1 / 21
第1話
しおりを挟む「どうしたんだ?」
会計を済ませようとした島崎(しまざき)治(おさむ)の前にいた美少女が、真っ青な顔でカバンを見ていた。
息をのむほどの美少女だ。
栗色の長い髪を揺らすようにしながら、彼女は今もカバンを漁っている。制服はきちっと着こなされ、彼女の真面目さがそこに表れていた。
カバンをしばらく漁っていた彼女だったが、その顔が引きつっていた。
その美しい顔には『絶望』という文字が刻み込まれていて、放っておけなかった治は声をかけていた。
別に知り合いでも何でもない。怪しまれたらそこで会話を切り上げるそんなつもりだった。
しかし、そんな治の心とは裏腹に、美少女は今にも泣きだしそうな顔でつぶやくように言った。
「さ、財布……忘れました……」
彼女は絶望的な声をあげた。見知らぬ男に声をかけられ、特に警戒なく答えた彼女が持っていた伝票へと治は視線を向けた。
「……ちなみに、いくらなんだ?」
「え、えーと……その」
彼女は戸惑い半分、恥ずかしさ半分といった様子で伝票をそろそろと治のほうに見せた。
治はその伝票を見て、彼女がそのような反応をしたのが分かった。
「す、すげぇ食ったな……」
「す、すげぇくないです……っ! い、今時の女子高生はこのくらい普通に食べますよ……っ!」
「そ、そうなのか?」
それは驚きの情報だった。治は改めて伝票を確認した。
スパゲッティ、ラーメン、ハンバーグ、うどん。書かれていた炭水化物祭りに、治は小さく息を吐いた。
一番下の金額を一瞥する。3000円あればお釣りが返ってくる程度の金額だった。
「次のお客様ー!」
前の客が会計を終え、美少女の番となる。
呼ばれた彼女が肩をびくんと跳ね上げ、体を震わせていた。
「わ、私犯罪者になってしまうのでしょうか……っ!!」
治の頭には色々な対処が思いついていた。
親を呼ぶなり、何か貴重品を置いて財布を取りに行ったり――しかし、目の前の彼女が酷く怯えていたため、治はその伝票を持ったまま、レジへと向かった。
「え?」
戸惑いの声を背中に受けながら、治は二人分の会計を済ませる。
合わせて4000円。治の分は1000にも満たないほどだった。
レシートを受け取ったあと、治はそのまま店を出たが、その隣に先ほどの美少女が並んだ。
「あ、あの……その、ど、どどどどういうことですかぁ!?」
「俺が払っておいただけだ。別に気にするな……女子高生があんなにたくさん食うものだとは思っていなかったからな、貴重な話が聞けてよかったよ」
治が素直に思ったことを伝えると、美少女は耳まで真っ赤にした。
「か、からかわないでください……っ! す、すみません払っていただいて……助かりました。その……家に帰ればお金はありますから、一緒に来てくれませんか?」
「……別に気にしなくても」
「私が気にします……っ! 見ず知らずの人にお金を出させたままではいられません!」
ふんすー、と鼻息荒く彼女は声をあげた。
治は本当に気にしてはいなかったが、彼女がとても気にしていたので諦めて嘆息をついた。
(……最近あんまり寝てなくてめちゃめちゃ眠いから……もう家に帰って寝たかったんだが、仕方ないか)
治はじっと覗き込んでくる彼女に首肯を返した。
「分かった。それじゃあ、一緒に家まで行く」
「はい……お願いします」
ほっとしたように美少女が微笑んだ。
それから、彼女が小首をかしげた。
「そういえば、お名前を聞いていませんでした。私は飛野(ひの)咲(さき)といいます……あなたは?」
「俺は島崎(しまざき)治(おさむ)だ」
「島崎さんですね」
それが、咲との出会いだった。
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
魔法使いの少年と学園の女神様
龍 翠玉
青春
高校生の相沢優希(あいざわゆうき)は人には言えない秘密がある。
前世の記憶があり現代では唯一無二の魔法使い。
力のことは隠しつつ、高校三年間過ごす予定だったが、同級生の美少女、一ノ瀬穂香(いちのせほのか)を助けた事から少しずつ変わっていく生活。
恩に報いるためか部屋の掃除や料理など何かと世話を焼いてくれる穂香。
人を好きになった事がない優希は段々穂香に惹かれていく。
一方、穂香も優希に惹かれていくが、誰にも言えない秘密があり……
※魔法要素は少なめです。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
俺の家には学校一の美少女がいる!
ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。
今年、入学したばかりの4月。
両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。
そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。
その美少女は学校一のモテる女の子。
この先、どうなってしまうのか!?
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる