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しおりを挟むリームもゲームの時よりも強くできるかもしれないので、ゲーマーとして楽しみだ。
いつもの強化のためのアクセサリーセットを渡すと、家庭教師のゲーリングがリームとイナーシアを見る。
「それでは、まずは今の実力を見てみたいので二人で戦ってみてはくれませんか?」
「分かったわ。イナーシアさん、お願いしてもいいかしら?」
リームの問いかけに、イナーシアは少し表情を引き締めてから、こくりと頷いた。
「よろしく、お願いします」
「手加減はしないで大丈夫ですから。私もそれなりに剣は学んでいますので」
そういいながら、リームは近くにあった模擬専用の剣を手に持つ。
刃が潰されているので、大怪我を負うことはないが重量としては普通の剣とそう変わらない。
対するイナーシアも、模擬戦用の槍を手に持って構える。
リームの得意武器は剣、イナーシアの得意武器は槍のようだ。
ゲームでは、キャラクターごとに装備できる武器の制限はなかったが、確かにどちらも初期装備はそれらだったな。
そんなことを考えていると、ゲーリングがにこりと微笑んでから二人へ視線を向けた。
「それでは、始めてください」
彼の言葉が響いた次の瞬間。リームが一気に距離を詰める。
速いな。とはいえ、イナーシアもこの家にきてから結構鍛えている。
リームの動きも、目で追えているようで大きく飛び退いて距離をとる。
槍はある程度距離をとって戦う必要がある。そうでなければ、せっかくのリーチが活かせないからな。
後退しながらのイナーシアは、同時に槍を突き出す。
こちらも無駄のない動きだ。……イナーシアも日々しっかりと訓練を積んでいる証拠だ。
リームは詰めきれないと判断したようで、そこで槍を捌く。
まだ、イナーシアにとって有利な射程だ。リームはその場で左右に攻撃をかわしながら、チャンスを伺っている。
何度かの打ち合いをみた結果……恐らく、現在のステータスではリームのほうが上だ。
イナーシアも能力差を理解しているからかとにかく反撃の隙を与えず、さっさと倒そうとしているが……なかなか攻めきれない。
……リーム。思っていたよりも強いな。
確実に転生したばかりのレイスくんよりも強いので、もしもレイスくんがセクハラをしたとき、本気で抵抗されていたら今頃レイスくんの体はボコボコにされていただろう。
イナーシアの表情が少し険しくなる。連続で繰り出す攻撃は、かなりの体力を消費するはずだ。
その隙をリームは見逃さない。即座に地面を蹴り付けると、一気にイナーシアへと迫った。
イナーシアは顔を顰めながら、再び有利な距離を確保するために後方へ跳ぶ。
同時に、イナーシアは牽制のための槍を振り抜いたのだが、跳びながらであり力がこもっていない。
そこを、リームに狙われる。
槍を払い除けるように剣を振るわれ、イナーシアは手から槍をこぼした。
からんからんと無情な音が響くと同時、リームがイナーシアへと距離を詰め、その首元に剣を突きつけた。
「……はい、そこまでです」
家庭教師の声が響き、模擬戦は終了となる。
イナーシアは悔しそうに拳を握り締め、リームは微笑を浮かべる。
……頼もしい子たちだな。
ヴァリドー家がなくなったあとの兵士の代表には、イナーシアの名前もあるかもしれない。
「どうでしたか、レイス様」
笑顔とともに問いかけてきたのはリームだ。
「ん? ああ、かなり強いな」
「……ですが、今のままではレイス様に並べるほどではないと思っています。もっと、精進したいと思います」
それは、リョウとしての戦いを見ているからだろうか?
あまり掘り下げられたくないので、適当にやり過ごす。
「そうか。とりあえず、これから訓練をするときはさっきの装備を身につけるのを忘れないようにな」
「わかりました」
リームはとりあえずこれでいいか。
問題はイナーシアだ。
負けたことがよほど気になっているようでら未だむすっとした様子のイナーシアに近づく。
「イナーシア。そう不機嫌になるな」
「……別に、なってないわよ。……なってない、ですよ」
「おまえはまだ戦いを学んでそんなに経ってないだろう。リームとは年季が違うんだ。それであそこまで戦えれば十分だ」
リームは幼い頃から父に剣を学んでいると話していたことがある。
そんなリームにあそこまで粘れただけでも十分だ。
うちの兵士たちでリームとまともに戦えるのは、兵士長と一部の兵士たちくらいだろう。
「でも、あたしは勝ちたかったんです」
「なら、次は負けないように頑張れ。期待してるからな」
「…………うん」
イナーシアはまだぶすっと頬を膨らませていたが、それでもとりあえずは納得してくれたようだ。
恐らく、イナーシアのほうがレベル的にはかなり低い状態だろうから、今後次第で十分イナーシアも逆転できるだけの力があるだろう。
イナーシアの機嫌を直すのに成功したと思ったら、今度はリームが少し不機嫌そうになっていた。
許嫁なのに女性と仲良くしているのが気に食わないとかだろうか?
……この立場というのも大変だな。
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