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しおりを挟む空中の魔物たちが減らせれば、あとは街の外を囲んでいるだろう魔物たちだ。
俺は空間魔法を展開し、周囲の状況を確認する。
各門に満遍なく魔物がいる状況か。
これだけの魔物たちが一体どこから現れたのか。
ゲームでは、魔物が大量に出現する場合はだいたい魔族が魔物を召喚していたものだが……どうだろうな。
可能性として、なくはないのが恐ろしいところだ。
魔族たちは、現在セイリンを狙って行動している。
彼女を捕え、魔族側の切り札とするために動いているため……可能性としては十分あり得る。
空の魔物たちをだいたい仕留めたところで、エンドリアの兵士が慌てた様子で駆けてきた。
「れ、レイス様! スザクとセイリンがいません!」
「……なんだと?」
兵士の言葉に、俺は小さくため息を吐いた。
ゲームでもスザクとセイリンが脱出するイベントがあったが、最悪なタイミングで行動を起こしたな……。
まあ、スザクたちからすれば上の状況までは分からないだろうし、見張りの数も減っているのだから脱出するには最高のタイミングだろう。
となると、スザクたちは地下水路を利用して街から脱出しようとしているんだろう。
さて、どうするか。
確か、地下水路にボスがいたな……。ロクにレベル上げができない状況なので、かなり難易度は高かったと思うが、あの二人で攻略できるだろうか……?
不安だ。とてつもなく。
まあ、魔族と関係ないところで死ぬ分には、別にスザクもセイリンも暴走はしないだろう……。
いや、でも貴族に捕まった後にどっちか死んだらそれはそれで問題か。
そもそも、そんな冷たく突き放すつもりはない。
……二人のうちどちらかが欠けてしまったら、それはそれでこの世界の物語がどう言った結末を迎えるか完全に予測不能になるからな。
第一、せっかくなら……皆が笑えるハッピーエンドを迎えたいし。
「ザンゲル。各門の魔物たちの対応に向かってくれ。俺はスザクとセイリンの後を追う」
「分かりました!」
ザンゲルたちからすれば、スザクとセイリンに俺がそこまで拘る理由は分からないだろうが、それでも素直に指示に従ってくれる。
「場所は分かっているのですか?」
「彼らがいたと思われる地下から外に出るには、地上を出るか地下水路を通る必要がありますので、恐らく地下水路に向かったと思います」
「……そうなのですね。そのスザクとセイリンというのは、よほど大事な人なのですか?」
「直接の関わりはありませんが……我が家には二人に何かあれば、手を貸すようにという恐らく祖父が残したと思われる手記があったのです」
「そうなのですか?」
「ええ」
嘘です、すみません。
ただ、こうでも言っておかないと誰もが納得できる理由は思い浮かばなかった。
不敬極まりないのだが、このくらいならバレることはないだろう。
「外はザンゲルに任せて、スザクさんとセイリンさんと追いましょう」
「そうですね……ん? フィーリア様も来るのですか?」
「先ほど話していたじゃないですか。あの謎の魔物がいる以上は、あなたの近くにいたほうが安全かと思いまして」
……確かに、そうではあるが。
フィーリア様はなんだかワクワクした様子である。地下水路、と聞いて冒険心でくすぐられているのかもしれない。この人、意外と子どもっぽいのかもしれない。
ゲームではまったく関わることのなかったキャラクターであるため、いまいち反応が予想しづらい部分はあるんだよな。
いや、関わりが多かったはずのリームでさえ、あんな裏面があったなんて知らなかったけど。
「それに……あなたは一人にしておくと無茶をしちゃいそうですので」
「別にそんなことはありませんが」
「以前のヴァリドールでの戦いでもそうでしたでしょう? それと……国の貴族の代表として、ご迷惑をおかけした二人にも謝罪をしなければなりませんから。あなたにすべての責任を押し付けるつもりはありませんよ」
フィーリア様がにこりと微笑む。
……まあ、直属の上司である俺一人が謝罪に行くよりかはフィーリア様がいたほうがスザクたちも謝罪を受け入れてくれるか。
スザクは、もしも原作通りの主人公なら素直に受け入れてくれると思うが、セイリンの方はたぶん気難しい正確だろうしな。
「分かりました。それでは謝罪担当でお願いします」
「もちろん、戦闘にも参加しますから」
微笑を浮かべたフィーリア様とともに、俺は地下水路へと向かった。
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