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第31話
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「この国にも守護精霊がとうとうついてくれることになった! この良き日を記念して――乾杯!!」
オリッカ王がそう宣言すると同時、皆が嬉しそうに声をあげた。
私は笑みを浮かべながら、周りに合わせていた。
すぐに舞踏会が始まり、そこから皆が楽しそうに話をしていた。
私もそれらの輪に混ざりながら、舞踏会を楽しんでいく。
……ただ、うぬぼれてはいけない。
これらはあくまで、フェンリルのおかげがあるからこそなんだから。
これから、大変ね。私が家族と今の立場を守るには、フェンリルの力が必要なんだから。
フェンリルに嫌われないようにしながら、自分自身の研鑽に努める必要がある。
……まあ、退屈はしなそうね。
私はできる限り友好的に接して、とにかく親しい人物を作っていけるように頑張っていった。
しばらく、多くの人に挨拶をしていると、すっとこちらに男性がやってきた。
「あの……良ければ私と踊ってはいただけませんか?」
私は急な申し出に戸惑い、それから迷ってしまった。
一番最初のダンスは、基本的に婚約者と行う。
……彼は私がまだ誰とも踊っていないことを知っているはずなので、これはつまり、そういう意味での誘いでもあった。
その差し出された手を見たとき、私の中でぽつりと浮かんだ人がいた。
その時だった。
「……申し訳ありません。彼女は私と踊る予定があるので」
私の目の前に現れた人は――さっき浮かんだルフェルだった。
彼は笑みを浮かべながら、私の手を取ってくる。にこりとほほ笑むその仕草に頬が熱くなる。
……女性の扱いに慣れていないってそんなの嘘でしょ? そういいいたくなるほどに彼はまぶしく見えた。
「……良かったかな、一緒に踊っても」
「……はい」
私はこくりと頷いてから、ルフェルの手をつなぎその後ろを追っていった。
ダンス会場へと移動した私たちは、それから音楽に合わせ踊り始めた。
国によって多少音楽が違い、踊りも変化するのだが――私は王子の元婚約者だ。将来を見据え、他国の踊りに関しては十分に研究していた。
だから、問題なかった。
「……ちょっと、元気ない?」
ぽつり、とルフェルが呟いた。
「久しぶりだから、疲れてしまったのかもしれないわね」
「そうかな? そういう様子には見えないけど」
彼が小首をかしげる。彼の声は音楽に紛れるようにして消えていく。
弱音を吐きたくはなかったけど……けど、今はダンスがかき消してくれるような気がして――。
「――私自身には価値はないわ。私はこれから、この国で家族とみんなを守るためにフェンリルと一緒に力を証明していく必要があるわ。それが、楽しみでもあり……不安でもあるわ」
「……」
そういうと、彼は少し添える手に力を込めた。
「――大丈夫、キミを一人にはしないから」
……ルフェルはそういって、私の方を見て、微笑んできた。
「……ありがとう、ルフェル」
それだけを返し、私はルフェルの目をじっと見た。
____________________________________________________
あとがき
新作書きました! 気になる方は作者名をクリックして読んでくれたら嬉しいです!
『愛する人を国外追放された聖女は国を捨てました。だって、愛する人のために聖女になったんですもの』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/468674289/913384760
オリッカ王がそう宣言すると同時、皆が嬉しそうに声をあげた。
私は笑みを浮かべながら、周りに合わせていた。
すぐに舞踏会が始まり、そこから皆が楽しそうに話をしていた。
私もそれらの輪に混ざりながら、舞踏会を楽しんでいく。
……ただ、うぬぼれてはいけない。
これらはあくまで、フェンリルのおかげがあるからこそなんだから。
これから、大変ね。私が家族と今の立場を守るには、フェンリルの力が必要なんだから。
フェンリルに嫌われないようにしながら、自分自身の研鑽に努める必要がある。
……まあ、退屈はしなそうね。
私はできる限り友好的に接して、とにかく親しい人物を作っていけるように頑張っていった。
しばらく、多くの人に挨拶をしていると、すっとこちらに男性がやってきた。
「あの……良ければ私と踊ってはいただけませんか?」
私は急な申し出に戸惑い、それから迷ってしまった。
一番最初のダンスは、基本的に婚約者と行う。
……彼は私がまだ誰とも踊っていないことを知っているはずなので、これはつまり、そういう意味での誘いでもあった。
その差し出された手を見たとき、私の中でぽつりと浮かんだ人がいた。
その時だった。
「……申し訳ありません。彼女は私と踊る予定があるので」
私の目の前に現れた人は――さっき浮かんだルフェルだった。
彼は笑みを浮かべながら、私の手を取ってくる。にこりとほほ笑むその仕草に頬が熱くなる。
……女性の扱いに慣れていないってそんなの嘘でしょ? そういいいたくなるほどに彼はまぶしく見えた。
「……良かったかな、一緒に踊っても」
「……はい」
私はこくりと頷いてから、ルフェルの手をつなぎその後ろを追っていった。
ダンス会場へと移動した私たちは、それから音楽に合わせ踊り始めた。
国によって多少音楽が違い、踊りも変化するのだが――私は王子の元婚約者だ。将来を見据え、他国の踊りに関しては十分に研究していた。
だから、問題なかった。
「……ちょっと、元気ない?」
ぽつり、とルフェルが呟いた。
「久しぶりだから、疲れてしまったのかもしれないわね」
「そうかな? そういう様子には見えないけど」
彼が小首をかしげる。彼の声は音楽に紛れるようにして消えていく。
弱音を吐きたくはなかったけど……けど、今はダンスがかき消してくれるような気がして――。
「――私自身には価値はないわ。私はこれから、この国で家族とみんなを守るためにフェンリルと一緒に力を証明していく必要があるわ。それが、楽しみでもあり……不安でもあるわ」
「……」
そういうと、彼は少し添える手に力を込めた。
「――大丈夫、キミを一人にはしないから」
……ルフェルはそういって、私の方を見て、微笑んできた。
「……ありがとう、ルフェル」
それだけを返し、私はルフェルの目をじっと見た。
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