ゲームの悪役に転生した俺が、影の英雄ムーブを楽しんでたら、俺のことが大嫌いな許嫁にバレてしまった

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　かなり鍛えたつもりだったが、スザク&セイリン編のフォッスルは化け物みたいな強さだ。
　まさか、ここまでギリギリになるとは思っていなかった。

　甘い考えではあったが、もっと余裕を持って戦えると思っていたくらいだ。
　あれだけ早く動かれると、空間魔法も当てるのが難しい。
　範囲をまとめて薙ぎ払うか？
　
　ただ、もしも今回のフォッスルがスザク&セイリン編で出てくるフォッスルと同じ思考で動いているのであれば……ここで殺すのはまずい。
　彼は、魔族側ではあるがセイリンを魔王化させることに反対している側でもある。

　それでも、彼はより多くの血が流れるくらいなら、セイリン一人の犠牲で済んだほうがいいと思い、セイリンを捕らえにきている。
　彼には、彼なりの理念があって行動していて、スザクが魔族も人間すべて救うことを決意してからは、一時的にスザクの味方をしてくれることもある。

　……だから、万が一の可能性もあるため、彼をここで殺すまでの攻撃はできない。

　俺の、ここでの勝利条件は……フォッスルの撃退。
　そして、彼の心にある迷いを揺さぶること。
　刀を再び構えた彼に、俺は両手に短剣を構えながら問いかける。

「魔族、おまえはなぜセイリンを狙う？」
「人間、おまえはなぜセイリンを庇う？」

　質問に質問をぶつけてくるんじゃねぇっての。
　ただ、俺と対話はしてくれるようだ。と思えば、一瞬で地面を蹴り付け加速する。

　フォッスルの振り抜かれた刀を短剣で捌いていく。
　……ゲームでも、フォッスルと対話することでスザクは撃退していた。
　ただ、今のタイミングで出会うには早すぎるのだが。

「簡単な話だ。彼女が普通の人生を望んでいるからだ」
「魔王の子どもとして生まれたのに普通を求めるのか」
「だけど、勇者の子どもでもあるだろ？」

　振り抜かれたフォッスルの長剣に俺は大きく弾かれる。追撃で襲ってきた斬撃を、空間魔法で跳ね返すと即座にフォッスルは自身の刀で打ち消した。

　俺は空間魔法を利用し、フォッスルの背後へと移動する。だが、フォッスルは俺の空間魔法の出入り口へ即座に刀を振り下ろす。
　……適応が速いな。フォッスルの刀が俺に当たる直前、その刀の軌道に合わせて空間魔法を展開する。

　刀を別空間へと移動させながら俺は短剣の腹をフォッスルの顔面へと叩き込む。
　仕返しに弾き飛ばしてやったが、フォッスルには大したダメージはないようだ。
　軽く顔を拭うようにしてからすぐにこちらを見てくる。
　フォッスルはしばらくこちらをじっと見てから、刀へ視線を向ける。　

「普通の人生、か。それを送れるような出自ではないのが彼女だ」

　フォッスルがそういった次の瞬間、彼の動きがさらに加速した。
　目の前に現れた彼が刀を振りおろす。それを弾くように受けた次の瞬間には、すぐに脇から俺を薙ぎ払うように迫る。

　左の短剣で受け止めるが、力は向こうのほうが上のようだ。
　すぐに力の向きを逸らすようにしながら、俺は身を屈めてやり過ごす。
　だが、またすぐに刀が迫ってきた。