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しおりを挟むフィーリア様の護衛兼、悪逆の森での狩りをするというのだからその心労は計り知れないだろう。
それでいて、普段通り街の巡回や街周辺の調査、訓練など……日々の業務は変わらず行うんだからな。
特別手当でも出してくれないとやっていられないのだが、そういった気持ちを家族の誰も理解してくれていない。
「そうですか? ヴァリドー家の兵士たちは質が高いと聞いていますから。楽しみにしていますよ」
それは一昔前です。少し前であれば、悪逆の森の第三層の魔物くらいまでは対応できていたらしいが、給料が下がった今はそのレベルの兵士は残っていない。皆、他国なり、他領なりに移ってしまった。
俺たちはすぐに兵士と合流し、フィーリア様たちとともに街の外へと向かう。
兵士たちが街外の魔物たちと戦いながら進んでいき、悪逆の森へと移動する。
我が家から同行しているのは、俺と兄二人だ。
長男のライフと、次男のリーグル。
どちらも、不健康そうに太った見た目をしていて、とても戦えそうには見えない。
ただまあ、魔法の技術はそれなりにあるらしく、魔法自体の威力だけでみれば第一層の魔物もなんとかなるかもしれないくらいの実力はあるらしい。
「それでは、魔物を数体誘導させますので。おい、すぐに魔物を連れてくるんだ」
ライフの言葉に、兵士長のザンゲルはゆっくりと頷いた。
……顔には出ていないが、不満そうである。それでも、王女様の手前、仕方なく仕事をこなしているという感じだ。
兵士とともに森へと入り、魔物を探しにいく。
この悪逆の森は層ごとに出現する魔物が違うのだが、それはこの現実でもそうらしい。
魔物には縄張りがあるので、別の層へと移動することは基本ないらしいのだが……稀に外に出てくるやつはいるそうだ。
ゲームでも、緊急クエストとかでそういった討伐依頼があったものだ。緊急クエストで出現した魔物は経験値やドロップアイテムが強化されているので非常に良かったが、この世界ではどうなんだろうな?
そんなことをぼんやりと考えていると、何やら慌しい音が響いていた。
……なんだ? そんなことをぼんやりと考えていたときだった。
兵士たちが血相変えて逃げてきた。何かに怯えるような様子に、ライフが慌てた様子で声を上げる。
「お、おまえたち……! 何をしているんだ!」
……叱りつけるのも無理はない。めちゃくちゃ情けなく見えるからな。
だが、ザンゲルが慌てた様子で叫んだ。
「だ、第三層の魔物がこちらに向かってきています」
「な、なんだと!?」
……だから、逃げてきたのか。
少し前のヴァリドー家の兵士たちなら、第二層の魔物にも対応できていただろうからこんな情けない姿は見せなかっただろう。
だが、今の兵士たちでは……厳しい。最近の訓練のおかげでザンゲルがようやく第二層に通用する程度だが、一人で魔物を倒せるほどの力はない。
「ふぃ、フィーリア様! すぐに退避を!」
「え!? ですが、第三層の魔物であれば、どうにかなるのでは……」
……王都には、確かそう報告書をあげているな。
報告書通りの実力をこの街の兵士たちが持っていればの話だ。
まずいな。
……やはり、第三王女が襲われ、ヴァリドー家が爵位を失う事件はこれなんじゃないだろうか?
さすがに、ここで家を失うのはダメだ。体を強化するには健康的な生活が必要だ。
タンパク質を補給できなくなったら、強くなるまでに時間がかかる……っ!
「こ、今回連れてきたものは第二層程度まででして……っ。すぐに避難しないと危険なんです!」
ライフの口はよく回る。第三王女様がわざわざ見にきているというのに、そんな中途半端な戦力を連れてくるな、というのが素直な意見なのだが、状況が状況なのでそういった発言はない。
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