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しおりを挟む今日もいつも通り、朝から訓練をしようと思っていた俺だったが部屋にやってきた使用人にあることを言われる。
「れ、レイス様……っ。本日は、リーム様が来られますので、その外には出ない方がいいかと……」
「何?」
「ひぃ!? も、申し訳ありません! 勝手なことを言ってしまって……っ!」
……やばい。前世のクソ上司の相手をしていた新卒の子を思い出してしまう。
こんな感じで怯えきっていて、俺が後で声をかけるなんてのは日常茶飯事だった。
「いや、そう……怯えないでくれ。今日はリームが来るんだったか……。教えてくれてありがとう」
「え? ……あっ、は、はい」
……リーム、かぁ。
リームは……俺の許嫁だ。
といっても、原作スタートしたときにはすでにその関係はなくなっている相手なんだが。
使用人が部屋から去っていったのを見届けたあと、俺は部屋の椅子に腰掛けた。
……俺の部屋は兄たちに比べて狭いのだが、最近は筋トレグッズも置いているのでさらに狭い。
まあここにあるのはサイズの違う石で作ってもらったダンベルがいくつかあるだけだが。
「リーム、かぁ……あんまり会いたくねぇなぁ」
リームから俺に対しての好感度は、恐らくマイナスだ。
というのも、会うたびレイスくんは横柄な態度とともにセクハラをしていたからだ。
一応、結婚するまでは事に及ばないという決まりがこの国にはあるようなのでそういったことはしていなかったらしいが、それでもレイスくんは胸を触ったり、尻を触ったりとセクハラ行為を散々に行っていた。
そのため、俺は大変嫌われていることだろう。
レイスくんがそこまでリームに強気だったのは、うちが公爵家で、リームは子爵家だからだ。
レイスくんが立場の低い相手が許嫁になったのは、家族からの嫌がらせなのだが……それでもリームは立場が弱く、それを利用してレイスくんはストレス発散がわりに好き勝手やっていたというわけだ。
このゲームが男性向けに作られていることもあり、美少女が多く、リームもそれはもうめちゃくちゃ可愛い子なのだが、レイスくんは見た目ではなくてもっと権力の強い相手と結婚したかったらしいからな。
リームとは月に一度程度会う予定なんだよな。
せめてこれ以上嫌われないように振る舞うしかないだろう。
……あんまり嫌われすぎると、今後に影響出るかもしれないからな。
リームは、主人公側のヒロインの一人でもある。将来的なことはどうなるかわからないが、主人公に嫌われて標的にされても困るからな。
嫌われないよう、仲良くしないとな。
しばらくすると、リームが到着したと報告があり、俺は玄関へと向かった。
……少し、緊張するな。一応、好きなゲームのキャラクターと出会うわけだしな。
こんな緊張、転生してから初めて。
兄たちも好きなゲームのキャラだって? いやいや、あいつは知らん。
わずかな緊張は胸の奥に抑えつけながら、俺は玄関が開くのを待つ。
……来た。
メイドと共に入ってきたリームがすっと俺の前に立つと丁寧に頭を下げてくる。
「本日は、わざわざお時間作って頂き、ありがとうございます」
子爵家とはいえ、さすがご令嬢といった落ち着きと美しさだ。
人形のように可愛い、って言葉はこういう子に使うんだろうね。
ゲームキャラに出会えた感動はあったが……まあ、そのくらいだ。
……というのも、笑顔の仮面でもつけているんじゃないかっていうくらい、俺に対して同じ表情を向け続けているからだ。
あんなの、俺が嫌な営業先に行く時くらいの徹底ぶり。
……その原因が自分であると思うと、なんだかとても申し訳なくなってしまった。
「レイス様、お久しぶりです」
……俺に対しては、一段笑顔を強めた気さえもする。
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