ゲームの悪役に転生した俺が、影の英雄ムーブを楽しんでたら、俺のことが大嫌いな許嫁にバレてしまった

木嶋隆太

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 俺もそれに合わせて顔を上げる。家族たちも、怯えながらも同じように動いていたようだ。

 王はまだ若くみえるが、かなりの力とカリスマ性を持っている。
 王位継承自体、結構早かったらしいからな。

 王の父が早くに亡くなってしまったために若い時から玉座についているのだが、それでも国内の状況が基本的には問題ないのは彼の手腕のおかげだろう。

 うちの父とは大違いだ。
 その王は威圧感のある目とともに、俺たちを見てくる。
 彼の視線は、父に向けられて止まった。
 父がびくり、と肩を跳ね上げる。

「ルーブル。今回の一件、おまえの領地での振る舞いはすべて娘から聞いている」

 冷静ながらも王の鋭い声が響く。
 父はびくりと体をゆらしてから、がたがたと震え出す。

「そ、それは作戦でした!」
「作戦?」
「敵を騙すには、まずは味方から……といいますでしょう……? 実は、あの後援護のために戻る予定、だったのです……」

 父が笑顔で、王に嘘をつく。
 ある意味、凄い胆力だったが、王の表情は冷めたものだった。

「黙れ。おまえは……昔はそんなのではなかっただろう。なぜ、そんなだらしなくなってしまったんだ」

 王は、心の底から残念そうに声をあげる。
 ……昔の父の姿はゲームでも特に語られなかったが、立派だったのかもしれない。
 もしもそうだとしたら、ここまで堕落してしまっている友人を見たら、俺もがっかりしてしまうかもしれない。

 ていうか、昔は凄かったのに、同窓会で再開したら「え?」と言いたくなるような人もいたからな……。
 久しぶりに遊びの誘いがあったから行ってみたら、マルチの話をされたり宗教の勧誘だったり……確かに、そう考えると王の残念そうな気持ちもわかる。

「言い訳はもう聞きたくはない。今回の一件で、よくわかった。お前たちにあの領地を任せていたら国の大損害となる」

 ……やはり、ここで爵位を失うのか。
 まあ、仕方ないよな。あんだけの体たらくだったんだから。
 こうなると、リームともお別れだ。イナーシアは一緒についてきたいと言っていたが、どうするか?

「ま、まさか爵位を……っ」
「ああ。剥奪だ。お前たちは、今日を持って貴族ではなくなる。これからは、自由に生きればいい」

 王が冷たく言い放つと、ルーブルは涙を流しながら縋り付くように近づいていく。
 しかし、王を警護する兵士たちがその道を塞ぐ。

「王! ご乱心を! 考え直してください! こ、これから頑張りますから!」
「黙れ。……さて、次の話だ。レイス・ヴァリドー」

 王が俺の名前を呼び、そこに集まった全員の視線が俺へと集まる。
 父たちの俺を恨むような視線。兄が声を荒らげ叫ぶ。

「貴様が……魔物たちを倒したせいで、オレたちが悪者にされたんだぞ!?」
「ふざけるなよ! オレたちの生活を邪魔しやがって!」

 ……えぇ。
 それまで俺の責任にされても困る。
 王が玉座を離れ、こちらへと歩いてくる。彼は一度、兄たちを睨みつける。

「貴様ら、レイスはヴァリドー家の跡継ぎだ。その者に対して、そんな態度をとってもいいのか?」
「へ?」

 へ?
 兄たちの疑問の声に合わせ、俺も同じような気持ちになる。
 王は俺の前にたち、それから微笑を浮かべた。

「ファーリアから、おまえの活躍は聞いた。その若さにして、悪逆の森の魔物たちを一人で討伐できるだけの力……見事だ。そして、お前は唯一生き残ったヴァリドー家の者でもある。……ヴァリドー家を継いでくれないか?」

 ……ああ、そういうこと。
 四人はもう王の中では死んだことになってるのね。
 そして、俺に後を継がせる、と。
 俺の活躍に対しての褒美という意味合いもあるのかもしれない。
 正直言って、まったく想定していなかったのでどうするか考える。
 ……まあ、俺としては平和に生きられればそれでいい。
 貴族の跡をつげば、生活に関して困ることはないだろう。

「……分かりました。引き受けます」
「おお、そうか! 頼んだぞ、レイス!」

 王はにこっと微笑むと、俺の背中をバンバンと叩いてくる。
 ……このノリが結構苦手ではあるのだが、まあ毎日会うわけじゃない。我慢だ。

「な、なぜ……っ」

 ちらと視線を向けると、家族たちが絶望的な表情でこちらを見てきていた。
 ……まさか、こんなことになるなんてな。

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