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しおりを挟むスザクはセイリンに頭を殴られながら、それから思い出したように口を開く。
「あと、魔物に襲われてたな」
「そっちを思い出すのがさきだろう……あのときは、移動に全ての魔力を使ってしまって疲れ切っていたんだ……」
そう、そのときだ。
「その時の魔物を倒した時は、勇者の力は使わなかったのか?」
「……いや……あっ? でも、なんか体の奥底からぐわわー! って力が湧き上がってたなぁ」
だよな。
ゲームで勇者の力を発動するためのチュートリアルがあるのもその戦闘のときだ。
勇者の力を発動しないと、攻撃が通らないほどの実力差があるんだよな。
使えば、互角に戦えるのでレベル差を埋める程度には強い力だ。
「その時の力がたぶん、勇者の力じゃないか?」
「……そっか、あれか」
「スザクは何かを守ろうとしたとき、力が発揮できるのかもしれないな。……そういう場面を考えながら、自分の力について考えていって見てくれ」
「……分かった」
これは、スザク&セイリン編ではないのだが、スザクが勇者の力について自覚するために言われた言葉を俺なりに言い換えたものだ。
それから、しばらく二人は力の制御を行いつつ、戦闘を行っていく。
……何度かやっていくと、スザクも勇者の力を少しずつ表に出せるようになってきたようで、第三層の魔物相手でもどんどん余裕で戦えるようになっていく。
やはり、圧倒的な成長力だな。
これなら、俺の仕事も減っていくかもしれないな。
「……いやぁ、訓練疲れたなぁ!」
声を上げたのはスザクだ。
今日だけでも結構戦えたようで、その声はとても嬉しそうだ。
兵士たちはすでに屋敷へと帰還していたが、スザクとセイリンはあれからもずっと訓練を続けていた。
おかげで、二人とも多少は力を使えるようになっていた。
ゲームの進行がバグっているなら、こっちの成長もバグらせていかないとな。
俺の魔法で屋敷へと戻ると、それを待ち構えていたのがいた。
ルーフだ。彼がじっと俺だけを見てきたので、どうやら俺に用事があるようだ。
「それじゃあ、二人ともゆっくり休むようにな」
それだけをいって、俺はルーフの後へとついていった。
外へと出たところで、ルーフがちらとこちらを見てきた。その顔はいつも以上に険しい。
「何かあったのか?」
「……魔族だ」
「……何? 見つけたのか?」
「姿は見ていない。だが、街の近くにいたのは確かだ。あの魔石についた匂いが感じられた」
「……そうか。ザンゲルと話して、警戒を強めないとな」
俺は小さく息を吐いた。
少し心配だが……街に危険が出る可能性もあるしザンゲルに相談しないとな。
「ザンゲルか。彼は魔族を気にしすぎな気がするが大丈夫か?」
「……そうはまあそうだけど、兵士長だからな」
兵士たちに指示を出し、街の巡回を強化する必要があるため、ザンゲルに隠すことは難しいだろう。
ザンゲルが入れ込まなければいいのだが。
「それはそうだが……もしも街の巡回に行くのであればハイウルフたちと同行させるといい。彼らも、臭いは覚えさせたからな」
「それはいいな」
先に敵の居場所が見つけられればいいのだが……どうだろうな。
魔族たちは、人間の姿に変化することもできるので鼻で見分けられるならかなりのアドバンテージだ。
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