ゲームの悪役に転生した俺が、影の英雄ムーブを楽しんでたら、俺のことが大嫌いな許嫁にバレてしまった

木嶋隆太

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 真正面からゴブリンに向かって行き、剣を叩きつける。
 大ぶりの一撃をゴブリンは簡単にかわした。

 ……ちょうどいい。練習台になってもらおうじゃないか。
 俺はゴブリンが跳躍した先に――空間魔法を展開する。
 空間魔法はさまざまな使い方がある。

 その一つが……空間を削り取る。
 ゴブリンがいたその空間を、ゴブリンごと。
 その効果は見事だ。ゴブリンの片腕を抉り取ったんだからな。

「ぎぃぃぃ!?」

 つんざくような悲鳴が響き渡る。俺もまた、少し呼吸を乱す。
 ……魔力の消費が多いんだよな。
 使い勝手が悪い魔法、として家族からバカにされている理由もよくわかる。
 転生してから結構鍛えたつもりだが、それでもまだ連発はできない。
 とはいえ、魔力の消費が多いとしても魔力自体を増やせば別に問題ない。

 ま、これからの課題については後できちんと考えるとして。
 俺は弱っていたゴブリンへと剣を振りぬいてトドメを刺した。

 小さく息を吐き、俺は自分の空間魔法について改めてわかったことをまとめる。

 魔力の消費量は、自分以外の生命体>自分>無機物……という感じだ。
 例えば、短剣などを転移させるだけだと、大して消費しない。この場にある木や土なども試しにやってみたが、消費量は少ない。

 自分を転移させるときも、そこまで消費しない……ただ、ゴブリンにやったように、干渉するような場合の消費は半端ない、という感じだ。

 とはいえ、とりあえずなんとかなったな。思っていたよりも、疲れてしまったが……初めての戦闘という精神的な疲労が大きい。
 呼吸を整えながらゲーリングの方へ視線を向けると、彼は驚いたように目を見開いていた。
 戦闘が終わったにも関わらず、今も呆然とみていた。

「……大丈夫か?」

 彼を放っておくとこのままずっとその顔を浮かべていそうだったので、俺から問いかける。ハッとした様子で気づいた家庭教師は、咳払いを一つしてから驚きと後半の混じり合った声をあげる。

「え、ええ。すみません。少し驚いていたもので……」
「驚く?」
「はい。実は、まだゴブリン相手にここまで戦えるとは思っていなかったのです」
「どういうことだ?」

 じゃあなぜ今日の実地訓練を許可したのかと問いたい。
 じっと俺が見ると、彼は慌てだす。
 ……まあ、俺は公爵だし、ちょっとしたジト目でも威圧的に感じるわな。ちょい反省。

 前世の上司の責めるような視線と態度を思い出し、すぐに俺は表情を緩める。

「そ、その……魔物との初めての戦闘は緊張するものです。確かに、今のレイス様の実力なら問題ないと思いますが、それだけで勝てるものではなかったので……レイス様のその度胸、凄いです」
「褒め言葉は素直に受け取りたいが……これでも、結構緊張もしていたんだけどな」
「そ、そうだったのですか?」
「ああ。ほら、そのせいでかなり汗かいているだろ?」

 実際、緊張があったのも事実だ。
 とはいえ、やらなければならないことだったからな。無理やり、乗り切ったわけだ。

「とりあえず、休憩を挟みながら魔物と戦っていきたいが、大丈夫か?」
「はい、もちろんです。休憩中の周囲の警戒は私が行いますので、レイス様はゆっくりしていてください」

 それは、助かるな。俺は近くの岩を椅子として腰掛けて、持ってきていた水筒に口をつける。

 とりあえず、課題は見つかった。……思っていたよりも、俺はまだまだ弱い。
 ゴブリン相手に互角程度の肉体ではダメだ。
 もっと体を鍛えないと。

 そして、何より魔力だ。
 俺の空間魔法は最強だ。それを連戦で使えるようになれば、もっと強くなれるはずだ。
 まずは、ここにいるゴブリンを簡単に倒せるようにならないとな。
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