと、限界まで。
「足りない、な?」
『ひぃ』
『ちょ、まw』
『壮絶すぎる』
『惚れた』
身体に剣が刺さっているのも厭わず、ニヤリと。なるべく余裕に見えるように笑ってみせる。
カメラドローンくん、ここで正面から私を映し出すとは……いい仕事だ。
私の凄みに効果があったのか。
はたまた斬っても斬っても倒れないこの身体に、不死者でありながら恐れを抱いたのか。
理由はわからないが、たしかにスケルトンたちが一歩退がった。
「ふふっ……倒しきれなかった時点で、君らの負けだよ」
【解放】
刹那、私の身体から膨大な力が解き放たれ、天へと昇っていく。
暴力的なまでの力の奔流が、闇夜を切り裂いて、空高くへ。
思っていたのとは、大きく異なる演出。
けれど、身体は自然に動いた。
ゆっくりと天にかざした右手を、一息に振り下ろす。
その先は、もちろん。
一瞬の出来事だった。
空から白い光が雨のように降り注ぎ、数多のスケルトンを貫いて。
溢れかえる程にいた骨の軍勢は、全て光の中に消えて行った。
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