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第31話
しおりを挟む医者での話を聞き終え、病院を出た。
出たところで、スティナが俺の肘をつついてきた。
「……なんだ?」
「ヴァレオさん、ちょっとお医者さんのこと疑っていたでしょう?」
「……なんのことだ?」
図星だったので、すっとぼけておく。
……それは、まあな。
俺もスカーの治療として、いくつか医者に聞いて回ったことがあった。
スカーを治す手段がある、といったことを言ってきた医者たちは皆嘘をついていた。
立場的に弱いものをだまし、搾取しようとする輩はいる。
もしかしたらルタも騙されているのではないかと思い、俺は医者に挨拶として探りを入れていた。
「あのお医者様が話していた通り、魔力欠乏症を押さえるには失われる魔力を補うための薬が必要です」
「俺も色々病気に関しては調べたことあるから、一応知識はある。……嘘をついていないっていうのも、分かってるよ」
「そうですか。あのお医者様はできる限りルタさんの負担を減らすようにしてくれていましたよ? 一日一つ薬を使う計算だとしても、ルタさんの支払った金額はどう考えても相場よりも安すぎます」
「……だな」
ルタが医者に支払った来月の金額は、相場の薬代の半分程度だった。
あれはほとんど医者に利益はないだろう。
「ですから、大丈夫ですよ。ルタさんにも味方はいるということですね」
「そうだな。それにしても、貴族っていうのは病気とか薬に関しての勉強もするんだな?」
「え!? あー、あはは。そうですね。私の家もその、病気とは色々関係がありまして……」
俺はスティナの詳しい素性は知らない。
追及すると、彼女はいつも笑ってごまかすからな。
俺がさらに質問しようとすると、スティナは逃げるように前へと歩いていく。
スカーと並んで先頭を歩いていたルタの前に出た彼女は、両手をぱちんとならした。
「私はちょっとギルドに行ってきますね。新しい依頼を探してきます」
嫌がっている彼女にこれ以上質問するつもりもない。
「そうか。次はスティナの番だったな」
「はい、自由に選ばせてもらいますね」
「了解。アレックスも一緒に行くんだよな?」
「もちろんだ」
そういってスティナとアレックスはパーティーから離れた。
そんな二人の背中を見送りながらルタが首を傾げた。
「スティナの番ってどういうこと?」
「俺たちのパーティーの基本目的は旅だ。その旅先を依頼を見て選んでいるんだが……それぞれ意見っていうのもあるだろ? だから、依頼を受ける順番を決めているんだ」
「そうなんだ……」
「ちなみに、アレックスはスティナと同じ場所であればいいって奴だから選ばないし、リアンも旅さえ出来ればいいからって依頼を選ぶことはない。な、リアン?」
一緒にいるのに全く話さないリアンに呼びかけると、こくりと首を縦に振った。
「そういうわけで、必然的に依頼を選ぶのは俺とスティナだけだ。次からルタも選ぶか?」
「え? う、うーん……でもまだ依頼とか選んだことないからよくわかんないかな」
「それなら、次俺が選ぶときに一緒に探してみるか?」
「うん!」
嬉しそうにうなずいたルタが足を止める。
「ここが僕と母さん、それに妹が暮らしている家だよ」
「……そうか」
俺はその家を見上げる。
それなりに立派な家だ。父の名前が挙がらなかったのは、恐らく何かしらの理由があるんだろう。
ルタとともに、俺たちは家へと上がった。
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