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ナターシャとの好感度上昇
第七話
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ナターシャが、ここのところ顔を出さない。
急に寒くなったので、体調でも崩したのだろうか。
ナターシャがどうなろうと俺はかまわないが、彼女は村の大切な食糧源(の生産者)だ。かと言って見舞いに行こうにも、森の中では普通の人間はおいそれと見に行くこともできない。
「・・・だから、ね? 神父様。頼むよ。ほかの男じゃ、信用出来ないからさ」
村の食堂の店主がそう言って、俺に見舞いに行くように頼んできた。俺が護衛するのでいっしょに来るかと聞いたが、聞いただけでぶるってしまった。狼男のくせに、どうしてこう臆病なのか。
村の人々の見舞い品を持って、ナターシャの家まで歩く。
森の中に小さな小屋と井戸があり、なるほど畑には幾つかの作物が生えている。何の野菜なのか、俺にはあまり分からないが。
ナターシャの姿はない。小屋をノックしてみる。
「ナターシャ。私です。神官です」
返事がない。どこかに遠出しているのだろうか。もしかしたら、入れ違いになったという可能性もある。厩もなく、手掛かりになるようなものはない。まあ、女性の一人暮らしの家に厩があるはずがないが。
すると、物音がして、ドアが開いた。
ああ、やはり、顔が赤く、のぼせている。
「体調が悪いのですか?」
「ううう、ずみ゛ま゛ぜん…。温泉を掘り当てたので、調子に乗って長湯したら風邪を引いてしまって」
何ともナターシャらしい理由である。
「入りますよ」
「えっ」
彼女の静止を聞き流しながら、小屋に入る。
隙間風だらけの、粗末な小屋だ。確か狩人が建てたと言っていたか。服や食器が散乱している。
「例の狩人は今どちらに?」
「ええと…、彼は死にました」
「死んだ?」
「その…色々あって」
彼女がもごもごと濁す。病人から色々問い質す訳にもいかない。今はとにかく休んでもらおう。
「寝ていて下さい。何か作りましょう」
「え。そんな…」
「大丈夫、任せてください。手先は器用なんです。あなたは(村にとって)大事な人なんですから」
「ふえぇ…!?」
卵粥に、ミルクスープに、薬草を幾つか。あとはお見舞いにもらったお菓子をナターシャに食べさせた。
「今夜は外のサイロで休みます。何かあったら呼んでください」
「神父様」
「何でしょう」
「あ…ありがとうございます」
彼女の顔はまだ熱を帯びているようだ。俺はナターシャの頬に手を触れ、熱いことを確認した。ほうっと熱に浮かされた表情をするナターシャ。
「ほんとうに…罪作りな人ですね」
「私が? 神のしもべである私が罪を犯す訳がないでしょう。変な人ですね」
きっと、熱に浮かされて意味不明な言葉を口走ったのだろう。彼女は困ったように笑い、眠りに落ちた。こうして見れば、彼女は町娘らしからぬ美貌の持ち主と気付くことができる。雪のように白い肌と髪、ぷっくりと形よく血色のある唇は、どんな男も虜にするに違いない。
無論俺は違うし、貧乏農家の家に長居する趣味はない。彼女の美しい顔から視線を上げ、ひとつため息をついた。
「ったく、なんで俺がこんなこと…」
とぼやきつつ、村の生命線のために、狭い納屋生活がその後2日も続いたのだった。
急に寒くなったので、体調でも崩したのだろうか。
ナターシャがどうなろうと俺はかまわないが、彼女は村の大切な食糧源(の生産者)だ。かと言って見舞いに行こうにも、森の中では普通の人間はおいそれと見に行くこともできない。
「・・・だから、ね? 神父様。頼むよ。ほかの男じゃ、信用出来ないからさ」
村の食堂の店主がそう言って、俺に見舞いに行くように頼んできた。俺が護衛するのでいっしょに来るかと聞いたが、聞いただけでぶるってしまった。狼男のくせに、どうしてこう臆病なのか。
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返事がない。どこかに遠出しているのだろうか。もしかしたら、入れ違いになったという可能性もある。厩もなく、手掛かりになるようなものはない。まあ、女性の一人暮らしの家に厩があるはずがないが。
すると、物音がして、ドアが開いた。
ああ、やはり、顔が赤く、のぼせている。
「体調が悪いのですか?」
「ううう、ずみ゛ま゛ぜん…。温泉を掘り当てたので、調子に乗って長湯したら風邪を引いてしまって」
何ともナターシャらしい理由である。
「入りますよ」
「えっ」
彼女の静止を聞き流しながら、小屋に入る。
隙間風だらけの、粗末な小屋だ。確か狩人が建てたと言っていたか。服や食器が散乱している。
「例の狩人は今どちらに?」
「ええと…、彼は死にました」
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「その…色々あって」
彼女がもごもごと濁す。病人から色々問い質す訳にもいかない。今はとにかく休んでもらおう。
「寝ていて下さい。何か作りましょう」
「え。そんな…」
「大丈夫、任せてください。手先は器用なんです。あなたは(村にとって)大事な人なんですから」
「ふえぇ…!?」
卵粥に、ミルクスープに、薬草を幾つか。あとはお見舞いにもらったお菓子をナターシャに食べさせた。
「今夜は外のサイロで休みます。何かあったら呼んでください」
「神父様」
「何でしょう」
「あ…ありがとうございます」
彼女の顔はまだ熱を帯びているようだ。俺はナターシャの頬に手を触れ、熱いことを確認した。ほうっと熱に浮かされた表情をするナターシャ。
「ほんとうに…罪作りな人ですね」
「私が? 神のしもべである私が罪を犯す訳がないでしょう。変な人ですね」
きっと、熱に浮かされて意味不明な言葉を口走ったのだろう。彼女は困ったように笑い、眠りに落ちた。こうして見れば、彼女は町娘らしからぬ美貌の持ち主と気付くことができる。雪のように白い肌と髪、ぷっくりと形よく血色のある唇は、どんな男も虜にするに違いない。
無論俺は違うし、貧乏農家の家に長居する趣味はない。彼女の美しい顔から視線を上げ、ひとつため息をついた。
「ったく、なんで俺がこんなこと…」
とぼやきつつ、村の生命線のために、狭い納屋生活がその後2日も続いたのだった。
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