ゲームの悪役に転生した俺が、影の英雄ムーブを楽しんでたら、俺のことが大嫌いな許嫁にバレてしまった

木嶋隆太

文字の大きさ
上 下
102 / 107

103

しおりを挟む

 スザクはセイリンに頭を殴られながら、それから思い出したように口を開く。

「あと、魔物に襲われてたな」
「そっちを思い出すのがさきだろう……あのときは、移動に全ての魔力を使ってしまって疲れ切っていたんだ……」

 そう、そのときだ。

「その時の魔物を倒した時は、勇者の力は使わなかったのか?」
「……いや……あっ? でも、なんか体の奥底からぐわわー! って力が湧き上がってたなぁ」

 だよな。
 ゲームで勇者の力を発動するためのチュートリアルがあるのもその戦闘のときだ。
 勇者の力を発動しないと、攻撃が通らないほどの実力差があるんだよな。
 使えば、互角に戦えるのでレベル差を埋める程度には強い力だ。

「その時の力がたぶん、勇者の力じゃないか?」
「……そっか、あれか」
「スザクは何かを守ろうとしたとき、力が発揮できるのかもしれないな。……そういう場面を考えながら、自分の力について考えていって見てくれ」
「……分かった」

 これは、スザク&セイリン編ではないのだが、スザクが勇者の力について自覚するために言われた言葉を俺なりに言い換えたものだ。
 それから、しばらく二人は力の制御を行いつつ、戦闘を行っていく。
 ……何度かやっていくと、スザクも勇者の力を少しずつ表に出せるようになってきたようで、第三層の魔物相手でもどんどん余裕で戦えるようになっていく。
 やはり、圧倒的な成長力だな。
 これなら、俺の仕事も減っていくかもしれないな。


「……いやぁ、訓練疲れたなぁ!」

 声を上げたのはスザクだ。
 今日だけでも結構戦えたようで、その声はとても嬉しそうだ。
 兵士たちはすでに屋敷へと帰還していたが、スザクとセイリンはあれからもずっと訓練を続けていた。
 おかげで、二人とも多少は力を使えるようになっていた。

 ゲームの進行がバグっているなら、こっちの成長もバグらせていかないとな。
 俺の魔法で屋敷へと戻ると、それを待ち構えていたのがいた。
 ルーフだ。彼がじっと俺だけを見てきたので、どうやら俺に用事があるようだ。

「それじゃあ、二人ともゆっくり休むようにな」

 それだけをいって、俺はルーフの後へとついていった。
 外へと出たところで、ルーフがちらとこちらを見てきた。その顔はいつも以上に険しい。

「何かあったのか?」
「……魔族だ」
「……何? 見つけたのか?」
「姿は見ていない。だが、街の近くにいたのは確かだ。あの魔石についた匂いが感じられた」
「……そうか。ザンゲルと話して、警戒を強めないとな」

 俺は小さく息を吐いた。
 少し心配だが……街に危険が出る可能性もあるしザンゲルに相談しないとな。

「ザンゲルか。彼は魔族を気にしすぎな気がするが大丈夫か?」
「……そうはまあそうだけど、兵士長だからな」
 
 兵士たちに指示を出し、街の巡回を強化する必要があるため、ザンゲルに隠すことは難しいだろう。
 ザンゲルが入れ込まなければいいのだが。

「それはそうだが……もしも街の巡回に行くのであればハイウルフたちと同行させるといい。彼らも、臭いは覚えさせたからな」
「それはいいな」

 先に敵の居場所が見つけられればいいのだが……どうだろうな。
 魔族たちは、人間の姿に変化することもできるので鼻で見分けられるならかなりのアドバンテージだ。
しおりを挟む
感想 82

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

悪役貴族だけど、俺のスキルがバグって最強になった

ポテトフライ
ファンタジー
異世界ゲーム『インフィニティ・キングダム』の悪役貴族クラウス・フォン・アルベリヒに転生した俺。しかし、この世界の設定がバグっており、俺のスキルが異常な強さになっていた——『魔王級魔力(SSS)』『戦闘技術(SSS)』『経済操作(SSS)』……チートのオンパレード!? ゲームでは主人公に敗北し、悲惨な最期を迎えるはずだった俺だが、こんなスキルを持っているなら話は別だ。侵攻してくる王国軍を迎え撃ち、領地を発展させ、俺の支配下に置く。 悪役? いや、もはや“魔王”だ。 世界を手中に収めるため、バグスキルを駆使した最強の統治が今、始まる!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...