ゲームの悪役に転生した俺が、影の英雄ムーブを楽しんでたら、俺のことが大嫌いな許嫁にバレてしまった

木嶋隆太

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 そのルートでのみ、セイリンという女性が登場する。

 本来のストーリーでは、村に訪れたセイリンをスザクが救助するところから物語が進むのだが……たぶんだが、予定よりも早くこのイベントが進んでしまっている。
 セイリンは、主人公と同じく、勇者と魔王の間に生まれた双子の妹だ。
 つまりまあ、生き別れた兄妹だ。……一応、公式設定ではセイリンが妹なのだが、本人は自分が姉だと思っている。

 セイリンは、魔族の血が色濃く、魔族の国に魔王とともに残ったのだが、主人公は勇者の母とともにこの大陸へと渡ってきた。
 ……そういう関係であり、セイリンはスザクを探すのと魔族から逃げるためにこの大陸へと移動してくることになる。

 そして、このルートが……バッドエンドがたくさんあるんだよな。
 途中何度も魔族による襲撃を受けることになるのだが、スザクのレベル上げをするタイミングがほとんどなく、プレイヤーの腕前でどうにか撃退していくしかないのだ。

 スザクもセイリンも魔族と勇者の血を持っており、人間と魔族から恐れられることになるので、基本的にパーティーメンバーはこの二人で固定される。

 そうして物語終盤。どうにか逃げるように生活しえいた二人だが、最終的にスザクがセイリンを庇って大怪我を負ってしまう。

 セイリンはそれでスザクが死んだと思い、魔族の力を暴走させてしまい、人間と魔族を滅ぼす大魔王として覚醒してしまう。
 すでに殺戮マシーンになったセイリンを止めるため、スザクはセイリンを助けるために戦いに向かうのだが……ここで殺す以外の選択肢がないのだ。

 全プレイヤーがキレたシーンである。てっきり、何かキーイベントを逃したのかと思っていたが、何をやっても二人が救われるシーンはないのだ。

 そうして、セイリンを止めることに成功したスザクだったが、今度はスザクが人間と魔族から恐れられる存在になり、彼らによって攻撃されることになる。
 ……そこで、エンディングだ。スザクが人間と魔族を滅ぼした……のかは分からないが、荒地が最後に映っていたので、おそらく滅ぼしたのではないだろうか、というのがプレイヤーたちの意見だ。

 ちなみに、人間、魔族側についたときのルートでは、すでにセイリンは魔族たちによって改造されており、殺戮兵器として中ボスで戦うことになる。まあ、その状態がセイリンの暴走状態で初めて見ることができるのでプレイヤーたちとしてはそこも、胸糞なのだ。

 つまりまあ、最悪なストーリーを開始してるスザクだが、セイリンが唯一安全な状態で生き延びているルートでもあるわけではある。

 ……さて、今後どうするか、だな。
 魔族たちはセイリンの居場所を特定する手段を持っているようで、何度も襲撃されることになる。
 こいつらが、まじで強すぎるんだよな……。

 ここからいきなり死にゲーみたいな難易度になるため、多くのプレイヤーが挫折し、動画サイトなどでストーリーだけを追っていたほどだ。

 晩餐会が終わった次の日。
 これからどうするかと色々考えつつ、ブライトの部下がスザクとセイリンを連れて来るのを待っていたときだった。

「レイス様!」

 慌てたような声とともに、ザンゲルが部屋へと突撃してきた。
 ザンゲルには、ヴァリドールの転移石前で待機してもらい、スザクとセイリンを連れてくるように命じていたのだが、どうしたのだろうか?

「どうした?」
「エンドリアが現在大量の魔物に襲撃されております……!」
「……なんだと?」

 ザンゲルの言葉に、俺はすぐに席を立つ。
 いくつかストーリーのイベントを思い出すが、魔物が襲いかかってくるイベントは……あっただろうか?

 確か、スザクがセイリンと初めて会う時に、セイリンが魔物から襲われているのを助けるイベントがあったが……もしかして、それか?
 だとすれば、それほど慌てるようなものではないのだが……だとしても、ストーリーの順番が狂っている。

 俺が未来を変えたのが原因か?
 スザクとセイリンは気にかかるが、今はそれより……エンドリアの街だな。

「エンドリアで対応はできているのか?」
「エンドリアのギルドを通じて連絡が届いているようですが、魔物の数が多く、エンドリアの兵士たちだけでは対応が間に合っていない状況です……。転移石も使えない状況で、援軍も間に合わない状況だそうです」
「分かった。ザンゲル。すぐに動ける人間を集めて部隊を編成してくれ。パソコンを使ってヴァリドールのギルドにも連絡してくれ。ヴァリドールにもしも魔物が襲ってきた時は、冒険者を中心に対応してもらう」

 うちの兵力は確かに上がっているが、それはあくまで平均値が高いだけだ。
 まだまだ数は少ないため、兵士たちがいない間に何かある時は冒険者たちに頼らざるをえない状況だ。

「承知しました!」

 ザンゲルがすぐに声を張り上げ、俺はリームの魔力を探してその場へと移動する。
 場所は食堂だ。ちょうど趣味の料理を楽しんでいるところだったようだ。
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