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しおりを挟む「とりあえず……無事って感じ?」
「無事って感じだ。……すまなかったな、色々と迷惑をかけて。……改めて自己紹介させてくれ。俺はレイス・ヴァリドー。このヴァリドー領内の領主を勤めているもので……こちらは――」
「フィーリアと申します。この国の第三王女という立場になりますが……今回の一件、お二人にはご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
ぺこり、と頭を深く下げるフィーリア様。
俺も慌てて頭を下げると、スザクとセイリンがどこか慌てた様子になる。
まあ、そうだろうな。ていうか、貴族は基本的に悪いとしてもここまで明確に頭を下げる行為はあまりよしとされていない。
くだらないこととはいえ、面目というものがあるからな。
俺個人としては別にいくらでも頭を下げてもいいと思っている、靴をなめれば許してくれるのならいくらでも舐めるつもりではあるが、それが原因で自分の部下たちまで軽んじられる可能性があるため、積極的にそういうことはしない。
フィーリア様が頭を上げた気配を感じ取ったところで、俺も頭をあげる。
「今回、お二人を救うために……レイスさんは速やかに動いてくれました。もちろん、こちらにいたブライトという者には私からあとで何かしらの処分をするように伝えますが、レイスさんの話を聞いてはくれませんか?」
ありがとうフィーリア様。
スザクは笑顔を浮かべながら手を横に振った。
「オレは別に結局何もされてないしなー。あっ、むしろ兵士たち気絶させちゃったし、そっちの方がやばいかもって思ってたんだけど……」
「いや、気にしなくていい。……実を言うとな、俺の家はスザクの母から昔に相談を受けていてな。万が一、何かあればスザクとセイリン。この二名の子を助けて欲しいと頼まれていたんだ」
嘘であるが、それを証明できる人間はすでに誰もいない。
俺の言葉に、二人は驚いたように顔を見合わせている。
……まあ、そりゃあそうだろうな。
「……えっと、つまりレイスがオレたちを助けて……くれるのか?」
「そういうことだ。二人の、生まれについても……俺だけは知ってる」
「え? オレたちがゆ――!」
「馬鹿弟……っ!」
セイリンがスザクの口を覆うようにして、押さえつける。
……あ、アホかこいつは! スザクは思ったことをすぐに口にする性格だ。それがいい方向に作用することもあれば、悪い方向に向かうこともある。
俺があえてここで明言しなかったのは、フィーリア様がいるからだ。
察しの良いセイリンは、この事実を俺だけが知っていると理解したようで、すぐにスザクを押さえてくれた。
……フィーリア様が魔族に対してどのような思いを抱いているのかは分からないが、少なくともこの世界の人たちは基本的に魔族を敵視しているからな。
フィーリア様を敵に回したらどうなるか分からないため、黙っておいた方がいいだろう。
フィーリア様はハテナ? という感じで首を傾げているが、ひとまずは深く質問してこなかった。
「とりあえず、この場にいても仕方ないしここから脱出する。……スザクとセイリンも、俺についてくるってことでいいか?」
「オレは別についていってもいいかな? ……このまま逃亡生活になったら大変だし」
「私も……そうだな。ひとまず話を聞こうとは思う」
とりあえず、第一関門は突破したな。
地下水路にこれ以上の魔物は出現しないとはいえ、あまり長居するとドブ臭さが鼻の奥にまでこびりつきそうだ。
ザンゲルたちなら大丈夫だとは思うが、上の状況も確認したいしな。
屋敷に繋がる空間魔法を使用した瞬間だった。
不穏な魔力の動きが感じた。
それと同時に、黒い影がまっすぐにこちらへ――フィーリア様へと迫るように襲いかかった。
間に割って入り、短剣を振り抜く。金属音が響き、視線を向けると……鎌を振り抜いた死神がいた。
空にいた奴らか。
俺が攻撃を弾き飛ばし、その体を切り裂くように短剣を振り抜くが、死神は空を舞うように攻撃をかわした。
死神が一定の距離を保ったまま、こちらをじっと見てくる。
さらに奥……グランドレイスが現れた方から数体の死神が姿を見せる。
「魂の循環を見出す者」
……この声は、聞き覚えがある。
ヘルの声、か?
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