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 久しぶりに、屋敷へと戻ってきた。
 といっても、実に二か月ぶりくらいだ。
 貴族が遠くの学園に通う場合は、長期休暇くらいしか戻らないのだから、それに比べれば早い帰還だ。

 俺が通されたのは面会室だ。
 部屋に入ると、兄と父がいて、鋭い目を向けてきた。
 俺が部屋に入ってすぐだった。父がこちらへやってきて頬を殴りつけてきた。
 ……いてぇな。
 HPは1で耐えている。とりあえず、【オートヒール】を発動した。

「貴様……ッ! バルーダを騙し、酷い目に合わせたらしいな!!!」
「……何のことだ?」
「とぼけるつもりか!? 昨日、オークション会場でバルーダにわざと入札させたらしいじゃないか! それも、法外な値段で! それが原因で、バルーダがどんな目に合ったのか知っているか!?」
「美女やおっさんに蹴られるのを楽しんでいたんじゃないか?」
「そんなわけがあるか!」

 さらにもう一発、頬を殴られる。
 痛みはあったが、【オートヒール】ですぐに治療される。
 さらに殴ってこようとしたので、その手首を掴みあげた。
 昔は優秀だった父だが、不摂生と老いから、すでにステータスはかなり衰えていると聞いている。
 だから、今の俺でもあっさりと止めることができた。
 少し力を籠めてやると、たちまち彼の表情が変わる。

「うぐ!?」

 驚いたように父は手を引こうとした。俺がぱっと手を離してやると、彼はさらに顔を鋭くした。

「油断していたとはいえ、反抗するとはいい度胸だな……!」
「なんでもいいけど、それで俺を呼びつけてどうしたいんだ?」

 俺を殴るためだけに呼んだ、とは思えない。
 他に何か理由があるはずだ。

「まずは、謝罪だ。そして、バルーダのクランである『獅子の牙』と『アルケイク』にも正しい情報を伝え、謝罪しろ。そうすれば、バルーダはクランにも戻れるし、金の支払いだっておまえの責任にできるからな」
「……は? クランに戻る? 金の支払い?」
「は? じゃない! 貴様が騙したせいで、我が家は三百万ゴールドの支払いを行ったんだぞ! 何より、バルーダは『獅子の牙』を追放された! 貴様がきちんと事情を説明すれば、すべてなかったことになる……正確には、すべての責任を貴様が負うことになるというのが正しいか。とにかくだ、今すぐ謝罪に向かうぞ!」

 ……本気で言っているのだろうか?
 仮に俺が騙していたとしても、あんな簡単にクランの金を自分の物のように使う奴を戻すわけないと思うが。

「……行ったとしても、俺はこう言うだけだぞ? 『バルーダが、俺に対抗しようとして、金がないのに見栄を張った』って」
「ふざけるな! まだそんな減らず口を言う気か!」

 父がさらに殴りかかってこようとしたが、それを兄が止めた。

「父さん。ここからはオレに任せてくれないか」

 兄そう言って、俺の前へとやってきた。
 彼は鋭くこちらを睨み、それから口角を吊り上げる。

「さっき、父さんがああ言ったが……協力する気はないんだな?」
「だって、俺にメリットないだろ?」
「ああ、そうか。そうかよ。それなら、決闘でケリをつけるってのはどうだ?」

 兄がからかうように笑ってきた。
 
「決闘?」
「ああ、そうだ。もしもオレが勝てば、先ほど父さんが言った行動をしてもらう」
「もしも俺が勝ったら?」
「ありえないことについて考えても意味ないだろ?」
「それなら、決闘を受ける意味が俺にはないな」
「……はぁ、まったく。なら、何がいいんだ?」

 そうだな。
 金銭でも要求すればいいが、兄を助けるために今はかなり金を使ったことだろう。
 ならば、次に良いのは――。

「俺と決闘したときに、おまえが身に着けていた装備とスキルをもらう」
「はっ、いいぜ。それじゃあさっさと決闘をしようぜ」
「いや。きちんと契約書を書いてもらう。スキルを使用した、契約書だ。そのスキルを使える人間もいるだろ?」
「……ったく、面倒だな。まあ、確かに……決闘した後で逃げられても困るしなぁ」

 兄はにやりと笑い、それから執事に命令して、男を呼びつけた。
 屋敷にはだいたい文書を作るための人間を置くもので、このユシー家でもそれは変わらない。

 速やかに契約書を書いてもらい、俺はその内容を読んでいく。
 俺が勝った場合は、決闘時に兄が身に着けていた装備とスキルをもらう。また、俺に対して不必要に関わらない。
 兄が勝った場合は、先ほど父が言った内容のことを遂行する。

 俺たちはお互いにMPを指先に集め、契約書の名前の部分に当てる。
 MPによって拇印のようなものになり、俺たちの契約が結ばれた。

 これによっていわゆる、奴隷の首輪と同じような効果を持つ。
 奴隷の首輪は半永続的に、効果を発揮するがこの契約書はあくまで書かれている内容を遂行するまでだ。
 もしも、契約を反故するような行動を行えば、死ぬほどの痛みに襲われる。そのまま、無視を続ければ本当に死ぬ。

 この契約書は、それだけ恐ろしい効果を発揮するため、拇印を押す場合は良く読む必要がある。
 オルエッタとか、気楽に押してしまいそうなので本当に心配だ。

 拇印を押し終えたところで、兄は大きな声で笑いだした。
 それは兄だけではなく父もだった。

「はっ、ははは! 暗黒騎士で、HP2のおまえが本気で決闘を認めるなんてな!」
「く、はははっ……! 自分の立場を理解できていないようだな……っ。バルーダ! 殺さない程度に遊んでやれ」
「ああ、分かってるよ父さん。さあ、レウニス。さっさと決着つけに行こうぜ?」

 楽しそうに笑っている二人に、俺も気付かれない程度に笑みを返す。
 ……どっちが、立場を理解できていないか。教えてやろうじゃないか。
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