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しおりを挟む目を覚ました俺がいたのは、見知らぬ場所だった。
……この世界に転生して初めての時にも思ったことだが、ここはどこだろうか?
俺は周囲へ視線を向けてみるが、見慣れぬ大きな部屋。
自分が寝かされているベッドも豪華なものだし、部屋にある品々すべてが恐らく高級品。
我が家もかなり金をかけた部屋はあるのだが、ここまでのものは恐らく父か母の部屋くらいのものだ。
冷静に状況を観察していると、部屋がノックされる。
……誰だろうか? 返事をするよりも先に扉が開くと、メイド服の使用人が目を見開いていた。
……見たことのない人だ。屋敷の人じゃない。
慌てた様子で使用人が廊下へと出ていってしまい、事情を聞くこともできずにいるとやがて駆け足気味の足音が戻ってくる。
「レイス様!」
真っ先に姿を見せたのは、リームだった。遅れて、フィーリア様の姿も見えた。
リームが真っ先にこちらへやってくると、ぎゅっと抱きついてくる。
「よかった……目を覚まして……」
……どうやらかなり心配させてしまったようだ。
涙を浮かべるリームの頭を撫でると、鼻をぐいぐいと押しつけられる。
細かいことは気にしないでおこう。
俺はフィーリア様へと視線を向ける。
「フィーリア様。ここはどこですか?」
「王城です」
「……そうなんですね。ヴァリドールは大丈夫ですか?」
「ええ。あなたの活躍のおかげで、無事守り切れましたよ」
それならよかった。
とりあえず、これで五体満足でゲーム本編を迎えられるだろう。
安堵するように息を吐いていると、フィーリア様が申し訳なさそうな表情になる。
「それで起きてばかりで悪いのですが、レイス様に私の父から話があります」
「え……?」
フィーリア様の父、となると……それはつまりこの国の王というわけだ。
この国の王は、ゲームで見た感じかなりの体育系という男だ。
俺とは真逆の陽キャであり、女性人気が高そうな見た目をしている。年齢も、確か四十は超えているというのにかなり若々しく見えるんだよな。
恐らく、結婚などしていなければ数少ない女性プレイヤーの心を射止めただろう人だ。
「それはどのような要件なのでしょうか?」
「行けば、わかります。現場には、あなたの家族たちも待たせていますので、いきましょうか」
……フィーリア様の厳しい口調に、俺はいよいよかと思う。
今回、フィーリア様が死ぬようなことはなかったが、フィーリア様を放置し、ヴァリドールから逃亡した。
前回のことを踏まえても、さすがに今回も見逃してもらえるということはないだろう。
俺はベッドに二度寝したい気持ちを押さえて立ち上がり、リームも俺の後をついてくる。
フィーリア様のあとをついていき、案内された場所は謁見の間の様な場所だ。
ここは、ゲームで見たことのある場所だな。確か、主人公が活躍した場合はここで爵位の授与などが行われるんだったか。
そうして、領地を手に入れると拠点の開発をしていくんだよな。
俺たちが到着すると、家族たちの怯えたような視線がこちらを向いた。
……皆、顔色が悪い。フィーリア様をみる彼らの目は、完全に怒られるのを恐れる子どものようだった。
やはり、そうか。
ここでゲーム通りにヴァリドー家は爵位を剥奪されるのだろう。
ゲームでは伝え聞いただけなので詳細は知らなかったが、今日で貴族ともお別れか。
まあ、俺としては生活費に困らず生きていける環境にいられたので悪いことはなかったな。
そんなことを考えていると、謁見の間の壁際にいた貴族や兵士たちがぴしっと背筋を伸ばす。
場の空気ががらりと変わった。
少しして、皆が頭を下げ始めると、入口の扉がゆっくりと開いていく。
……恐らく、王がやってきたのだろう。
俺とリームもすぐに頭を下げると、足音がゆっくりと響いてくる。
俺たちの横を抜けるように歩いていく彼を、こっそりと視線だけ向けてみる。
……やはり、ゲーム通りの王がそこにはいた。
王が玉座に座ると、皆がその空気を察してか頭を上げる。
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